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桜宮サーガSS

レス64 HIT数 4184 あ+ あ-

流行作家
17/05/11 04:52(更新日時)

俺の名前は田口公平。桜宮市にある東城医大で不定愁訴外来、または愚痴外来を営み日々、患者さんの愚痴を聞きながら細々と大学病院の片隅でひっそりと仕事をしていたはずだった。
だが、あのバチスタ・スキャンダルからリスクマネジメント委員会やAiセンターのセンター長にあのタヌキ、もとい高階病院長と関わりができてからは厚労省のはみ出し者の白鳥圭輔と出会い師弟関係(一方的な奴の言葉から)にされ東城医大の幾多の事件や難題を日々、解決してきた。
そう、いまはなき碧翠院の桜宮姉妹との愛憎や邂逅をふくめ……。

この物語はそんなハデな物語とはおそらく無縁だろう。だが、少しくらい恋の花の一輪くらい咲かせるくらいあればいいだろう、と思う🌸。

16/08/17 10:23 追記
時系列としては『ケルベロスの肖像』『輝天炎上』後のサイドストーリー。ただしオリジナル作品とは多々、異なる点は了承してください📝。

No.2364650 16/08/11 16:26(スレ作成日時)

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No.1 16/08/11 16:32
流行作家0 

俺の名前は田口公平。世間が夏休みのなか不定愁訴外来、または愚痴外来は今日も変わらず患者さんがやってくる。

佐々木 「でしょう。田口先生、ひどいんですよ。近所の面山さんたら」

田口 「たいへんですね。それより腰痛は平気ですか?」

佐々木 「ええ、少し痛みはありますが以前よりはよくなりましたかね」

田口 「そうですか。お薬は以前とおなじでいいですか」

佐々木 「ええ、構いません。あら、もうこんな時間かしら。田口先生、今日もゆっくり聞いていただきありがとうございました」

藤原 「あらあら、よろしいんですか?田口先生はまだよろしいみたいですけど」

佐々木 「そろそろ夕飯を買っていかないとね。孫が来てるもので」

田口 「お薬はいつものを出しておきますね。お気をつけください」

藤原 「そこまでお送りしますね」

普段の俺の仕事はこんなものだ。患者さんの愚痴や世間話を聞いたり彼らの不平不満をちょっと和らげる。

No.2 16/08/11 17:11
流行作家 

藤原 「いつもお疲れさまです。田口先生」

田口 「いつものことですから」

藤原 「いま珈琲をお淹れしますね」

俺の日常はほんと医者といってはなんだが救命救急病棟のように救急患者を助けるようなヒロイックでもなく小児科病棟のように子どものはしゃぐ声もしない。また地下にある放射線科のCTみたいに患者の身体の内部を見ることもない。
ただほんの少し患者さんの愚痴を聞いて薬を本来の担当医の代わりに処方するだけ。
今日も珈琲がうまい。

藤原 「それにしても田口先生、患者さんとの交流も大切ですが浮いた話くらいないものですか」

思わず珈琲を白衣に吹き出しそうになったではないか。

田口 「な、なにを言うんですか!?」

藤原 「そういえば白鳥さんが合コンくらいいつでもセッティングできるといつかおっしゃってましたね」

いやな名前を出すもんだ。できれば奴とは関わりたくないものだ。Aiセンターが桜宮小百合に破壊された折りにはバックヤードに徹し運よく難を逃れた厚労省の火喰い鳥。
いやな名前を出されたからといっていやな予感が的中するわけではないが、突如として俺のケータイにメールが入ったのはそんなごく平凡な時だった。

From 白鳥 より

思わず表情をしかめてしまったのは言うまでもない。

No.3 16/08/11 17:33
流行作家 

しかたなく俺は白鳥から来たメールを開く。あまり読みたくもないが、無下にするわけにいかない。だがメールの内容は意外なものだった。

To 田口先生へ

白鳥でぇす。
今度、合コンすることになったんだけどメンバーが足りなくて田口先生の方で男性メンバーを調達してくんない?
こっちは僕と田口先生をふくめて五人くらいいればいいかな。
日時は○月○日(土)だから!
ヨロシク!


藤原 「あらあら、白鳥さんから合コンのお誘いですか?若いて羨ましいですわね」

白鳥からのメールと藤原看護師からの茶々に思わず椅子からコケそうになってしまった。
申し訳ありませんがお断りします、とメールを打とうとしたがヤツの方が風のように早かった。

From 白鳥 To 田口センセへ

断ろうとしてもダメだよ。田口先生の名前を女の子たち側に伝えちゃったからね。
あ!場所はそっち(桜宮市)でやるから。東京で遊ぼうなんて思っちゃった?

コ、コイツは……。
東京霞ヶ関から遠く桜宮市までテレパシーでも使えるのかと思わず思った。
名前を出されてある以上、断ったら逆に白鳥が女の子たちの前でなにを口走るかわからない。
肩を落としながら半分は合コンというイベントに参加できる歓び、半分は白鳥と再び会うことへの葛藤がありながら返事をした。
しかし、俺以外に同性の友達か知り合いを誘わなくてはならなくなった。
白鳥の頼みにしてはやけにかんたんだったことに安堵していた。

藤原 「私も高階病院長といきましょうか?」

保護者ですか、という言葉を飲み込んだせいで茶色の液体が床にわずかにこぼれた。

No.4 16/08/11 18:45
流行作家 

田口 「今日はもう外来ありませんね?」

念のために藤原さんに確認をしておかないといつ不意打ちのように書類の束が襲ってくるかわからない。これというのもリスクマネジメント委員会やAiセンター長などを兼任してから学んだことだ。用心に越したことはない。

藤原 「ええ、今日の愚痴外来はおしまいです。合コンがそんなに嬉しいんですか?」

さりげなく痛いところを突くひとだ。だが、嬉しくないと言えば嘘になる。だからこちらもさりげなくかわすようにする。

「ええ、白鳥さんからの誘いはちょっと苦手ですけど」

カップにある珈琲を半分ほど残しながら椅子から立ち上がり仕事場をあとにしようとする。

藤原「どちらに?」

田口 「島津のところです」

藤原 「あらあら、合コンに真っ先に誘う相手ががんがんトンネルの魔人ですか?Aiセンター会議から学んでないのですね」

思わず足元からつんのめて転びそうになりながら仕事場の扉を開けた時だった。
思わず目の前にいた相手と頭、いや口先が触れそうになりよけい慌てた。
よりによって目の前にいた相手がアイツだったとは。
ムダに耳が早いのか。

No.5 16/08/12 06:24
流行作家 

兵藤 「うわっ!?田口先生、もしかして僕を白鳥さんが主催する合コンに誘うためにお急ぎですか。あ、もしかして僕の唇を奪うつもりですか?」

なぜそうなる。
コイツの名は兵藤勉。医局長を務めながらかつて俺と争いながら俺が医局長競争から身を引いた途端にいつの間にか親しく、いや親しいかどうかは別にしながらも院内の情報に疎い俺からしたら数少ない唯一の情報屋でもあった。
というかさっき白鳥からきたメールの内容をなぜコイツが知っているのだ。

田口 「そんな趣味はない!というかさっき白鳥技官からきたメールの中身をなぜ知っている」

兵藤 「それは秘密です。それより合コンなら是非、この兵藤勉をお誘いください。田口先生さま」

田口 「さまなんていらないぞ。情報ソースが秘密なのはわかるがお前は最後の候補のひとりにしか過ぎない」

兵藤 「何番目くらいですか」

田口 「そうだな。島津、速水、彦根、その他諸々云々としても18番目くらいだ」

兵藤 「平成仮面ライダーですか」

田口 「いや『ハイパーマン・バッカス』のハイパーマン兄弟くらいだ」

兵藤 「田口先生付きの僕を18番目というのはいささか納得しません」

そうか、とつぶやきうまい具合にかわしながら見送る藤原さんと兵藤くんを尻目に俺は階段を降りていく。
それにしても兵藤くんの情報は早い。もしかして不定愁訴外来内に盗聴器や隠しカメラがあるのではないかと疑う。
“廊下トンビ”の名は伊達ではないのがちょっとこわいところだ。

No.6 16/08/12 07:54
流行作家 

島津 「これはこれはいまはなきAiセンター長であった田口先生ではないか。こんな地下の穴蔵になにか用か?」

地下の放射線科を尋ねるや否やヒゲもじゃの男性がちらっと見ながらCT画像を見つめ背中から語りかける。
小児科病棟に入院してる子どもたちからは“がんがんトンネルの魔人”と慕われている島津吾朗。俺の同期だ。

田口 「その呼び方はやめろ。Aiセンターのことはお前にとっても残念だったが」

島津 「しかたあるまい。リヴァイアサンごとケルベロスもろとも桜宮一族に葬られたのだからな」

わずかに胸の内が痛む。
あのとき聞いた女性の声がすみれの声だったように思うこともあるが、日々の忙しさが薄くしてゆく。

田口 「Aiセンター長の肩書きで呼ぶな」

島津 「しかし高階さんはその肩書きをお前にいまだに預けているんだろう?お前に託しているんじゃないか行灯」

そうなのかもしれない。
Aiセンター長の肩書きはAiセンターが燃え尽き藤堂文昭が米国に帰りすでに影も形もないのにあのタヌキの病院長はいまだ俺にAiセンター長の肩書きを名乗らせている。
いつかAiの花が咲くのだろうか。
しかし、話はそれではないのだ。

田口 「それよりも白鳥技官から合コンの誘いがあるんだが」

島津 「合コン?それはまた華やかだな。いつも藤原さんとお茶をしてるお前には掃き溜めにツルだな」

田口 「誰かに聞かれたらどうする。藤原さんのナース・ネットは院内にあるんだぞ」

島津 「壁に耳あり障子に目ありだな。もっとも病院に障子のあるところはないがな」

田口 「兵藤くんがどういうわけか合コンを察知してたが、いの一番にお前を誘いに来たんだが来るか?」

すると、島津はヒゲに手をやりながら何かを考えてるようだ。おそらくろくでもないことを考えているのかと思ったが。

島津 「ちなみに俺をいの一番に誘ったと聞いたが白鳥技官にお前以外にあと何人だ?そして俺以外に誘おうとした奴等くらいは聞けるだろうな」

何気なく用心深く慎重な奴だ。それでも藤堂教授と同様にひそかに世界に名を連ねる島津だ。そのわりに知名度は一般はおろか医学生たちの反応は微妙でもあるが。

No.7 16/08/12 13:26
流行作家 

田口 「面子は白鳥技官と俺、それにお前。あとふたり必要なんだ」

島津 「ふむ、それでお前は誰を考えている?」

旧友からの問いに俺はメールを受け取った時から考えていた名前を出した。

田口 「速水と彦根なんだが。どうだ」

島津 「速水はいまは極北だろう?日帰りでとんぼ帰りさせるつもりか」

田口 「それもそうだが、あいつを極北に送ったのは俺だぞ。罪滅ぼしの意味もあるんだ」

島津 「気持ちは理解できるが、仮に速水が参加してみろ。お前いわく“主役にしかなれないヤツ”だろう?合コンがどうなるか考えてみろ」

考えてみるまでもなかった。女性陣すべてが速水のもとにいって白鳥からは罵詈雑言を爆雷のように言われ来週の仕事から落ち込む自分の姿が見えてしまった。
白鳥というヤツは完全に俺の心に寄生(パラサイト)していた。胸が痛いくらいだ。いや胃が痛くなりそうだ。

田口 「速水は今回はキャンセルだな」

島津 「それでこそ行灯だ」

田口 「彦根はいいのか?」

速水がダメで彦根がいいとなると島津も油断ならないのかもしれない。が、ヤツの答えは思ったのと違った。

「彦根にはあの桧山センセがいるだろう。ほんとに付き合っているかは知らないが、ヤツには学生時代の借りを返したいのさ。虚実あるヤツだからな。ムードを盛り上げるくらいにはなるさ」

田口 「意外にひとを見てるんだな。CTを通してでしか診ていないのに」

島津 「職業病さ」

島津はガハハと口を開けて笑った。その声にエシックス・コミュニティ沼田派の神田技師がわずかにこちらを見たようだった。
しかし、速水がダメとなるとあとは誰がいるだろう?

No.8 16/08/12 15:44
流行作家 

島津の放射線科を後にしながら俺はどうしたものかと院内散策をした。
同性の知り合いといえば高階病院長、三船事務長、そして速水の後をまかされたTKO木下ではなく佐藤先生だが。高階病院長は即却下だ。あのひとの女性遍歴は知らないが白鳥からは不評なのは間違いない。
三船事務長、合コンと聞けば参加しそうだが彼は白鳥自体を敬遠している。速水が危機になった時にはじめて速水の真価を見たであろう人物だが、今回は遠慮願おう。
次に思い浮かんだのは佐藤先生だ。だじゃれを言わなければいい先生なのだが。
弱った俺は兵藤くんに出くわす危険がありながら医学生たちのいる教室をぶらついた。
そこにすみれと因縁があるラッキー・ペガサスを見かけた。
だが、これが俺にとって天運か幸運か運命とはわからないことだった。

No.9 16/08/14 06:02
流行作家 

田口 「天馬くん、久しぶりだね。ということもないか」

相手に呼びかけた途端、天馬くんはわずかにぎょっと驚いた顔をしたようだった。
それもそのはずあの日、Aiセンターが崩壊した時のこと彼は奇跡の生還を果たしたことを知っていたが、俺は忘れたようにほっといたからだ。

天馬「田口先生はヒマなんですか。僕のような留年生に構う時間があるんですから」

冷泉 「天馬先輩、相手は講師なんですよ。そんな口の聞き方は失礼です」

以前に紹介された冷泉深雪という優等生に見覚えがあった。天馬くんがいい成績をおさめてるのは彼本来の医学への意欲もあるが同じ班の彼女からの影響があるのは見て取れた。ツイン・シニョンという特徴ある髪でいかにも優等生で美人というべきか。

田口 「ヒマに越したことはないんだ。Aiセンターはなくなってしまったから」

天馬 「聞きたいことがあるなら以前にお話ししたことがすべてです」

若いくせにガードがかたい。コイツがケルベロスからどうやって生還したから個人的に興味はあったが言うタマではないのはわかりきっている。だから、話題をすぐさま変えた。

田口 「白鳥技官から合コンのお話しがあってよかったらキミに参加してほしいんだ」

いきなりまずかったか。天馬はおろか冷泉深雪という彼女も面をくらったような顔を互いにしていた。白鳥ならこう言うだろう。田口センセは素直すぎだよ、とか。

No.10 16/08/14 15:16
流行作家 

天馬 「合コンですか?白鳥さんから?」

天馬が目を丸くしたのはもちろんだが側にいた冷泉深雪なる彼女は声に出さないまでも同じように目を丸くしていた。
さすがに気まずいと思ったのか天馬は彼女に言う。

天馬 「悪いが冷泉、席を外してくれないか」

冷泉 「わかりました」

ツイン・シニョンの髪を揺らしながら彼女は教室を出ていく。表情から澄ましているのか怒っているのか読み取れなかったように思う。兵藤くんの評価も優秀な生徒のひとりであったように思うが。

天馬 「田口先生、場所を変えましょうか」

田口 「満天か?おごるのは構わないが彼女に出くわさないか?」

天馬 「冷泉は彼女ではありませんが」

田口 「少し行きにくいが俺の仕事場に行くか」

以前のことがあったのかあの冷泉なる彼女とはつかず離れずらしい。だが、別宮葉子という記者がいて同級生に冷泉なる彼女、いや同級生がいるだけ華があるものだ。
やむなくだろうが、天馬くんは俺の仕事場である不定愁訴外来についてきた。さいわいというか兵藤くんとはすれ違わず藤原さんも姿を消していた。
男二人だけというのは白鳥や島津、速水、彦根といたが、天馬くんとはあらためて考えるとはじめてだったかと思いいたる。
こう考えると同性しか付き合いのがさびしいものだがこの歳だ。

No.11 16/08/15 06:11
流行作家 

天馬 「話に聞いてましたが不定愁訴外来はへんぴなところにあるんですね」

いきなりの嫌みを含めたパンチが入る。が、ここは俺のむかしからの隠れ家だったのだ。そこを運よく職場にしたに過ぎない。珈琲を淹れながらあらためて誘う。

田口 「まあな。それより合コンはどうなんだ。参加するのか?」

天馬 「しても構いませんがメンバーを聞かせてください。Aiセンターの時みたいにす、……小百合先生とは再会したくないですから」

す?
気になる言葉が耳に入った気がしたが気のせいだろうか。咳払いをして言う。

田口「メンバーは俺に白鳥さん、島津に彦根といったところだが」

天馬 「そこに医学生である僕ですか。不釣り合いではないですか?救命救急の佐藤先生や兵藤先生など適任と思いますが。それに田口先生は同性の友人くらいしかいないのですか」

痛いところをつくヤツだ。つい最近まで留年を繰り返してたくせに聞くところによると麻雀をしてるスズメ荘からは遠ざかってるわりに先端が尖っている。たぶん、俺に対してだけだろう。

田口 「だけど相手は白鳥だ。白鳥が主催するところに参加する以上は心強い相手がいるくらいはいいだろうと踏んでいる」

その言葉に天馬は何か考えるような瞳をしてるようだ。おそらく碧翠院からの経験だろうか。あるいは白鳥からの経験か。

天馬 「もしかしたら女の子ぜんぶ僕がいただいちゃうかもしれませんがそれでよければ?」

一瞬、言葉を失う。
コイツは速水と同じタイプなのかと疑う。留年を繰り返したふてぶてしさかあるいはふたりの美女に囲まれているせいかわからないが、コイツは俺に内に敵意を燃やしてるのがなんとなくわかった。だが、誘った以上断るのは筋違いだ。

田口「わかった。キミがそのつもりなら構わない。どうせ遊び半分の合コンだ」

天馬は珈琲に口をつけながら微かに笑う。

天馬 「田口先生は欲がないんですね。なんでリスクマネジメント委員長やAiセンター長なのかわかりません」

田口 「そうかもな。だが、世の中は欲が多すぎるとそいつは潰されるかもしれないぞ」

その言葉に天馬はわずかにびくついた表情を見せたように見えた。

「珈琲ごちそうさまでした。ではまた」

捨て台詞だろうか。だが去る姿は格好よく見えた。

No.12 16/08/15 12:35
流行作家 

そういえば彦根にメールをすることに忘れていたのに気づいた時だった。不意にメールの着信音が鳴った。

From 彦根 To 田口

このたび白鳥さん主催の合コンに参加させていただきます。
何卒、お手柔らかにお願いします。
田口センター長。




P.S よかったらシオンといっしょに行きましょうか?


アイツはテレパシーか何かが使えるのか?もしかしたらすでに東城医大に入り込んでいるのではないかと思ってしまった。
病理医でありながら自分で患者の診断はせずネットを使い他人に診断させ自分で結果を伝えているようだ。
もちろん医者はいろいろあっていいが、コイツは医者と呼べるのか。

田口 「シオン先生はアリアドネ・インシデントの時には助けてもらったがAiセンターの時は複雑としか言い様がない」

呟きが漏れた。だが、こんな独り言は誰も聞くわけがない。彦根のメールで少し珈琲が苦く思えた。
だが、合コンくらいは楽しんでも日頃の疲れくらいは取れるはずだ。
そう思い俺は自らの職場をあとにして下宿に戻った。
それにしても合コンの女性陣側はどんな子達だろう?布団のなかでふと思い俺らしくない悶々とした気持ちがあった。

No.13 16/08/16 08:47
流行作家 

翌朝、不定愁訴外来の扉を開けると、意外な人物がそこにいた。俺の危険感知センサーがまったく働かなかったのが意外すぎるくらいの人物だった。

高階 「おはようございます田口先生」

思わず自分の職場が病院長室と間違えたと思ってしまったくらいで、一瞬あまりのことにフリーズしてしまった俺がいた。

田口 「お、おはようございます。な、何かあったんでしょうか」

高階 「何かあったのは田口先生の方でしょう。藤原さんから聞きましたよ。白鳥くんと合コンするとか」

その時、室内に珈琲の匂いが漂う。藤原さんが少し笑ったようにしながら珈琲を三人分淹れていた。聞くまでもなく話を漏らしたのは藤原さんだった。
ふと思ったが、ふたりして今回の合コンに参加するつもりではと背筋に冷たい思いが宿りぞくりとした。

田口 「ええ、そのつもりですが」

ここは用心深くモグラ叩きのモグラのように迂闊にあたまを出してはいけない。身を潜めるのが確実である。

高階 「よろしかったら、私と藤原さんを同伴させてくれませんか?」

田口 「ええ!?」

自分からうっかりあたまを出してしまった自分が無能だと内心、罵るが遅かった。

高階 「そんなに驚くことでしょうか?」

しまった。Aiセンター設立の時にこの人が根っからの天然というのを失念していた。
藤原さんに助けを求めようとするが、天はすでに俺を見放していた。

藤原 「よろしいですよね。年寄りの冷や水と思いまして」

高階 「冷や水だなんてとんでもない。これでもバブル期は東城大の阿修羅、もとい東城大の二枚目と言われた私です。ディスコ、いえクラブでもノリノリでしたから」

タヌキがノリノリ?思わずその姿を想像しあやうく吹き出しかけるとふたりが俺を見ていたのに気づいて口を掌で塞いだ。

田口 「で、ですけど相手は白鳥さんですよ。よろしいんですか?」

高階 「業務を忘れた一環の合コンですよ。田口先生は合コンにさえも融通が利かないんですか?」

融通の権化である病院長に言われたくないが、年寄りの冷や水と思えばスルーしなくもない。だが、ふたりの表情は参加するつもりなのが目に見えてわかる。

田口 「わかりました。ですが、白鳥さんがどうするかわかりませんよ」

念を押したつもりだった。

No.14 16/08/16 16:08
流行作家 

一日中、不定愁訴外来に閉じこもり患者さんの愚痴や不満を聞きながらお昼に院内にあるコンビニに昼食を買い食事した以外はめずらしく外に出ることはなかった。
だが、お昼に何を食べたか忘れるくらい高階病院長の衝撃があった。
バチスタ・スキャンダルからアリアドネ・インシデントに匹敵するくらいだ。
名づけるならタヌキアシュラ・ラブアタック。
……そう名づけた瞬間に俺の気持ちが一層、闇に沈みかけた。おそるべし東城医大の二大巨頭、高階権太、そして藤原真琴。藤原さんがそばにいるので迂闊に口に出せない。
東城医大に在籍し学生時代から数えてもこれほど一日が長く感じたのはそういない。
まるで天上に近い病院長室から片隅の愚痴外来が実は見られているのではないか、といまさらながら実感した俺がいる。
毎回、口にしている珈琲の味さえわからない。
しかし、勤務が終われば合コンなのだ。そこにせめて希望の灯を胸に点そうではないか。
ふと振り返ると、藤原さんが明るく不気味に笑っていた。見なかったことにできないだろうか。

No.15 16/08/17 10:37
流行作家 

ようやく一日の勤務を終えたが虚脱感がいままでになくいっぱいあった。
当然だ。そばには藤原さん、天上から高階病院長が見ているのだから。
白鳥との合コンに同意した俺はわずかな後悔がいつの間にか大きな後悔となり雪だるま式になって肩にのしかかっていた。
そんなことを思っていたら、珈琲やお茶を淹れるたいして広くはない厨房の方から扉が開いて驚いてのけ反った。

藤原 「どうですか?田口先生」

目の前には80年代の落ち着いたような花柄の色鮮やかなワンピースを身につけた藤原さんがいた。テレビで熟女な女優さんがいかにもプライベートなひとときですよ、と見せるバラエティ番組のようで珈琲を飲み込んでしまった。髪留めなどもさりげなく明るい。

田口 「い、いいのではないですか……」

藤原 「田口先生、異性をほめる時は曖昧にではなく正確にほめる時はほめるモノですよ。そんなのだから目の前の異性を逃がすのですよ」

おほほ、とまるで貴婦人かセレブのように掌で口元を隠し微笑んでいるが、目の前の異性を逃がしたのはあなたのせいだと言いたい。いまだにバチスタ・スキャンダルでのことを俺は忘れたわけではないぞ。
時刻は午後六時。そろそろ行かないと白鳥から何を言われるかわからない。玄関では天馬が待っているはずだし急ぐくらいは必要か。
彦根はすでに合コン会場に来ているのかわからないが。神出鬼没な後輩はやっかいだ。
白衣を脱いでハンガーにかけ藤原さんと共に戸締まりをする。
病院長室にいるタヌキ、もとい高階病院長から見られている気がしてたまらない。

No.16 16/08/19 15:19
流行作家 

一階に下りロビーを藤原さんを伴い(むしろ俺が伴われてなくもなく)歩いていくと、向こうから如月翔子がきてちいさく頭を下げた。
ウワサではあるが、速水とは懇意にあるらしい。恋愛関係にいたっているかはわからないがほんのたまに愚痴外来を頼ってきている。

藤原 「速水先生とうまくいってるんでしょうかね」

田口 「さあ、アイツは救急バカですから。あちら(極北)では将軍様と呼ばれているらしいようです」

俺が極北に送ったようなものだからさぞやアイツは根に持っているかもしれない。だけど、彼女がいるだけでもましではないか思う。公的な“彼女”かはわからないが。
玄関に向かうと高階病院長とラッキーな名前を持ちすぎる天馬大吉が揃って待っていた。
高階病院長はビシッと決めた感じで、天馬の方は留年を繰り返しているせいか学生の雰囲気は抜けない。まるで対照的に俺の目に映った。

No.17 16/08/20 17:30
流行作家 

高階・天馬 「遅いですよ、田口先生」

玄関に着くやいなや病院長と留年生の声が重なる。あなたたちは前世で一卵性双生児だったのか、と疑うには見事な二重奏だ。

高階 「たしかキミはAiセンター会議にいた医学生の……」

天馬 「その節はお世話になりました。まだまだ若輩者の医学生の天馬大吉です」

天馬の妙に礼儀正しい言葉に、高階病院長は「そうでした」を二回復唱し思い出したようだ。白鳥が言うところの“誰にゴマをすればいいか”だ。
だが、天馬には東城医大に愛着や帰属意識はさほどない。Aiセンターが崩壊したあの日の行動は、俺が見た限り若い学生なりの個人的な感情や気持ちからの正義感のひとつと思う。わずかに小百合への表情を思い出せば複雑でもあるが。

藤原 「あらあら、私は不定愁訴外来で田口先生付きの藤原ともうします」

付きてなんだ。愚痴外来で適切なアドバイスやサポートは感謝しているが、付きというのはお目付け役ということか。
だとしたら、俺がこの病院にいる限り藤原さんの目からは逃れられないということか。想像したとたんに秋の始まりの冷たい風とともに背中に寒気が襲う。

高階 「あの時は驚きました。一介の学生が桜宮のお嬢さんに立ち向かうなんて」

天馬 「たまたまです」

藤原 「それより田口先生、ここから行くメンバーはこれだけですか」

思わずはっとならなくもないと思った時だ。それを察知したかのように、スカラムーシュ彦根からメールがきた。

From 彦根 to 田口

僕はそのままそちらの合コン会場に向かいます。

そっけないメールだ。

島津 「お!病院長に藤原さん、それにそちらの学生はたしかこの前、桜宮市の死因究明研究のレポートの時の」

そっけないメールの内容を打ち消すように地下から上がってきた“がんがんトンネルの魔人”島津の声が玄関から院内ロビーにエコーした。
天馬は島津とも面識あったのか。だが、死因究明研究となるとAiは無縁ではない。
初対面の時の天馬が俺をあしらった態度の時と同様に侮れないかもしれない。

No.18 16/08/22 16:09
流行作家 

やがていつもの公用車が静かな音共に玄関の前にきた。

高階 「ではいきましょうか。あ、失礼。主催者である白鳥くんの次にくるのは田口先生でしたね」

この人はいまだAiセンターの件を根に持っているのだろうか。いや、よけいな考えはよそう。ここは気を取り直すのが大学病院での生き方だ。病院長に将来なるならないは別にしても気をラクにしたいものだ。

藤原 「私は助手席で構いませんので」

しまった。藤原さんに先手を越された。助手席に座っていれば大人四人が後部座席に座ることはないのだ。

高階 「田口先生、いきましょう」

島津 「男四人が後部座席でむさいな」

田口 「ああ」

天馬がちらりと俺を見た。その瞳が俺はむさくありませんと言っている。
いちばん左奥に高階病院長、次に俺、島津、天馬くんの順番で後部座席に座る。シートベルトをするとよけいにキツい。

高階 「行ってください」

高階病院長の声で運転士がうなずき公用車が病院から出ていくように走る。
この合コンはなにも起きないふつうのイベントだろうか。
ふと不安みたいなざわめきが胸の内に宿りながら桜宮市の街並みを病院長の顔越しに見つめている俺がいた。

No.19 16/08/23 04:46
流行作家 

ようやく街中に公用車が入り車はむかしながらのアーケード商店街手前で止まった。少し歩かなくてはならないが車内で男三人に囲まれるよりはましだ。

島津 「天馬くん、研究は進んでいるかい?」

天馬 「ぼちぼちですね」

どうだろうか。聞くところによると天馬率いるZ班の研究テーマはあの陣内教授に使われたと耳にした。陣内教授はAiに関心はないが、彼らがそれなりに真剣に勉強したレポートを悪用とまではいかないが主義に反することをしてレポートを使っているのではと思う。
だが、大学病院というのはそういうところなのだ。医学生になった時から大学病院のシステムに組み込まれ生き馬の目を抜く生存競争かもしれない。
もっとも俺はそういうのにいつの頃からかそんな競争には目も向けず適当にサボりながらなんとなく不定愁訴外来に落ち着いた。論文もまったく書いておらずエシックスの沼田に半ばやっかみされるのも当然だ。

島津 「行灯、じゃなくてそこの田口は論文をひとつも書かずに講師におさまってるからな」

田口 「学生のまえで何を言うんだ。まったく」

高階 「ほんとのことではありませんか。何をいまさらいいわけしてるんです」

たしかにその通りだが、論文を書かないのではない。書くテーマが俺にはないというのだ。
藤原さんはくすくす笑いながらはすっぱ通りへ抜けるアーケード商店街を懐かしそうに見つめているようだ。高階病院長も。
バブル時代前後の街が栄えていた頃を思い出しているのだろうか。アーケードには喫茶店や映画館、アパレル関係などらしい面影があるシャッターが見えるだけだ。
はすっぱ通りにはいまもいかがわしい店が残っているがほんのわずかだ。
むかし若い頃にスズメに通っていた頃を思い出さなくもない。スズメのママはいまも元気にやってるだろうか。

天馬 「あちらですか」

田口 「ああ」

若い天馬は大人たちのなかで少しははしゃげるようだ。だけど、留年生でもあるから言葉にわずかに大人びた雰囲気を漂わせている。
しかし、速水の代わりにコイツでいいのかと俺のセンサーは微かに警告しているようだ。

No.20 16/08/24 05:18
流行作家 

島津、高階病院長、藤原さんが店に入るなか俺は天馬を止めに呼ぶ。

田口 「天馬くん。そういえばAiセンター会議の時の彼女はどうした?」

思わず彼は扉にある手を止めながら俺を見た。

天馬 「彼女?ハコ、葉子は彼女ではありませんが」

言葉にやや刺がある。何か嫌なことでも聞いたようだ。地雷でもあるまいと思うのだが。ならば、少し聞き方を変えよう。

田口 「いや、もうひとりの同級生の方なんだが私が聞きたかったのは」

天馬 「冷泉のことですか?彼女ではありませんよ。彼女も」

“も”てなんだ。
留年を繰り返しておきながら最近は真面目にはなったようだが、留年のせいかふてぶてしい。そう思っていたら言い返された。

天馬 「相変わらずグズでヘタレなんですか。田口先生?」

思わず過去の記憶にあるすみれに言われたみたいで軽く頭を叩かれたみたいだ。

田口 「口だけ生意気は感心しないな。それだと医療の世界では生き残れないぞ」

今度は天馬が黙る番だった。彼はちらっと俺を見たあと扉を開け先に入っていき俺も続いた。

No.21 16/08/24 08:53
流行作家 

白鳥 「ようこそ、田口先生!僕が主催してくれた合コンに参加してくれて!」

店の中に入るや白鳥がアルマーニのスーツをいつものように身に付けながらイタリア人のように手を広げる。

白鳥 「あれ?天馬くん。また会ったね。島津先生はともかく高階さんと藤原さんが来たのは予想外だったな」

田口 「どうしてもふたりはついてくると言いまして。申し訳ありません」

高階 「私たちはおまけですから。若い人たちはお気になさらず」

藤原 「そうですよ。はしっこで昔話に花を咲かせていますから」

そう言うと、カウンターに座りふたりして何かを話始めた。
店内は昼間は喫茶店、夜はバーといったおもむきだ。貸し切りというわけではないらしいが、十人の大テーブルは貸し切りになっていかにも合コンらしい。

白鳥 「ま、田口先生には島津先生がお似合いでしょうか」

田口 「島津とは学生時代からの付き合いです。そう言えば姫宮さんはどうしました?」

白鳥 「ああ、姫宮ならいまから女性陣を連れてきますよ。まあ、とんちんかんな女の子を連れてきやしないか内心、不安だけど」

天馬 「姫宮さんが、ですが」

用心深く天馬が聞いた。俺もまた意外な気持ちだった。あの姫宮に同性の友人がいるのか、という疑問や懸念だ。いないわけではないだろうが、ワンダーゾーンな気持ちが胸にした。

白鳥 「僕が女性陣を手配するといったら、アイツが室長の代わりにしますなんて言ったからさ。言い出したら聞かないし」

俺と天馬はそろって溜め息をついた。俺は姫宮とのファースト・コンタクトを思い出した。
あれもまたとんちんかんな出会いだった。俺は融通が利かないが、姫宮もまた融通が利かないという意味では同類かもしれないが否定したい気持ちも多々あったが口にすまい。
そこへ扉が開き、姫宮かと思ったが銀縁眼鏡の男が俺と白鳥に目があった。

No.22 16/08/24 13:10
流行作家 

彦根 「これは白鳥さん、こんばんは。この度は白鳥さん主催の合コンに参加させていただきありがとうございます」

白鳥 「誘ったのは田口先生だね。ま、構わないけど」

島津 「速水よりはましと思うしかあるまいが、俺と行灯の前で生意気な口を叩くなよ」

白鳥がへらへらしながらも瞳は笑ってはいない。島津はかつての学生時代の経験からか諦め口だが、しっかり釘を刺している。
それを横目に高階病院長と藤原さんはすでに頬が赤い。昔話に花が咲いているようだが、もし東城医大がAiセンターがなくなった直後につぶれていたらあんなあたりまえのことができなくなったのか、とつくづく思う。

天馬 「すずめ四天王のうち島津先生、彦根先生、田口先生ですか。もうひとりの速水先生は?」

島津 「行灯、いや田口と病院長が極北に島送りした。アイツにしたらのんびり南の島に行きたかったらしいが」

天馬は、じとっと俺を見つめる。すずめ四天王のことを知るのは俺たちを含めすずめのママ、もしくはすずめ荘で麻雀に興じたものということか。

島津 「ところで桧山先生はどうした?」

彦根 「シオンなら業務を終えてめずらしくひとりで出かけました。話しがしたいならまた機会を設けますから」

島津 「そうか。よろしく言っておいてくれ」

男性陣の顔触れは厚労省の火喰い鳥の白鳥、俺、スカラムーシュの彦根、がんがんトンネルの魔人の島津、留年生にして碧翠員に縁があるラッキー・ペガサスの天馬。
俺はともかくこの面子と合コンしたがる女性がいるのか奇妙に思う。

田口 「女性陣は?」

白鳥 「いま姫宮が連れてくるからあわてない。といってもあの姫宮だからな。どんな女性たちを連れてくるのか」

白鳥はたしなめるようにしながら扉を見つめていると、扉がゆっくり開いて目を引く姫宮が入ってきた。

No.23 16/08/24 21:57
流行作家 

相変わらず姫宮はデカいという表現が似合う。フィギュアスケーターやバレリーナなみかそれ以上か。美人の部類には入るが、いかんせん身長がそれを上回る。
白鳥と並ぶと“美女と野獣”かもしれないが“美女”の方が身長があるからアンバランスだ。氷姫なのは間違いないが、氷の上に立っても大丈夫なのは妙な妄想をしかけやめた。
高階病院長と姫宮は互いに目を合わせると、姫宮は頬を赤くした。親父キラーかコイツは。
だが、それよりも次に扉から入ってきた女性陣による天馬から驚きの声が上がった。

天馬 「ハコ、なんでここに!?それに冷泉まで……」

驚きで二の句が告げないくらいに天馬はベビーフェイスな顔があんぐりしていた。

葉子 「あら、天馬くんこんばんは。あたしだって合コンに参加するわよ」

冷泉 「こんばんは天馬先輩。葉子さんとは女友達同士ですし姫宮さんとは先だってのAi会議でメアドを交換してましたから。だから今夜はこちらにお呼ばれしました」

なんとも対照的な女性たちの挨拶だ。別宮葉子はやや勇ましく冷泉深雪はツイン・シニョンの髪を優雅に揺らしながら、別宮葉子が同性の友達であることさらに氷姫姫宮とメアドを交換してたことをさらりと言う。

天馬 「いや、だからて……」

俺はなにも言うまいと意味で、天馬の肩に手をやった。姫宮は一見、どんくさいように見えるが言うことやることはそつがない。わざとか天然というかわからないがその真ん中だろうか。
しかし、姫宮に別宮葉子記者それに冷泉深雪。三人だぞ。あとの二人はどうした?
姫宮がいくらどんくさいように見えながらこんなアンバランスな合コンにはしないはずだ。
島津は先ほどから髭面でニヤニヤしている。
いったいあとの二人は誰なんだ?という疑問しか俺の頭にしかなかった。

No.24 16/08/25 05:55
流行作家 

次にいつになくすっとんきょうな声を上げたのは彦根だった。

「シオン……!今日はひとりで出かけるて言ってなかったか」

冷泉深雪の後から現れたのは「ミラージュ・シオン」の異名を持つ画像解析の麗しき美女、桧山シオンだった。
彼女はちいさく細い声ながら、はっきり通る声で答えた。

シオン 「ええ。ですから、姫宮さんに誘われこちらに来たしだいです」

ちらっと俺や島津に目をやりながら、彼女は姫宮に誘われたと言う。
姫宮の人間関係はどうなっているのだろう?てっきり霞ヶ関女性官僚候補がずらりと揃うかと思えば、記者の別宮葉子に天馬と同じ医学生の冷泉深雪、そして画像解析の巫女の桧山シオン。
これはAi会議の同窓会だろうか。白鳥はというと、冷泉深雪に対してミユミユとからかっている。
これではAi会議とそっくりそのままではないか。俺と天馬はあの時と同じく苦笑していた。
ちょっと待て。女性陣はこれで四人だ。最後のひとりは誰なのだ。

白鳥 「ミユミユと呼んでいいかな」

冷泉 「遠慮しますから。その呼び名はやめてください」

ああ、ふたりの会話が近くにいるのに、耳には遠くに聞こえる。
この合コンはなんなのだ、という疑問符しか俺にはない。

No.25 16/08/26 21:14
流行作家 

ほんの少し間があってから再び扉が開いた。最後に出てきたのはあたり前だが、当然女性だった。
俺と島津からわずかに「あ」と漏れた感じがしれなかった。
女性は初めて見るような顔触れに丁寧に頭を下げる。

小松 「本日は姫宮さんのお誘いで参りましたサクラテレビの小松と申します」

俺と島津にはわずかに見覚えがあった。あれはいつだっただろうか?
たしか速水を極北に島送りにしてからおよそ一年過ぎたあたりだろう。救命救急センターオレンジのセンター長代理となったTKO木下でなく佐藤部長代理が何を思ったかテレビ取材を受けたという時期があった。
病院の片隅と地下でそれぞれこっそり自分たちの業務をしながらやじ馬根性がなかったわけでなくふたりしてオレンジ棟を覗いたことがあった。
あとで佐藤部長代理に話を聞くと、取材した結果はオンエア無しという方針だったらしく密かに肩を落としたものだ。
だけど、同じ大学病院の同僚が出した結果だからそういうこともあるだろう。
小松と名乗るディレクターだっただろうか。彼女の顔はその時に見覚えがあったし時おり彼女自身もレポーターでサクラテレビに映っている。

白鳥 「小松、小松、小松……ああ!サクラテレビのじゃじゃ馬ディレクター兼レポーターか!」

何かを思い出しかけてた白鳥のつぶやきに俺を含めた他九人はぎょっとした。

小松 「あの姫宮さん。こちらの方は?」

姫宮 「申し訳ありません、私の上司の厚労省の白鳥敬輔室長です」

小松 「ああ、たしか以前島送りにされて医療過誤なんたらの。そう、この人が。あらためて自己紹介します。サクラテレビの小松です」

名刺を互いに交換しながら、妙に小松と名乗る女性は瞳が燃えているように見えたのは気のせいか?姫宮の時とはちがうセンサーが俺の中で鳴っていた。

白鳥 「たしかこの前の青空迷宮事件で加納を取材したいと言ったのはあなたですよね?」

今度は俺がぎょっとする番だった。青空迷宮事件といえば知る人ぞ知る事件ではないか。
あの事件の最中に、この女性は警察庁のデジタルハウンドドックを取材しようとしたのか。
世の中には勇ましい女性がいたものだ。
小松は、ふんとだけ鼻を鳴らした。

白鳥 「嫌われたかな」

白鳥は相変わらずへらへらしている。動じないヤツだ。

No.26 16/08/26 21:54
流行作家 

あらためて皆で自己紹介をすると、医療従事者や関係者が多いものだ。
俺や島津はもちろんだが、白鳥や姫宮も医師免許は持っているから関係者に違いない。天馬や冷泉深雪は医学生でもあるが、まだ卵くらいか。

白鳥 「サクラテレビの小松さんに嫌われちゃったかな」

田口 「バチスタ・スキャンダルの時に叩かれた経験を忘れたんですか」

白鳥 「失敗は成功のもと。経験は生かさないと」

こいつが言うと、正しい言葉の意味さえ間違った意味に聞こえるのがふしぎだ。
小声で話をしてるから小松という女性には聞こえていないはずだ。

白鳥 「おい、姫宮」

姫宮 「なんですか室長?」

白鳥 「おまえいつサクラテレビの関係者と知り合ったんだ」

姫宮 「お答えする義務はないと思いますが、いちおうお答えしますと加納さんからのご紹介ですが」

思わず口に含んだビールの苦味が吹き出そうになり慌てた。
医療の世界もあんがい狭いものだが、官僚とマスコミ関係者のつながりが狭いのか。いや近いのか?
アリアドネ・インシデントや先のAiセンター爆破事件がいい例ではないか。この二つの件は、なぜかマスコミの方から口をつぐんだように報道されず収束していった。
考えたくはないが、警察がマスコミに圧力をかけた可能性はわずかに考えたおぼえがあったが。
それにしても、ブーメランのように加納警視正からの紹介とは世の中は広いようで狭い。

島津 「やれやれ。久しぶりの合コンなのにいろいろな顔ぶれがいるものだ」

田口 「女性のひとりは医学生だし」

島津は自分の髭を撫でながら、相手を誰にするか見定めているようだ。
彦根はというと、いきなり小松にアプローチをかけている。桧山先生をほっていいのかと突っ込みが胸にあった。

彦根 「房総救命救急センターの医長の彦根と申します」

小松 「なにか?」

彦根 「私はこう見えても浪速府の村雨府知事と顔が利きます。彼に取材がある時は私を通すのも一興ですよ」

ふと思う。
Aiセンターがこけら落とし直前の時、俺と高階病院長と桜宮岬を訪れた時に彦根と共にいたのはあの村雨府知事だったのかと思い当たった。
天馬、別宮葉子、冷泉深雪も思い当たったらしく何か会話が聞こえていた。

No.27 16/08/26 22:09
流行作家 

天馬 「彦根先生は本当に村雨府知事と知り合いなのか」

葉子 「なんの話?」

冷泉 「あたしたち以前に彦根先生にレポート取材をした時に直接、耳にしたんです。村雨府知事と知り合いだって」

葉子 「本当なの?それ。だったら負けてられないわ。天馬くんゴメン」

何がゴメンなのかわからないが、別宮葉子は記者魂に火が点いたように彦根に向かう。
スカラムーシュ彦根はいきなり女性ふたりがそばについてしまった。
これは先手を打たれたというべきか。

島津 「なら俺は桧山先生と画像診断の話題か」

田口 「同業者だからていい気なものだ」

しかし、同業者同士なら話題に事欠かないのもある。島津はひとりぽつんといる桧山先生にのもとに向かい杯を交わす。

白鳥 「田口先生、早くしないと女性が目の前からいなくなっちゃいますよ。彦根を呼ぶなんてな。せめて速水先生にしてくれたらよかったのに」

嫌みを言うものだ。残っているのは、姫宮にツイン・シニョンの冷泉深雪という医学生。

田口 「合コンは久しぶりなので出遅れただけですから」

杯を傾けながら負け惜しみなことに自ら気づく。速水がいても結果は似たり寄ったりと思うのだが。

冷泉 「あの不定愁訴外来の田口先生ですよね?はじめまして、天馬先輩と同級生の冷泉深雪と申します」

ツイン・シニョンの髪が優雅に揺れながらどういうわけか医学生である彼女からそばに寄ってきた。瞬間、脳裏に懐かしい女性の声がした気がした。

----グズでヘタレの田口先生。

No.28 16/08/26 22:33
流行作家 

脳裏に浮かぶ声が小百合なのかすみれなのか、いまはわかるわけもない。
しかし、なぜいま脳裏に響いたのだ。だが、そんな疑問を打ち消すように冷泉深雪は俺の前に立つ。

冷泉 「不定愁訴外来のお噂は以前から聞いていました。患者さんの不平不満を聞くのは仕事上、つらくありませんか?学生からの疑問として」

なんだ、この子は疑問を聞きたかったのか?講師をしている以上、疑問に答えるのが責務だろうから答えた。

「病院に来る患者さんは、皆なにかしら病気を抱えている。精神的や肉体的なこと……あるいは生きていること、病は気からというものがあるが。病院というのは病気を治すところだが、心や精神からの不安は拭えない。なかには薬が効いているのか不安に思う患者もいる。私はそういう患者の気持ちや声を聞くことを生業にしてるのかもしれない。たまに大変な時もあるが、普段の業務は差し障りはないと思う」

ヒューヒューと白鳥の口からわざとらしい口笛が飛び、天馬はほんの少し納得しない表情を見せた。高原美智さんの件がまだ彼に残っているのだろう。

冷泉 「そうですか。田口先生て天馬先輩のライバルかと聞いてましたからあらためてどんな人かと知りたくてお聞きしましたが、優しい方なんですね」

素直ないい子のようだ。藤原さんにほめられることはあるが、仕事上、年齢が下の者に接することが少ない俺には素直なほめ言葉として受け取っていいのだろう。
それにしても、天馬のライバルとはやはり碧翠院絡みかと内心、首を傾げなくもない。

冷泉 「今度、不定愁訴外来をお訪ねしてもよろしいでしょうか?」

天馬 「おい、冷泉。僕たちZ班に不定愁訴外来は関係ないだろう」

冷泉 「天馬先輩。母校の不定愁訴外来がどんなものかを知っておくのも経験のうちと思いますが」

思わず天馬が黙ったように立ち尽くす。言っていることは正しいが、不定愁訴外来は大学病院においては隅っこで細々と運営している部署だ。
それに経験といってもメインは患者からの愚痴や不平ばかりで一般社会でいうクレーマー対応だ。
患者の心のケアではあるが、経験といっても役に立つ経験か当事者ながら言葉が出なかった。

No.29 16/08/27 05:54
流行作家 

田口 「今度、時間のある時に来てくれたら構わない。いつでも空けておくから」

若い女性に言い寄られるのは男心としては構わない。が、冷泉深雪が姫宮と同じタイプではないだろう。姫宮みたいなタイプはそういない。

冷泉 「ありがとうございます。できましたら院内のリスクマネジメント委員会やAiセンター長になった経緯をお聞きしたいのです」

思わずわずかに眉が上がりそうになった。不定愁訴外来ではなくそちらがこの生徒の狙いだったのではと不遜な思いがよぎった。
高階病院長や白鳥と付き合いができてから用心深くなったからだろう。

田口 「構わないが、たいした話になるとは思えなかいが」

冷泉 「田口先生は聞くところによると、高階病院の懐刀ともお聞きしましたが」

歳のわりに耳年増だ。藤原さんのフジワラ・ナースネットを彷彿させる。
が、年下にやりこめられるのは少々おもしろいものではない。

田口 「懐刀というより苦労を背負わせてるしがない一介の医者だよ」

何の因果かAiセンター後の高階病院長の引退宣言を一度は飲みこみ、次期病院長候補にまでなってしまった。
それでも、一介の医者という立場は間違いではないと思う。

冷泉 「ご苦労をなされてるんですね。天馬先輩もいまは苦労してますけど」

天馬 「冷泉。お前な」

冷泉の同情と共感を含む瞳と声に、彼女は俺と天馬を重ねているように思えた。

白鳥 「あんがいミユミユは親父キラーかファザコンかもしれませんね」

白鳥の言うことはあながち間違いではないかもしれない。時々、不定愁訴外来の患者のなかには家庭が不安定でそれがもとで病気になる患者もいて話を聞いているうちに俺と父親を同一視してる患者もいないわけではない。

冷泉 「ミユミユというのはやめてください」

No.30 16/08/27 09:00
流行作家 

姫宮 「室長、歩く非常識はおやめください。厚労省が誤解されます」

白鳥 「誤解されるもなにも霞ヶ関では三流官庁扱いなんだし。三流には三流のやり方があるのさ。田口先生」

田口 「同意を求めないでください。俺は俺のやり方がありますから」

白鳥 「つれないな。牡丹燈籠の時は僕と加納がいたから助かったのに」

ああ言えばこう言う。天馬のヤツは俺と白鳥のやり取りを見ながら笑っている。別宮葉子や冷泉深雪が自分のもとにいないのに余裕さがあるのだろうか。

田口 「不定愁訴外来は院内の片隅だから」

冷泉 「いえ、患者さんの愚痴を聞いて心安らかにケアするのも医師として立派なお仕事と思います」

冷泉深雪は根が真面目なようで東城大に愛着があるようだ。もっともそばには東城大の古株、高階病院長と藤原さんの二大巨頭がいるのには気づいてないのだろうか。

彦根 「モテますね田口先輩。さすがにむかし卒業麻雀で速水先輩を倒しただけありますから」

田口 「あれは最後に勝ったのはお前だろう」

島津 「聞くところによると、速水を極北に送る時も奥の手を使ったらしいからな」

ふたりに持ち上げられるとなんだか背中がかゆく思える。速水を極北に送ったのだって、黒崎教授がコイツは桜宮に必要だなどと言うからやむを得ない処置をしただけだ。

天馬 「すずめ四天王のうち三人が揃う。なにかの予兆ではないですか」

田口 「予兆だと」

白鳥 「ふぅん、天馬くんが碧翠院をスパイしてたのも麻雀に負けたからが原因だとか。いやはや」

姫宮 「ちなみに天馬さんを負かしたのは結城さんです」

これには俺たち三人は驚いた。懐かしい響きを再び耳にしたからだ。
かつて医学生時代にすずめ荘に通いながら勉強の合間に麻雀に明け暮れた。
結城、そういえば速水を極北に島流しにしたのも収賄の件がきっかけだった。
たしかになにかの予兆かもしれない。

No.31 16/08/28 10:15
流行作家 

小松 「不定愁訴外来とはなんです?」

テレビ局が不定愁訴外来の存在を知らないことに俺はちいさく肩を落とす。
救急救命や放射線科などに比べたら知名度がないのは承知しているが、知らないと言われるのは少し気持ちが重い。

姫宮 「先ほども冷泉さんがおっしゃってましたが、患者さんの院内での治療や主治医などの関係が悪化した際に受け付けるのが田口先生の不定愁訴外来です。治療薬が身体に合わないとか主治医との関係がギクシャクした時に」

姫宮の説明は間違っていないと思うが、同じことを二度言わなくてもいいと思うぞ。

別宮 「そうなの?」

天馬 「一般会社でのクレーム部署だな。マスコミが取り上げるところじゃないと思う」

天馬の言い方にはやや揶揄があるが、それも事実だ。それに不定愁訴外来自体は大っぴらに宣伝はしていない。そんな動きも院内ではあるがお断りしていまも細々としている。
知る者は院内の医者、看護師、そして彼らから知り俺のもとに来る患者くらいだ。

別宮 「Aiセンター長だけではなかったんですね。うかつでした」

小松 「佐藤さんとお話しした時にも少し聞いた覚えがあるような……」

マスコミ側の女性ふたりはメモ帳や電子手帳を開きながら仕事モードになりそうだ。
いまが合コン中だぞ、と言いたいがやめた。野暮なことはよそう。
しかし、姫宮が助け舟を入れてくれた。

姫宮 「わたくし、極北の市民病院に潜入した時に田口先生の話題をしましたの。そしたら皆さん驚いてましたわ」

思わず少し笑みにならなくもない。が、それはすぐに裏切られた。

「患者の皆さん、愚痴をなさりたいんですね。東城医大を紹介しましたら皆さん肩を落としていました。皆さんすぐには行けないようなので」

おい。と言うのを喉元寸前で堪えた。北海道から桜宮にすぐ来れるわけないではないか。
ほめられたと思ったら、つり橋を到着寸前で切られたみたいな思いだ。姫宮のどこが俺に似てるのかいまだにわからない。ドッペルゲンガーならもう少し俳優の伊藤淳史の方がましだ。

白鳥 「極北か。姫宮に行ってもらったのに産婦人科医が捕まってしまったのは詰めが甘かったな」

姫宮 「申し訳ありません」

極北の妊婦死亡事件で産婦人科医が逮捕された事件か。
ふと思い出した。

No.32 16/08/28 10:48
流行作家 

極北で産婦人科医、たしか三枝と名乗る医者だったなと思い出した。
あの時はたしか白鳥から霞ヶ関に招聘されてAiを官僚に知らしめるために、スカラムーシュ・彦根が現れた。俺は彦根の操り人形だったが。
あの時にバチスタ・スキャンダルの被害者遺族、小倉さんとも話ができAiセンター会議にも参加してもらったが、顛末は知っての通りだ。

白鳥 「まあ、この話題はよそう」

姫宮 「はい。あ、そういえば浪速府のちいさな町の診療所にも井戸端会議程度ですが、不定愁訴外来に似たところがあるのを思い出しました」

俺は少し苦虫を潰した顔になったかもしれない。あまり俺を話題にするな、と被害妄想になりかけたが今度は違ったようだ。

彦根 「浪速府か」

小松 「不定愁訴外来、今度取材してもよろしいでしょうか?」

別宮 「待ってください。私も取材申請します」

むかしの恋愛バラエティで、ひとりの異性にふたりの異性が群がる場面が思わず脳裏に浮かんだ。
美しい女性ふたりが彦根が不敵な笑みをするなか俺のもとに来るとは。
これはいい兆しなのか?あるいは……。

白鳥 「取材くらい受けてあげればいいのではないのです?」

島津 「そうだぞ。愚痴外来がこれを機に全国区になるかもしれないぞ」

ふたりして勝手なことを言うものだ。全国区になったら妄想かもしれないが日本全国の愚痴に飢えてる患者が桜宮に押し寄せるのを想像して肩が震えた。
ふたりの女性の背後に無数の患者が見えてしまった、と思えた。

田口 「考えておきますから。ここは合コンですから」

遠慮がちに言うと、ふたりの女性はようやくプライベートな表情に戻った。
----グズでヘタレなんだから。
脳裏に双子姉妹の涼やかで悪戯な声が浮かんでは消えた。

No.33 16/08/28 14:02
流行作家 

ふむ、と彦根はパソコンを取りだし何やら操作しはじめた。合コン中に仕事かと思ったが、それはちがったようだ。

彦根 「浪速府のちいさな町に愚痴外来に似た診療所ありますね。浪速に田口先生のファンがいるんでしょうか」

にやにやする彦根を見ながらモニタに目をやると、たしかに町中のちいさな診療所の写真があり年配の院長とその息子夫婦だろうかのプロフィールなど映っていた。

田口 「愚痴外来のウワサが広まっても俺に得があるでないからな」

白鳥 「ですけど、アリアドネ・インシデントから警察官僚は田口先生をマークしてる可能性はあるかも。斑鳩広報室長とか」

思わず身震いした。高階病院長からリスクマネジメント委員会委員長、Aiセンター長の地位を承ってからたしかに忙しさはあった。

田口 「あくまで一医者ですから。医療と司法が仲が合わないのはわかりますが、患者や被験者などの個人情報は医療側に主導権ありますから」

白鳥 「なんだか意味深だね。また加納のヤツに何か頼まれた?事件あるところに加納ありって」

田口 「まあそこそこというところです」

警察官僚、特にあの斑鳩広報室長は正体がしれない。命を狙われるおそれはないかもしれないが、危惧はある……と思った方がいいかもしれない。それにしても白鳥は勘がいい。白鳥がいない時は加納があらわれ、加納がいない時は白鳥があらわれる。ふたり同時にあらわれたら最悪の組み合わせだ。

高階 「今夜は田口先生おモテですね。実に羨ましい」

カウンターから高階病院長がほろ酔いながら近づいてきた。

藤原 「じゃまをしてはいけませんわ。病院長」

高階 「だって私は田口先生を出世させたのに、感謝ひとつされないんですよ」

どう感謝しろというんだ。出世を本来を望んでいない部下を出世させ挙げ句には難題や事件に関わって労苦が多いのに。

小松 「田口という先生はノーマークだったわね。取材したら何か特ダネあるかしら……」

別宮 「Aiセンターの件は残念だったけどセンター長は逸材なのかしら。うかつだったかも」

天馬 「田口先生に取材する価値があるとは思えないけどな」

冷泉 「ひとは見かけによらないと言いますよ。天馬先輩」

ほんのり薄く頬を赤くした冷泉が言った。

No.34 16/08/28 16:22
流行作家 

翌週、合コンは結局はAiセンターの同窓合コンになった。
しかし、天馬の幼馴染みの別宮葉子、サクラテレビのディレクター兼レポーター小松(下の名前はオリジナル作品でも不明)、そしてあらためて冷泉深雪と知り合えた。
これは白鳥と姫宮が引き合わせた結果か。
月曜の朝、珈琲をいつものように淹れながらしみじみとしていると藤原さんがあらわれた。

藤原 「おはようございます」

田口 「おはようございます」

着替えを終えた藤原さんは邪気のない笑みで語りかける。むしろそれが内心、怖いのだが。

藤原 「一昨日は可愛らしい女性と知り合えてよかったですね」

田口 「ひとりはここの学生、ひとりは時津風新風の記者、最後はテレビ局関係者。みな取材目当てですよ?」

藤原 「そうですけど。田口先生のそばにいる異性はわたしくらいなんですから掃き溜めにツルが三羽」

思わず珈琲をこぼしそうになった。掃き溜めと自覚してるわりに、まるで世話女房みたいにそばにあなたがいるから恋愛への縁がないからだと思う。

田口 「ツルでしょうかね」

冷泉深雪は医学生でもありなんでも父親が作家をしてるらしいお嬢様のようだ。ツルというよりは白鳥か。
白鳥とあたまに書くとどうしても白鳥技官の方があたまに浮かんでしまい払いのけた。

藤原 「最初にここを尋ねるのは誰でしょうね?」

田口 「知りませんよ」

あえて俺はそっけなくした。不定愁訴外来でも暇はない。患者をひとりひとり診なくてはいけない。
時計の針が九時を差した。

No.35 16/08/29 09:41
流行作家 

午前中はいたって平穏というか滞りなく通常の不定愁訴外来の業務を終えた。妙な期待をすれば期待が裏切られるかとんでもない方向にいくかどちらかだ。裏切られるならまだましなものだ。

藤原 「どなたもおみえになりませんね」

田口 「忙しいのではないですか」

以前、天馬を尋ねた時に医学生たちの授業風景を見たことがある。今日の医学生はあんがい真面目なことに感心した。
俺たちの時代はサボりながら単位取得をしたが、あいにくと俺は高階病院長に救われたことがありそれが今日のリスクマネジメント委員長やAiセンター長へとつながるから、人生は奇妙としか言いようがない。

田口 「お昼に行ってきます」

そう言った瞬間に、不定愁訴外来の扉が不躾もなくいきなり開いた。白鳥か加納か、と心のなかで身構えたら兵藤くんだった。

兵藤 「田口先生、テレビや新聞の取材を受けるというのは本当ですか」

田口 「いきなりなんだ?これからお昼にいくところだぞ」

兵藤 「救命救急は以前にテレビの取材を受けたのにオンエアはなし。Aiセンターは爆破されおしゃか。報道さえ収束したのになぜこの不定愁訴外来が取材を受けるんですか」

田口 「合コンでのなりゆきというところだ」

コイツの先ほどの表現に少しむっとしたが、さらっと受け流した方がいい。

兵藤 「不定愁訴外来に取材する価値がマスコミにあるんでしょうか」

田口 「それはマスコミ側の判断であって俺がどうこう言うことではない」

兵藤 「謙虚ですね。とても次期病院長になられる人のお言葉と思えないです」

田口 「何しに来たんだ」

兵藤 「取材がとっくにされてると思いましていの一番に駆けつけたしだいです」

田口 「見てのとおりだ」
いの一番と言いながら、不定愁訴外来の業務中に来なかったのは情報が遅れたかコイツ自身の仕事かと察しをつけた。


田口 「悪いが、これからお昼だ。お前も来るか?」

兵藤 「いえ、珈琲だけなら」

藤原 「兵藤先生、お茶にしましょう」

兵藤が言うやいなや藤原さんは持参のお弁当と共にすでに俺以外のふたり分の珈琲を出している。
珈琲の香りが鼻にしながら階段を下りていった。

No.36 16/08/29 15:19
流行作家 

俺はとりあえず病院内に設けられたコンビニに向かった。院内食堂に向かってもよかったが、ここのコンビニはアリアドネ・インシデント以前に新しくなり外来者向けにイートインコーナーもある。唐揚げ弁当と飲料水を手に取り雑誌コーナーを眺めていると、背後から声をかけられた。

如月 「こんにちは、田口先生」

田口 「如月くん。キミもお昼かい」

ええ、と白衣の看護師の如月翔子は快活な笑顔を向ける。

如月 「いつもはお昼時に休みを取れることはないんですけど、佐藤部長代理が」

田口 「そうか」

返事をすると、如月は快活な笑みからわずかに口を尖らせ言う。

如月 「田口先生は冷たいんですね。まえにメアドを渡したのに一度もメールしてくれませんから」

田口 「それは……」

如月 「私に気をつかってくださるのはありがたいんですが、忙しいのをいいわけにするのはやめてください」

聞きたくありませんから、と膨れっ面と笑みの微妙な顔になる。

田口 「忙しいのをいいわけにしたつもりはないが」

如月 「Aiセンター長でもあるんですよね。いまでも」

ああ、としか答えようがない。破壊されたAiセンターのセンター長の肩書きはいまだに呪いのようにまとわりついてるかに思えた。
だけど、彼女はカラッと話題を変える。

如月 「田口先生、えっちな雑誌を見てませんでした?」

田口 「院内のコンビニに来ることは少ないし雑誌は読まないからどんなのか見てただけ」

如月 「そうですか。よかったらそこでお昼をご一緒してよろしいですか?」

彼女はイートインコーナーをちいさな指で指しながら答えた。
なんで俺なんか、と思いながらも断る理由がなかった。レジに彼女と共に並びながら、雑誌コーナーで見た雑誌の表紙に「モテ期」云々という言葉が頭に残った。
期待を心からはしないのが俺のここ数年の信条でもあるが。

No.37 16/08/30 05:27
流行作家 

如月 「聞いてくれます。速水先生たらひどいんですよ。メールしても返すのは半日くらい遅いんです」

彼女はサンドイッチを口に頬張るようにしながら、コーヒーを口にし田口を見つめる。

「極北でも忙しいというか、ほとんど現場にいるんじゃないか?東城大にいた時も現場に毎日のようにいただろう」

「そうですけど、速水先生はひどいです」

口をもごもごとさせながらも、ひどすぎですと言わないのは精一杯の我慢、忍耐というのもあるらしかった。
救命救急はいかなる時も冷静さや冷徹なまでの非情な判断が求められる部署だ。感情や気持ちだけでは救急患者は救えない。
しかし、オレンジ病棟は近々、縮小される可能性があると三船事務長が病院長にそれとなく伝えていたと聞く。
大学病院自体は、Aiセンターの破壊と高階病院長の過去の医療ミスから批判を受けながらも、いま再生の道を一歩いや半歩でも進んでいるのかもしれない。

田口 「速水だって如月くんのことは忘れてないと思うが」

如月 「そういう田口先生だって、速水先生を極北に送ったのに昨日、合コンしたんですって?」

あ、とわずかに口からこぼれる。昨日の会釈はそんな意味だったのかもしれないと思わなくもない。

田口 「女の子たちとメアドを交換したくらいだ」

如月 「あんがい抜け目がないんだ」

そんなつもりはないが、この歳になると社交辞令か本気の恋愛かは区別しにくいのかもしれない。
そこへ彼女の院内PHSが鳴り、如月はコーヒーやサンドイッチを流すように口に入れると立ち上がる。

如月 「また一緒にお食事してください」

ナイチンゲール・クライシスがあったにも関わらず彼女は明るくコンビニのイートインコーナーから出入り口へ風のように出てゆく。
彼女の内に速水の意志や面影をわずかに見ながら唐揚げを口の中で咀嚼した。

No.38 16/08/30 13:12
流行作家 

やれやれ、と思いながらコンビニを出ようとするが「モテ期」云々とあった雑誌を手にしレジに向かいなにげに不定愁訴外来に戻った。

田口 「あれ?兵藤のヤツは」

藤原 「お茶をしてそのまま出ていきましたよ」

本当にトンビみたいなヤツだな、と思いながら買った雑誌をそっと片隅に置く。めざといのか藤原さんはすぐに目をやり言う。

藤原 「田口先生が雑誌をお買いになるなんて珍しいですね」

田口 「私だって新聞ばかりは読みませんよ」

そう言った時に不定愁訴外来の電話が鳴り手にすると、高階病院長の声がした。

高階 「田口先生、テレビ局の取材を受けるならあらかじめ私に許可を願います。先ほどサクラテレビの方がおみえになりまして取材申請をお願いしたとありました」

田口 「え、そちらにもうおみえになったんですか?」

高階 「おみえになったのは合コンにおいでになった小松という人です」

田口 「私はどうしたらよろしいのでしょう?」

自分から取材への対応を曖昧にしたせいでテレビのことなど俺にはわからない。
すると、高階病院長は救命救急の取材を例に挙げながら取材オーケーなところはよしとし、NGつまりダメなところの境界線ははっきりすること。またまかり間違えても不貞な行為はなさらないことなど諸々の助言と注意を受けて頭を下げて受話器を下ろした。

藤原 「どうしました」

田口 「小松というディレクターが高階病院長にここの取材の申し入れをしたそうです。どうしましょう?」

藤原 「あわてないこと。田口先生はいまのところ通常業務をなさってください。もしおみえになりましたら私の方から対応いたします」

なだめるような藤原さんの接し方はまるで母親のようだ。とはいえ通常業務はあるのだ。患者の前で俺が平常心にならなくてどうする。

田口 「わかりました。午後の患者さんからはじめましょう」

藤原 「わかりました」

妙に藤原さんの声が頼もしい。

No.39 16/08/31 09:51
流行作家 

それでも不定愁訴外来の仕事は三時過ぎに滞りなくおわった。もともとの患者の人数調整は、俺自身の采配と藤原さんの調整能力だ。

田口 「来ませんね」

藤原 「なにか期待してるんですか?」

まさか、とカップを置いて微苦笑する。そう思った時に扉がノックされた。はい、と答えると扉が開き一昨日会った小松という子がにこやかに挨拶した。

小松 「おはようございます。一昨日は楽しい時を過ごさせてもらいました。さっそくですが、取材の打ち合わせはよろしいでしょうか?」

田口 「こんにちは、こちらこそ楽しかったです。かまいません。おかけください」

藤原さんはそっと新しい珈琲を淹れながら、俺のそばに保護者のようにつきながら打ち合わせは進んだ。
すると、小松は俺の顔を珍しげに覗きこむようにしたかと思うといきなり部屋で声を上げた。

小松 「ああ〜!どこかで見たと思ったらつい最近、戦車に乗ってたひと!?うかつだった」

ひとりで驚いてひとりでなぜか嘆くようにする。マスコミの人間はみなこうなのか、と俺は少しばかり目を点にした。
フォローするように藤原さんが言う。

藤原 「田口先生が戦車に乗ってたのを取材されてんですか」

小松 「そうですよ。大学病院のAiセンター長が戦車に乗るから取材してたんですが、センター長とここの先生が同じだなんて取材不足でした」

藤原 「たしかファンクラブができたとか話がありましたね」

苦笑しながら肩をすくめる。どうやらあの戦車に乗った時もウワサだけが一人歩きしたらしくセンター長の虚像とここの実像とのちがいに小松は、軽いショックがあったようだ。しかし、立ち直りは早くなにやら呟いている。

小松 「Aiセンター長と不定愁訴外来の人物が同じ……、これはイケるかもしれない」

おい、なにがイケるかわからないが変な取材なら断る姿勢するぞ。そう内心、言うがテレパシーがあるわけでなく聞こえない。

小松 「患者さんへのプライバシーには配慮します。患者さんがNGの場合は当方は一切、テレビに乗せませんので」

田口 「当たり前です」

なんという切り替えの早さだろう。取材対象である俺への仕事の意欲かどうか知らないが、割りきりがよすぎる。こわいくらいだ。

No.40 16/08/31 15:24
流行作家 

彼女はカメラやマイクの位置などをひとり頷いたり首をひねりながら考えていた。
救命救急が取材を受けた時もこんな感じだったのだろうか。テレビ局のプロ意識を早々と感じた俺がいた。

小松 「今日はこの辺りで構いません。取材の日程などはまた後日でお願いします」

田口 「はあ」

藤原 「田口先生、はあではありませんよ」

田口 「あらためてよろしくお願いします」

リスクマネジメント委員会や厚労省の会議、Aiセンターの会議とはちがうものだ。行政と民間のちがいだろうか。物腰がかたい柔らかい重たい軽いのフットワークの軽さをしみじみ感じた。

小松 「こちらこそ。ですが、Aiセンターのセンター長だからてっきり怖いひとと思ったら、あんがい優しいんですね」

田口 「普段はここで不定愁訴外来が主ですから。看護さんの話を聞くのに怖がらせたりはしてないと思います」

小松 「それは取材の方で確認させてもらいます。今日はありがとうございました。ではまたよろしくお願いします」

フットワークが軽い女性だ。仕事が早いのがわかる。あの加納警視正を取材しようと思うなら、フットワークが軽くなくてはいけない。感心すると同時に驚きが胸の内にあった。

藤原 「最近の女性は凄いですね。意見を通す時は通す意志があって、如月さんと似てなくもないですね」

田口 「そうですか。如月くんは時に遠慮がちです。速水との関係がうまくいっているのか」

藤原 「賭けていればよかったですね。三人の女性のうち誰が来るのか」

田口 「賭け事はいまはしませんので」

藤原さんはさらりと言うのがまた怖い。麻雀などは講師になってからだんだんとすることが少なくなった。島津との会話にさえ話題になってないな、と思いながらこの日来たのは彼女ひとりだけだった。

No.41 16/09/02 15:48
流行作家 

翌日、次にやってきたのは天馬たち医学生ふたりと別宮記者だった。

別宮 「東城医大にこんなところがあったんですね」

記者としての視点かわからないが、彼女はまじまじと不定愁訴外来を見つめた。

天馬 「なぜ、こんなところに?」

冷泉 「おそらく建築当時の建物の構造に抜かりがあったと思います。たとえば、部屋に荷物を考えながら整理したら思わぬところに空白が生じるなんてありません?」

部屋主の俺を差し置いて喋る冷泉深雪に思わず俺自身が納得していた。天馬たちもうなずいているなか藤原さんが珈琲を淹れてくれた。
珈琲の香りが立つなか、天馬はぬけぬけと言う。

天馬 「不定愁訴外来に僕は興味ないんだけど」

まあたしかに不定愁訴外来をレポートしようという物好きはそういない。が、部屋主の前でぬけぬけと言うことではないぞ。
すると、別宮葉子と冷泉深雪は一卵性双生児のように合わせて言う。

別宮・冷泉「天馬くん(先輩)は別にいなくても結構だけど、私の邪魔はしないでね」

藤原「あらあら、息がぴったり」

天馬や俺がぎょっ、とするなか藤原さんの合いの手が伝わる。
しかし、別宮葉子も負けてなかった。

別宮 「あの私が、いえ私たちが最初でしたか?」

田口 「いや、昨日はサクラテレビの小松さんが見えて明日から取材をしたいと……」

別宮 「もう、天馬くんがのんびりしてるから」

天馬 「僕にあたるなよ。記者の仕事はハコの仕事だし上司に許可を取るのが遅かったのだろう」

別宮 「記者は記事を書くのが仕事だから」

なんなんだ、これは。目の前で痴話喧嘩を繰り広げるとは。
天馬が両手に花なのがわかるが、別宮記者は少々と気が強いようだ。
一昨日、聞いた白鳥情報から天馬も別宮記者も白鳥とは面識があるようだった。だから天馬は俺が以前会いに行った時にアクティブ・フェーズを仕掛けたと合点がいった。

冷泉 「ふたりとも取材にきたのですからお静かに」

冷泉深雪はツイン・シニョンの髪をわずかに揺らしてなだめた。それでふたりはようよう口を閉じた。痴話喧嘩も不定愁訴に入るのだろうか。

No.42 16/09/06 15:20
流行作家 

三人はそろって頭を下げた。天馬は少しおもしろくなさそうだが、異性に文句を言われるのはオトコとして嫌なのだろう。
俺は一度、咳払いをして尋ねる。

田口 「どうする?このまま取材をするかい」

別宮葉子と冷泉深雪の視線が天馬を挟んで絡み合うように見えた。機先を制したのは別宮葉子だった。

別宮 「取材は後日からといたします。その際にいろいろお聞きしますが、ご容赦ください」

田口 「明日からだとサクラテレビと重なるがいいのか」

別宮 「不定愁訴外来の記事は他に記事がない時のストック用ですので」

こら、ハコと天馬は彼女をたしなめるように言う。

別宮 「すみません、口が滑りました。ですが、桜宮の医療には関心があると思いますので地域医療の宣伝になると思います」

ああ、と俺は頷いた。地域医療の宣伝、Aiセンターももとはといえば娯楽が少ない桜宮の街に話題を振りまいたのをまた思い出した。戦車に乗ったあのパレードを。
二度と乗りたくないもの、と思っていたら冷泉深雪がツイン・シニョンの髪を揺らし質問らしい質問をした。

冷泉 「では、私から質問をひとつ構わないでしょうか。なぜ、田口先生は不定愁訴外来をおつくりになったのでしょうか」

なぜ、不定愁訴外来をつくったか。ふと思い出す。が、正直に話した。

田口 「ひとつはここの空間が手持ちぶさたにあまっていたのを俺は以前から知っていた。それと同じくらいの時期に、病院に来る患者たちのクレームや悩みがなかなか主治医たちに解決できなかった。そこでたまたまなにもすることがなかった俺は不定愁訴外来を開いた、ということかな」

冷泉 「うまいぐあいにすき間に入り込んだ、ということですか」

冷泉の合いの手に、ひとり藤原さんの笑い声が室内にこだました。

No.43 16/09/09 09:08
流行作家 

田口 「くわしいことは後日、ということでいいね。患者さんも待っているようだから」

ハイ、と三人は息を合わせたような返事をする。
まだまだ東城医大の経営再開はいかないなか、取材を受けていいものかと自問自答する。が、高階病院長が許可をしているし俺自身も受けている。

冷泉 「田口先生」

田口 「なんだい?」

冷泉 「いえ、あのなんだか田口先生といるとやすらぐみたいな感じがして……」

少しばかり意味がわからなった。が、すぐにその言葉の意味は明らかになった。

冷泉 「お父さんみたいな方ですね」

天馬 「冷泉、失礼だぞ」
藤原看護師と別宮葉子もまた笑いを堪えている。こう見えても俺は独身だし妻子はいない。威張ったことではないのだが。

冷泉 「すみません。ですが、どこか安心をおぼえるみたいで」

田口 「いや」

なにがいやなのか。返事にもなっていない。兵藤くんはこんな若い連中に教室に出てるものだからたいしたものと思う。

失礼します、と三人は珈琲をそこそこに退出した。冷泉深雪の揺れる髪が出てゆく時にそっとこちらを見たようだ。
ファザコンの気でもあるのか。それにしても若い子達に囲まれるとどっとつかれる気がした。
取材は明日から、この程度でつかれるのは歳だからか。
業務を再開しながらペンを手にした。

No.44 16/09/13 08:27
流行作家 

今日も一日、仕事を終えながら不定愁訴外来を後にした。
以前ほど、業務の量は変わらないはすだが精神的な負担がどういうわけか変わらない。リスクマネジメント委員会はともかく名ばかりのAiセンター長の肩書きのせいだろうか。
ふと玄関を見ると、待ちかねたようなアルマーニのスーツに身を包んだ白鳥の身体がこいこいと手招きをしていてまわれ右、をしたい気持ちになったが奴の方が声を空気に乗せ早かった。

白鳥 「田口先生〜!こっちこっち」

田口 「大きな声で呼ばないでください!」

やむなく俺は白鳥に駆け寄る。今日は取材の申し込みがあって明日に備えなければならないというのにまた無理難題か。

田口 「なんですか。明日から取材や学生のレポート申し込みがあって大変なんです」

白鳥 「別宮葉子ちゃんからと天馬、ミユミユ組?これは田口先生のモテ期かな」

田口 「そんなわけありません。業務の一環ですから」

いくら合コンで見ていたとはいえ、口が悪い奴だ。モテ期という表現はたしかに甘美ではあるのは否定はしないが、白鳥が何の用だろうか思う。
すると、白鳥は思わぬことを言い出したからのけ反るくらいに驚いた。

白鳥 「実はウチの氷姫が田口先生とメル友になりたいとか言い出して」

田口 「はっ」

白鳥 「はっ、じゃないよ。メル友、メールによるお友だち。展開によっては恋人や彼氏になるかもしれないし。ほら、姫宮」

見ると、ずいっと現れる感じで姫宮の身体が現れた。病院の玄関を支える巨大な柱から現れたのだから正直、わずかに身を引いた。

姫宮 「あ、あの田口先生。いまさらですがメル友としてよろしくお願いしマス」

なぜ、語尾のマスがカタカナなのだ。ちょっと待てよ、姫宮は高階先生に好意を寄せてはいなかった。あらためてそのことを問い自分にブレーキをかけた。

田口 「ま、待ってください。姫宮さんは高階先生に好意があるのでは?」

姫宮 「そ、そうですが。妻子ある高階先生にご迷惑をかけるのは私の不本意デスので」

だから、なぜデスがカタカナだ。

白鳥 「略奪愛すればいいのに、と僕は助言をしたんだけど」

姫宮 「厚労省の不祥事になってはいけません室長」

そこは折り目正しいのがむしろふしぎに映るだろう。

No.45 16/09/13 09:12
流行作家 

田口 「たしかメアドはAiセンター設立の際に交換してませんでしたか」

矢継ぎ早に俺は言う。たしかAiセンター設立の折に高階病院長がいる病院長室でしたはずだった。が、姫宮の答えはまたも吹っ飛んでいた。

姫宮 「申し訳ありません。あの後、いろいろと私の方でお仕事が立て込んでいましてその際に田口先生のメアドだけ気づいたらどこかにいってしまいました」

これはどういう返事を返すべきだろうか。ふつうのひとならおそらく消去されたと思い怒る、しかし何かしら携帯にトラブルがあり不慮なことにより消去された。
たしかにAiセンター設立後の顛末を考えたら厚労省内部、特に白鳥姫宮近辺さらに上としても高階病院長と懇意な局長くらい。

田口「……わかりました。こちらが私のメアドです」

姫宮「ありがとうございます」

何故、同じ相手にもう一度メアドを見せなければいけないのだろう。白鳥はニヤニヤしながら俺の顔を見ているのがおもしろくない。

白鳥 「なんだったらいまからでも飲みにいきます。僕がおごるから」

田口「遠慮します。明日は朝から忙しくなると思いますので」

白鳥 「つれないな」

姫宮 「室長こそ未来科学センターのことで朝から会議があります。また地方医療への問題提議など山積みです」

白鳥 「わかったよ」

タダより高いものはない、東城医大が経営破綻を運よくまぬがれたのはリヴアイアサンのコイル代の領収書が白鳥と砂井というふたりの厚労省公務員に救われたのを知る者は少ない。
また、白鳥発案かどうか詳しいことは不明だが未来科学センターというコールド・スリープセンター建設へ向けゆっくりだが、東城医大は救われる方向へ向かっているようだ。市民からの要望も当然なのを忘れられない。

白鳥 「じゃあね、田口先生」

姫宮 「ごきげんよう」

意外なくらいに白鳥にしては引き際がいい。何度、尻拭いをされたか忘れられないが引き際がよすぎるというのは別に余波があるのではないか。
白鳥と姫宮の姿が見えなくまで見送り声をかけられないまいと思いながら下宿の方へ足を向けた。
なんだかんだで一日を終えていた。
翌日からたいへんな事態になるのを知らずに。

No.46 16/09/14 09:19
流行作家 

翌朝、不定愁訴外来に行くといつもの決して広くはない仕事場にワイワイガヤガヤと、テレビ局のスタッフらしい者たちがひしめきあうようにいて俺は思わず驚いた。そのさまをを、サクラテレビの小松が見つけた。

小松 「田口先生、おはようございます」

田口 「な、何ですか。これは」

小松 「安心してください、患者さんが困らないようにまたプライバシーや個人情報に触れない程度にカメラや音声を配置してますから。藤原さんの説明に従ってますので」


念を押すように小松が言うと、藤原さんが奥にあるちいさな部屋からあらわれた。

田口 「藤原さん、これは」

藤原 「今朝方早くにサクラテレビの小松さんがスタッフを引き連れましたから、善処はしました田口先生」

善処ある対応ということだが、カメラや音声マイクなどが不定愁訴外来につけられる様子は少しマスコミに怯えてしまう。バチスタ・スキャンダルの際の取材会見の無数のカメラの瞬きと一室に集中する音声やカメラ、どちらが怖いだろうか。

兵藤 「あ、本当に取材してるんですね」

田口 「兵藤、何しにきた」

兵藤 「廊下トンビの僕を差し置いてなぜ田口先生なんかが取材を受けるんです。東城医大きっての講師でもあるのに」

少し黙っていろ、と廊下トンビの口を黙らせる。すると、小松が話しかけてきた。

小松 「田口先生はいつものように患者さんに接してください。患者さんが取材の際に顔だしがまずい場合は診察後に、我々スタッフが聞きますから」

田口 「はあ」

うわ、本物のテレビだ、という兵藤の興奮した声が子どものはしゃぐ声に似る。ナイチンゲール・クライシスの時の子どもの不定愁訴外来みたいと思ってしまった。
しかし、気を引き締めないと患者とのトラブルが放送されかねないから気をつけねばと胸に思いを込めた。
段取りや注意事項を小松から聞きながら、なんとかいつものように温かいコーヒーを淹れることができた。淹れたのは藤原さんだが。
九時になるまで、妙に落ち着かなかったのはいつもの俺らしくないと思った。さいわいにして兵藤くんの姿は九時前に自分から消えてくれた。
だが、病院中に知れていることは考えられた。

No.47 16/09/14 14:07
流行作家 

小松 「では私たちは別室で見させてもらいますから」

手際がいいものだ。
まるで白鳥や加納警視正に似たなにかを彼女に感じながら彼女たちはいつも藤原さんがいる奥に消えていった。

田口 「はじめましょうか」

藤原 「はい」

カメラがそなえつけられた不定愁訴外来はなんとも自分の職場ではない雰囲気がした。
はじめの患者を呼んでいつものように、愚痴や世間話に耳を傾けうなずき相づちを打ちながら患者が気持ちよく帰ろうとした時、出入り口に控えていたスタッフと患者のやり取りが耳に聞こえた。

スタッフ 「私、サクラテレビのこういう者です。実はですね……」

患者 「え!?ええ、お話しはわかりますが、テレビに出るのはちょっと……」

スタッフ 「わかりました。こちらではあなたが出ている場面は使いませんからもしなにかありましたらこちらにお問い合わせください」

テレビ用に使っていいかどうかというやり取りなのがうかがいしれた。患者にはプライバシーや個人情報もあるから当然だ。なかにはテレビに出たがらない患者もいたが、驚きながらも使ってくださいとにこやかに答える患者も数えるくらいはいた。
午前中のほんの数人の患者をいつも通り話を聞いたり診て処方するのだが、いつもより早く終えた感じがした。

藤原 「午前中はここまでです。テレビの方たちは……」

小松 「ごくふつうの診察と変わらない感じだけど……。ごくろうさまです」

そちらこそ、と俺はちいさく頭を下げた。一見すると、不定愁訴外来はふつうの診察とかわりないかもしれないが患者の不安や不満を和らげるとりのぞくことをして会話をしているが、一般人にはわかりにくいだろう。
精神科や神経科などならテレビ局好みのアグレシッヴな場面があるかもしれないが、それとてまれなものだろう。

小松 「田口先生はいつもあのように患者さんのお話しを聞いていらっしゃるのですか?」

田口 「ええ、まあ。あれが私の本来の業務です」

小松 「一日中ですか」

田口 「毎日というわけではないです。月水金の午前中と午後です」

小松 「患者さんの話を毎週、お聞きになるだけでもたいへんですね」

毎日ではなく毎週とすかさず言い換えることに、マスコミの人間らすを彼女に感じた。

No.48 16/09/28 17:41
流行作家 

そこへタイミングよくなのかメールが入った。白鳥かと思ったが、相手は姫宮からなのが意外でもあった。

from 姫宮 to 田口先生

いま、なにをなさっていますか?

思わず表情が戸惑ってしまった。それを小松が首を傾げながら見つめていた。

田口 「姫宮さんからです」

小松 「厚労省の姫宮さんですね。仲がよろしいんですか?」

まさか、とは言いながら素早くメールを打ち返す。

from 田口 to 姫宮

これからお昼ですけどなんですか?

これでは小学生のような文面ではあるが、お昼なのは本当だ。
しかし、姫宮からの返事はまた意外なものだった。すぐにメールの返信が来た。

from 姫宮 to 田口

いま東城医大にいますのでよかったらいっしょにお昼してくれませんか。

これには一瞬、迷った。
目の前にはサクラテレビの小松、病院内におそらく姫宮はいるだろう。
両手に花と思い浮かぶが、この状況は何なのか。迷った。

田口 「姫宮さんが東城医大にいてお昼の誘いです」

小松 「うむ」

小松の表情はなにかを考えるようだったが、決断は早かった。

小松 「なら三人でご一緒しませんか。もちろんスタッフも同行しますから」

田口 「え、だけどお仕事は」

小松 「これもお仕事ですので。気になさらず」

小松はあれよあれよと言いながら田口を不定愁訴外来から連れ出しカメラや音声マイクを持ったスタッフたちもついてくる。
姫宮はどこか、と思ったらロビーに彼女の異様のような身長が目立ちわかった。
俺はようよう状況を説明すると、姫宮はにこやかに答えた。

姫宮 「田口先生たら大名行列を引き連れるなんてさすがですわ」

これには俺だけでなく小松たちテレビ局スタッフ、お昼時を行き交う看護師や患者たちも足を止めて見ていた。

No.49 16/09/29 06:04
流行作家 

これでは病院内のコンビニでお茶やお弁当という選択肢はなくなった。しかたなく俺は姫宮と小松、テレビ局スタッフを連れいつもの食堂にむかった。
俺と姫宮は満天うどん、小松はハンバーグランチ、テレビ局スタッフはまちまちである。

田口 「なんで姫宮さんがいるんですか。また内偵調査ですか」

姫宮 「いいえ、田口先生に会いにきたのです」

互いにうどんをすすりながら俺は少しむせた。その姿に小松はクスクスと笑う。

田口 「こ、厚労省のお仕事はいいんですか」

姫宮 「ご存じないのですか。私は首席で厚労省で入ったのですよ」

言葉がない。
優秀なのは認めるが、どこかとんちんかんな彼女である。白鳥といい彼女といい厚労省は変わり者の溜まり場か。
いや霞ヶ関が、と表現した方が正しいのかもしれなかった。
そこへ闖入者が来た。いや闖入者と呼ぶのははばかられる。ウチの学生なのだから。

天馬 「田口先生、取材陣を引き連れてお昼とは。さすがAiセンター長ですね」

冷泉 「天馬先輩、失礼ですよ。私たちだってレポート取材を田口先生に依頼してるんですから」

軽く小突きながらも丁寧な対応をする冷泉に俺は目を引く。
姫宮はまじまじと天馬と冷泉を見ながら突拍子な発言をする。

姫宮 「天馬さん、別宮さんとはお別れになったのですか」

天馬 「ち、ちがう!何を言うんだ。僕とハコはそんなんじゃ」

冷泉 「そんなんじゃ、ないのですよね

にこりと姫宮からのパスらしい表現を冷泉が受け継ぎあたふたしながら天馬は冷泉とともに別の席へ着いた。
モテることは必ずしもいいことではないようだ。

No.50 16/09/30 07:17
流行作家 

やれやれ、天馬を気の毒と思いたいがいまは自分の身の方を気にかけた方がいい。誰かオレの愚痴を聞いてくれないか、と姫宮と小松に目にやるが期待はしない方がいい。
しかし、そこへ闖入者がまたひとり来た。いや、闖入者と呼ぶのは失礼だ。如月翔子だからだ。

如月 「田口先生、テレビの取材を……。あんた姫宮、なんでいるの!?」

姫宮 「ご無沙汰しております如月先輩」

田口は思い当たる。
かのナイチンゲール・クライシスと同時期のオレンジ・ラプチャーの時に姫宮は碧翠院潜入前に彼女は研修をオレンジ病棟で受けていた。
如月はもう一度同じ言葉を言う。

如月「なんでここにいるのよ。あなた」

姫宮 「お昼を東城医大にいただきに参りました」

表現がおかしいと誰もが思う。天馬に至っては宇宙人や妖怪を見る目で箸が止まっている。冷泉も少しキョトンだ。

如月 「あ、あなたいったい……」

姫宮 「ああ、申し遅れましたが私は厚労省白鳥室長のホサです」

長々しい肩書きを言うよりは名刺を差し出した点はシンプルだが、名刺を見る如月は納得がいくようないかないような表情で姫宮と名刺を見つめる。

如月 「じゃあ、この前のことは」

姫宮 「看護師としての実践研修です」

悪びれない動じないのは白鳥と同じだが、白鳥の場合は意思あっての行為だが彼女は天然にも等しい。
だが、如月はハッとなり田口に業務を伝えに来たようだった。

如月 「あの田口先生、急で申し訳ないのですが小児不定愁訴外来を一名を午後にお願いしたいのですが」

田口 「ああ、構いませんよ」

おそらく猫田師長--藤原さんラインだ。断っても高階病院長が釘を差すのはナイチンゲール・クライシスの時に経験済みだ。だが、これではまたあれよあれよと不定愁訴外来にひとが来る可能性が懸念しないでもない。

如月 「ありがとうございました。直接、伝えた方がいいと思いましたので。失礼します」

慌ただしい娘である。速水のスピードについてこれるのはいまは極北にいる花房さんと彼女くらいかもしれない。
小松が目を輝かす。

小松 「子どもの愚痴、いえ不定愁訴もお受けになるんですか」

田口 「ええ、子どももおなじで大人のように愚痴はいくらでもありますから」

小松は驚いたようだ。

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