工場の日常

結婚して隣町に引っ越す事になった。
仕事を探すけど、なかなか見つからない。

「お子さんの予定は？」

必ず面接で聞かれる。今しばらくは考えていないって答えるしかない。そして、全滅。


「別に無理して働かなくていいよ。俺の稼ぎでも贅沢しなきゃ生活してけるし」
主人はこう言ってくれるけど、将来の為に少しでも貯めておきたい。それに…同居なんだから家に居づらい。
失業保険の支給があるうちに、頑張って探さないと。
できれば、正社員で。

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「お待たせしました。えっと、貴女が衣川真希さんですね。」
なんとか自分の条件に合う職場を見つけ、面接してもらえる事になった。
でも、なぜか集団面接！私の他に4人もいる。何人採用されるかわからない。
私以外は40〜50代の人ばかり。ざっと工場見学させてもらったけど、平均年齢は高そう。

会社の方の説明をとにかくメモる。しばらく働いてないから、記憶力が落ちてるし。
できれば受かるといいけど。

帰り際、私ともう1人が呼び止められた。
「衣川さんと伊富さん、来週から来てもらえます？」
えー！今合否だしちゃうの！
まあ、採用なら嬉しいけど。

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会社から出ると、伊富さんが話しかけてきた。
「メアドとケー番教えて」
これから一緒に働くし仕方なく教えた。

「あのさぁ〜面接の時何メモってたわけ？メモるような事あった（笑）？」
馬鹿にしたような口調で聞いてきた。面接した人が、私のメモを取る姿が好印象だと言っていたのを思い出した。

「まぁ、色々です（笑）知らない事が多いので」
「ふーん。私、前にここでパートで働いてたんだよねぇ。なんでも知ってるし。」
正直この人とは合わないと思った。
でも、一緒の部署なんだよね…
先行き不安。

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工場勤務

初出勤の数日前、会社と契約書を交わしに行った。試用期間の間は時給になる事や諸々。
「時給の事はあまり他の人にはなさないようにして下さい」
うん、お金の話はあんまりしないほうがいいよね。

そして、初日を迎えたわけですが…なんと伊富さんと他に2人で仕事をする事に。少しはホッとした。
でも、他の人も伊富さんと顔見知りらしくなにやら盛り上がってる。こっちをチラリと見て「衣川さんみたいな人は、ここでは生き残れないから（笑）」って。
えっ？何を根拠にこの人言ってるわけ？
うわ〜本当に嫌なんだけど。
「頭がいいだけじゃあね！クスクス」
はぁ…頭がいいのは認めてくれているのか？
まあ、この人が私の進退を決めるわけじゃないし。気にしないでおこう。

「ねえ、衣川さんの時給って900円だよね？」いや、違うけど。もっと高いよ。でも、言えない。言ったら最後何されるかわからない。
「はぁ、まぁ、そうですけど」
なんだか、初日から疲れた

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飲み会

就職して数ヶ月経ち、飲み会に行った。
「へえ〜、そんな根性の悪いおばさんがいるんだ！まぁ、どこにでも1人は居そうなタイプ（笑）」
「もっとネタないわけ？聞いてる方は笑えるわ。」
「もう！笑い話にしてもらったほうがこっちも気がまぎれるわ（笑）」

他にも色々とあった事を話すと、みんな笑いっぱなし。
「他の人がいる時は良い人ぶって、いない所では本性を出す小悪党おばさんなわけか（笑）」

「なんか話聞いてたらさ、むかついてきたわ（笑）書き込んでやりたいわ（笑）」
「好きにすればいいよ。事実だし！」

「まあ、相手は更年期のおばさんだし。そっと生暖かく見守る気持ちで頑張れ！」
友達のアドバイスを聞いて、それからはそういう気持ちでいこうと決めた。

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ベースアップ

4月にはベースアップがある。毎年数千円上がっていったが、今年はいつもの倍増えた。
給料明細を何度も見直してしまった。

「衣川さん、いくらあがったわけ？」
うわ！ストレートに聞いてくるんだ。
「みなさんより少ないですよ。まだまだですから」

「はいってから何年経ってると思ってるの？」いや、謙遜しただけだし。
他人の給料なんて興味ないんじゃない？
まあ、いつもの事か。

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しかし、伊富さんはゴマスリ上手（笑）
部署の影響力がある人に取り入る。
なんでもハイハイって聞いて、裏で文句言ってるし。
「なんで私が頼まないといけないわけ？自分でやればいいのに！」って。
御本人にいつお伝えしようか考え中。
よりよい時期がきたらにしようかと。

パートではいってきた人と仲良く話してるけど、散々文句言ってたし。
「あの人仕事遅いわ。時間働けばいいって思ってるわ、絶対。気楽でいい」
パートさんはラインとかしてるみたいだけど、本性に気づいているんじゃないかと思う。すっごい下に見下した発言を陰でしてたって事は知らないかもだけど。

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…っていう夢をみたわけなんだけど」

「えっ？夢の話してたわけ？長いわ！」
「真希らしいと言うか、なんと言うか（笑）」

「まあ、陰口やら、嫌味言ったりするやつは放置。いずれ返ってくるでしょ！
本人じゃなくても家族とかにも。結婚出来なかったり、子どもが出来なかったりさ」

「あぁ、うちの嫌味女の子どもが結婚出来ないって言ってた！」

ふーん、そんなものかね？
まあ、夢に出てきた人は実際いないけど。

「それに！本当に仕事が出来る人って陰口言わないでしょ？陰口や嫌味を言わないと精神が安定しないんだからまともじゃない」
「うちの職場のキリキリおばさんは、怒って早退していったわ。体調不良が理由で帰るから一応『気をつけて帰って下さいね』って言ったら『気をつけてじゃねーんじゃ！！』ってキレてんの（笑）こいつ何？めっちゃ元気あるし」

うわ。そんな人いるんだ。
関わりたくないタイプ。みんな色々あるんだなぁ。

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夢オチの話で盛り上がった飲み会も終わり、明日から仕事。

変な人がいませんように！

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さて、実際働いてみると同じ部署なのに接点がない！
別のフロアでの作業で、ペアを組んで仕事をする。なので、顔と名前が一致しない…その内わかるかなぁ？

伊富さんは、たぶん腹黒である。やはり夢オチとはいきそうにない。
あの笑顔にはだまされないぞ！
私のカンはあたるのだ！

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しばらく経ち、自分達の仕事がなくなり手が空く事もでてきた。
そういう時は、他の仕事を回してもらう。
この時は、同じ部署の人と接する機会があるわけ。
説明を受けてから、実際やってみると以外と難しい。なかなか終わらない。
A作業と呼ぶ事にしよう。慣れれば楽しくなるかな？

その後も、A作業がたびたび回ってくる事があった。手が空かなくても呼ばれる事もある。その頃にはだんだん慣れ、かなりのスピードで作業が終わるようになった。

そして、事件は起きたのである。

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いつものように自分達の仕事をしていると、係長が血相を変えてやってきた。
A作業をして欲しいと。
とりあえず、ある分を終わらせてまた自分達の仕事に戻った。

3時頃、今度は課長が私を呼びに来た。なんだか雰囲気がおかしい。
別の人もA作業をしている。
とにかく、やらなければいけないらしい。
終業の時間になったので、課長に「出来るところまででいいでしょうか？」と尋ねた。
すると、「全部やらないとダメだ！！」と厳しい口調で言われた。

？どういう事？
さっぱり事情がわからない私は戸惑いながらも作業を続けた。

どうやら、A作業の製品を大量に出荷する事になっていたらしい。私は何も知らされてもいない。A作業は私の担当みたいな認識をされており、放置された状態だったようだ。
一体いつから担当にされていたのか？
だったら、私にその日の出荷表なり生産計画表を渡すべきではないか？
そうでなくては、出荷数などわかるはずがない。周りには白い目で見られるし、2時間以上の残業になってしまった。

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次の日の朝礼。課長がちらりとこちらを見たような気がする。
「仕事をここまででいいや、と考えている人がいるようですが責任を持って最後まで仕事をして下さい」
絶対私の事を言ってる。私が全面的に悪い事になってるのが理解出来ない！
まあ、何を言っても無駄なんだろうけど。

その日、係長に生産計画表をくれるよう頼んだ。また同じように責任を押し付けられたくない！

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ある日、部署に派遣社員さんが入ってきました。優しい感じの人。
これから、よろしくお願いします。

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派遣社員さんとはあまり接することはなかった。
あり日会社の技術認定試験があり、見事派遣社員さんは合格した。
凄いなぁと思っていたら、伊富さんが派遣社員に話しかけた。

「ねえ！試験ってなにがでるの？」
派遣社員さんは困って「内容はおしえられないんです」と答えた。
伊富は、ムッとした顔をして去って行きました。
その日の帰り、部署の人達がいる所で伊富さんの不満が爆発しました。
「何あの派遣社員。どんなのが出たかくらい言えばいいのに！むかつく！」

いや、だから言えないって言ってるでしょうに。セコイ人だな。
陰口ってなんだかいやだわ。

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ある日派遣社員さんがちょっとしたミスをした。たいした事ない、ほぼどうでもいいような事だった。
しかし、派遣社員さんは気づかずスルーしてしまったのだ。
それが、他の人の逆鱗に触れた！

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やったやらないの押し問答の末、派遣社員さんは謝罪した。

しかし、その人の怒りは治ることはなかった。他の人も、派遣社員さんだけ特別扱いしているって言い出した。この件は仕方ない事情があるのに。
女性はいつまで経っても女性であり、誰かが特別に扱われると怒るという事がわかった。

非常に面倒くさい。ある程度の歳を取れば、どうでもよくなるけど。私なんて、もうどうでもいいって思ってるのに（笑）

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休憩時間、ある場所に派遣社員さんがいた。私も用事がありその場所にたまたま居合わせた。
すると、派遣社員さんが「あいつら…むかつく」と呟いたのだ。
びっくりして、「えっ！何か言いました？」
と、聞いてしまった。
派遣社員さんは、いつもの笑顔に戻っており「なんでもないです。独り言ですので」と去って行った。

ああ、たぶん自分の陰口が聞こえてきたんだろうな。部署の人達が休み時間に集まる場所の声が、ここに聞こえてきているのだ。

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しばらく、何事もなく淡々とした日々がすぎていった。

ある日、派遣社員さんの話がでた。伊富さんが、根掘り葉掘り聞いてきた情報を話し始めたのだ。プライベートな話なので、あまり他人にペラペラ話されたくないはずだ。
なんだか、気分が悪い。
その後も、派遣社員さんの言動に対して批判的な話をしていた。
その場から離れる事ができるなら離れたいが出来ない。

ああ、本当に気分が悪い。

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工場で働いて、女性が多いと本当に陰口が多いと思った。暇さえあれば、誰かの陰口。

そのなかでも、陰口を言わない人がいた。
天然ぽい感じで笑いを取ったりしているが、陰口は絶対に言わない。
凄く賢い。私も見習いたい。

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ある日の朝礼。
「突然ですが、派遣社員の＊＊さんは今週で契約終了します。」

えっ！辞めちゃうの？
…まぁ当然かも。

「衣川さん、ちょっといいですか？」
派遣社員さんが休み時間話しかけてきた。
「衣川さんとはあまりお話できませんでしたが、お世話になりました。…もっと早く辞めたかったんですけどね。あいつら、暫くは私の陰口ばっかりいってたんですよ。本当に腹が立ってしかたがなかったんです」

「＊＊さんなら、すぐ次が見つかると思います。今週一週間よろしくお願いします」

表向きは介護ってしておいて、上司にはあった事を話していないらしい。

「衣川さんが何かあった時、私の事を課長に話して下さい。いつか、ぎゃふんと言わせてやりたい！」

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彼女はだいぶ我慢していたらしいが、契約期間の更新まで我慢出来なかったそうだ。

辞めるまで追い詰めて、送別会には参加する図太い人達。
本当に恐ろしい。

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すぐに次の派遣社員さんが入ってきた。若い20代。ニコニコとして感じの良い人だ。

しばらくして、彼女と話す機会があった。
「もう仕事には慣れました？」
「はい。少しずつ分かってきた感じです」
相変わらずの笑顔で答えてくれた。
「でも。」と、今度は困った顔で、
「この部署って20代30代少ないじゃないですか？なんだか、空気が淀んでるっいうか。
いじめられないように、気をつけてますけど」
彼女は、ふふっと笑って去って言った。
彼女曰わく、ニコニコして後ろでは舌出してれば丸くおさまるそうだ。

彼女なら、この部署で頑張れると思った。

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以前からやっていたA作業を派遣社員さんが担当する事になった。

流石飲み込みが早く、テキパキとしている。
１つの箱を60分で出来るようになるのに、一週間もかからなかった。

「流石、立花さん。早いね」
「まだまだです。だって衣川さんは45分で出来るって聞きました」
向上心がある人には、色々教えてあげたくなる。
次工程がやり易いようこうすると良いとか、こんな感じでやるともっと早くなるなど自分なりに工夫している事を教えた。

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しばらく何事もなく過ぎていった。

ある日、新しい仕事を覚える事になった。
多少難しいが、なんとかなりそう。
教えてくれる人と仕事を分けて進めていった。
前工程の馬寐さんなのだが、正直苦手だ。
上司が気に入らないからという理由で無視しる人だからだ。しかも、それを楽しげに語る。
「はい、あーちゃん」
仲の良い同僚には直ぐ横に製品を持ってくる。こちらは、完全に放置。大丈夫なのだろうか。

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今日仕上げる製品が来ないので、別の仕事をしていたが不安で仕方ない。
仕事を教えている人も、おかしいなぁ〜っと話して来た。
よく見ると、他の製品の陰に出来ているのがあった。
慌てて2人で取り掛かった。

「出来ているのなら、教えてくれればいいのに！今日出荷って知ってて放置ってありえないわ！」

結局時間に間に合わず、他の人2人にも残業してもらう事になった。
いくら嫌いな人だろうと、会社の利益にかかわる嫌がらせはないのでわ？
気まぐれの嫌がらせのせいで、会社は計8人以上の残業代を支払う事になるわけだし。
慌てて作業してミスするかもしれない。

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次の日、馬寐さんに会ったので挨拶すると無視！
あからさますぎて笑いそうになった。
そして、まるで自分は悪くないと周りに言って回っていた。

次の日ももちろん無視。
次の日も。

「あの人、60近いのに精神年齢は小学生ですね。無視って（笑）」立花さんが苦笑いしながら話しかけてきた。
「もうほっとくことにしたよ。面倒くさいし」
「正直、私も馬寐さんと関わりたくない。おだててあげないと気にくわないみたいだし。伊富さんみたいに（笑）」

まあ、伊富さんのおだても凄いのは確か。滅茶苦茶気を回してる感じはする。
私はあんな人に気を回すなんてしないけど。

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相変わらず、馬寐さんの態度は酷いが気にせずにいた。

「今日から働いてもらう山内さんです」
パートで入ったらしく、残業もできるそうだ。
新しい仲間が増えてよかった。

「聞いてくださいよ〜、山内さんて仕事できなさすぎです！」
立花さんが、泣きついてきたのだ。
立花さんがやっていた作業を山内さんがする事になったのだが、半年経っても遅いらし。
「次工程からも文句がでてるんですよ。100やるのに70分かかるって以上です。普通で50分くらいで終わりますよ！」
立花さんの怒りはおさまりそうになかった。
「私も注意して見とくね」そう答えたが、やはり上司から注意してもらうしかない。
正直、面倒事には関わりたくはない。

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