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名無し
15/02/14 14:53(更新日時)



私は後悔しない、していない。



私の生き様、目指したもの。



私の人生一度きり。



誰に何と言われても、これを貫く。





No.2175048 15/01/09 11:35(スレ作成日時)

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No.1 15/01/09 11:44
名無し0 

昔、母親に読んでもらったマッチ売りの少女。

救いのないこの話が大嫌いだった。

大人になってから読むと、救いはあった。



「死」という誰にでも平等に、残酷な程の冷徹さを持った現象が少女を救った。



冷たい父親。

居るのか居ないのかもよく判らない母親。

一瞥さえくれない、街の知らない人々。

分厚い煉瓦の向こうに居る、哀しみを知らない子供達。

少女が大人だったらね。

大人だったら、マッチが売れなくても何とか出来たかも。

マッチを買ってもらえない現実を受け入れ、天に昇って行った少女。

冷たい人に囲まれ。

冷たいモノに囲まれ。

生きていても、辛いだけ。

だったら夢の中で大好きな人と会って死ねるなんて、確かに救いだったのかもしれない。



人間、致死率100パーセント。



純粋なまま、幸せに包まれて最後を迎えるなんて、ある意味幸せ…?




No.2 15/01/09 13:57
名無し 

「お前、ホント勝手な女だよな」

私に浴びせられるのはこんな言葉。

「あんたって、ホンット最低!」

それは男だったり女だったり。

付き合っていた男だったり、クラスメイトの女だったり。

別に誰かの男だから気になるわけじゃない。

略奪してまで欲しい男なんて居ない。

その時、暇だったから。

そんな時に言い寄られたから、丁度良かっただけ。



我慢してどうするの。



我慢してなんになるの。



我慢したらいい事あるの?



最初は我慢なんかしなくていい、そんな私がいいと言って近付いて来るくせに。

最後には罵り、罵倒、平手打ち…そんな辺り。

勝手なのはどっちよ。

私を変えたかったの?

私は変わらないわよ。

人間、みんな死ぬ。

それがいつ来るかなんて判らない。

だったら我慢なんかしたくない。

そんな必要性、感じてない。

私はこのままでいい。



子供の頃から、何とも言えない息詰まりを感じていた。



何かを注意されるたび、纏わりつく様に溜まるドロドロと沈殿されるもの。



私は…



私は。




No.3 15/01/09 15:59
名無し 

私が目指したもの。

私が目指したもの?

何だっけ…



誰にも邪魔されない、干渉されない場所…どこかの頂き。



人は勝手に私に価値観を押し付ける。



耳触りのいい言葉を羅列して、いかにもそれが唯ひとつの道であるかのように。



自分の居る所が善…私の居る所が、悪。



吐き気がする。



私がルールになる。



そうすれば、そうなれば私は変わらなくていい。



どこの頂き?

どこでもいい。

イチから作るのは大変だろうけど、目的があれば、偽るのもそんなに苦痛じゃない。

苦痛を苦痛として感じなくなるぐらいの時間の中で気付いたのは、イチからじゃなくてもいいということ。

どこかの頂きを、掠め取ればいい。

何も律儀に正当法を選択しなくてもいい。



女の武器を使えば、あっという間に頂きの近くまで行く事が出来る。



その簡単さを知った。



武器を使うのに躊躇いはない。



先ずは近付きやすい男から…



それから高みに昇って行く。




No.4 15/01/10 09:59
名無し 

「お前、あの男と寝たのか?」

憤る男の顔をチラリと見る。

「あの男はオレの上司だぞ!知っててヤったのか!!」

何も言わずに見上げていると、男の顔色が赤くなったり青くなったりした。

「何だその目は…オレを見下してるのか!!」

この男の上の男を掴んだ。

もうこの男に用は無い。

弁解する気は無いし、する必要も無い。

「何とか言えよ!!オレがお前にいくら注ぎ込んだと思ってるんだ!!」

何も言う事は無い。

さようならの言葉も必要無い。



背中を向けて、顔を上げて次のステージへ。



過去に置いてきぼりにした男からの咆哮が、遠くから聞こえた。



次へ…次へ。



こんな所じゃ足りない。



こんな男じゃ叶わない。



もっと、もっと、もっと!



高みに昇って行かないと、私は生きられない…



「死」はそれほど怖くない。



どんな大富豪でも、何も無い貧乏人でも等しく訪れるもの。



だからそれが来るまで、どこまで昇る事が出来るか…



死んでいった少女。



すべてを諦めて。



それとも、次の生を期待して?



純粋で無垢なままで星になった少女はそうなれるかも知れない。



だけど私はきっとそうならない…



だから今に賭けて生きるしかない。




No.5 15/01/10 22:57
名無し 

私がその頂きの近くに行くためには、そこに今居る人間を引き摺り降ろさなくてはならない。



女としての最大限の武器を使って、そこを手に入れる。



甘い言葉を吐いて、甘えた痴態を見せて…



その気にさせて。



男を掴んで、その男の上の男を掴んで昇る。



邪魔する女には、優位を見せ付けて、プライドを破壊して。



そうして…そうして、手に入れる。



昇りつめた先には、ゾクリと震える程の恍惚感。



上から下を見下ろす優越感。



例え虎の威を借る狐だとしても、その狐の立場を自分で手に入れた。



誰にも何も言わせない。



きっと、私の足元には怨念が渦巻いている。



足元だけじゃない、肩にも、きっと背中にも…



構わない。



実体の無い、マッチの煙のような陽炎にかまけている時間なんて無い。



何か償いを、と言うのなら死ぬ時にまとめて払ってやる。



星になりたいとは思わない…



いいえ、なれるなんて思えない。



誰を壊そうと、何を破滅させようと、生きている間は構わない。




No.6 15/01/15 14:59
名無し 

私を抱くこの男は、私を手に入れたと思っているだろう。

私を所有して、私を自由にして。



手に入れたのは、私の方…



この男の財力、知力、人脈…

男は私に固執する。

私に愛が無いから。

無いからこそ、獲ようとして。

その姿を見ると、私の心は否応無しに醒めて行く。

冷えて、固まり、小さくなる…

それに勘付く男は尚燃え上がる。

その想いがたった一枚の紙切れで納まりがつくのも不思議。

こんなものが何になるの?



私は縛られない。



私のすべては私のもの。



もっと高い頂きを見付けたら、そっちに行く。



私は、私のやりたい様にやる…



そこに、愛は要るのかしら…



愛が要ったら、この殺伐とした内側が潤うもの?



潤ったら、私はどうなる…?




No.7 15/01/15 15:13
名無し 

ひとつの頂きを見ても満足は出来ない。



少女は全部を受け入れた。



素直な、純真な心で。



私は?



私は欲しがった…



一旦染まってしまった心の色は、もう戻らない。



だったら足掻いてやる。



その男を見たのはそんな日々の中。



私の夫という立場を手に入れた男は、その紙切れ一枚で安心したらしい。

以前のような執着は見せなかった。

むしろ私を見せびらかす様に、色々な所に連れ回した。

必ず胸元の大きく開いたイブニングドレスを着させて。

つまらない男のプライド。

私を手に入れたと触れ回りたいのね。

顔を合わせる男達の中には、勿論踏み台にした男達が居る。

夫という立場の男も、それを知っていた。

だからこそだろう。

私を所有する様に連れ回して、彼等の内側の衝撃と動揺とを見て楽しんでいる。

歪んだ優越感…

私と同じよ…



その中で異彩を放った視線の持ち主。



私を真正面から射抜く鋭い眼差し。



そこに何が籠められているのか。



得体の知れない何かが込み上げる…




No.8 15/01/16 14:37
名無し 

その日から私はあの視線に捕らわれた。



行く先々で会った。



この夜会で会うという事は、それなりの地位を持っているということ…



ならば、遜色は無い…



立場も、財力も、何も知らない。



近付く男は、いつも調べ上げてから近付いていた。



無駄な事はしたくないから。



なのに、この男の事は…ただ、知りたい。



この感情を何と言うのか。



少しつり目の精悍な顔付き。



眼差しには自信が溢れている。



片方の口角を上げて、小さく笑う。



その笑みには、何の意味があるのか…



私に近付く事無く、私の何かを支配した男。



心が騒つく…




No.9 15/01/17 17:00
名無し 

近付いて来たのは意外にも男の方からだった。

近付いてみたい、知りたいと思いつつも、抱いたのは落胆の思い…



所詮、同じ…



男は同じ。



男にすれば、私も同じ。



今まで踏み台にして来た男と同じ。



今まで身体を差し出して来た女と同じ。



だけど、文字通り近付いて来ただけで、男は何も言わなかった。

一定の距離を保ち、小さな笑みを浮かべ視線を捕らえるだけ。

何がしたい?

何が目的?

私にも夫にも媚びへつらう事は無い。

必死に繋がりを得ようとする男達とは違う。

こんな視線だけで、私を見ているだけの、こんな男に騒つかされるなんて。



持って行く先がない鬱積した想いが堅い石の様になり、身体の至るところで飛び出そうと構えている。



「なぁ、あんた」



初めて聞く男の声。



低く、少し掠れて。



この一声で、私の中の堅い石は一旦静まる。



と思った瞬間、石はすべて爆発を起こし、私の身体の隅々にまで散らばってしまった。



全身に心臓が宿ったかの様に、激しく脈打つ。




No.10 15/01/17 17:07
名無し 

男は、そんな私を面白そうに見ていた。

何も言わなかった。

私も何も言わない。

この、男…

自分の事を判っている。

直感する。

如何に自分に力があるか。

地位や財力だけでは無い。



自分というひとりの人間の力。



その力が溢れて自信になり、回りの人間を容赦無く惹き付ける。



無慈悲で、無節操な程の煌めく魅力。



だけどその目に、感情の揺らぎを見た。



何も言わない男。

その視線だけで、私の膝は崩れ落ちた。

自分でも思わぬ失態。

そんな私の頭に、クックッと低い笑い声が落ちて来る。



「手ぇ貸そうか?奥さん」



私に掛ける粗野な言葉。

手を貸そうかと聞きながら、手は出さない。

この男…

私を品定めしている?

近くに居た男が慌てた様に私に手を出して来た。

その顔を一瞥して眉をひそめる。

何のメリットも無いから、ずっと無視して来た男だ。

足に力を入れて奮い立つ。



顔を上げると、ニヤリと笑った男の笑顔が飛び込んで来た。



見なければ良かった…




No.11 15/01/18 07:44
名無し 

男の笑顔は思わぬ威力を持って、私の心に焼き付いた。

夢の中にまで現れて私を苦しめる。

夜会で会うと、いつまでもその姿を追いそうになった。

例え姿が見えなくなっても、まるで残り香の様に私に纏わり付き、その存在を主張する。



苛立たしく波打つ心。



正体は判っている。



踏み台にした男達が、常に私に求めたもの…



今更私がそれを欲しがるの?



そんなものを欲しがってどうするの。



頂きに行くのに必要無い。



計算でならいくらでもそれがあるように演じた。



だけど本気のそれは必要無い。



忘れようと思うと、まざまざと甦る。



姿を見ないようにとすると、欠片の気配を得ようと全身が求める。



要らない要らない要らない!



叫ぶ様に、迸る様に、自分に言い聞かせても…



日々を重ねる毎に、熱く、重く、膨れ上がる。




No.12 15/01/19 12:48
名無し 

私が男達を利用するように、男達も私を利用しようとする。

その上辺の駆け引き。

今までと同じ。

いつもと同じ。

なのに酷く億劫に感じる…



自覚したから?



あんな男に?



今更要らない。



それとも…



手に入れたら、何かが変わる?



あの男を?



それは、酷く魅力的に思えて…

同時に、何を馬鹿な事を…醒めた目で見る自分が居た。

今までの自分を捨てる…根本から覆る様な想い。

それはじわじわと私を侵食して私を全く違う色に塗り替える。

変化に戸惑う。

頂きに行くのに、頂きに居るのに、必要なの?



必要か不必要か判断する前に、心が求めた。



あの男を手に入れる。



その上で見る景色はどうなるのだろう。



マッチの灯りの中で見る幻影か…煙の様な陽炎か。



手に入れてみないと判らない。




No.13 15/01/19 15:19
名無し 

男の身辺を調べようとは思わない。

今までとは違う。

違うならそのまま近付いてみるだけ。

どんな事になろうとも、私は私のやりたい様にやる。



そんな私の想いを見抜いた様に、男の笑顔が飛び込んで来た。



「よぅ、よく会うな」



変わらない粗野な言葉。

私の正体を知っているだろうに、そんな事を歯牙にも掛けず。

あれほど待ち望んだ男の言葉に、私の喉はひりついた様に強張った。

気が付くと、指先が微かに震えている。



こんなのは私じゃない…



両手の拳を、胸の前で握り締める。



男の目が私を捕らえる。



全身がカッと熱を帯びた。



こんなのは私じゃない!



私の内側を見透かす様に向けられる目線。



丸裸にされそう。




No.14 15/01/20 12:34
名無し 

今まで手に入れて来た男達には常に求めるものがあった。

見返りがあるから、どんな男でも構わなかった。



純真無垢な少女では居られなかった。



望みを抱いた時点で欲望にまみれた道になった。



今更、純情にはなれない…



そんな内側を覆い隠して男を見る。

私はどう見られている?

踵を返し、取り敢えずパウダールームに入り気持ちを落ち着かせる。

ある程度の格式のあるここのホテルは、パウダールームにも個室がある。

扉を閉じて、力を抜く。

あの視線…

今までだって、自信に溢れた男達に会った。

そういう男達の方が多かった。

だけどこんなに心乱される事など無かった。

少しつり目のアーモンド型の瞳。

毅い目線。

視線ひとつで心抉られるなんて!

手に入れてみたいと思った。

手に入れると決めた。

どんな男でも躊躇いなど無かった。



こんなのは私じゃない…



頭を振り、化粧を直し、外に出ると。



強い腕にさらわれた。




No.15 15/01/21 13:57
名無し 

後ろから抱きすくめられ、何が起こったのか認識出来ない内に、パウダールームに連れ込まれた。

鏡に映った顔を見て、一気に動悸が昇まる。

何か抗議の口を開こうとした瞬間、塞がれた。



間近に見るアーモンド型の瞳。



なに…何が、起こっているの?



唇から送り込まれる熱。

強く、熱く、激情になって。

唇が離れたほんの少しの隙間に互いの息が交じる。

「…柔らけぇな、あんたの唇」

男の声は、少し掠れて…艶を含んで。

口内を勝手に蹂躙する男の舌。

私を縛り付ける男の腕は強く、緩みそうにない。

熱を与えられ煽られて、思考がドロドロに溶かされる。



荒々しく、優しく…



何度も何度も口付けをされて…



男の拘束から解放された時には、身体に力が入らなかった。




No.16 15/01/21 14:11
名無し 

「いいねぇ、その反応」

身体の力が抜け、男の腕に支えられる。

楽し気な声が降って来た。

思わず睨み付けると、反されるのはまた熱いキス。

男の腕と熱い身体…熱い吐息。



翻弄される。



胸を叩いて抗議した時、隣の個室に人が入った音がした。

「ちっ…しょうがねぇ。今日はこれで我慢しとくか」

耳元で小さく囁かれる声に、背中を何かが駆け上がる。

「またな、奥さん。すぐどっかで会えるだろ」



私の目を覗き込む毅い瞳。



鋭い眼差しの中には男の想いが映っているのか…



軽いキスを落として、男は静かに去って行った。

私の内側に嵐を残して。

今のは、何だったの…

こんなのは、私じゃない。

いいように気持ちを翻弄されて。

手玉に取って利用して来たのは私なのに。

手に入れたら変わるもの?



手に入れると決めた。



決めたけど、手に入れたら私はどうなるの?



こんな恐怖を覚えるなんて…




No.17 15/01/21 15:01
名無し 

「おい、コウ。また何か企んでるだろ」

「何だよそれ。人聞き悪ぃな」

「女のパウダールームなんかに入るなよ。誰かに見られたらどうすんだ」

「別に構わねぇよ。久々に手に入れてぇと思った女が居たら人目なんか気にしてられっかよ」

「お前、あの女が誰だか判ってんだろ?あの女の旦那に睨まれたら面倒臭ぇ事になるんだぞ!」

「あん?ショウ、お前いつからそんな小せぇ事言うようになったんだよ。お前だって俺と同じだろ。マユに手懐けられたのか?」

「マユは関係無いだろ。厄介な事起こすなよ」

「人の恋路を厄介事扱いすんなよ」

「恋路ぃ?なに、コウお前もしかして本気なのか?」

「軽い気持ちで面倒な女に手ぇ出すかよ。お前はマユと遊んでりゃいいだろ。うかうかしてんならかっさらうぞ」

「マユに手ぇ出すなよ」

「だったら余計な口挟むなよ。俺は俺のやりたい様にやる」

「コウ、お前はそれでいいだろうけど、お前だって背負ってんだからな。お前の肩に何百人って乗ってんだ。それ忘れんなよ」

「好きで背負ったんじゃねぇよ!しがらみなんて鬱陶しいだけだ!」

「俺だって同じだ。そういう世界に産まれたんだから仕方無いだろ」

「クソッ」




No.18 15/01/23 14:11
名無し 

王子様のキスで目覚めるのは別のお話し。

どちらにしても、お姫様や少女は清廉潔白で真っ白な存在。



私は違う…



あのキスに捕らわれた。



何の意味が込められたキスだったのか…

考えても仕方無い事に思考が渦を巻く。

今まで無かった自分の状態。

あの男の真意は判らない。

気紛れなのか、遊びなのか。

構わない…

私があの男を手に入れるのか、私が手玉に取られるのか。

構わない!



欲しいものは手に入れる。



私のその変化に、夫は気付いた。




No.19 15/01/24 14:53
名無し 

夫の観察眼に内心舌を巻く。

私の変化によく気付いたものね…

妻の心に、自分でない男が棲みつくのは頂けないものかしら?

夫は興奮した熊の様に、落ち着き無く室内を歩き回り、私を口汚く罵る。

もともと愛情など感じていなかったのだから、何と言われても何も感じない。

だけど、まだ浮気をしたわけでもないのに、酷い言われよう…



キスをしただけ。



心は持って行かれたようだけど。



口汚く罵る夫をチラリと見る。

自分だって女を囲っているのにね。

私が知らないとでも思った?

どうでもいい…むしろ助かる事だから、何も言わないでいたのに。

一方的に罵られれば私だって面白くない。

それを伝えると、夫は笑えるほど狼狽えた。

顔色は赤くなったり青くなったりで忙しい。

離婚しても構わない。

この男も確かに頂きのひとつだけど、それに固執する事は無い。

私も勉強した。

夫が知らないだけで、私個人の弁護士を付け、私名義の店やビルを手に入れている。



この男は、私に必要無い。



離婚の意思を伝えて部屋を出た。



いつものように、男を過去に置き去りにする。




No.20 15/01/27 14:44
名無し 

煩わしい全ての事は弁護士に任せた。

未練たらしく何度も電話を掛けて来られても、ただただ冷えて行くだけ。

話し合いたいと言われても、今更何を話すと言うの?

要らないと決めた以上、夫と話す事など何も無い。

邪魔よ。

離婚に伴う法的な手続きも全て任せた。

自由になって次に行けるなら、弁護士に払う費用も惜しく無い。

多少の接待で、法外な割引をして貰っているけれど。



私は…汚い。



汚れている。



だけど覆い隠せばいい。



人生は一度きり…人間、致死率100パーセント。



我慢したくない。



汚れているなら、覆い隠して、真っ白に見せかけて。



欲しいものを手に入れる。



3ヶ月後。



一度も夫と顔を合わす事無く、話し合いをする事も無く、離婚は成立した。



私は自由になった。




No.21 15/01/30 14:57
名無し 

無駄に夜会に連れ回される事は無くなった。

私がオーナーになっているお店などの足場をしっかりと固める。

私の財産…資産。

私が自分の身体で手に入れた対価。



あの男とは、あのキス以来会っていない。



初めて損得関係無く、手に入れたいと思った男。



あれは一時の気の迷い?



それでもいい。

あの男の内側に私の存在を刻んでみたい。

刻んだそれは、どんな色になる?

それを考えると、ゾクゾクする程の興奮を覚える。

私は女だけど…これが、欲情しているって事なのかしら。

背中を駆ける戦慄。

こんな心持ちなら、悪くない。

あの男とは、どこで会える?

あの男には今までの私の武器は通用しない。

だったら体当たりしてみようか?



自分の思考に自嘲の笑みが溢れる。



体当たりもなにも…



女の武器しか使った事がないのに、何を言ってるんだろう…




No.22 15/02/01 13:42
名無し 

男との再会を果たしたのは思わぬ場所。

昔からの付き合いのある老婦人のサロン。

人を利用して、蹴落として来た私を唯一包んでくれて来た婦人。

何をする訳ではない。

ただ寄り添って、時間と空間を共有する。



私を咎めない…



諌めない…



干渉しない…



付かず離れずの絶妙な距離感。



老婦人の醸し出す柔和な雰囲気に安心を得ていた。



そこに居座っていた男。

なぜここに?

「よぅ、奥さん。まさかの再会だな」

男からの言葉に、咄嗟に声が出ない。

「あら、お知り合いだったの?」

老婦人の問い掛けに、笑みを投げ掛ける男。

何の意味が籠められているのか…何かを察したのか、婦人は部屋を出て行った。



この男と2人きりにされて、何を話せばいいと言うの?



何をすればいいの?




No.23 15/02/02 14:35
名無し 

「聞いたぜ。あんた離婚したってな」

私の顔を見ずに話す男。

「あんたの元旦那、随分荒れてんな。そうとうダメージ食ったみてぇだぜ」

そんな事、もう関係無い。

切り捨てた過去。

「女は決心したらアッサリだからな。元旦那もさぞかし焦ったんだろうよ」



クックッと喉を鳴らす笑い声。



私をチラリと見て。



「まぁ俺としては結婚してても構わなかったけど、フリーになったんなら尚歓迎だな」



男の一言一言に耳を傾ける。



腰を上げて近付いて来た男に、囚われる…



なぜここに?



今までの女の武器や駆け引きを仕掛ける隙も無く、全身が絡め取られる。



腕に、声に、匂いに、その存在そのものに!



脳がクラリと揺れた感覚を覚えた。




No.24 15/02/02 14:57
名無し 

何度も何度も繰り返される口付け。



重なる唇の隙間から吐息が漏れる。



呑まれてしまいたい…



呑み込んでみたい…



欲情が炎の様に揺らめき立つ。



燃え上がるのが判る…感じる。



男の腕も、指先も、唇も、熱い激情そのもの。



吐息さえも呑み込んで、全身を取り込んで、同時に男に取り込まれた。



熱に浮かされた頭で、それでも辛うじて引っ掛かっていた理性を総動員させる。



指先に力を入れて、男から身を起こす。



流されては駄目だ。



流されてしまいたい。



相反する想いを振り払う。



この男を手に入れたい…



その為には、今ここで流されてはいけない。



行きずりの関係に堕ちてしまえば、この激情や欲望はすぐさま冷えてしまうだろう。



男の強く熱い腕から抜け出した。




No.25 15/02/06 22:40
名無し 

私のそんな行動を、男は面白そうに見ていた。

まるで見透かされているよう…

私の行動は容易く封じられた。

「…俺が怖いか?」

間近に見詰める瞳。



怖い?



怖い。



近付きたい。



知りたい。



全ての感情が入り乱れる。



知りたい、近付きたい。



知られたくない、近付きたくない!



今までの強気な自分と、初めての弱気な女の部分を持て余す。



男の力に抵抗は敵わず、抱き込まれ、先程とは比べ物にならない荒々しいキスに翻弄される。



深く、強制的に昇められる熱に、息が出来ない。



「余計な事考えんなよ…今は俺の事だけ感じてろ」



男の言葉は甘い毒。



目を閉じても、耳を塞いでも、私の細胞にまで染み渡る。




No.26 15/02/09 22:11
名無し 

嵐の様な口付けが過ぎた後、互いの目の中に欲望の火が灯っているのが判る。

これを抑える術を知らない…

抑えたくない。



「…俺ンとこ来いよ」



耳元に囁かれる魅惑の言葉。



今ここで手を取れば。



この男が判る。



この男の内側に入り込める。



誰に遠慮する事もない。



誰が居ても…奪ってでも。



この男を手に入れる。



場所を移す前に、化粧室に入った。

さすがに老婦人の屋敷でこれ以上のコトをするには気が引けた。

身なりを整え、呼吸を落ち着けて。

けれども欲望の火は消えず。

これから手に入るものの大きさに胸を踊らせて。

こんな気持ちになったのは、産まれて初めてかもしれない。

準備を整えて化粧室から出る。



そこに立って居たのは…



元、夫。



…人間、致死率、100パーセント。




No.27 15/02/12 14:12
名無し 

どうしてここに?

およそ半年振りに見るその顔は、随分やつれて土気色になっている。

「やっと見付けたよ…携帯も換えてるから連絡取れなくて、色んな所を探し回ったんだよ」

私に向ける歪んだ笑顔。

こんな笑い方をする人だった?

今更何の用?

「何だよ、そんな邪険にしなくてもいいだろ?昔からその毒舌は変わらないなぁ」

もう何もかも関係無い。

かつて過去を過ごしただけの昔の男。

「そんな冷たい事言うなよ。もうお前の浮気の事は水に流すし、オレに纏わり付いてた女にもビシッと言っといたからさ。もうこれで安心して戻っておいで」

目の前に居るこの男の言っている意味が判らない。

「何だよ、あとは何が不安なんだ?元に戻れるんだよ?」

両手を私に向かって広げる。

さも私がそれを望んでいるかの様に。



こんな人だった?



過去とはいえ、夫婦だった男。



見抜けなかった私が間抜けだったのか…



歪んだ男の想いが、私の身体を包み込んだ。




No.28 15/02/12 16:34
名無し 

初めて手に入れたいと望んだ男。



その男がすぐソコに居る。



その現実を実現させたい。



手に入れたらどうなるのか。



男を手に入れた景色を見たい。



今までに無い、ゾクゾクする戦慄。



もっと、もっと!



もっと、それを、味わいたい…



「何か…お前、感じ変わった?もしかして、オレと離れて寂しかったのか?」

全ては自分の都合の良い方に考える。

頂点に立つ人間には必要な捉え方なのかも知れない。

「ごめんな。オレのせいなんだな…もう何も心配要らないから、安心して戻っておいで」

元夫の腕を擦り抜ける。

もう要らない。

邪魔でしかない。

腕を掴んで来た手を払い除ける。

元夫の目の中に宿る狂気…

全てを振り払う。



私は私の生きたい様に行く。



邪魔をしないで!



男が私の名前を叫ぶ。



背中に走った衝撃…



何が走ったのか理解出来ないまま…



脈に合わせて、灼熱の嵐が襲い掛かった。




No.29 15/02/12 22:21
名無し 

男に会ったら、まず名前を。



次には連絡先を。



その次には…



次には…



少しずつ知りたかった。



少しずつ、手に入れたかった。



柄にもなく、楽しみにしていたのに。



汚れた私でも純真な少女になれた気がしていた。



だけど、それは…



マッチの火の様に頼りなく、煙の様に掴めないものだった…



「何で戻って来ないんだよ!お前が悪いんだろ!?」

私を苛む灼熱の嵐は全身に回り、指先を動かす事さえも上手く出来ない。

ドクンドクンと全身が脈打ち、呼吸もままならない。

「お前が!お前がオレを拒否するから!」

背中を襲った衝撃は、腹部にも回って来た。

好きに生きて来た。

誰も彼も、踏み台にして来たから…

その代償は…

「心配しなくてもいいからな?オレも一緒だから…ずぅっと一緒だから…」

顔に生暖かい液体が降って来る。

力の抜けた目を向けると、元夫の首が真っ赤に染まっていた。

グラリと傾いた元夫の手から落ちたナイフが、乾いた音を立てる。



道連れ、ってこと…?



その後ろに見えるのは、手に入らなかったあの男。



私に向かって駆けて来る。



もう、少し…だったのに。




No.30 15/02/13 14:07
名無し 

抱え起こされ、何か話し掛けられる。

話し掛けられている。

口の動きでそれは判るけど、耳には届かない。

こんな間際になって判るなんてね…

この男が欲しかった。

手に入れたかった。



…愛しているから。



血に染まった手を伸ばすと、力強く握り締められる。

この男の事を知りたかった。

この男に、私の存在を焼き付けたかった。

叶わぬ願い…

身体から流れ出る私の命の色。

もうこんなに溢れたら…

……


あぁ、もう…何も感じない…



その時、耳に男の名前が吹き込まれた。



目の前の何かが開ける。



知りたかった名前。



呼んで欲しかった、私の名前。



…もう、これでいい。



殺伐としていた私の内側。



ほんの少しの交わりで、潤って、幸せだった。



もう、これでいい。



元夫の妄執にまみれるわけではなく。



この男に包まれて、事切れるのなら。



自分勝手に生きてきた、私らしい終わり方だ。



「ミコト」



耳を打った言葉に、笑みを浮かべて。



失っていくものと引き換えに…



知りたかった男の名前を抱き締めて。



瞼を閉じた。




No.31 15/02/14 14:30
名無し 

「判っちゃいたけど、お前の手際の良さには感心するよ、コウ。警察やらスクープ狙いの奴等やら、よく抑えたな」

「…ふん。その為の権力だろ」

「ま、確かに。下手に嗅ぎ回られて週刊誌のネタにされんのも鬱陶しいからな」

「で?何か用か。ショウ」

「で?じゃねぇよ。お前何だよ、その喪服」

「うるッせぇな…」

「…あぁ、そういう事か?」

「いちいち口にすんじゃねぇよ。何着てようが俺の勝手だろ」

「別に批判してるわけじゃねぇだろ。49日まで黒で通すのか?」

「好きにさせろ!」

「だから批判してねぇって。聞いただけだろ?そう怒るな」

「目の前でかっさらわれて冷静でいられるか!」

「最後は看取ってやれたんだろ?それで救われたんじゃねぇのか?」

「クソッ!」

「…お前、本当に本気だったんだな」

「あと一歩だ!あと一歩で手に入れられたんだよ!」

「あの男が探偵雇ってまで探してたらしいな。トップのくせにプライドも何もかもかなぐり捨てやがって。お前がそこまで感情を剥き出しにすんなんて珍しいな」

「うるせぇ!からかいに来たんなら失せろ!」

「俺以外の前で爆発出来ねぇだろ。溜め込んでないで、ぶち撒けろ」

「…チッ。いつまで経っても兄貴面しやがって」

「お前はいつまでも俺の弟分だよ。お前の毒舌なんて可愛いもんだ」

「ふん…」

「コウ」

「…あいつなぁ、最後に俺の名前聞いて来たんだよ。俺ら、名乗ってもいなかった」

「…」

「あいつだと思った。理屈じゃねぇんだよ。あいつは何としてでも手に入れてぇと思ったんだ…」

「名乗ってやったのか?」

「…満足そうな顔してたよ。名前言っただけで、あんな顔しやがって…もっと、早く言ってやれば良かった…」

「泣いてもいいんだぜ、コウ」

「誰が泣くかよ!俺に泣くなって教えたのはてめぇだろ」

「男だって泣いていい時はあるさ。こういう時は我慢しなくていいんだぜ」

「…うるせぇ」

「忘れずにいてやれよ」

「…あぁ




忘れねぇよ」




~完~




No.32 15/02/14 14:53
名無し 

「闇夜の華に口付けを」を書いたナツキと申します。

読んで下さった方々、ありがとうございます。

つたないお話しでしたが、楽しんで頂けたでしょうか。

バッドエンドなので、楽しむというのもちょっと違うかも知れませんが(^_^;)

何か読んだ感想を頂けましたら、非常に嬉しく、励みになります。

感想下さる方がいらっしゃいましたら、こちらの感想スレにおいで下さいませ。

http://mikle.jp/thread/2089700/

よろしくお願い致します。


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