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美脚刑事の殺人ファイル

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ストーリーテラー
14/12/11 15:46(更新日時)



■大阪の淀川の河川敷で今月に入って3件目の若い女性の半裸死体が発見された…手口は前の2件と同様、顔には無数の刺し傷があり強姦され遺棄された疑いもある事から事件は連続殺人事件と断定され府警に大掛かりな捜査本部が置かれる事となった…


この猟奇的連続殺人事件の鍵を握る人物を洗い出していくうちに捜査本部は一人の若い女刑事に辿り着く…その女刑事とは知る人ぞ知る元モデルで完璧な容姿を兼ね備えている男勝りの豊吹署のデカだった!



~元カリスマモデル出身の女刑事《衣川環》が無骨な相棒《犬飼卓》とともに連続殺人事件の真相に迫る痛快娯楽女刑事シリーズ。「並み居る悪党を白日のもと暴き出す!」~

14/12/10 14:38 追記
各章ごとにはみだし刑事【犬飼卓】と孤高のカリスマモデル美人刑事【衣川環】の主観が入れ替わりながら物語が流れていくという特殊な作法を取り入れた斬新かつ新鮮な刑事小説!この歪んだ殺人事件の真相を暴くべく是非貴方も一度足を踏み入れてみてはいかがですか?

No.2161105 14/11/24 12:38(スレ作成日時)

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No.1 14/11/24 13:02
ストーリーテラー0 




◆序章




辺りは漆黒の闇に包まれていた…対岸に見える建設中のマンションの工事現場の灯り以外はその背丈以上ある葦の林を薄暗く照らすものは無かった…


「シズカニシロ…シニタクナイダロ?」


ガスマスクから聞こえる奇妙な声と荒々しい息遣いに少女はただ威圧されるだけでその場から一歩も動けずにただ助けてと懇願した。


「フクヲヌゲ!スースー」


「お願いッ!助けて下さいッ!」



「2回オナジ事ヲイワスナ!3回目ハナイゾ!スースー」



ガスマスクを被った人物はナイフをちらつかせて少女のおでこにピタリと当てた。


「お願い…何で……何でこんな事を……お願いだから助けてッ!」



少女は恐怖ですくみながら小刻み震え胸のブラウスのボタンに手をかけた。



「ブブゥ~時間ギレ!オマエアウトネ!アトデヤル…」



次の瞬間ガスマスクの人物は少女の顔目掛けて持っていたナイフを降り下ろした!



「イヤァァァァァァッ!」




血で染まった顔を押さえ痛がる少女にガスマスクの人物は容赦なく何度も何度もナイフを降り下ろした…





その断末魔の叫びと闇夜の河川敷に野犬の遠吠えだけがその瞬間気味悪いほど奇妙に調和していた。

No.2 14/11/24 13:34
ストーリーテラー 




◆1◆



「こらえげつないなぁ…おい梶谷、野次馬近付けんな、マスコミもや!」



朝靄の淀川河川敷に数台のパトカーが集結したのは通報を受けてから20分程の事だった…葦の林の中に仰々しく青いビニールテントが張られ辺りは殺人現場の様子を一目見ようと近所のパジャマ姿の野次馬で溢れていた…



所轄の船尾西署の捜査一課の巡査長である曽根恵一は遺体の周りを丹念に調べると側で作業にあたる鑑識班に声をかけた。




「持っていた学生証から…小柳岬17歳、私立樽崎女子高校在学中の女子高生のようです。」



「同んなじやな……」



「は?」




「せやから、こないだ吹田の運動場の脇で見つかった女の遺体の痕跡とまるで一緒やちゅうとるんや!可哀想に顔をメッタ刺しやがな。」




曽根は野犬に肉を食らわれ最早原形を留めていないその女性の遺体に静かに合掌した。



「同一犯人の仕業ですかね?」




野次馬の整理から帰ってきた新人刑事の梶谷稔は一瞬遺体の激しい損傷にたじろぎながらも曽根の横で合掌した。




「わからん…しかしこの北大阪界隈で同種の殺人がこれで3件目や、その可能性もなきにしもあらずや。」



曽根恵一はタヌキのような腹を突きだし立ち上がると船尾西署に連絡を入れるように梶谷に命じた…




「曽根さん、さっき遺体の遺留品調べてたらこんなものが…何かの手掛かりになるかと思いまして。」



「何やこりゃ?…アイドルのプロマイドか?」




曽根が鑑識班に手渡されたのは被害者の生徒手帳に入っていた若い綺麗な女の写真だった…

No.3 14/11/24 14:43
ストーリーテラー 




「なんべんもおんなじ事言わせんなやこのボケッ!」



「それが善良な大阪市民を取り調べる態度でっか?」



「ンやとぉ?お前の何処が善良な大阪市民なんじゃッ!その正に善良な市民捕まえて恐喝まがいな事繰り返した挙げ句今度は脱法ハーブの違法取引しくさって!もうあちこちからネタは上がっとんじゃカスッ!」



「ちょっとタクさん、落ち着いて下さいよッ!」




大阪府警豊吹署の第一取調室で犬飼卓は容疑者の里村に声を荒げていた。




「えぇかゴキブリ?自白っちゅうのはな、遅うなればなるほどお前が不利になるんやど?この際や里村、もう何もかもはっきりすっきりして2ヶ月振りにこの俺を休ませてくれや?お?」



「だいたいあれでっせ?今のこの時代にこんな脅迫まがいの取り調べってありなんでっか?一昔前の刑事ドラマやあるまいし司法も警察ももっとクレバーにならんと……」




「な、ナンヤトォ!?」



犬飼は里村の胸ぐらを掴むと里村を睨み付けた!




「クレバーもレバニラもあるかいボケカスッ!俺はお前がオムツしてオシャブリかじってるずっと昔からこのスタイルなんじゃッ!今更変えられるかいこんのドァアホ!」



犬飼は取調室の机をガツンと蹴りあげると里村の頭を何度も何度も殴り付けた!



「ち、ちょっとだめですよタクさん!」




横で調書を取っていた制服警察官が犬飼を必死の形相で羽交い締めにした。

No.4 14/11/24 16:02
ストーリーテラー 




「ンマあのくそガキまだションベン垂れの青二才のクセして一丁前の口聞きやがるッ!」


「とにかく、手を出すんはマズイですって!」


取り調べを終えた犬飼は若い制服警官と不機嫌に署の廊下を歩いていた。


「何がマズイんや?だいたいやな、何なんや今の警察は!ちょっと被疑者に手出したくらいで名誉毀損だの裁判だの、ンナもん口で解らんヤツには拳で解らせるんが一番なんやど?」



「それはタクさんの若い頃でしょ?今は時代が変わってきたんですよ、警察官だって一連の手続きを踏まないと訴えられるそんな時代なんですから!」


「名前は?」


「はい?」


「せやからお前ん名前や!」



「や、山崎です。」



「ええか山崎?俺らはよ、俺らお前らみたいな若い頃はこの足で、この身一つで毎日先輩に怒鳴られながら刑事っちゅうもんはこんなもんなんやと厳しくイロハを教わり、叩き上げられて育てられたんや、俺は誰に嫌われようが煙たがられようが先輩に教わったその信念を貫きやりたいように捜査する!逆にそんな面倒くさい時代やからこそそんな古臭いデカが必要なんと違うか?ア?」



山崎という警官は犬飼の話を多少面倒くさがりながら聞いていた。



「とにかく、明日中には里村の件ケリつけたる、アイツは間違いなくクロや!」


犬飼はポマードの効いたオールバックの脂ぎった髪の毛をかきあげるとドカドカとトイレに入って行った…


「何や?曽根け…どないしたんや?」


トイレに入り用を足そうと犬飼がチャックを開けた瞬間、携帯電話が鳴った…相手は犬飼の同期の刑事で船尾西署の曽根恵一だった。



「あぁ知っとるよ、今朝の淀川河川敷の殺人事件やろ、あれお前ん所の所轄かい?……で?用件は何や?アン?か、かんまき?上牧セシルぅ?誰やそれ?」

No.5 14/11/24 16:27
ストーリーテラー 




早朝の府警本部は物々しい雰囲気に支配されていた。【北大阪連続少女殺人事件捜査本部】と書かれた垂れ幕の前を各方面からドヤドヤと刑事が会議室に入って行く…


「ッタク、御大層に…」



噛んでいたガムを口から包み紙に出すと犬飼卓は眉間に皺を寄せて捜査会議室に入った。



「ようタクさん、里村のヤツは自供したけ?」



「うっせ、黙ってろガキ!」




なかなか里村の自供に至らない取り調べの噂は各方面の警察署の刑事の耳にも入っていた。花木南署の若い捜査員に茶化されながらベテランの犬飼は腕組をして黙って会議が始まるのを待っていた。



「ン?」



かすかに香る違和感に犬飼の鼻が反応したのは犬飼の斜め前に座っている刑事を見た時だった。



(誰や………あんなんウチの署におったけ?)




犬飼はその刑事が女である事に一抹の不快感を覚えた…こんな男だてらのいも臭い現場に座っている随分垢抜けたポニーテールのスーツの女…後ろ姿しか見えないが背筋をピンと張り黙って配られた捜査資料に目を通していた…




「捜査資料は行き渡ったか?只今より船尾西署、花木南署、豊吹署合同の北大阪連続少女殺人事件捜査会議を行う!」



府警本部長である大塚登が関連捜査員を引き連れてテーブルに就いた。



「では簡単に今回の事件の経緯を説明する。」





サイドパネルに被害者3人の女子高生の顔写真が張られていた。

No.6 14/11/24 20:54
ストーリーテラー 




「3月20日午後0時頃、大阪市此花区歌島の路上で女子高生が顔面から血を流して死んでいるのを通りがかりの帰宅中のサラリーマンが発見、被害者は同区に住む三宅澄美香17歳…」



捜査員は皆メモを片手に前のボードの情報を頭に叩き込んでいた。犬飼卓だけは何故かメモを取る素振りもなく、ただじっと腕組みをして目を閉じていた。


捜査本部の係官はその2週間後に起きた吹田市運動公園脇に遺棄されていた死体の身元が岡元久恵16歳であること、そして最後に起きた昨日の淀川河川敷での殺人遺棄事件の詳細を事細かく説明した。



「3つの事件の関連性は今調査中です、被害者全員が女子高生である点、殺害後に乱暴されて遺棄されている点、顔面をナイフでメッタ刺しにされている点…これらの観点から容疑者は猟奇性を持った同一犯人と推測されます…」



「犯行に使われたとされるナイフは見つかったのですか?」



「いや、それはまだだ…それらの捜査も含めてそれぞれ変な先入観を持たない上で捜査本部としてはこの管内で起きた3件の事件を3署合同で捜査する方針になった。只今から船尾西署、花木南署、豊吹署の捜査員を二人一組に分けて初動捜査に当たってもらう!」



捜査員と係官は資料を手にして合図と共に全員起立した。



「船尾西の北村と豊吹の安部…君らは一連の事件の関連性をもう一度頭から洗い直してくれ、花木南の戸田と船尾西の津久井は吹田での事件の聴き込みだ……次、豊吹の西崎と………」



係官が次々とペアを組む捜査員の名前と捜査内容を読み上げると指示を受けた捜査員達は足早に会議室を後にして行った……

No.7 14/11/24 21:20
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「ヨッシャ、久しぶりのデカいヤマやで、こら腕が鳴るわ!」


一連の捜査内容を聞いて犬飼は色めき立った……まさかここ数年間、軽犯罪担当に回されていたはずの自分がこんな重要な殺人事件の捜査に加わる捜査員に配属されるとは思ってもみなかったからだ…



「良かったなタクさん、もう当分小魚追わんでもよさそうやないかい?」



「まぁな、後は誰と組むかによるわな、あんまり年寄りを苛めんといて欲しいからの!」



よく言うわ、新人刑事苛めてんのはいつもタクさんのほうやがなと捜査員の中から少し笑いが漏れた…



「次ッ、豊吹の犬飼!」



「!……あ、ハイ。」




「犬飼は……同署配属の衣川とコンビを組んでくれ、お前達は3件目に起きた淀川河川敷の小柳岬の人間関係を洗い直してくれ!」



「き、衣川ぁ?」




犬飼は聞き慣れない名前に一瞬動揺を見せた…大抵の捜査員の顔と名前は記憶していたが衣川という名前は初めて耳にする名前だった…




「衣川て…誰や?おまけに同じ豊吹署?そんな男おったかなぁ…?」




犬飼が困惑しているうちに次々と名前を呼ばれた捜査員が会議室を後にする…ほとんどの捜査員が出払う中、犬飼は自分の相棒となる衣川という男の刑事を会議室中に探した。



「………おいおい、皆出ていってしもたやないか!」




犬飼が頭をかきむしっていた背後から声がした。




「衣川です…よろしくお願いいたします。」



「おぉ、きぬ………き、…………?き、衣川って?」




「ハイ、私が衣川、衣川環です。」





そこにいたのは紛れもなくあの犬飼の斜め前に座っていた女刑事だった!

No.8 14/11/25 10:07
ストーリーテラー 



「で、でけぇな!」



犬飼が衣川という女刑事に最初に受けた率直な印象だった…座っている時はさほど感じなかったがこうして立つと犬飼の身長の遥か上に見上げる程のノッポに思えた。



「豊吹署の初動捜査二課所属の衣川環です、よろしくお願いいたします。」



衣川環は犬飼に深々と頭を下げた。



「ち、ちょっと待てよ!俺の相棒ってまさか……?」



「よッ!いいなぁタクさん、府警一の美人さんとコンビを組めるなんてな!」



「チッ、だ、黙ってろガキ!」




花木南署の若手刑事が犬飼を茶化した。




「こ、これは何かの間違いやろ?あ、大塚管理官ッ!待って下さいこれは何かの間違いですわ、俺の相棒はお…と…」




「ン?何も間違いはないはずやで犬飼?ちゃんと捜査に添った適材適所を本部で決めたんやさかいに。」



「あ……………」




会議室から出ようとする大塚管理官に犬飼は詰め寄ったがそんな身勝手な要望は到底聞き入れてはもらえなかった。




(………おいおい、嘘やろ!よりによってこんな……ハァ~、マジかいな…これやったらまだ仕事の出来ん男の若い刑事の方が百倍も楽やがな!女って…冗談も休み休み言えよな捜査本部!)




犬飼は黙って立つ衣川環に視線を合わせる事もなくただやるせなくイライラと頭をかきむしった。



「あのぅ………」



「……………」





さっきまでの血気盛んな気持ちとはまるで逆の犬飼は抱えきれない重い荷物を背負わされたような嫌な気分になっていた…




(なんじゃいこれは…あからさまな嫌がらせやないか!)




犬飼は憮然とした態度を一向に崩す事もなく足早に自分だけ会議室を後にした。




「!あ……ち、ちょっと…」





慌てて衣川環はショルダーバッグを肩にかけると犬飼の後を追った…

No.9 14/11/25 12:51
ストーリーテラー 




「あ、あの…ち、ちょっと待って下さいッ!」



「………………」




犬飼は衣川環の呼び掛けを完全に無視しながら自分だけツカツカと足早に廊下を歩いた。その後を追うように衣川環のパンプスがカツカツと廊下に響き渡る…




「あ、あの…そんなにあからさまに嫌がらなくても…私が女だからでしょうか?」



「…………………」




ポケットに手を突っ込んだまま犬飼の不機嫌さは変わらない…





「女の私とコンビを組む事にそれなりの不満があるなら仕方ありません…が生理的に受け付けないというのであればそれは私自身の力ではどうする事も出来ません。」




「………気に入らねぇ…」


「え?…………」





「アァ~気に入らねぇ気に入らねぇ大概気に入らねぇんやっちゅうの!」




犬飼は足取りを止めると踵を返して指を指して衣川環を上目使いで睨み付けた!




「ええかおねぇちゃん?!これだけは今この際はっきりさせておくど?俺は女ってのは元来全然信用しとらん、まるっきり別の生きもんや思とる、何させても理屈っぽいしワガママやし気分屋ですぐ感情を顔に出す厄介な生き物や、それは例え同僚の同じ釜の飯を喰らう仲間のデカやったとしてもしかりじゃ!せやから俺は誰の指図も受けん、好きにやらせてもらう!新米キャピキャピ女の子守りなんてまっぴら御免なんや、とにかくおねぇちゃんは俺のやる事なす事に黙って従ってりゃええ、分かったな?」



「………まだ初対面なのに随分なお言葉ですね。」




「ほぅれ見てみぃ、ちょっと言われた位で女はすぐ感情を出すやないか!」




「いぇ、それは違います!まだ私の事を何も知らないうちからそのような言葉を発する事に少なからず失望を覚えたからです。」





犬飼の睨みに衣川環はたじろぐ様子もなければ反抗的な態度に出る訳でもない微妙なスタンスを取った。

No.10 14/11/25 13:23
ストーリーテラー 




府警本部の玄関を出た犬飼は少し落ち着こうとタバコに火をつけた…衣川環は犬飼のすぐ後ろを付かず離れず微妙な距離感で佇む。



「………ハァ~、新人のおねぇちゃんを宛がわれるたぁ俺も甘ぅみられたもんやな。」



タバコの煙を吐きながら犬飼は溜め息をついた。



「……あの犬飼さん、その【おねぇちゃん】というのは止めて頂けますか?私も一応は責任ある国家公務員という今立場上、後の聴き込み捜査に市民の前でついうっかり出てしまいかねませんので。私は衣川で結構です。」



「……………ふん!おねぇちゃんをおねぇちゃんっちゅうて何が悪いんや!呼んでもらえるだけで有難いと思え!」



犬飼は薄ら笑いを浮かべてタバコの火を揉み消すとまた一人だけ勝手に歩き始めた。衣川環は後を歩きながら手帳を開いた。




「…3日前淀川河川敷で発見された被害者小柳岬の遺留品の中のスマホに登録されている親戚縁者、友人等の電話番号のリストです。ご覧になられますか?」



「……………」



犬飼は衣川環の言葉には反応を見せずただがに股で時折ペッと痰を道路に吐きながら憮然と歩いていた。



「取りあえず片っ端から小柳岬の交遊関係をあたって………」



「できる………」




「は、ハイ?」




「!…せやから……ンナ初歩的な事幼稚園児でも解るわッ!!デカを何年やって来たと思てるんじゃッ!昨日今日出たての新米と違うんじゃ、バカにすなッ!」



「………………」




衣川環は小さく溜め息をつくと黙って手帳に目を通していた…




(ハァ……はよホシパクって捜査本部解散といきたいわ…アァ~!)

No.11 14/11/25 15:42
ストーリーテラー 




「……そうですかぁ、岬さんとは中学卒業以来逢ってない?」


「はい……だからこないだニュースで岬が殺されたって私、私まだ信じられなくて…」



「岬さんが当時交際していた男性とかご存知ですかね?」



「確か京都の高校に通う野球部の人とどうだとか言ってたような……私も岬とはそれほど親しくなかったもので。」




「京都の高校…野球部ですか?解りました、ご協力ありがとうございました!」




犬飼は玄関で一礼するとまた一人で歩き始めた。朝から始めた小柳岬の周辺関係者の聴き込みは余りよい収穫とは言えなかった。聴き込みの間、衣川環は関係者に一言も発する事なくただ黙って犬飼の後についていた。



「………どうやら今のところ、これといって小柳岬の近辺に怪しい人物は浮かび上がりませんね。」


「………………」



衣川環と二人きりになる間は犬飼はやはり不機嫌そうに黙り込んでいた…



「やはり猟奇性のある犯人の場当たり的な無差別殺人の可能性もありますね。」


「オイさっきお前何した?」


「え?……何って?」



突然犬飼の重い口が開いた。



「さっきの証言中、あの女の子しきりにチラチラとお前の顔見てたやないか!?何かサインでも送ってたんか?」


「ち、ま、まさか…どうして私が彼女にサインを送る必要があるんです?」



「いぃや、あの子は俺と話してる間中、確かにお前に意識がいってたのは事実や、俺の目は節穴やないど!」



「私はただ後ろでメモを……」


「まぁ何でもええわ、事件には関係ない事や。」




犬飼は少し苦笑いを浮かべてまた歩き始めた。

No.12 14/11/25 16:11
ストーリーテラー 



初動捜査初日は8件の関係者への聴き込みで終えた…朝から脚を棒にして歩き回った犬飼の下半身はもう既に限界に達していた。



「4時か…捜査本部の会議までまだチョイ時間があるな…」



犬飼は独り言を呟くと衣川環に何ら遠慮する事なくすぐ目の前にある寂れた中華料理店に入って行った…


「チャーシュー麺!」



カウンター席につくや否や犬飼は一人ラーメンを注文した。



「……………お客さんは何にされます?」



「あ、わ、じゃぁ私も同じ物を。」



慌てて犬飼の隣のカウンター席についた衣川環は取るものもさておき同じラーメンを注文した。



「………………」



「…………………」



「何の因果か…ハァ~」



「………………」




注文のラーメンが出来上がる間、犬飼は出されたコップの水を一気に飲み干すとしきりにイライラと頭をかきむしっていた。



「不本意なのはよく解っているつもりです…もし私も男だったらおそらく犬飼さんと同じ気持ちになったと思うから…」




「……ふん!同じ気持ちにね~……ナァ~んにも知らんくせにッ!」


「それは犬飼さんも同じですよね?」



「…………ち、理屈っぽい…!」



犬飼は自身で水のお代わりを入れた。



「許せないですよね…」



「………………」




衣川環はじっとコップの中の水を眺めていた。




「……殺された女子高生の3名はそれぞれ学校ではマドンナ的な存在だったらしいです。男子学生から憧れられる程みんな可愛らしかったようで。」



「……………」




「お前幾つや?」




「え?………今年で27になりますが。」



「……………」




ラーメンが出来上がり犬飼は割り箸を割ると何も言わずラーメンをズズズと啜った。

No.13 14/11/26 09:25
ストーリーテラー 



その日の捜査報告会議は夜の9時からこの連続殺人事件の捜査にあたる刑事総員による府警本部で行われた…



「歌島周辺の聴き込みに当たりましたがガイ者の三宅澄美香を恨むような人間はいなかったようでして…引き続き聴き込みを継続していきます。」



第1の被害者、三宅澄美香の担当刑事が今日の現状報告を終えると肩を落としながら席に座った。



「ふむ…やはり3件とも場当たり的な無差別殺人のラインが強いな…」



大塚管理官がふんぞり返りながら腕組みをした。



「チキショ、収穫なしか。どいつもこいつも…」




犬飼は耳の穴をほじくりながら小さく舌打ちをした。衣川環は犬飼のすぐ隣の席で各捜査員の報告を聞いていた。




「あ、管理官、この事件と直接繋がるかどうかは解りませんが…」


突然、さっきの若い捜査員が口をついた。




「ん?…どうした?どんな些細な事でも報告してくれ。」



大塚管理官は体を前に反り出した。




「実は被害者の三宅澄美香の部屋から多数の切り抜きが見付かりまして…」



「切り抜き?」


会議室がざわつき始めた。



「はい、母親の証言によると三宅澄美香はあるファッションモデルの大ファンだったそうで…そのポスターや雑誌の切り抜きが部屋の至るところに飾られていました。」



「それが事件と何の関係があんねや!んなもん女子高生やったら誰かて持っとるやろがッ!」



突然犬飼が机を叩いて立ち上がった!



「それが…あるんです……」



すぐ横で話を聞いていた第2の被害者、岡元の担当刑事が横槍を入れてきた。



「実は二人目の被害者、岡元さんの部屋の棚にもそのモデルの雑誌やDVDが山のように。」



「アン?」



犬飼はそれを聞いて不機嫌に眉間に皺を寄せた。



「それって……お前ら………」



「そのモデルの名前は?」



大塚管理官が二人の捜査員に訊ねた。



「はい、【上牧セシル】……です。」




「!………………!!!」

No.14 14/11/27 14:16
ストーリーテラー 




(かんまき…上牧セシル……そういえば船尾西署の曽根の野郎もこないだ電話でその名前を言ってたな…)



捜査会議が終了した後も犬飼はただじっと腕を組み、机に座ったままでいた。



(3人目のガイ者の生徒手帳から発見されたのもおそらくそのナンチャラセシルって女…ちゅう事はやな……)



「あの…………」


「!………………ッ」



「みんな掃けてしまいましたが…」



犬飼の側に衣川環が立っていた…



「……何やまだおったんか?……今日は終わりや、もうええど……帰れ…」



犬飼は衣川環にぶっきらぼうに言葉を吐いた。



「…………では失礼します。」



衣川環はショルダーバッグを肩にかけるとまた明日よろしくお願いしますと頭を下げ踵を返した。



「!ッ!…………お、おい!」


「?…………ハイ。何か?」



「あ…………ま、まぁええわ、何もない。」


「……………」


「お前はどない思う?」



「え?…………」


「せやから!3人のガイ者とその上牧セシルっちゅう女の関連性や。」



犬飼は衣川環と全く視線を合わせる事なく少し言葉に詰まりながら訊ねた。



「………解りません。」



「……………そうか、分かった…。」



犬飼は立ち上がると衣川環を一人残しツカツカと足早に部屋を出て行ってしまった。

No.15 14/11/27 17:06
ストーリーテラー 




「何やタクちゃん、今日はエライ早いやないの?」


「ケッ、ドアホ深夜一時のどこが早いんや!」


JRのガード下にある行きつけの小さな屋台で犬飼はおでんのがんもどきを充てに熱燗を啜っていた…犬飼に声をかけてきたのはキタの新地でホステスをする美空という若い女だった…


「また一人で飲んでからに~背中から哀愁がプンプン漂ってるわ!」


「哀愁……ふん、【加齢臭】の間違いちゃうか?今日はお前も随分早い上がりやないか?」


「これから24時間営業の私設の託児所に息子迎えに行くんや。けどまだちょい時間あるからな。」


「そうか、お前も色々大変やな…」



犬飼はほろ酔いながら屋台のオヤジに美空にも熱燗をと声をかけた。



「……何やふて腐れてタクちゃん、何や嫌な事でもあったんかいな?」



「えぇオッサン掴まえてタクちゃんはないやろ、犬飼刑事って呼ばんかい!」



「ハイハイ犬飼刑事……熱燗おおきに、よばれます♪」



美空は真っ赤に塗られた唇で熱燗を啜った。


「……また難儀な事件担当になったん?そんな顔してるわ。」


美空は犬飼の鉢にあったがんもどきを口にした。



「……事件も難儀やけどそれ以上に難儀な事があったんや。」


「ヘェ~、何やろ?」


「女っちゅうのはこう……何で融通が効かんっちゅうか、こう…何ちゅうか…」


「もしかしてタクちゃん、今度の事件の相棒さんが女の刑事さんやとか?」


ホステスで培った気配りなのか本能的に美空は犬飼の汚れた机の前を布巾でサッと拭いた。


「美空お前……鋭いな。」


「嫌やタクちゃん、店出たら京子!富樫京子ちゃん♪……まぁタクちゃんの事ならお見通しやわ、すぐ顔に出るから解りやすい。」


「顔に………か。」



犬飼は自分の脂ぎった顔を手で撫でた。

No.16 14/11/27 17:26
ストーリーテラー 




「ふぅん…そんな刑事さんと相棒にねぇ…タクちゃん女の刑事さんと組むのって初めてやもんね。」


「アホ、おそらくウチの署の管内じゃ誰かて初めてじゃ、ほんま、やりにくいったないど!人が聴き込みしてる最中は黙ってただボォ~ッとメモを取ってるだけ、何の質問もしくさらんしな、口開けば勝手に事件の捜査の推理始めよるし、己はルパンかっちゅうんや!」


「タクちゃん…ルパンは泥棒さんのほうや、それを言うならコナンちゃう?ウチの子大好きやねん♪」


「ど、どっちゃでもえぇ!とにかくやたら背ぇ高いから威圧されてるみたいで、横におるだけでやりにくいったぁないぞ?」


「タクちゃんが低すぎるんちゃう?ウチより低いやん♪」



「や、じゃかぁしゃ!お前に俺の…俺の気持ちが解ってたまるかぁァ~!」


「そやね、ウチも列記とした女やさかいに♪」


酒が廻って来たのか犬飼の口が饒舌になってきた。


「せやけどタクちゃんもタクちゃんよ?もうちょっと歩み寄ぉう姿勢を見せなアカンのとちゃう?少なくともこの事件が解決するまで大切な相棒なんやさかい。」



「へん、解ったような口ぬかすな!」



「ハァ~男のほうがよっぽどめんどくさい子供やわぁ…」



美空は頬杖をつきながら犬飼に聞こえるようあからさまに溜め息をついた。

No.17 14/11/27 19:45
ストーリーテラー 




(何やどうも引っ掛かるんよなぁ…)



美空と別れ屋台を後にした犬飼は腑に落ちない顔付きで家路に急いだ…2DKの狭い文化住宅の2階に千鳥足で登るとポケットから鍵を探し部屋の中へ入った。


(ただいま~ッと!)


心の中で侘しく呟き真っ暗な部屋の灯りを付けると背広をハンガーにかけ冷蔵庫を漁った。


(ケッ、何もないやないか、チキショ!)



冷蔵庫の一番上の棚から賞味期限ギリギリの魚肉ソーセージを取りだしおもむろに歯でかじった。



(……………クソ。)



パンパンに腫れた脚を擦りながら犬飼は望まれざる新しい相棒、衣川環の事を考えていた。



(……明日から何を話すりゃええんやろ、こういう場合男同士ならゲスな下ネタであっさり打ち解けられるんやけど相手が27の女じゃそれこそセクハラやゆうて訴えられかねんもんな。ハァ~……)



犬飼は布団に横たわるとアクビをした。



(まぁ確かに…南署の連中が言ってたように刑事にしとくにゃ勿体無い程のベッピンではあるわな…それを1つも鼻にかけへん所が逆に可愛いげがないんや!ベッピンなら私ベッピンですねん♪くらいの冗談も言えんのかっちゅうんや!)


布団に横たわりながら散々毒ずいた犬飼は次第に瞼が重くなってきた。


(まぁええわ、俺には俺のやり方がある、誰が相棒でもそれだけは変えられへんッ!まぁ所詮女のできる事は限られとる!ノッポのねぇちゃんのお手並み拝見といきましょかぁ!)




そんな事をあれこれ考えながら犬飼は今日1日疲れた瞼をゆっくり閉じた…

No.18 14/11/27 21:11
ストーリーテラー 



……翌日、犬飼卓は衣川環と待ち合わせをし、小柳岬が殺害された現場周辺の聴き込み捜査を担当していた。


「はい、4月10日の朝…あの日はジョギング中で少し休憩しようと葦の雑木林の近くに…したら何か野犬が肉を食べているような音がして恐る恐る覗いたら…いや、初めは汚れたマネキンか何かかと思ったんですよ、でもよく見るとそれは人間の…女の子の…アァ~今思い出すだけでゾッと…」



「その時近くに不審な人影などはありませんでしたか?」



「不審な人影…はい、その時は僕一人だけだったので何も…その場ですぐ携帯で警察に…」



遺体の第一発見者である大学生に遺体遺棄現場に来てもらい丁寧に聴き込みを終えた犬飼はどうもと礼を言いその大学生を解いた…


「………死亡推定時刻は9日の夜11時~翌10日の深夜2時の間…そんな時間に女子高生がこんな暗い場所で何をしてたんや…」


犬飼は苦虫を噛み潰したような顔付きでお前はどない思う?という雰囲気で衣川環を見た。



「……何処か他の場所で呼び出されるなり襲われたり等して何等かの形でこの河川敷に連れて来られ殺害されたという可能性もありますね。」


衣川環は河原の雑草を踏み締めながら葦で覆われた水面を眺めた。



「…………とにかく事件当日の夜、この近辺を歩いていた人物を探さん事には始まらんな。」



犬飼と衣川環は二手に別れ、近所の住宅や河川敷で毎日犬の散歩をしている主婦等に聴き込みを行った。



「どや?」



「ダメです…これといった有力な目撃情報は……」



衣川環は首を横に振りながら残念そうに答えた。

No.19 14/11/30 09:26
ストーリーテラー 



突然降りだした雨は次第に激しさを増し、犬飼と衣川環はコンビニの軒先で雨宿りをしていた。

「………………」


「ホレ!」

「あっ……。」


「煙草買ったついでじゃ。気にすな。」


「ど、どうもすみません…」



コンビニから出てきた犬飼は衣川環に缶コーヒーをぶっきらぼうに投げつけた。



「………ハァ~……こう目撃証言が少ないとなぁ…」



「………………」


犬飼は眉間に皺を寄せたまま不機嫌そうに雨空を見上げ煙草に火をつけた。



「犬飼さんはこの一連の事件は同じ犯人の起こした事件と考えますか?」


「……お前はどない思う?」


「え?…………」



「……3つの殺人事件は同んなじホシの仕業や…殺しの手口や同世代の女を殺害してる節からこれだけは断定出来る…しかしどうも何かが引っ掛かってるっちゅうか…この事件に関わるキーワードみたいなもんが隠れとる気がする…」


「キーワード…ですか。」


衣川環は頂きますと礼を言い、缶コーヒーのタブを開けた。



「殺しには何かしらの理由がある…それが社会的に善し悪しはともかく…つまりホシは自分なりの道義で余りにも短絡的な殺しを繰り返し、自分を正当化しようとしとる…こいつが行き過ぎると非常に厄介や、殺すという行為に味をしめて今度は自分の道義から逸脱した殺人を犯す可能性も考えられる…1日も早い手がかりを見つけんと第4、第5の殺人事件を引き起こしかねんな。」



犬飼は煙草の火を灰皿で揉み消すと雨の中をまた一人で歩き始めた。衣川環はショルダーバッグを頭に乗せ降りしきる雨の中を傘代わりに後を追った。

No.20 14/12/01 13:47
ストーリーテラー 



府警本部での捜査会議は余程の進展や決め手となる手掛かりが見つからない限りは午後の9時頃から開始される…犬飼と衣川環は重い足取りで府警本部の事件対策会議室に入った。


「よっ♪タクさん、どうや?美人刑事とのデートは?」


席に座るや否や以前犬飼とコンビを組んだ事もある船尾西署の角倉がニヤけた顔で犬飼に話し掛けた。


「…どやって何がじゃ?どないもこないもあるけ!」


犬飼は腕組みをしてただ不機嫌そうにじっと前を見ている…



「ほんまけぇ?しかし羨ましいなぁ…こんなベッピン連れて歩けるんやで?俺にも代わってほしいわ~♪なぁみんな!?たまらんなぁ…」



犬飼の横に座る衣川環は聞いて聞かぬふりをしていた…それを知ってか知らずか角倉の言葉に回りの若い連中がクスクスと笑った。



「で、どこまでヤったんや?」



「…………はぁ?」




角倉がいきなり信じられない言葉を口にした。



「せやから!このえげつないムチムチボディのベッピン刑事さんとどこまで……」



「………おい、角倉…それくらいにしとけや?」



犬飼が真っ直ぐ前を見ながら角倉に忠告した。



「何気取ってんねんタクさん、ワシらいつもそんな話で盛り上がってたやないけ!どこの部署の婦警の尻が一番デカイとか……」



いきなり椅子がガタンと鳴ると次の瞬間、犬飼は鬼のような形相で角倉に掴みかかっていた!



「グゥオオァァ~ラァァァ!こんのクソガキャァァァ!!!」



「う、ウワァ、な、何すんじゃ!」



突然の会議室での騒ぎに周りにいた刑事達が必死に二人の中に割って入った!




「こぅラァァァ!クソガキャ調子に乗んのもたいがいにせぇやボケッ!」



「な、何がじゃ?俺はホンマの事ゆうただけやろがッ!」



「犬飼さん、やめて下さいッ!!」




衣川環が荒れ狂う犬飼の前に立ちはだかった!

No.21 14/12/01 14:14
ストーリーテラー 




「せやかて、こ、こんのクソジャリが聞いたような口をッ!」


衣川環は犬飼の胸を必死に押さえた。


「もういいんですッ!本当にケガしますから!」


「ホォ~エライ仲ええやないけ、これがホテル通いでデキた刑事のコンビ愛って奴カァ!?」


角倉が口から血を流しながらまた余計な言葉を口走ったので犬飼の怒りがまた蒸し返され会議室は騒然となった!


「やめて下さいッ!ほんとに!」


「あんな無礼な事言われてニコニコしてられっかい!」



巨漢の若い刑事に羽交い締めされながら犬飼は顔を真っ赤にして角倉を睨み付けた!



「平気ですから、本当に…平気ですから。」



「へ、平気ってお前……あんな侮辱受けて悔しないんか?」


衣川環の言葉に犬飼は眉間に皺を寄せた。


「…警察官になってからこんな事しょっちゅうでしたから…だから私は何言われても平気です。ほんと大丈夫ですから。」


衣川環の言葉に周りの男の刑事達は全員水を打ったように黙り込んでしまった。


「…だっていつも…いつもそうでした…交通課に勤務していた頃からも私と組む男性警官の方はそんなふうに冷やかされて…アイツと組むとイヤらしい事してもらえる、羨ましいな、エロいな、まぁ警官たって所詮女だから…だから、だから私本当に申し訳なくて…私と一緒にいるだけで相手に迷惑がかかってしまう、そう思うだけで本当に申し訳なくて…」



「…………お前……」


犬飼の体の力がスッと抜けた…



「だから私さえ気にせずにいれば、何言われても我慢してれば相手に迷惑もかからないだろうって…」



さっきまで威勢のよかった角倉の顔つきが変わっていた…



「ですからどうか皆さん、私を女とは思わないで下さい、一人の同じ事件を追う仲間の捜査員の一人として…宜しく、宜しくお願いします!」




衣川環は捜査員の男性刑事達に頭を下げるともう誰も冷やかす者はいなかった。

No.22 14/12/01 19:32
ストーリーテラー 



その後の捜査会議はどこか殺伐とした雰囲気で特に手掛かりも掴めないままお開きとなった。


「タクさん…いや、犬飼警部補…さっきはすみませんでした…捜査に行き詰まってて少しイライラしちまってついあんな事…」


会議室を出る時、さっき言い争った角倉が犬飼に頭を下げてきた。


「まぁいいって事よ、誰でも虫の居所が悪い時がぁあるもんや…それに角倉、謝る相手が違うんとちゃうか?謝るんは俺にやないやろ?」


犬飼は角倉の肩をポンと叩くとすぐ側にいた衣川環に視線を投げた。


「あ…………」


角倉は衣川環に視線を向け直すと前に直立した。



「あ、き、衣川巡査…さっきは余りにも酷い言葉…すみませんでした。」


「いえ、いいんです…ホントに……ただ…今後他の女性職員に同じ事をすればそれは角倉さん、きっと貴方の為にならないと思います。警察組織はまだまだ男社会です…よく女だてらにと笑われたりもします。だからこんな仕打ちを受けるのは私だけで充分ですから。」



角倉は一礼をするとばつが悪そうにそそくさとその場から立ち去った…


「…………犬飼さん、先程はありがとうございました。」



先に廊下を歩く犬飼に追い付いた衣川環は頭を下げた。



「……ほれ見た事かっちゅうんや!」


「え?………」



「せやから!こんな面倒が起こるから女とコンビを組むんは嫌やったっちゅう事じゃ!クソ。」


犬飼は吐き捨てるように呟くとまた明日な!と小さく手を挙げて府警本部の玄関を出ていった。しかしその不躾で嫌味な言葉は今までの彼が衣川環に抱く嫌悪感とは明らかに違っているように彼女自身感じていた。



(…フフ………すみません。迷惑かけます!)



そんな気持ちを察しているのかいないのか衣川環は犬飼の後ろ姿に小さく苦笑いをしながら呟いた。

No.23 14/12/01 23:21
ストーリーテラー 



「すみませんねぇ…こんな朝早くから…」


翌日犬飼は衣川環と合流する前に一人都島区にある被害者、小柳岬の自宅を訪ねていた。



「刑事さん確かこないだも…」


「はい、何度も申し訳ないです…ちょっと気になる事があったもんで。」



悲痛な面持ちで姿を現したのは岬の母親だった。娘の生前はおそらくそれなりの身なりをしていたのだろうが事件のショックからか前見た時よりさらに白髪が増えているように犬飼には思えた。


「ど、どうぞ…」



黙って立ち尽くす犬飼を見て少しよそよそしそうな仕草で幾分か痩せ細った母親は自宅に招き入れた。被害者の小柳岬の自宅は都島の駅から程近い3LDKのライオンズマンションで母親と弟の3人暮らしだった…



「あいにく息子はクラブの合宿でして…」



「それは良かったです…あんまり刑事が頻繁に訪ねるとこ見ると事件の事思い出させますさかいに…」



犬飼は居間にある小さな仏壇に気付くと前に座り静かに線香に火を付けた…仏壇の遺影には学生服を着て笑う小柳岬の顔写真が飾られてあった…その横に岬の父親の遺影も並んでいた…


「御主人さんも確か……」


「はい、2年前脳梗塞で…」



台所でお茶を淹れながら岬の母親は静かに頷いた。


「この年頃には珍しく父親の事が大好きな娘でした…せやから主人が亡くなった後はまるで人が変わったみたいになってしもうて…夜な夜な夜遊びもし始めてたんです。」



静かに仏壇に黙祷をし、犬飼は小柳岬とその父親の遺影を見比べながら黙って母親の話を聞いていた。

No.24 14/12/01 23:54
ストーリーテラー 



「何度もすみませんが事件の当日の娘さんの足取りをもう一度調べたい思いまして。奥さんが最後に娘さんに逢ったのは…?」



犬飼は岬の母親からお茶を受け取ると頂きますと啜った…



「私がパートから帰って来て入れ違いにあの娘が出て行きましたさかいに…夕方の6時頃やったと思います…」



「その時娘さんに変わった様子はなかったですか?」




「そない言われましても…あの人が死んでからあの娘の全てが変わりましたからね、その時は特にどうとかは…」



岬の母親は時折エプロンの端をいじりながら俯いて答えていた。



「娘さんの交遊関係とかは?」



「恥ずかしながら把握してしません…高校の友達も殆ど家に呼んだりしませんから…前に一度クラスの男の子に告白されたけど興味ないからとか話してくれた事はありますが…最近はそんな話題すらなく、あんまり口も聞いてくれませんでしたから。」



「そうですかぁ……」



犬飼はお茶を飲み干すとごちそう様と流しに置いた。



「捜査に何か進展は?」



岬の母親は何かしらの収穫を期待しているかのように犬飼を見つめた。


「それがまだ何も…」


「そうですかぁ…」


岬の母親はまた俯いてしまった。


「あ、そや…差し支えなければもう一度娘さんの部屋を見せてもらえませんやろか?」



「えぇ…構わしませんけど…あの日のあのまんま手をつけてませんよって。」



岬の母親は犬飼を奥の娘の部屋に案内した。



「あの…何かあるんですか?」



「あ、いや…大したことではないんですが…」



犬飼は中に入ると部屋をゆっくり見回した。



「あの…あそこのポスターの女の子の名前、奥さん知ってはりますか?」



「え?………」



犬飼はふと机の上に貼られていた一枚のポスターに目をやった。


「あれは確か……岬が小学生の頃からずっとファンやったモデルさんですわ。」



「!……モデル……もしかして【上牧セシル】とか言う?」



「そうですッ!上牧セシルです!」

No.25 14/12/02 10:47
ストーリーテラー 



「あれが【上牧セシル】ですかぁ…」


「この当時で確か18、19くらいちがいますか…」


化粧品のポスターらしいその女性の髪は綺麗な黒髪で目鼻立ちはスウッと通り、少し大きめの唇は妖艶な雰囲気を放っていて犬飼にはとても18、9にはみえない不思議な大人の女の色気を醸し出していた。それと同時に犬飼は初めて目にするカリスマモデル【上牧セシル】を見て少し言い様のない違和感を覚えていた。


「この顔…待てよ…確かどっかで……」


「岬が小学生の頃から好きなモデルさんらしくて…その年頃の若い女の子にはかなり人気があったみたいです。」


犬飼は手を口に当てて何やら考え込んでいた。



「今はもうこの人はモデルの仕事はしてないんですやろか?」



「さぁどやろか…このポスターも随分前のやつやさかいに…」



「………………」


犬飼は腑に落ちない顔でありがとうございましたと岬の部屋から出てそのまま帰り支度を始めた。



「……必ず、捕まえて下さいね…犯人。」



犬飼が靴を履くその後ろで岬の母親が小さく呟いた。



「…………勿論そのつもりです、このまま野放しにはさせんつもりでっさかい。奥さんもどうかお心落としなく、まだ息子さんも大事な時期やさかいに…。」



岬の母親はうっすら涙を浮かべてありがとうございますと頭を下げた。小柳岬のマンションの玄関を出た犬飼は曇天の朝の空を見上げた。



(【上牧セシル】…あの顔確かに…ンアァァァ!思い出せんッ!!)




犬飼は寝不足の頭を掻きながら朝の忙しい大阪の街に同化した。

No.26 14/12/02 12:51
ストーリーテラー 




「今朝はどちらかに寄られていたんですか?」


「あん?……どこ寄ろうが俺の勝手やろが。」



今日の現場周辺の聴き込みを一通り終えた犬飼と衣川環は近くの蕎麦屋でざるそばを啜っていた…


「え?……な、何かついてますか?」



犬飼は蕎麦をくわえながらじっと衣川環を見つめていた。



「…………似とるな、やっぱり……」



「は、はいぃ?」



衣川環は紙ナプキンで口を拭うとまるで照れ隠しをするかのように執拗に窓の外を見た。



「……おい、俺がこないだお前にした質問覚えてるか?」



「し、質問………ですか?」



「そや、3人の女子高生の殺人事件と【上牧セシル】っちゅうモデルの接点や。関連性はあるかと確か俺はお前に質問したッ!」



「はい、それは覚えていますが……」



犬飼は割り箸を置くとまじまじと衣川環を凝視した。



「あん時お前は解りません!と答えた…せやな?」



「はい……確かにそう。」




犬飼はまるで容疑者を取り調べるかのようにいつもの陰険な表情に変わった。



「あのぅ…犬飼さんは何をおっしゃりたいのですか?」



「フフフ、そう来たか…回りくどいのは嫌いやからこの際端的に言うど!」



「はい………」



衣川環は割り箸を置いて座り直した。




「お前……警察官になる前何しとった?高卒で公務員になったにしては今の27っちゅう年齢はちと遅咲きやないのか?」



「そうでしょうか……?20歳で国家公務員試験に合格し2年前まで静岡県警の機動交通課勤務でしたので女性警察官ならごく普通のスキルアップではないかと…」



「ドアホ、俺はデカになる前の事を聞いとるんや!」


「はぁ…ですから警察官になる前は学生でしたが…」



「ちっ、ァァ!!せやから!そこの、その間の事を聞いとるんじゃぁ!」



犬飼のあまりの必死の様相に衣川環は椅子を引きながら大丈夫ですか?とたじろいだ。

No.27 14/12/02 13:18
ストーリーテラー 




「衣川環!お前俺に何か隠してるやろ?」



「な、何かって何をです?」



「まぁ~だしらばっくれるんかッ!?」




「だから何をですか?」




「衣川環…お前は【上牧セシル】やな?」




「…………何をおっしゃりたいのですか?」




「言葉のまんまじゃ、お前は元カリフラワーモデルの【上牧セシル】やろ?間違いないなッ!?」




「それを言うなら【カリスマモデル】ですね。てゆうかまさか!ち、違います、人違いです!」




「おいおい嘘こけ!道理で何やデカとはちゃう独特の怪しい雰囲気を醸し出してる思たんや、他の奴等の目は欺けてもこの犬飼の、百戦錬磨の俺の目は節穴やないど!」



「怪しい雰囲気を私がいつ放ちましたか?変な言いがかりはよして下さい!」




衣川環は立ち上がるとレシートを手に足早に蕎麦屋のレジに向かった。




(間違いない…アイツはあの【上牧セシル】や、というよりは【上牧セシル】やった過去を持つ女のデカっちゅう事や!)




犬飼はまるで鬼の首でも獲ったかのような高揚感に包まれていた。



(俺があの女にずっと引っ掛かってたんはつまりこの事やったんや!)





犬飼は苦笑いを浮かべながらレジで代金を支払う衣川環の後を追った。

No.28 14/12/02 15:28
ストーリーテラー 




「おい、ちょっと待たんかい!」


「…………」


犬飼は先に歩く衣川環の後を追った。



「別に隠す事はないやないかッ!誰かて過去に色んな経歴を持っとるんやさかい…大阪府警の現職警官の中には元ボクサーやオネェなんちゅうのもおるんやぞ!」



「今日は午後から捜査会議です、早く府警本部に戻らないと!」



犬飼の言葉を遮るようにカツカツと衣川環のパンプスの音が鳴る…



「そうかぁ…お前があの……」



「だから人違いですって!私が【上牧セシル】なんてあり得ませんから!」




「おいおい何時までシラを切り通すつもりなんじゃ!確かに俺はこん目で【上牧セシル】を焼き付けたんや、いくら化粧や髪型や整形で姿形を変えたって顔の本質は変えようがない、これは長年培った刑事の勘や、間違いない!」



こうなれば犬飼のほうも引き下がれない…衣川環の後を追いながら犬飼は矢継ぎ早に質問を投げ掛けた。



「いつからや?何で一流モデルがこんな安月給のデカなんかに……」



衣川環は突然振り返り呆れ顔で両手を広げた!



「犬飼警部補、個人の守秘義務を勝手に推測して面白がっているつまりはっきり言ってこれは職務に関係のない公私混同じゃないでしょうか?それに言っておきますが私は整形なんてしてませんから!」



「はは、それは【上牧セシル】と認めたっちゅう事やな?」



「!…ち、違いますッ!!」



「いつも何を言われても地蔵菩薩みたくジィ~ッと黙ってるお前がこの話題になった途端この取り乱しよう…それが一番の動かぬ証拠やないか!」



「ンモウ、知りません!どうぞご勝手にッ!」



衣川環はまた足早に歩き出した。



「おい、本部はこっちやぞ!」



「!ッ!し、知ってますッ!」



取り乱したままの衣川環はカツカツと反対に歩き出した。




(フフフ、可愛いとこもあるやないか。)




犬飼は子供のように慌てる衣川環を見て苦笑いを浮かべた。

No.29 14/12/02 16:03
ストーリーテラー 




合同捜査本部に動きがあったのはその日の会議での事だった。



「今朝、一連の事件での重要な物的証拠が発見された、岡元久恵事件担当の神崎班!」



ハイ!と若い捜査員が立ち上がり捜査員全員に資料が配られた。



「花木南署の神崎、長田です…岡元久恵殺しに使われたと思われる小型ナイフが死体遺棄現場から3キロメートル離れた公衆トイレで発見されました。」



神崎の言葉に会議場の捜査員が一斉にざわめいた。



「ナイフの血痕を鑑識に回したところ、付着していた血は被害者岡元久恵の血液である事が確定されました。」


「…マジかよ。」



「………ヤマが少し…動きましたね!」




犬飼の言葉に隣の衣川環が反応した。



「小型ナイフは少し形状が変わっていて市販されているナイフとは違い全く柄のないタイプのナイフでして…」



犬飼達は資料に掲載されていた月形の奇妙なナイフを確認した。




「で、ナイフからそれらしき怪しい指紋は発見されたのか?」



大塚管理官がいつもの早口で捲し立てた。



「それが………」



「なるほど…特定は出来なかった訳だ。しかし一般的に大量生産されているナイフとは違いそれだけ変わった形のナイフなら出所を洗うのは簡単かもしれない、引き続き神崎長田は関係先のホームセンター等を当たってくれ!他に何か………」



「はい…………」



「何だ犬飼班………」




「!!!…………」



衣川環は隣にいた犬飼が手を上げている事に激しく動揺した!



「いいですか?報告…………?」




(ま、待ってよウソでしょ!?)





衣川環の鼓動が激しさを増した!言われる、マズイ!衣川環は思わず顔を伏せた!

No.30 14/12/09 10:11
ストーリーテラー 




「いやぁね、少し気になってる事がありましてね…」


「気になる事?言ってみろ。」



犬飼の言葉に大塚管理官が椅子の背もたれから体を起こした。他の捜査員はまたかよ~といった顔付きで相変わらずの犬飼の意味のない妄想と暴走を眺めていたが衣川環はただじっと顔を伏せたまま微動だにしなかった。



「…この数ヵ月間に3人の女子高生の被害者、これただの偶然やと思いますか?」


「何が言いたいんだ、はっきり言ってくれ!」


犬飼は頭を掻きながら右眉を上げた。



「初動捜査の段階では3人の女子高生については特に恨みや遺恨の関係者がいるとは報告されてません…」



「確かにそうだ、だから?」


大塚管理官は左右の指を絡めて少し苛立つような仕草をした。



「せやからゆうて犯人が短絡的でその場の衝動で犯した殺人事件やとも考えにくぅて、よってもうちょい別の線で捜査を洗い直す必要性があるんとちゃいますか?」



犬飼の言葉に会議場の捜査員がざわついた。



「……犬飼お前何か掴んでいるのか?」



犬飼より一回り若いキャリア組の大塚管理官が犬飼の言葉に食いついた。



「……これは言わんとこ思たんですけど…」



犬飼は周りの捜査員を見回した後、ゆっくり口を開いた。



「女子高生って事以外はまるで繋がらない3人の被害者の共通項が見付かったんです!」



「!な、何ィ~ッ!?」



捜査員達のざわめきが頂点に達した。




「まだ俺の推測の範囲でしかおまへんけど…けど多分間違いなくこの連続殺人事件のキーワードになるでっしゃろな。」




犬飼は一度息を吐くと大塚管理官を凝視した。

No.31 14/12/09 13:26
ストーリーテラー 



◆2◆



カンカンとパンプスの音がマンションの廊下に響き渡る…築まだ4年余りのこのマンションはどこか異様に気密性が高いのかどんなに静かに歩いても足音が壁に反響して木霊する…環は重い足取りで鍵を開けると倒れ込むように自分の部屋に入って行った。



(ふぅ…疲れたァァ!)




部屋に入るや否や環はポニーテールの髪を解き冷蔵庫を漁った…環は冷蔵庫からビールのミニ缶と扇形のプロセスチーズを1つ取り出すと気だるそうにソファーに座った。




(ハァ…バレちゃった…よりによってあの厳めしい相棒のオジサン刑事に!)



環は溜め息をつくとビールをグイッと飲み込んだ。



(けどいつかはね…まぁこんなに早くとは計算外だったけど。)




別に隠していた訳でもない、警察官の昇進試験に自分の過去を書く欄などないし、それをいちいち報告する義務もない…しかしこうして前職を公にされてしまうとただでさえ窮屈な男尊女卑の職場がいっそう混濁した修羅場と化してしまうのではないか、刑事という以前に周りの男の同僚たちは女というものを意識してしまうのではないのか、環はそんな一抹の不安を案じずにはいられなかった。




(しかしあのオジサン…只者ではなかったわね。刑事の勘たるやオソロシイ…)




元ファッションモデルという経歴は警察官になるには必ずや障害になる…環がこの世界に足を踏み入れる覚悟が出来た時からの不安要素だった…もしそんな経歴が公になるとまずマスコミが黙ってはいないだろう…

【スクープ!現役カリスマモデルが警察官になった!】


連日マスコミはこんな内容を面白おかしく書き立てて世間は大混乱に陥る、しいては自分がした事が警察機構全体に多大なる迷惑と混乱を招きかねないからだ…だから環はひたすらその事実をそれなりに隠して来たつもりだった…しかしあのハイエナのような嗅覚の犬飼卓には通用しなかった。同僚からも煙たがられる万年一匹狼のはみだし刑事は自分の過去をいとも簡単に暴き出したのだ…



(何とかしなきゃ…)




環は打開策を考えてはみたが考えれば考える程頭が混乱するだけだった…

No.32 14/12/11 15:46
ストーリーテラー 




(上牧セシル……カァ。)



環はビールを片手に本棚から昔のファッション雑誌を抜き出した。そして巻頭カラーで大々的に特集されている当時の若者の美のカリスマ【上牧セシル】のカットを眺めた。


(…若気の至りとはこの事ね…あの頃はとにかく世間に流されっ放しダッタナァ…)


ページを捲る度に現れる自信に満ち溢れた表情とキレのあるポージングに当時のモデル界に君臨した華やかな自らの記憶が蘇ってくるようだった…しかしそれと同時に当時の危うい自分の生き方をまざまざと見せつけられているようにも思えてあまりいい気分にもなれずにいた。



(……3人の被害者の女子高生がかつての私の…いや、【上牧セシル】の神がかり的なファンだった…それだけで何の手掛かりになるっていうんだろ…)



環はついさっきの捜査会議場での犬飼卓の言葉に疑問符を投げ掛けていた。


《三宅、岡元…そして小柳岬殺しに共通する点は全員ファンクラブに入会するほどの【上牧セシル】崇拝者やっちゅう事です。捜査に何の進展もないこの現状です、思い切ってこのキーワードを洗ってみる価値はある思いますわ。》


(あの狸オヤジめ、ホンっと余計な事を…!)



環は思い出すとまた不愉快な気分になった。



(どうして隠し通していたい過去をあぁも簡単にほじくりだすのよ!この生き馬の目を抜くような荒々しい男性社会で生き抜く為には絶対に晒してはいけない過去なのに!)



ただひとつ環にとって幸いな事は犬飼卓は【上牧セシル】の正体をあの場で明かさなかった事だった。なぜ【上牧セシル】はこの隣にいる衣川環だと彼は捜査員に公言しなかったのだろう…犬飼卓がそうしなかったのには環にも理解に苦しむ事だった…

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