エキサイトラブ~友達の彼氏と~
好きなように生きていく
誰かを傷付け傷ついても・・・
14/09/01 17:00 追記
http://mikle.jp/thread/2123328/
↑感想スレです
感想やご意見を頂けると嬉しいです(^_^)
よろしくお願いします
14/12/01 20:37 追記
完結しました。
読んで下さりありがとうございましたヽ(´▽`)/
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「旅行に行ってるって彩希に嘘ついたんだって?」
柑橘系の匂いが漂う、清人の車の助手席に乗り私は聞いた。
「うん、3泊4日の旅行ってことになってる。その期間は?」
清人のマンションの駐車場に車が止まり、清人は私の顔を覗きこみズルい顔で聞いた。
負けないわ。便乗して私もズルイ顔をした。
「一緒にいてあげてもいいよ?」
私は囁くように呟き、人差し指で清人の唇に触れた。
私の名前は、清水紘菜、28歳。
電気メーカー会社の事務員。
容姿は中の上かな?どうやら小悪魔系で男受けするらしい。
昔から男を取っ替え引っ替えしている。
現在は1年付き合っている彼氏がいる。
岩倉悟、35歳。顔よし、スタイルよし、性格よし、頭よし、お金あり!デートもオールごち!
だけど...
エッチが超下手くそ。淡白だし何をされても感じない。とにかく下手だし体の相性は最悪。
てなわけで、今一緒にいる芹沢清人がセフレ。
もう最高...
考えただけで...
あん...
あそこが熱くなるの。
清人は2歳上で、実は友達の彩希の彼氏。
彩希とは友達と言うか、昔から男遊びの時にだけつるむ仲間。
お互い利用してるだけ。
彩希は、センスのないあからさまなブリッコで、化粧を分厚くしたらギリギリ可愛い。
性格は傲慢で高飛車。鏡見てからキャラ作ればって感じ。本当は気が弱いくせに化粧を頑張って男に遊ばれるようになってから調子に乗ってる。
半年前、彩希の彼氏の清人の部屋に一緒に行き、私と清人は目と目で通じあい、彩希がトイレに行っている間に連絡先を交換してディーブキスをした。
素早く、清人は私のパンティに手を入れてきて、長い中指で感じる場所を刺激した。
濡れてるよ?
感じてる?
欲しい?
俺は、紘菜ちゃんが欲しいよ。
私も...
じゃあ、今度ゆっくりと。
うん...
これがセフレになったきっかけ。
清人とのセックスは最高だった。
色んな体位で何度も感じさせてくれる。
その日も、清人のマンションに着きピザを頼んで食べながら話をして盛り上がってた。
清人とは価値観が合う。
無理に自分を作らなくていい。
なら、清人がセフレじゃなくて彼氏なら最高だと通常なら考えるけど私達は違う。
秘密の恋だから、興奮する。
罪悪感が背景にあるから、二人だけの世界がときめきで溢れる。
その日も清人と体を重ねた。
硬くなった清人のモノが私の中に入る。
「この瞬間が一番気持ちいいね、紘菜」
「うん...あっん...」
♪~♪~
「清人のスマホ鳴ってるよ?」
「あっ本当だ」
清人は、枕の横のスマホを手に取った。
「彩希か。…もしも~し」
清人も私も、恋人から電話がきても構わずに出る。
セックスの最中でも。
かけ直したり、何で出ないと問い詰められるのは私も清人もめんどくさい。
「沖縄の海は、やっぱ綺麗だわ~今度、彩希とも来たいな。うん、うん。わかった、お土産買ってくね」
「終わったの?」
「うん」
「お土産どうするの?」
「時間がなかったって適当にはぐらかすよっ」
清人はスマホを枕の横に置き、セックスを続けた。
「何だって言ってた?」
洋食屋のタコライスを頬張りながら妹の祐希に聞かれた。
今日は仕事帰りに祐希と外食している。
「ん?沖縄の海は綺麗だって~♪今度は私と行きたいって!お土産もあるみたい♪」
私の名前は、中島彩希(さき)28歳。アクセサリーショップでバイトをしてる。
この歳で正社員の経験なし。
いいの。結婚に重点を置いてるから。
9ヵ月付き合ってる清人は私のことどう考えてるんだろう?清人も30だし適当な気持ちで付き合ってはいない...はず。
私はチーズクリームのパスタをフォークでクルクルしながら物思いにふけてしまっていた。
「嘘だと思うな」
ぼぉとしていた時間は祐希の言葉で一瞬で去っていった。
「何で?」
「だってわざわざ休暇とって旅行行く?新婚旅行でもあるまいし…そんなに暇な会社なの?それも男二人でなんて普通行かないよ」
「それは彼氏の友達が海外に転勤になるから思い出作りだって。嘘じゃないから」
「そうかなぁ?まぁお姉ちゃんもいい歳なんだからよく見極めて嘘を見抜けるようにね」
祐希はイチイチうるさい。腹が立つ。
ただ...祐希は勘がいい。
けど見極めるとか嘘を見抜くとか出来るだけ考えたくない。
清人が好きだから。
清人じゃないと嫌だから。
信じたい...
「ふふ。考えこんだ顔して。あっ電話鳴ってるよ!」
テーブルに置いてあるスマホが鳴っていた。
手に取り画面を見た。
岩倉さんだ…
「もしもし?」
『ああ、彩希ちゃん?今、出先だった?』
「あっ…はい。妹とご飯食べに来てて」
『そっか!また今度かけるよ。大した用事じゃないから…』
「あっ帰ったら私からかけ直します。はい…はい。じゃあ…」
電話の相手は、友達の紘菜の彼氏の岩倉さん。
紘菜と岩倉さんは合コンで知り合って付き合いが始まった。
その時の合コンでは、みんなで連絡先を交換したので岩倉さんも私もお互いの連絡先を知っている。
「お姉ちゃん誰?大丈夫?…てかそろそろ帰るか!」
「友達から。うん帰ろう」
私達は、その後、洋食屋を後にした。
二人とも実家住まいなので帰り道はお互いの仕事の愚痴を言い合いながら帰宅した。
家に着き自分の部屋に入ると、祐希の言葉が何度も頭の中でリピートされる。
嘘だと思うな…か、嘘…か、じゃあ清人は何してるの?
ああ、恋ってもっと楽しくなかったっけ?
今の恋は不安が大半だよ?
不安になって眉間にシワばかり寄せてるよ?
私、幸せなの?
その時、岩倉さんからの電話を思い出した。
何故、私達が連絡を取り合ってるかと言うと、岩倉さんが紘菜のことで悩み相談されたのがきったけ。
行動がイマイチ読めないし、結婚願望もないと言うから、どうしたら彼女を変えられるかと相談された。
いいよね紘菜は。
普通なら別れようかなって決断する人もいるのに。
まあ紘菜は遊び人だから他にも男がいるんだと思う。
そんなことは岩倉さんには言えないけどね。
私も岩倉さんも、悩める恋組だ。
電話してみよっと!
~トゥルル~トゥルル~
『もしもし?彩希ちゃん?』
「もしもし、さっきはスミマセンでした。どうしました?」
『帰ってきたの?』
「はい!もう自宅なんでゆっくり話せます」
『そっか...あのさ!最近、紘菜に会ってる?』
「う~ん、二ヶ月くらい前に飲みに行ったきりかなぁ?どうして?」
『…いや、ここ最近さ、会社の飲み会、中学校の同窓会、俺の知らない友達と飲み会やらで忙しいらしんだけどさ』
「はい...」
『ちょっと怪しいから引くかもしれないけど、夜中の3時に昨日、紘菜のアパート行っても部屋が真っ暗でさ…』
「帰り遅かったんじゃない?」
岩倉さんは、紘菜への不安を訴えてきた。
それに何故か毎週金曜は付き合ってからしばらくしてから、殆ど会ってないと。
私は、ズキッとした。
そう言えば、私も清人と最近、金曜日に会ったことはない...
- << 9 まさか...岩倉さんと電話を切ったあと、恐怖に近い不安感を覚えた。 清人と紘菜が? 嫌、絶対に嫌!紘菜だけは絶対に嫌だ! あんな尻軽で、大して美人でもないのに全ての人を見下した雰囲気。 好きじゃない。 友達のようで友達じゃない。 私は葛藤しながらスマホで紘菜の連絡先を探し発信ボタンを押した。 ~トュルル~トュルル~ 『もしも~し!』 いつもの力強いけど色気のある高めの声だ。 「もしもし紘菜、元気?」 『うん、元気よ!急にどした?』 「あっ清人がねぇ、今、沖縄旅行行ってるんだぁ。わざわざ休暇とって、男二人で。ホントだと思う~?」 『...大好きな彼氏でしょ?信じることが愛だよ』 「...まじか。紘菜は今...何してるの?」 『同僚の家で宅飲みしてた♪今度、彩希とも飲みに行きたいよ~』 「うんっ...じゃあ、一人じゃないみたいだしまたね!」 電話を切り、私はホッとしたんだか、まだ気が済まないのか曖昧な気分でトイレへ向かった。 強い紘菜と話すと弱さを隠すため傲慢な喋りになる自分がバカらしくもあった。 「ぎゃははははははは~!!」 トイレの真向かいは祐希の部屋。 誰かと電話で話してるんだな。祐希、声でかいし。 「岩倉さん、けっこう面白いですね!!」 ん?岩倉さん? 「うん♪じゃあ金曜日の夜にねっ♪」 金曜日...
>> 7
その時、岩倉さんからの電話を思い出した。
何故、私達が連絡を取り合ってるかと言うと、岩倉さんが紘菜のことで悩み相談されたのがきった…
まさか...岩倉さんと電話を切ったあと、恐怖に近い不安感を覚えた。
清人と紘菜が?
嫌、絶対に嫌!紘菜だけは絶対に嫌だ!
あんな尻軽で、大して美人でもないのに全ての人を見下した雰囲気。
好きじゃない。
友達のようで友達じゃない。
私は葛藤しながらスマホで紘菜の連絡先を探し発信ボタンを押した。
~トュルル~トュルル~
『もしも~し!』
いつもの力強いけど色気のある高めの声だ。
「もしもし紘菜、元気?」
『うん、元気よ!急にどした?』
「あっ清人がねぇ、今、沖縄旅行行ってるんだぁ。わざわざ休暇とって、男二人で。ホントだと思う~?」
『...大好きな彼氏でしょ?信じることが愛だよ』
「...まじか。紘菜は今...何してるの?」
『同僚の家で宅飲みしてた♪今度、彩希とも飲みに行きたいよ~』
「うんっ...じゃあ、一人じゃないみたいだしまたね!」
電話を切り、私はホッとしたんだか、まだ気が済まないのか曖昧な気分でトイレへ向かった。
強い紘菜と話すと弱さを隠すため傲慢な喋りになる自分がバカらしくもあった。
「ぎゃははははははは~!!」
トイレの真向かいは祐希の部屋。
誰かと電話で話してるんだな。祐希、声でかいし。
「岩倉さん、けっこう面白いですね!!」
ん?岩倉さん?
「うん♪じゃあ金曜日の夜にねっ♪」
金曜日...
「彩希からの電話、何だって?」
清人は私をベッドの上で腕枕しながら半分どうでもよさそうに聞いてきた。
「旅行のこと疑ってた。ほんとかな?って」
「だから、信じるのが愛だよって言ったのか!…悪い女だな (笑)」
ホントにそうだ。私自身、一番好きな人を信じるなんてできないのに、彩希にあんなこと言って...
それも清人と私は浮気してる。
でも二番目か三番目に好きな人と付き合うのが私の鉄則。
一番好きな人は、私の場合、感情が重すぎて自分に疲れるもの。
それは清人も同じみたい。
こうやって秘密の恋に燃えるのが私の生き方。
寂しい奴、最悪な奴と言われても、この世に罪という言葉があるんだから、私がたくさん利用してあげるわ。
「清人、パソコンで沖縄の海の写真開いて」
「なによ?上からスマホでパシャリ、彩希に沖縄だよ~って送信か?でも画面の光でバレないか?」
「ちょっとぉ!高校の時、写真部でコンテストで大賞をとった腕前の私ですよ (笑)」
「出た(笑)大賞自慢♪
じゃ頼むわ」
私と清人はベッドから出てすぐにパソコンディスクの前に向かい、沖縄の海の画像を検索した。
「これ良くね?文字も何もないし綺麗だし!」
「だね…では」
私は清人のスマホで画面の上から写メを撮った。
角度が大切。集中して撮ると素晴らしい出来が。
「すげぇ!!紘菜、さすがだな!!」
「でしょ?明日にでも送信しときなよ」
「おう。愛してるよって文字も付け足すわ」
人の心を何だと思ってるのか。最低な私達。
でも、こんな性悪なことしてる瞬間が楽しくて愚かだとわかっていても生きてるって実感できる。
私は愛を知らないで育った。
父親は仕事を転々とし、朝からお酒を浴びるように飲み、母親と私に手をあげた。
外に女をたくさん作り妊娠させては、中絶費用を母親に要求する。
やがて離婚が成立し母親は、スナックを経営し夜の女に染まっていった。
何度も言われた。紘菜を産まなきゃもっと楽に生きれたと。
私は泣いた。
泣いたら泣くなと怒鳴られた。
母親には何も求められないと知った私は、学校で友達をたくさん作った。
初めてできた親友の恭子は、親に私みたいな家庭の子とは付き合っちゃだめだと言われて離れて行った。
他の子もみんな。
中学の時は何かもが嫌で、雨の音が大好きな暗い女の子だった。
いじめにもあい、上履きにはマチ針や画鋲が毎日入っていて、そのマチ針で指を指したら鮮血が滲んだ。
心は死んでるのに生きてるなんて不思議だった。
それから、生きてる証拠が欲しい時は手首や腕を切るようになった。
こんな危うい私に、別のクラスの男子が告白してきた。
クールなヤンキーでシブメン。私はすぐにその気になり嬉しくて仕方なかった。
けど、それは罠だった。
中3の夏に彼氏の先輩数名に車に乗せられ、山奥でレイプされた。
妊娠はしなかったけど受けた心の傷は大きい。
今でもトラウマになっている。
それでもまだ幸せを諦められなくて何度か胸が焦がれるような恋をした。
一人は、二股で、もう一人は既婚者で、もう一人はDV男だった。
それから思った。私が一番好きになる人は危険な人なんだって。
だから、大して好きでもない人と付き合う。
その他に適当に男遊びをして男からの刺激を楽しむ。
それでも好きになってしまったらセフレでいればいい。
なら裏切りも何もないから。
私は傷つくことばかりで、その傷を肥やしにし自分を成長させたいなんて思うイイコちゃんじゃない。
誰かを傷つけたい。傷つけたら、罪悪感と達成感が半分個。
あの頃の可哀想な私と同じじゃない。一人じゃないわ。
私、腐ってる。
「ねぇ紘菜」
考え事をしてると清人が明るい声で話しかけてきた。
ドキッとした。男は怖い。いつ豹変するかわからない。
トラウマを抱えながらも居場所もなく、懲りない私は男遊びを続け、今は清人が目の前にいる。
「なに?」
「明日は金曜日だね!金曜は次の日休みだし、紘菜とゆっくりできる」
「そうだね」
「明日なんか料理してよ」
「はぁ?彼女でもあるまいし!彩希に作ってもらいなよ」
清人は黙った。清人は綺麗な顔立ちをしてる。
俯いても、実に様になる。
「...彩希より紘菜の方ずっと好きだし。前にも言っただろ?俺は基本、人間不信で女作っても裏切りや終わりがくるのが怖いけど、こんな関係なら安心できるって」
そうだ。
清人も私と同じような家庭環境で育ち、内容は異なっても様々な裏切りを経験している。
「もう...嘘だかホントだかわかんないけど、カレーならいいよ!何故なら私が食べたいから♪」
「お~いいね!めっちゃ楽しみだ!...あとさ」
「なに?」
「俺たち恋人以上夫婦未満でずっといようよ!」
「はっ?なにそれ?」
「いいの。だからセフレじゃないからね。恋人以上だからね」
そう言ったあと、清人は私の肩を抱き寄せ、唇を重ねてきた。
清人のちょっと渇いた唇。
私の肩をなぞる長い指先。
清人の匂い...
好きだよ。清人に恋してる。
だけど怖いから愛は永遠に私の中では無の存在。
愛はないけど、恋してる...
翌日。仕事が終わり、足早に自宅に帰るとスマホに着信が。
清人かな?
着信画面を見ると、サトくんだった。
私は彼氏、岩倉悟(さとる)のことをサトくんと呼んでいる。
「もしもし?」
『もしもし、仕事終わったの?』
「うん。サトくんも?」
『ああ。紘菜はこれから飲みに行くの?』
「うん」
『帰ったら一応電話して』
いつもの会話だった。どこ行くの?帰ったら電話して。
だよね...一応、彼氏だもん、彼女のこと気になるよね。
そう思いながら私は着替え出した。
ボーダーのニットワンピに着替え、鏡の前に立つ。
清人、ガジュアルなんだけど女の子らしいの好きだよね。自然と口角が上がる。
もうサトくんのことは頭の片隅にもなかった。
一時間後。清人が私の家の前に車で迎えにきた。
早く会いたかった気持ちを押さえつけながら助手席に乗り込む。
「お疲れ様、清人」
「お疲れ様、さあ!カレーの材料を買いに行くか!」
私たちは、スーパーへ向かった。
スーパーに着き、清人がカートに買い物カゴを乗せる。
「何かいいな!俺達、夫婦みたいだな!」
夫婦未満って言ったくせに…
私は嬉しさの半面不満足だった。でも矛盾してるか。私は結婚は生涯しないつもり。
私一人くらい結婚しなくたって、何の問題もないわ。
「ねぇ清人、私ねチキンカレー派なんだけど普通は豚肉だよね?」
「いやいや、どっちでもいいよ!奥様のお好きなように♪」
「まったく (笑)」
やっぱり清人といると楽しい。
私はお肉売り場へ行く前に、玉ねぎやじゃがいもをカゴに入れた。
そして人参を選び出した時、隣に見慣れたゴツい手があって、焦って顔をあげた…
その手の主は、サトくんだった。
私は慌ててその場から逃げた。
「おい!紘菜~どうした~?」
「いいからこっち!」
清人を手招きし、サトくんから見えない場所へ立った。
「…彼氏がいたの!あそこ!」
私はサトくんを指差した。
あれ...?誰かと話してる...
あの女...サトくんの腕を組みだした...
あの女...見たことある。背が高くて鼻が高くて小顔で...あっ!彩希の妹だ。
何なの?サトくん。二股だったの?
サトくんもやっぱり、そうゆう人だったの?
「紘菜、大丈夫か?…あの女連れの奴でしょ?」
「うん…。笑っちゃう…他にも女がいたなんて」
私だって悪いことしてるけど、だけど...
勝手に心が絶望する。
頭が重たくなる。やっぱり皆、裏には黒い事情があるの?
その日、清人の部屋でカレーを作った。
私を心配する清人が手伝ってくれた。
カレーを食べたあと、何度も清人に抱いてもらった。
サトくんを消して、全部忘れさせてと。
今日は土曜日。お店は混み合っている。
いつもなら少し余裕がなくなるけど、今日はピアスをさりげなく耳元にあて鏡に姿を映す女性たちが微笑ましい。
私は愛されている。
だから今は心にゆとりがある。
昨日、清人から沖縄の海の写メが送られてきた。
彩希のことばかり考えてるよ。今度は二人で沖縄にこようね。愛してるよ。
メールには、こう書かれてあった。
胸がいっぱいになり清人をもっと好きになる。
紘菜の言うとおり、信じることが愛だよね。
私は清人を信じる...
やがて勤務時間が終わろうとしていた。
そういえば祐希、昨夜は帰ってこなかった。
岩倉さん..だけど岩倉なんていっぱいいるし、金曜日にデートするカップルなんて山ほどいる。
冷静になれば、紘菜の彼氏の岩倉さんとは限らないと思ったけど今日、祐希が家にいたら何気に聞いてみよう。
二年前に彼氏と別れてから、あの子から恋の話なんて聞いてないしね。
帰り道。地下鉄に乗るためにホームに立っていた。
明日、清人が帰ってくる。早く会いたいな!
清人を想いのぼせていると後ろから名前を呼ばれた。
「中島!」
私が振り返ると見覚えのある顔が…
「やっぱり中島か!さっき◯◯ビルから出てきただろ?」
「あっ…上杉?」
それは、高校の時のクラスメイトの、上杉康平だった。
上杉とは縁があるのか3年間、同じクラスでくじ引きで決める席替えでも、何度も隣になった。
「おぅ。久しぶりだな。てか化粧濃いな~ (笑)
あのビルで働いてるの?」
その時、地下鉄が来たので上杉と一緒に乗り席が空いてたので隣り合わせで座った。
「うん!アクセサリーの販売してるの。上杉は?」
「おれは○○デパートに就職して、今は衣料品売り場にいるよ」
「そうなんだぁ。こんなに近くにいたんだね!」
「ホントだな」
上杉は私の目を見つめてくしゃっと笑った。
笑顔に味があり、焼けた肌にキリッとした眉。
高校の時のままだ。実は、上杉のことを好きな時期もあったりした...
「中島は独身?」
「うん……あっ上杉、結婚してるの?」
「いや、独身だよ。俺達も28なんだよな…」
「うん」
「あっ連絡先交換するか!」
私たちは地下鉄が停車した時に連絡先を交換した。
「今度、飲みにでもいこうか!…あっ清水とは連絡とってる?」
「あっうん」
「あいつは結婚した?」
「ううん」
「そっか!じゃあ俺、次だから!今度なっ!」
上杉は下車して行った。
上杉、紘菜のこと好きだったんだよね。
だから、告白できなかった。
せっかくの再会なのに、紘菜の名前が出てテンションが下がる。
…いいの。過去は過去で現在は清人がいる!
「ただいま~」
自宅に帰りリビングに入ると、お母さんだけがいた。
お父さんは仕事柄帰宅が遅い。
「おかえりっ!今ご飯出すわね」
「祐希は?」
「もう帰ってきて部屋にいるわよ」
祐希は美容師だ。帰りが早い日もあれば遅い日もある。
私は、お母さんの手料理の煮込みハンバーグを素早く食べた。
祐希に早く話を聞きたかったから。
急いで食べながらも今度、清人に煮込みハンバーグを作ってあげようと胸がキュンとしてた。
食事を済ませ、祐希の部屋の前に立つ。
コンコン…
「はぁ~~い!」
「私~入るよ~」
祐希の部屋に入ると、祐希は雑誌をベッドの上で横になりながら読んでいた。
「なしたの~?」
「いや…昨日、帰ってこなかったからさっ」
「もう大人だもん、そんな日もあるよ」
そう言いながら祐希は、はにかんでいた。
「…彼氏できたんでしょ?」
「うん!そ~なの」
祐希は嬉しそうに返事をし雑誌を閉じ体を起こした。
「何よ。いつから?」
「…ん~一ヶ月くらい前に、飲み屋で知り合って付き合うようになったのは最近」
「ふ~ん、相手は何歳?」
「それがね!私より10歳も上なの!意外でしょ?でも若く見えるし格好いいし背も高いし、優しいし、職業も安定の公務員!」
ズキッとした。
祐希が25だから、岩倉さんが35だし丁度10歳上。
公務員で容姿端麗で優しかった。
「あら、いいね…名前は?」
「えっ?名前まで聞くの?」
「うん、名前は基本でしょ」
「はぁ。岩倉さんだよ」
やっぱり...
「下の名前は?」
「下まで聞くの?…えっと悟さん!岩倉さんって呼んでるけどね」
…確定だ。紘菜の彼氏の岩倉さんだ…
なぜ?あんなに紘菜に夢中なのに。私の妹をどうするつもり?
「お姉ちゃん(笑)怖い顔して!羨ましいんでしょ!!」
言った方がいい?
でも...言えない。
こんなに恋して幸せそうな目をしてる今の祐希には...
「あ……ちゃんとした人柄の男の人かなって心配になったの」
そう言うと祐希は目を丸くした。
「まっったく問題ないから♪ホント誠実で一途だし真面目だし!…日頃、真面目に働いてきて、何にも良いことないなって嘆いてたけど、頑張ってきて良かったぁ…
神様から、こんなに素敵なご褒美があったんだもん!」
祐希の瞳に嬉し涙が浮かんでいた。
小さな頃は泣き虫で、私のあとばかり着いてきてた祐希。
確かに立派な大人になったけど、私にとっては、いつまでも可愛い大切な妹。
胸がねじれたように痛い…
「そっか…」
「うん!私は見る目があるから大丈夫だけど、お姉ちゃんが心配!」
「…大丈夫よ。心配いらないよ。…じゃ、行くね」
私は、祐希の部屋をあとにして、自分の部屋に入ると熱い涙がこぼれ落ちてきた。
言わなければならない。
深い傷にならないうちに。
祐希に本当のことを。紘菜にも最近、彼とはどうか聞いてみたい...
ああ、自分だけ幸せでも、大切な人に問題があるとテンション下がる...
~♪~
あっライン?
ラインを開くと、清人から帰ったよとメッセージがあった。
私も清人のラインに返事をすると、明日うちまでおいでと返信がきた。
嬉しい...清人にやっと会える!
お土産は?
ちんすこう、海ぶどう?...一番安いものだったらがっかりだな。
いや!気持ちだから、どんなものでも笑顔でありがとうって伝えたい。
祐希のことを気にしつつも、清人でいっぱいになる私。
その夜は、興奮してあまり眠れなかった。
日曜日。睡眠時間が少なくとも好きな人に会えると思うとエネルギッシュになる。
今日は、煮込みハンバーグを清人に作ろうと思うので材料を買って清人のうちに向かうことにした。
スーパーで材料を買って車に乗り、大好きな清人のアパートに向かう。
信号が赤になる度にバックミラーで前髪や顔をチェックした。
やがて清人のアパートに着く。合鍵はもらってないのでチャイムを押した。
♪ピンポン
ドキドキする。顔がにやけちゃう!
「あい」
清人が出てきた。...何だか不機嫌そう。
「…久しぶり!もしかして寝てた?」
「うん」
清人は眩しそうに目を細め、頭をかいた。
「…今日ね、煮込みハンバーグ作ってあげるね」
私は、買い物袋を清人に見せた。
「おっいいね!」
清人が眠そうながらも嬉しそうに微笑む。
その微笑みに安堵する私。
部屋に入って、ソファに座り少しゆっくりしてた。
清人とは何度会っても緊張する。
「じゃあ私作るね」
「あっうん。あのさ、これに氷入れて」
清人はウローン茶らしき飲み物が入ったコップを私に渡す。
こういう気兼ねない頼まれ事にキュンとする。
「うんいいよ♪冷凍室開けるね」
冷凍室を開けた。...あれ?タッパーがある。
料理なんて全くしない清人。私は中身を開けた。
...カレー。
「清人…カレー作れるの?」
私は思わず聞いた。
「いやぁ。料理は一切だめ!」
「だって、冷凍室にカレーがあるよ?」
私がそう言うと清人は右眉を動かし、ぎょっとした表情を見せた。
「…あ~思い出した!ずっと前に一回だけカレー作ったことあったわ!その時のだよ」
しばらく沈黙が流れたあと清人が言った。
「そっか…」
清人の言葉を信じればいいのに、自信のない私は、女の影を疑ってしまう。
複雑な思いでハンバーグを練っていたその時。
清人が後ろから抱き締めてきた。
「会いたかったよ」
「…」
ドキドキしすぎて言葉にならない。
「あっ…」
「どしたの?清人」
「言っちゃった…思わず会いたかったって言っちゃった。真剣に好きになると自然と言葉に出るんだね…」
「…清人」
嬉しい…嬉しい…疑った時間は無駄だった。
清人は、ちゃんと私を愛してくれている。
幸せが私の中でいっぱいになり、料理も完成してテブールに並べた。
「お~うまそう!」
「えへ。食べてみて」
「うん!いただきます!...うっめぇ!」
「よかったぁ!」
私を愛してくれて、私の料理を美味しいと食べてくれる...
「なぁ、彩希」
「な、なに?」
心臓がバクバクする。
「ごめん…お土産買おうって張り切ってたのに、腹壊して時間なくなって買えなかった…」
あ...そうなんだ...
「そうかそうか!仕方ないよ!気にしないで!…あの綺麗な海の写真で十分だから」
一瞬でも、プロポーズかと期待した自分が恥ずかしい。
「あ~ごちそうさん!うまかった!なんか食ったら眠くなってきた…」
そのまま清人はソファでウトウトしだした。
「清人…寝ちゃうの?」
せっかく会えたのに...
「うん、鍵閉めなくていいから、帰っていいからね」
「えっ?」
「俺、明日から仕事だし夜はゆっくりできないから」
「だけど…一緒にいたい」
「んああ、眠いんだよ!眠い時は話かけるな」
さっきまでの幸せが嘘のように、今は悲しい気持ちになっている。
やっぱり不安になる。ホントに私が好き?
こういうのを振り回されてるっていうんだよね。
どうしたら楽になれる?
土曜日。
「彩希に連絡したの?」
「ああ、明日の16時にうちにくる。…あの子はねぇ、結婚したくてたまんないから、明日は料理でもしてアピールしてくると予想」
「はぁ。あんた腐ってる…私もだけど (笑)」
「腐ってないよ。オリジナルなだけだよ俺達は。あっお土産ない理由は何にすればいい?」
「適当にごまかすって言ったくせに…う~ん、買おうとしたらお腹壊して買えなかったでいんじゃない?」
「流石!嘘がくせになってる紘菜は返答が早いねぇ。そいうや彼氏にあのこと聞いてみた?」
「いや、様子見てみる。あっそうだ!」
私は清人の部屋のソファに置いてある鞄を、ベッドから出て取りに行った。
私たちはセックスをしたあとだった。
「おい!裸だぞ~」
寝室から清人の声がする。
その声を無視して、お財布の中のあるものを探した。
清人もベッドから出てくる。
「なにしてんの?」
あった!
「うん?明日、美容室行こうと思って。予約するの」
「髪の毛切るの?その綺麗な長い髪を」
「ちょっとね!あと前髪つけようと思って」
清人と話ながら、美容室に電話をした。
「もしもし?あの予約したいんです。はい。明日の13時位。はい。カットとカラー。はい。えっと、中島さんでお願いします」
彩希の妹は美容師で数回、妹の美容室へ行ったことがある。
...少し話をしてみたい。
「中島って?もしかして」
「うん、彩希の妹」
「うわ~こぇ~文句言いに行くのか?」
「ううん。ジリジリと攻めるだけ」
「やっぱ女はこぇ~わ。…でも紘菜の新しい髪型と話聞きたいな~明日の夜会える?彼氏と過ごす?」
「遅い時間なら平気」
「オッケー、じゃあ彩希を早めに帰すわ」
私たちは汚れた話を繰り返していた。
「もしもしサトくん?今日美容室行った後にさ、たまに外食でもしない?
その美容室の近くに、美味しい韓国料理店があるの。うん。◯◯駅の近くに16時くらいでいいかな?えっ?駐車場あるよ、
うん。はーい」
翌日、サトくんを彩希の妹の美容室の近くの料理店に誘った。
彼女の勤務先を知ってるのかしら?
それにしても真面目そうなサトくんがねぇ...
今も、嬉しくてたまらなそうな声を出してたくせに。
「やっぱりわからないものね」
私は一人言を呟きながら美容室へ向かう。
美容室、シャイニー。着いた。
♪チャリン
ドアを開ける。
「いらっしゃいませ!」
「13時に予約してた清水です」
「清水様ですね、こちらへどうぞ。今、担当の者が来ますので少々お待ちください」
ホントに少々だからね~…私は席に着いたあと、雑誌を読んで待っていた。
「すいません!おまたせしました~」
「あっ」
私は顔を上げた。
「紘菜さん!お久しぶりですね♪」
キラキラした笑顔で私に話しかける。
幸せでいっぱいってところね。
「うん!色々言ったけど、祐希ちゃんのカットが一番うまいってわかったの」
「え~~!嬉しいです!ありがとうございます!えっとカラーの色はどうします?」
「前に来た時と同じ色で」
「はい!少しお待ちくださいね」
しばらく立ち、また祐希が来た。
「塗りますね。染みたりしたら言ってくださいね」
「はい」
「ホントに柔らかくて綺麗な髪の毛ですよね~羨ましいです」
「いやいや、私はキラキラしてる祐希ちゃんが羨ましいな」
「えっ?」
「会わない間にグンと綺麗になっちゃって…もしかして結婚が近いとか?」
祐希の頬が若干赤くなっているのがわかった。
「いや、結婚は決まってないけど結婚したいなって思う人ができました。
まだ付き合ったばかりなんですけどね」
「へぇ!いいね!彼氏は何歳なの?」
「…35なんで10歳も年上なんです!でも彼氏凄く若く見えるの」
「35か…サトくんと同じだ。あっ私の彼氏、サトルって言うからサトくんって呼んでるの?」
「えっ?私の彼氏もサトルです…」
「あらぁ!まぁよくあることだよね。彼氏の職業は?」
「公務員…区役所で働いてるんで、休みは合わないからあんまり会えません」
「そっか…てゆうか私の彼氏も区役所で働いてる…家は西区なんだけどね」
「えぇ??私の彼氏も西区に住んでます!…なんか重なり過ぎてこわい…」
一気に祐希の輝きが薄れていく。ふ~ん、男からの安心感ってこんなに女を左右させるんだ。
「同一人物だったりしてね」
「えっ?」
祐希が眉を下げて不安でたまらないといった感じで鏡に映る私を見つめる。
「うふふ。冗談よ!たまたまよ。それに結婚したい位、好きな彼氏なら信じないと」
「あっ…ですよね」
「でもね、男って真面目そうなのに限って、いい歳しても遊んでる奴がいるから、ちゃんと見極めないとね。
祐希ちゃんも私も」
「…二股かもしれないってこと?」
「ううん!数うちいる女の一人になっちゃだめってことよ。あと性欲処理係になってたりとかね」
「…」
弱ってる。この子、うぶなのねぇ。ふふ。
「ごめんね、言い過ぎた。でも祐希ちゃんみたいな真面目な子は遊ばれたりしないから大丈夫よ」
「そうですかね」
「うん、自信もたないと魅力のない子になっちゃうよ?」
その時、祐希はハッとした顔をした。
「ですよね!暗い顔してたら幸せが逃げちゃう…」
祐希は、真実も知らずに今の恋が最後の恋だと願ったような顔をした。
やがてカットをしてもらう。
「前髪はどうします?」
「あっここくらいまで切ってほしいの」
私は瞼の上を指差した。
「はい。…前髪短くすると若返りますよね」
「うん、ところで、今の彼氏とはどっちから告白したの?」
「最初に会わない?って誘ってきたのは向こうですけど、告白は…私からです」
ふ~ん。
「そうなんだ!料理とかはしたりした?」
「あっこないだカレー作りました」
「そっか。私の彼氏は人参が苦手なの」
「えっ……、私の彼も人参食べてたけど苦手みたいです…また被りましたね…」
「あはは!ホント同一人物かもしれない!…あっできたね。ありがと!やっぱり祐希ちゃんはカットがうまい!」
「ありがとうございます…」
ふふ。困惑してる。それにしても前髪をつけると、あの頃の私に似てる...
そして会計を済ませ外へ出た。
16時前。美容室でカラーやシャンプーに時間がかかったから丁度良かった。
「はっ………」
その時、左手に強いしびれを感じ鞄を落としてしまう。
慌てて右手で拾った。
道路の向こうにサトくんの車がある。
向おうと歩き出すも左足も痛いくらいしびれ何故か体が汗ばんでいた。
そのうち治まると念じながら、彼がいる車へ笑顔で近づいた。
「サトくん、おまたせ~」
サトくんの車の助手席に乗り込んだ。
「あっ前髪切った!幼くなったね」
サトくんがデレデレとした笑顔で言い人差し指で私の頬っぺたをつっついた。
「そう?あっあそこなの!韓国料理店!駐車場もあるよ」
「オッケー!」
サトくんは、祐希の勤務先を知らないのか、清々しい顔で車を走らせ駐車場に車を止めた。
店内に入る。
ナチュラルなアンティーク調の店内が、落ち着きを与えてくれる。
店員に席を案内され、向かい合わせになり座った。
「ここのチヂミと海鮮チゲ鍋が美味しいの」
「そっか、じゃあ頼もう」
その他もメニューを決め、料理が運ばれる。
「おいひほ…ほ」
あれ?上手く喋れない...
顎がかくかくする...
「あはは!紘菜、何どもってんの?」
「…」
「俺は車だから、酒飲めないけど紘菜、飲みなよ」
「うん」
私は黒胡麻マッコリを頼んだ。サトくんはウローン茶。
二人で乾杯しお酒を飲むと顎のカクカクが薄れてきた。
一体何なんだろう...
まあ、それより。
「今日ね、彩希の妹が美容師やってて、その子にやってもらったの」
「そうなんだ。上手だね」
サトくんは、これから私から出る言葉を知るわけもなく、チヂミを美味しそうに頬張った。
「祐希ちゃんって言ってね、25歳なんだ。彩希よりずっと綺麗よ」
「…えっ、ああ」
「それがね、祐希ちゃん最近、彼氏できたみたいなんだけどサトルって名前で区役所勤務の35歳で西区に住んでるんだって!
サトくんと被りすぎ (笑)」
「…」
サトくんの顔が歪む。
箸も止まる。
「ねぇサトくん…会いたかったの。手を握らせて」
サトくんは、少し恐れた顔つきで右手を私に差し出した。
私はサトくんの手を両手で握り、さっと手首にも触れた。
「あれ?あれあれ?すんごい脈早いね!なんでこんなに動悸があるの?」
ふふ。脈拍は嘘をつけないわね。
さあ不器用なサトくん。私に会えてドキドキしてると嘘を言えるかしら?
「…ごめん」
サトくんは俯き謝り出した。
「えっ…?どしたの?」
「…」
なかなか言葉が出ないサトくん。
「どうしたのよ」
「いや……祐希ちゃんって彩希ちゃんの妹なんだね」
「えっ?祐希ちゃん知ってるの?……もしかして祐希ちゃんの彼氏って?」
「ああ…。ちょっとだけ会う機会があって、告白されて断れなかったんだ!
…でも必ずはっきりと彼女に言うから!好きなのは紘菜だけなんだ!」
「…そんな…もしかして…やった?」
「…」
「やったんでしょ!」
「…ごめん」
私は悲しそうなふりをした。
「サトくん…私が悪いのよ」
「はっ?」
「きっと私じゃ物足りなかったのよ」
「違う!それは絶対に違う!…ただ紘菜の気持ちがわからない時があって不安だったんだ」
「…じゃあ、やっぱり私も悪い。サトくんを不安にさせたんだもの。
でも…これからは信じあおうね。そしたらもうこんなことにならないよね?」
「うん…絶対にもう、こんなことはしない約束する」
私は、あっさり彼を許した。
そんなに好きじゃないから。
動揺もしないから。
ただ、変なプライドが二人を野放しにはできなかった。
傷付いたら誰かを傷付ける。
これで、昔の哀れな自分が報われるのよ。
その日は少し気まずいままサトくんに送ってもらい、そのまま別れた。
「うっーけっけっ…ハァハァ…うっっ」
私は自宅に帰りもがいていた。
突然、胸に何かがつかえて苦しい。
吐き出したくても吐け出せなかった。
どうしようもなく、ワインを飲みだした。
すると胸の違和感が薄れていく。
お酒をたくさん飲まないと、また不可解な体の不調が出そうで、クビグビ飲んだ。
これから清人と会うというのに、お酒が止まらなくて意識がもうろうとするまで飲んだ。
一人で酔っ払い、ソファでぐったりする。
「お父さん………、お母さん………」
もうろうとしながらも、何かを呟いているのはわかった。
次第に、目の前に青い光りが広がった。
「なぁにこれ?」
怖くて目を閉じても青い光がチカチカする。
「お母さん………助けて…………」
そして清人との約束を果たせないまま、そのまま眠ってしまった。
清人は寝息をたてて眠ってしまった。
殆ど話もしていない...
過去に付き合った男みたいに、起きて~って気軽に肩を揺さぶれない。
なんというか..波長?みたいなものが清人は私よりずっと高い。
ただただ遠慮してしまう。
けれど好き。これが最後の恋にしたい。
何度も清人の名字を自分の名前に乗せてみたり、結婚式のことを勝手に妄想したりした。
私の好きの方が勝ってるんだ。
けれど、料理をしたり気をつかったりしてるから、ちゃんと考えてくれるよね?
清人の寝顔を見ながら、きりなく切なくなった。
今日...抱かれたかったのに。
「はぁ」
私は深い溜め息をつき、手を洗いたくて洗面所へ向かった。
洗濯物が難雑に干してあり、ワイシャツを伸ばしてあげた。
ちょっとだけ、自分が清人にとって特別な存在なんだと、その行為に心が慰められる。
そして手を洗おうとしたその時。
清人の洗顔クリームの横に、あるものを見つけた。
やだ...これって...
それはブルガリの女性用のネックレスだった。
とっさに、あることが頭の中をよぎる。
紘菜..紘菜が今の仕事の前に、水商売をしてる時に言っていた。
『クリスマスにお客さんからもらったんだ。欲しかったから嬉しい!』
そう言ってこのネックレスを胸元に光らせ、指でいじっていた。
まさか...そりゃ同じものを持ってる人はたくさんいるけど...
これが女の勘なの?紘菜のものに違いない気がする。
ショックで動悸がする。足が震える。
私は洗面所から出て、清人に問いただそうとした。
だけど、起こしたら嫌われそうでできない。
結局、そのままネックレスを鞄にしまい、清人の家をあとにした。
すぐに家に帰りたくなくて、カフェで一人でお茶したり一人きり、あてのないドライブをした。
駆け足で秋が近づいていて、優しい風が花や緑をなびかせている。
そんな穏やかな景色を眺めると泣けてきた。
浮気されていたらどうしよう..
でも!ネックレスがあるんだもん、そういうことだよね。
私が清人と会えない間、清人のことばかり考えてのに、清人は私じゃない女と笑って過ごしてたの?
胸が…痛い…
今日、祐希が帰ったら聞いてもらおう。
それに祐希にもホントのこと言わなくちゃ。
私は、しばらくして自宅に帰り、部屋のベッドに潜り込んだ。
気がつけば、眠っていて夢をみた。
清人と綺麗な海を眺めてる夢を。
やっぱり、私だけだったんだ。幸せで満ち溢れてる。
夢なら覚めないで...
けれど、あっけなく目が覚めた。
そして現実を思い知る。
ーガチャガチャ!バタンー
あっ!祐希、帰ってきた?
部屋に入ったよね?
私は自分の部屋を出て祐希の部屋へ向かう。
「うっうっうっ…」
あれ?泣いている?
コンコン♪
「祐希~どうしたの?開けるよ…?」
ドアを開けると、ベッドにもたれかかっている祐希がいた。
「祐希…」
「…」
祐希はディッシュで涙を拭った。
「私、振られたの…!笑って…?…あんなに浮かれてたのに、あっという間に終わっちゃった…」
祐希...
「それも岩倉さん彼女がいたの!…お姉ちゃんの友達の紘菜さん!
私には、ただ魔がさしただけだったって。
私、バッカみたいだよね…」
「祐希…」
「それも紘菜さん、今日うちの美容室に来たの。
きっと何か知ってたのよ!!」
「えっ…?」
祐希の話によると紘菜は、祐希の彼氏と紘菜の彼氏に共通点が多いと話が進んだけど終始、焦る様子もなく冷静だったとのこと。
たまに貫禄のある主婦みたいに余裕で嫌味もこぼしていたらしい。
絶対、紘菜は真実を知ってて、祐希をちょっと苛めてやろうと思ったに違いない!
紘菜も被害者だけど、昔から沢山彼氏がいる女だもん。
さほど堪えてないはず。
「はぁ。思いきり泣いて喋ったらスッキリした…でも男ってわかんないもんだね」
祐希は、だいぶ落ち着いたものの遠い目をしてた。
こんなことになるなら、すぐに言えば良かったと後悔。
私の今日の出来事も祐希に聞いてもらった。
「ネックレス?…紘菜さんのかはわからないけど、家に女がいたことは確かだね」
「うん…それに岩倉さんも私も、金曜日に清人や紘菜に相手してもらえないのよ。
祐希も岩倉さんに会うの金曜日が多くなかった?」
「まさしく…」
「…だから、やっぱり沖縄旅行も紘菜と行ったか、旅行は嘘で紘菜と一緒だったんじゃないかな…たまたま岩倉さんに、紘菜のこと電話で相談されて、清人が旅行期間、紘菜も用事があるって言われてたみたいだし」
「あ~っ旅行は嘘よ。車会社だっけ?清人さんって。わざわざ休暇とって旅行なんか行かないって」
「だよね…。でもさぁ、好きなんだよね…」
私がそう言うと祐希は厳しい顔つきをした。
「よくわからない人って追いかけたくなるんだよ。
でも、そんな人とずっといれる?いつも不安でさ。ハラハラしてさ。もっと優しい人がいるよ」
祐希の言うことはよくわかる。けれど心がついていかない。
けじめがないのはわかっていても…好きな気持ちが溢れてる。
「でも、お姉ちゃん紘菜さんムカつくね!」
「うん!近々飲みに誘って一言いってやるわ」
本当のことがわからなくても、あのネックレスの持ち主は紘菜な気がしてならなかった。
会って、ネックレスを無言で渡してやる。
さすがの紘菜も青ざめるでしょう。
あんな奴!どうか不幸になってほしい...
木曜日。紘菜を飲みに誘った。
いや、本当は金曜日を希望したけれど用事があるからと木曜日になった。
清人から日曜日に別れて二日間連絡がなく、私から連絡しないと終わってしまいそうで不安が押し寄せ、私から連絡した。
清人にも金曜日は断られた。
土曜日の夜、うちに来いよと言われた。
昼間にドライブをしたり、映画をしたり、ありきたりだけど私が強く望むデートはしてくれない。
何のために月に二回、仕事を土曜休みにしてもらってるのかわからない。
清人は私に時間もお金も使わない。
これが俺の恋愛のスタイルだと彼は言う。
清人がそう言うなら信じたい...
私は仕事を終えて、化粧直しをし紘菜との待ち合わせ場所へ向かった。
鞄にはブルガリのネックレスが入っている。
駅の改札口で待ち合わせたので、人混みの中、紘菜の姿を探す。
「彩希!」
探していると名前を呼ばれた。振り返ると紘菜だった。
何だかやけに、やつれていた。
仕事あとで疲れてるのだろうか?
「…紘菜、久しぶり!どこのお店いこっか?」
「彩希の行きたいお店に行こうよ」
この優しいようで、面倒なことを丸投げするところもムカつく。
不意に紘菜の顔を見ると、やつれてるけど、やっぱり可愛いなと思った...
美人ではないけれど、小動物系の顔立ちにキメ細かな柔らかそうで白い肌。
思えば、少しだけ紘菜に憧れていた。
だから、遊びに誘われた時は嬉しかった。
親しくなれるんだって。
でも違った。紘菜は男に出逢う場所へ行くために私を利用してただけ。
わかっていながらも、紘菜と一緒にいた。
気づけば強い紘菜の要素を盗み、気の強そうな生意気な自分が居座りついた。
そんな私を紘菜は見下すように、変わったねぇと言った。
嫌いよ。本当の友達にもなってくれなかったし私を見下すから。
「じゃあ…沖縄料理店でも行く?」
「あっいいね!いこぉ!」
清人が沖縄へ行ったので、つい沖縄料理を思い付いた。
一度だけ職場の人たちと行ったことがあるお店へ紘菜と向かった。
予約してなかったので心配だったけど、平日だったので無事に入店。
丁度、壁側の席に案内された。ゆっくり話せそう。
「奥いいよ」
紘菜は通路がない席を私に譲った。
こんな風に、気が利いてお姉さんみたいな紘菜が好きだった。
でも今ならわかる。紘菜の場合は、全てがうわべだけで水商売だったし相手に花をもたせたり何かを譲るのがうまいだけ。真心なんて一切ないはず。
そして私たちはオリオンビールといくつか料理もオーダーし、ビールが運ばれてきた。
二人、偽りの笑顔で乾杯する。
何から話そうか...
「祐希ちゃんから聞いたんでしょー」
私が黙ってると紘菜から口を開いた。
「…聞いたよ。紘菜、岩倉さんと祐希のこと知っててわざと祐希をからかってやろうとしたんでしょ!」
私は口調がキツくなっていた。
「そうだよ~だって、人の彼氏と遊んでんだもん。いい気分しないでしょ」
「だからって、性欲処理係とか下品なことを祐希に言ったんでしょ?てか岩倉さんには本気なの?」
「世の中そういうこともあるってことを教えてあげたのよ。サトくんとは真面目に付き合ってるよ」
「じゃあこれは何よ!」
私は、テーブルにネックレスを少し感情的になって置いた。
「ん?ネックレスだね。…何でそんなに怒ってるの?」
「これ…紘菜のでしょ?」
「はっ?意味わかんない。たしかに同じのは持ってるけど…なしたの?」
紘菜は、きょとんとしてた。
嘘をついている。
「清人の家の洗面所にあったけど」
「えっっ…まさか、私のだと思い込んで、清人と私が浮気でもしてると思ったの?」
「ずばりそうでしょ?実は、岩倉さんから紘菜のこと相談されてたの。電話でね。金曜日はまず会えないって。…清人も絶対金曜日は会えないの。
何かあるでしょ…?」
だんだん怒りから悲しみに変わってきた。
「だってうちの会社、金曜日飲み会多いんだもん…それに会える時に会えばいんじゃない?彩希ってクリスマスに会えないと不満を抱くタイプでしょ?」
「それが普通だと思うけど」
「私は会える時に会えばいいと思う。こだわりを持ってると自分が苦しくなるし。あっそれにそのネックレスは私のじゃないよ?
何なら今日、うちに泊まる?うちにあるから見せるよ」
「いいよ…わかった。紘菜はドライだね」
「でも…ネックレスがあったのは気になるね」
何だかホントに紘菜のではなさそうだ。
じゃあ誰の?どっちにしても浮気だね。
信じたいのに...何でこうなの...
「…清人、浮気したのかな?」
「う~ん、でもさ、憶測をたてるのはキリがないよ。…もうこの際、他にも男作れば?そしたら清人への不安が半減するかもよ」
さすが紘菜…不純なことばかり言うよね。
「いいよ…あっ!そういえばさ、こないだ地下鉄で上杉に会ったの!覚えてる?」
「上杉……ああ、うん彩希、仲良かったじゃない」
「別に仲は良くないよ。席が隣になる機会が多かっただけ。上杉、紘菜のこと好きだったんだよ」
紘菜と話ながら気づけばビールを4杯も飲んでいた。
「えーっそうなんだ。全然嬉しくないけど(笑)
私同い年は興味ないしさ。で、その後、遊んだりしたの?」
酔っぱらってきて私はフワフワしていた。
「ううん。今度飲みに行こうって。私、上杉のこと好きだったのにな」
お酒のせいで口が軽くなる。
「えっっそうだったの?上杉は独身?」
「うん」
「じゃあ狙いなよ。今度飲みに誘ったら?」
「う~ん。一人じゃ誘いにくいし今誘っていい?途中で紘菜、帰ってくれる?奢るから!」
普段では言えないような私にしては大胆なことを提案した。
「あはは!うん、途中で帰る。てか店変えない?」
「うん!このビルに焼酎バーがあるの。そこいこうか。あっその前に上杉に電話する」
私は気が大きくなり、上杉に電話をした。
「あっもしもし?上杉?…急にごめんね~!今何してた?うん…えっ!飲み会の帰り?うんうん」
上杉は飲み会の帰りで近くに居るらしい。
バーに直接来てくれることになった。
「来てくれるって!」
「よかったね!じゃあ移ろうか」
酔いが回って紘菜を嫌いなことを忘れていた。
上杉に逢える。
意外に彼が運命の人だったりして。な~んてね。
私達は、焼酎バーに入店し四人用の席に着いた。
二人で泡盛を頼む。おツマミにドライフラワーとミニエビグラタン。
「このグラタン美味しいね!」
私は上機嫌だった。
「あっ」
すると上杉がお店に入ってきた。
「上杉こっち~!」私が手を振る。
「おいおい中島真っ赤だな。かなり酔ってるな。…あっ清水、超久しぶり!」
「久しぶり~変わらないね」
上杉は私の隣に座りお酒を頼んだ。
また会えて彼氏もちなのにドキッとした。
三人で現在の話をして、数杯お酒を飲みながら盛り上がる。
私は物凄く気分が良かった。
「私はそろそろ帰るね。二人はごゆっくり」
約束通り紘菜が席を立つ。
「えっ清水、帰るの?」
「うん、明日も仕事だしね。あっこれ」
紘菜は私に三千円を渡してきた。
「いいよ…」
「ううん、ココ、置いとく!じゃね!また飲もうね!」
紘菜は、お店から出ていった。
奢るって言ったのに…ちょっと帰ってもらったりもしたし申し訳なくなる。
こうして上杉と二人きりになった。
「清水って、どんな仕事してんの?」
「ん?事務員だよ。見かけに寄らず堅い仕事だよね」
「ふ~ん、てかさ中島、飲みすぎだよ。俺達も帰ろ?俺も明日仕事だし」
「えぇ?まだいいじゃない!あと一時間!」
「や~…俺も帰るわ」
「そんなぁ」
せっかく二人になれたのに帰ることになった。
確かにけっこう飲んだのだけれど...
お会計を済ませ、お店を出た。
「あ~!夜の風が気持ちいい♪♪」
「おい、足元フラフラしてるぞ…もう終電ないな…」
酔っていながらも、その囁くような言葉にドキッとした。
「あっはいはい!」
その時、上杉がタクシーを捕まえる。
帰り道、同じだし一緒に帰るってことか...
タクシーの中って意外とドキドキする。
「ほら、乗れよ」
「は~い!」
先に私が乗った。
「じゃあな。住所ちゃんと運転手に伝えるんだぞ」
「えっ?ええ」
バタン!
そのままタクシーのドアが閉まり走り出した。
何で?上杉も同じ方向なのに...
何で?まさか...
祐希ちゃんの話は予想通りだった。
やっぱり妹は可愛いのね。一人っ子の私には想像でしかわからないけど。
それにしても清人...部屋にネックレスがあったなんて、他にも女遊びしてるのね。
不覚にも動揺したわよ。
悔しいけど私、彼女じゃないし。
悶々とした想いを抱えながら、ラーメン屋へ向かった。
体に悪いとはわかっていても飲むと無性に食べたくて。
その時。
「清水!!」
名前を呼ばれて振り返った。
「あれ?上杉…彩希は?」
「ああ、もうタクシーで帰ったよ。俺は歩いて帰れそうな距離で歩いてたら清水がいたから…どこ向かってんの?」
「あ…ラーメン食べたくなって…ココ!」
私はラーメン屋を指差した。
「おっいいね!俺も食いたい!一緒にいい?」
「うん!」
急にお一人様が変更になった。
ラーメン屋ののれんをくぐる。こじんまりしてて何となくホッとする。
空いている席に上杉と並んで座った。
「えっと!私は塩ラーメンと瓶ビール!」
「まだ飲むのか (笑) じゃあ俺は醤油と瓶ビール!」
二人でラーメンとビールを頼み、仕事の話やプライベートの話をした。
「えっその男ダメじゃん。浮気してたんだろ?俺なら清水みたいな彼女がいたら絶対そんなことしないけどな」
「うふふ。でも現実はこうだからさー」
私は自分も浮気してるくせにサトくんのことを責めた。
食べ終わり、会計したら上杉が奢ってくれた。
「ありがとう…」
「いえいえ。…またさ、会ってくれないかな?…って彼氏いるもんな」
「キャ!!!」
私はふらつき転んでしまいそうになり、上杉の腕にしがみついた。
「だ、大丈夫か?」
「うん…」
酔いが回ってきて、フワフワしていた。
横断歩道の前。昔、お母さんがせっかちにスタスタ歩くから待って待って…と追いかけたな。
「待って…」
「うん?どした?」
上杉は私の顔を除きこみ、私は顔を上げた。
横断歩道の前…上杉とキスをした。
人通りがある中、いい歳をした二人がキスを続ける。
意外に上杉はキスが上手かった。
だんだん激しいキスに変わった。
キスをしてるのに心の中は不安だった。
私を捨てた両親。母親は5年前に再婚し、他愛もないことで喧嘩してから一度も連絡をとっていない。
私はそれ位の価値なんだろう。
清人もまた他に女を作り、私とは終わらせるかもしれない。
また心に穴があく。
サトくんとは気まずいままだ。私を見る視線が最近怯えている。そろそろ安泰を求めるの?
みんな待ってよ...
「清水…」
その時、唇と唇が離なれ上杉が呟いた。
「帰したくない…」
そうね。上杉も男だもの。キスしたらしたくなっちゃうわよね。
いいわ。清人の温もりを上杉の温もりに変えて。
優しく抱いて。
その後、暗黙の了解でホテルへ向かった。
フロントで部屋を選び、上杉と手を繋ぎながら部屋に入る。
その瞬間、彼の首に両手をまわした。
数秒見つめあい熱いキスを交わす。
私、清人が嫉妬するようなセックスをこれからするわ。
「お風呂一緒に入ろうよ」
私は大胆なことを言った。
「いいの…?」
上杉はゴクリと唾をのんだ。
私は浴室に向い、先にシャワーを浴びお風呂に入る。タオルで体は隠していた。
その後、上杉も入ってきてシャワーを済ませ、一緒にお風呂に入った。
「泡ぶろ気持ちいいね」
私は笑顔で言った。
「ドキドキする」
「そうだね」
すると上杉は私を抱き寄せた。キスをして首もとから愛撫を始める。
「あ……」
次第に一番感じる場所に指が回り、私も上杉のモノを握った。
上杉は興奮し私を立たせ、後ろから彼のモノが入りひとつになった。
二人の声が漏れる。
清人...清人とは一緒にお風呂に入ったことないけど、私は今、こんなことしてるのよ...
それから...
ベッドでも体を重ね、そのまま二人で朝を迎え慌ただしくホテルを出て出勤した。
上杉とは連絡先を交換し、昼頃、また会おうとメールが来た。
メールの返事は返さなかった。
また私は彩希に関する人と関わりを持っている。
ほんの少しは悪いと思うけど、大半は気の毒にとしか思わない。
だって我慢して生きることなんてもう疲れたから。
好きなように生きていきたいから。
彩希が単に運が悪いだけなのよ。昔の私みたいにね。
私は昔、幽体離脱した経験がある。
まだ小学校低学年の私は、家で一人ソファに座っていた。
天井の角に離脱した私は、ソファの私をじっと見ていた。
胸が潰されそうに痛んだのを覚えている。
何て孤独そうな女の子なのだろう...
もう一人の私は私を傍観していた。ずっと越えられない孤独に苦しんだ私に思いやりなんて持てないのよ。
その日も淡々と業務を終え自宅に戻った。
19時に清人が車で迎えにきた。
清人は以前、車会社の営業課だったけど今はレンタカー部門に移り、仕事も定時に終わる。
「お疲れ様!」
清人の助手席に乗った。
「おぅ!今日は飲んだくれてなかったか(笑)こないだはドタキャンだったからな(笑)」
「すいませんでしたっ」
そのあと二人でケラケラ笑った。
「どっか飯食いに行くか?」
「いや、誰かに見られたら嫌でしょ?」
「…だな。じゃあ今日は、寿司でもとろう!奢ってやる!」
「やった~~!」
やっぱり清人といると楽しい。
でもあのことを聞いてみよう。
一体誰のネックレス?何て答えるかしらね。
「あっ…」
「紘菜どうした?」
「…いや、ちょっと」
何?この動悸は?...
火曜日に、サトくんに会った。
その時も動悸に苦しめられて、サトくんに伝えると、『ストレスじゃない?あんまりひどくなる様だったら病院だね。でも病院ってむやみやたらに薬出すからさ。自然に治って欲しいな。だって女は出産するから薬はダメだろ』
こう言って勝手ににやけていた。
誰が子供産むなんて言ったのよ!女=出産道具なの?
具合が悪くても私の体より出産なの?
私は、腹が立ったのと同時にサトくんにはがっかりした。
だから清人には体調が悪いって言いたくない..
同じことを言われたら悲しいから。また自分の価値がわからなくなる。
「大丈夫か?顔色悪いぞ?」
「ハァ…ハァ…」
私は目を閉じた。周囲を見ると酔いそうだった。
「もうすぐ着くからな!すぐによこになれ」
清人が心配してくれている。
冷たくされるのも嫌だけど、あんまり優しくもしないでね。
もっと清人を好きになっちゃうから。
遊びから始めたこの関係は、とんだ打算だった。
こんなにハマって行くなんて..
「着いた」
清人のアパートへ着き、支えられながら清人の部屋へ。
すぐにベッドに横になる。動悸と汗がすごかった。
少しして清人が寝室へ来た。
「これ…ホットミルク。飲むとホッとするかと思って」
清人は水色のマグカップを手に持ち、私を優しく起こしてくれた。
温かいミルクを飲む。
すると本当に動悸が和らいできた...
「ありがとう。もう大丈夫」
「そうか?でもどしたんだろうな?心配だよ」
清人は私の手を優しく握った。
「女だからさ、ホルモンバランスの関係かもしれない。でも大丈夫だよ」
「大丈夫って言う時に限って人間って大丈夫じゃないもんだよ。次、具合悪くなったら病院へ行くんだよ。土曜だったら俺も一緒に行けるから」
清人...やめて。優しくしないで。彼女もいてまた他に女もいるくせに。最低なあんただから最低な私は、清人の優しさでも心に沁みるんだよ。
そうだ。聞いてみよう。
「昨日さ、彩希と飲みに行ったじゃない?彩希から連絡きた?」
「……ああ。ブルガリのネックレスは誰の?ってメール来てたな」
「誰の?」
すると清人の目が左に動いた。困ってるわね。
「いやー、こないだ職場の同僚に合コン誘われてさ…俺、飲みすぎてさ。酔って大したことねぇ女をお持ち帰りしちゃった」
清人は頭をボリボリとかいた。
「ふぅん。新たなセフレですか?それとも、もっと位置付けは高いですか?」
「何で敬語なんだよ (笑) もう会う気はないけどネックレスは返さなきゃな」
「ふぅん…」
「あっ!焼いてるのか?…ごめんな…もうしないから」
「何でセフレの私に謝るの?(笑) 彩希に謝りなよ」
「だからセフレじゃないって。紘菜は俺の分身みたいな存在だもん。彼女だったら終わりが来るかもしれないけど、こういう関係なら終わりがこないだろ?」
それは私もそう思う..でも分かんないよ..未来なんて。
「うーん。まあ、私も昨夜、高校の同級生とエッチしたけどね」
「なに!?」
「あっ焼いてる?」
「ああ……!」
「お風呂でもしちゃった」
「はぁ?なんだよそれ?…セフレか?」
清人の顔つきが怖くなっている。
「ヒ・ミ・ツ」
「だめだ!二度と会うな!」
「清人に言われたくないし!」
「会うな!!」
そのあと清人は唇を強く重ねてきた。
私の肩をしっかり抱いて、壊れそうな程に強く、あたたかく。
「…あ、ごめん。肩、痛かった?」
「うん……痛い」
「ごめん、ごめん!ヨシヨシ」
清人は私の肩を撫でた。
「……うそっ!」
「あ~コノヤロ (笑) 」
また清人と笑顔を見せあう。
「今日は、エッチしないからな」
「えっ?なんで?」
「紘菜、具合悪くなったら困るだろ」
私たちってホントに不思議な関係。
清人の言うように、恋人以上夫婦未満なのかもしれない...
お互い汚れた部分と優しさに触れたくて仕方ない子供のような部分がある。
似た者同士の、秘密の恋。秘密だから盛り上がって生きているって実感する。
ある意味、燃え上がるようで孤独な恋。
お互いに愛を知らないから愛を知った時、どうなるの..?
「あっ紘菜、寿司、食えるか?」
「うんっ」
私達はリビングへ行き、出前のチラシを見た。
「一人前だとこの辺か」
「ううん!3~4人前のこれ!」
「はっ?こんなに?二人しかいないんだけど…」
「いいのったくさん食べたい!」
清人はしばらく私を見つめた。
「よし!食欲があるのは良いことだ!頼むか」
「賛成で~す!」
出前を頼み、清人とソファでまったりしてテレビを見ていた。
「ねぇ、彩希に何て言ったの?ネックレスのこと」
「あー会社の同僚の彼女のだって言った。…あの子は、信じられなくても信じたいくらい俺が好きだから大丈夫だろう」
「やっだ!自意識過剰」
♪ピンポン
そして出前が到着した。
「わ~いお寿司だ!」
「好きなだけ食え!」
「うん。いただきます」
私たちはお腹がペコペコだったので、たくさんのお寿司をペロリと完食した。
「食ったなぁ。あ~うまかった」
「ねっ」
私はグロスがずれたので、寝室にある鞄を取りにソファから立ち上がった。
「あっ…!」
「紘菜どうした?」
「…」
私は左足全体がしびれて歩けなかった。
そして悪寒もする。
なにこれ...
寒い...
足が異常に痺れて痛い...
「紘菜、足が痛いの?大丈夫?立てるか?」
清人の腕を掴み立ち上がる。
その瞬間、酷く胸焼けがした。そして呼吸が苦しい...窒息してしまう...!
「ハァハァハァハァハァハァ」
「紘菜?」
意識が遠退きそうになり、あまりにも辛くて言葉が出ない。
足が痺れどころか強くうずく。
現実感がなくなり、その時、私は思った。
突然死するんだと。
死が近づいている...
いやいやいやだ...
怖い、死ぬ時ってこんなに辛いの?
清人...
まだ一緒にいたい。ずっと一緒にいたい。
死にたくない!
私は唇を噛み締めた。
「紘菜? 深呼吸しよう」
清人が深呼吸を始め、私も微力ながら深呼吸を始める。
「スゥ…ハァ…」
死にたくない...
私は、頑張って声を出した。
「ホットミルク……ちょうだい」
「うん!待ってろ!」
清人が私から離れ、私はその場に立ち竦んだ。
私、病気なの?
もしかして...
ああ...!
気が遠退きそう!怖い!怖い!
額から汗が大量に流れ落ちる。
さっきと比べものにならない程の大量の汗。
「紘菜!ミルク!飲めるか?」
私はゆっくり首を縦にふった。
少しずつミルクを飲んだ。
ほんの少しだけ落ち着く。その時、昔のことを思い出した。
『誰も私の苦しみを理解してくれない!!!ギャーーーーー!!』
『お母さん?』
『ウァァーーギャーーー!!』
お母さんは発狂し、近くにあったハサミで長い髪を切り落とした。
幼い私は、お母さんに何が起こったのかもわからず、きちがいみたいな行動が怖かった。
お母さん病気だった。
病名、ノイローゼ。
薬を飲んでいたけど、良くなる兆しもなく、毎日何かに怯えた顔をしていた。
数年苦しみ、時期に自律神経失調症だとわかる。
今で言えば、パニック障害だ。
当時はパニック障害という病名はなくお母さんの友達の娘が同じ症状で、パニック障害と診断されようやく自分が苦しんだ病気がなんだったのかを知ることができた。
多分私もそうだ...
「紘菜?どうだい?」
「…」
とにかく辛い。コップを持つ手も痛い。震えも足元のうずきも止まらない。
またなったらどうしよう...耐えられないよ!
私は僅かな気力で、深呼吸を続けた。
結局、一時間くらいで治まった。
「紘菜、ただごとじゃないよ…明日病院行こう。でも何科だろう…」
「…私」
「ん?どした?」
「…パニック障害だと思う」
「えっ?」
「嫌だ?そういうの」
「いや!ネットで調べてみる!」
清人はネットでパニック障害について調べた。
「ホントだな…そうかもしれない。じゃあ心療内科へ行こう」
「ごめんなさい…」
「いんだよ!気にするな!さ、歯を磨いてもう寝よう。なっ?」
「うん…」
私は鞄から歯磨きセットを出し、洗面所の明かりをつけ歯を磨き始めた。
「はぁ…………」
その時、頭にビリビリと痺れやまた動悸が始まり、コップや歯ブラシも落としてしまった。
「紘菜どうした!?」
清人が慌てくる。
「…」
清人はコップや歯ブラシを拾い上げ冷静に私の背中をさすった。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
翌日、目が覚めてから私も何度も同じ言葉を繰り返した。
「私、生きてる。生きてるよ?あんなに辛かったのに生きてる!生きてる!!」
「紘菜、落ち着いて。病院へ行こう」
清人がしっかり私の肩を抱き車がある駐車場へ向かったその時。
目の前から歩いて来る人がいる。
その人は...
彩希。
上杉を呼んで飲んだあの日、上杉と親しくなりたかったのに、まったく意味がなかった。
私の予想だと紘菜が帰って、まるで追うように店を出て、紘菜を引き留めたんじゃないだろうか?
翌日、紘菜と上杉にメールしたら、紘菜からは真っ直ぐ帰った。上杉からは紘菜とラーメンを食べて帰ったと。
紘菜は嘘つき。
私に上杉を薦めて自分が親交を深めてるんじゃない?
その他にも何かあったりして。
仕事の休憩中、私は頭の中がぐちゃぐちゃだった。
清人との疑惑もあるし、土曜の午前にアポなしで清人の家に行ってみよう...
ホントに紘菜がいたら...私、立ち直れるだろうか?
だけど!この目で確かめたい。
そう決意した私は、仕事を終え、自宅に戻り清人に〈明日、16時くらいに行きます♪〉
とメールした。
その日、自分のことで頭がいっぱいだったけど、土曜の朝気が付いた。
祐希が帰ってないことに。
もう岩倉さんとは終わってるはずだし友達の家かな?
大して気にも留めず家を出た。
確かに私は清人と紘菜が浮気をしてるんじゃないかと疑いをかけている。
けれど単なる疑いで終わってほしい。
清人が好きだから。
そして清人のアパートの近隣のコンビニに車を止めた。
車を出て、清人のアパートの入り口へ向かう。
あっ...
「やだ……」
..........
私が歩いてると、入り口から清人と紘菜が肩を抱き合って出てきた。
心臓が破裂しそう...
やっぱりかという思いと、どうして?という悲しみと紘菜への憎しみで感情がもつれていた。
「彩希…」
清人が気まずそうに私の名前を呼んだ。
私は爆発した。
「どういうことよ!!!」
「…」
黙る二人。私は紘菜に近づいた。
「紘菜!!許さない!!!」
バチン!!!!!
私は紘菜を思いきり平手打ちした。
紘菜は額から汗を流している。けっこう小心者なのね!
「ごめん彩希、ちょっと訳ありなんだ。急ぐから」
清人は私を払いのけ、紘菜を車に乗せ、車が発車した...
足がカクカク震える。
清人...私、真剣に付き合ってたのに...
どうしたらいいの...
二人が乗った車が見えなくなって行く。
俯いたら、鍵が落ちていたので拾った。
もしかして清人の?
私は鍵を強く握った。手が痛む程に強く。
そして混乱状態のまま、清人のアパートに入り清人の部屋の前に立った。
ガチャガチャ。
鍵はかかっている。鍵穴に鍵を差し回した。
開いた...
息を飲み、清人の部屋に入る。
テーブルには寿司おけ。...二人で食べてたんだ。
私とはお寿司なんて食べたことないのに。
「あーーーーーーー!!!」
私は頭を抱え叫んだ。
恋をすると、不安はつきものだと言うけれど、こんな仕打ちってある?
酷い。酷すぎる。
絶望感でいっぱいになりながら寝室へ入った。
私を抱いたこの部屋で紘菜も抱いていたんだ。
心が溶けてしまいそう。
死んじゃいたい...それ位辛い。
伏し目がちになっていて、ふと視点を変えた時、清人のスマホが目についた。
忘れていったんだ。どうする?見る?見ない?
見て良いことはない...
だけど!
私は清人のスマホの中身を見た。
......
......
なに…これ…
受け入れたくない内容だらけだった。
やっぱり沖縄旅行は嘘。
海の写真はパソコンで検索し、パソコンの上から写真をとっている。
バカにしてる。
「うあーーーーーー!!!」
私はまた叫んだ。
この傷心はきっと乗り越えられない。
自分が惨めで仕方がない。
そうだ!岩倉さんに電話しよう!
二人のこと暴露する!
それにしても清人と紘菜は何処へ行ったんだろう?
デート?
岩倉さんに電話しようとするものの、だんだん放心状態になってきた。
それでもかけなきゃ。
ートゥルル~トゥルルー
『もしもし?』
「あ…岩倉さん?」
私は岩倉さんに、清人と紘菜のことを全て話していた。
岩倉さんは絶句していた。
お互い不信に感じていた金曜日は、やっぱり秘密があったのだ。
岩倉さんは紘菜と別れるかは分からないと言っていた。
私は?私は清人とどうする?
清人だって憎い...!復讐をしたい。
あの二人に。
でもどうやって?
それとも清人とは意地でも別れず本気で好きにさせた時に捨てる?
答えがでない。
私は、そのまま清人の部屋の鍵をテーブルの上に置き部屋を出た。
本当は鍵を閉めて鍵を棄ててやりたかったけど、こんなに酷い仕打ちを受けても清人から卒業できない哀れな自分がいた。
一人でいられなくて、高校時代の友達の、歩美をランチに誘った。
新婚の歩美は、専業主婦で子供もいない。
旦那さんは平日休みなので、土曜の今日は都合がついた。
歩美の家の近くまで車で迎えに行き、歩美が私の車まで歩いてきた。
歩美は正統派美人で高嶺の花タイプ。性格は大人しくて優しく冷静で賢い。
そんな歩美からなら、良い助言をもらえそうな気がした。
歩美が助手席の窓に顔を出したので、ドアをあける。
「ごめんね!歩美、突然…」
「ううん。暇だったから。でも暗い声でびっくりしたよ。どうした?」
「とりあえず最悪事態発生…どっかランチにいこうか」
「うん…」
歩美は心配そうな顔付きで私を見た。
泣いてしまいそうだったから、すぐに車を走らせ、舌を噛んだ。
私達はイタリアンのお店に入店した。
歩美と向かい合い座る。
「さぁ何を食べますか?」
歩美がメニュー表を渡してきた。
「イカスミパスタ…」
「はっ?彩希、イカスミ嫌いじゃない」
「何かね、もう死にたいの。暗い色しか浮かばないの」
「もう…あっこれズワイガニのトマトクリームパスタ美味しそう!私、これ。彩希は?ホントにイカスミでいいの?」
「カルボナーラ。私って顔は薄いけど内面がくどいんだよね…カルボナーラにする」
「はいはい」
歩美の顔を見ると安心したのか、少し余裕のあることを話せた。
「歩美…私ね、今ホントに辛いの」
「うん…わかるよ。清人くんと何かあったの?」
「うん…清人ね、他に女が居たの」
「えっ?妄想じゃなくて?」
「うん…清人のアパートから女と肩を抱き合って出てきたの見ちゃった」
「げっ!…でも何度か清人くんに会ったけど、あの人軽そうだもん…彩希には似合わないよ」
「でも好きになっちゃったから。それも相手は紘菜よ!ああ…ムカつく!」
「ホントに?……あ~でもさ紘菜って何か気持ちに色んなこと抱えてそうな子じゃない?紘菜が相手なら清人くんもそれまでの男よ」
「えっ?紘菜ってやばい感じする?精神が?」
「うん…腕にリストカットの跡があるし、確か母子家庭でお母さんもちょっと不安定な人って噂で聞いた。だから幸せな子じゃないし可哀想な人なのよ」
リストカット?お母さんも不安定な人?知らなかった...
「でも、これはこれよ!復讐したいの!」
「…だめよ。自分を下げるだけよ。きっぱり二人と縁切った方がいいと思う」
「嫌よ!泣き寝入りじゃない!」
「今は、そう思っても、いずれ素敵な人に出逢えば離れて良かったと思うから。
まぁせいぜい清人くんに、めんどくさい男だなって言うくらいね。
だって、めんどくさいじゃない。感情を振り回されるなんて」
「うん…」
あーあ、やっぱりイイ女の言うことは違うよね。
これを聞いて納得したなら私もイイ女の要素があるかもしれないけど、残念ながら私はイイ女じゃない...
「彩希は私の話を聞いてどう思ってどうしようと思う?」
「…その通りだと思うけど、すぐに踏ん切りはつかない」
「うん…だよね。あっ趣味を持つのもいいよ!気が紛れるから」
歩美は良かれと思って、助言を続けてくれるけど今の私には響かなかった。
「色々ありがとう。少し楽になった」
「そっか良かった。愚痴ならいつでも聞くからね」
パスタを食べてしばらくして私たちは店を出て別れた。
夕方前、清人との約束の時間。
私はその前に、ある決心をした。
清人とは意地でも別れない。必ず私だけを見てもらえる日が来るって信じる!
もっともっと料理も頑張って、聞き上手になる!
確かに彼が憎い気持ちもある。
けれど、それは愛情が強いからなんだ。
紘菜は純粋に憎い。早く私と清人から離れてもらう。
そして清人に電話した。
でない。
いい。直接行く。清人の家に。
清人のアパートへ行くと車がなかった。
まだ、紘菜と遊んでるの?
行き場のない想いを抱え、また清人に電話をした。
でない。メールをうった。
〈清人、話がしたい。電話に出て。このまま自然消滅されたら私、何するか分からない。
ブルガリのネックレスも私がもってるの〉
ネックレスだって同僚の彼女のではなかった。
こんな酷い男なのに...
結局、いくら待っても返事はなかった。
家に帰りご飯も食べれず部屋にこもる。
愛されない女、彩希。
自分が哀れで涙がホロホロ流れる。その時。
「お姉ちゃん、入るね。……あれ?泣いてる?どした?」
祐希が部屋に入ってきた。
「清人に女がいたの……それも紘菜……」
「…」
祐希は黙っていた。
「そうか…予想通りだったね」
何となく口調が冷たい。
「祐希、昨日はどこ行ってたの?」
「岩倉さんのとこ」
「えっ?振られたんでしょ?」
「うん……でも忘れなれなくて。家に押し掛けた。また復縁した」
「……はっ?紘菜とはハッキリ別れてないじゃない」
「…いいの。こうじゃなきゃならないとか、こうじゃないと不謹慎とか、そう言うきれいごとは無視する!
好きな人と一緒にいたい。馬鹿でも惨めでも気が済むまで突っ走る」
「祐希……、私も…私も祐希と同じ!」
「…私わかったよ、お姉ちゃん。上手く行かない恋愛がどれだけもどかしいのか。だけど傷ついても誰かを傷つけても一度きりの人生だもん。諦めたくないよね」
「うん…!」
祐希の言葉が私の背中を押した。
私だって突っ走るんだ。
気が済むまで...物事の本質的なことは忘れることにする。
それにしても何て哀れな姉妹なのだろう。
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