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あの人が俺の前に現れた

レス201 HIT数 113643 あ+ あ-

自由人
16/06/29 14:57(更新日時)

俺は異性を好きになったことがない。

30年間生きてきたが、
まるでわからない。

だが、何だかおかしいんだ。
あの人は何者なんだ?

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No.2019517 13/10/30 15:13(スレ作成日時)

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No.151 15/07/02 13:33
自由人 

Mは静かな口調だった。
一生懸命話しているが
決して興奮しない。激情しない。

この冷静で論理的な話し方に
俺は惹かれる。
年上の魅力を感じる。

俺はMよりずっと年上の女とも関係をもっている。

だが、
ここまで論理的に落ち着いて話せる女はいない。

だいたいが、
感情的になる。
冷静を装っても、怒っているのがわかる。
そして
客観視ができない。
視野が狭い。

二言めには、
なんで!
どうして!
最低!
なんていう単語を吐き捨てる。

歳は関係ないということだな。

俺はMに決定的なことを言われているわけだが、
その話し方に魅了されて
ますますMを気に入ってしまった。

No.152 15/07/03 09:11
自由人 

料理が運ばれてくると
Mは店員にニコリと笑い
ありがとうございます
と言った。

今まで真剣に話をしていた時の顔を
サッと変える、
その切りかえの速さ。
そこにも魅力を感じる。

さあ、食べよ!
今日は、時間もないし!

Mは明るく言って
俺にフォークを渡してくれた。

Mは食べながら言った。

でもね、
私、J さんを信じたわけじゃない。
私は人を信じるのが怖いの。
あんなにニコニコ美味しそうに
私のつくるご飯を食べ、
私の身体を求めてきた旦那が
浮気してたんだから。
人なんて、
いくらでも口ではうまいことも言えるし、
なんでもできる。
そのショックからは立ち直れない。
J さんが、いくら私を好きになってくれたとしても
哀しいけど、信じられないの。

私はもう
誰かに依存して裏切られるのが
いやなの。

あ、関係ないけど
あなたね、ちゃんと鏡みたほうがいいよ。
またキスマークついてるよ。
前もそうだったよね。
私はあの時にあなたを諦めておけばよかった。
なんで
嫉妬しながらも、あなたをわかろうとしたんだろう?
今キスマークを見ても
嫌な感情はあの時と同じ。
あなたは、私じゃなくても
誰でもいいんだから。


そこからは何も話さず
黙々とMは食べ続けた。

俺は

あの女だな。
いつもキスマークをつけるのは…。
と、人妻のことを思い出していた。

No.153 15/07/06 13:15
自由人 

そうだ。
俺たちはいつもこの繰り返しだ。

俺は他の女を抱かなければ
生きていけない。

Mは自分だけを愛してほしい。


俺もMだけをみて
Mだけを抱いて生きていければ
どれだけ幸せだろうか…

今までの、
俺の生きているということを証明する保険を
全て解約することができるのだろうか…。

女たちとのセックス…
俺がここに存在する証。
生きていると実感できる行為。
最も最短な手段。

俺はそれをMのために捨てられるのだろうか…。

No.154 15/07/06 22:39
自由人 

そんなことを考えていると、

Mは口を開いた。

ごめん。
あなたには、あなたの傷がある。
私にも私の傷がある。
こればっかりは
私の思いであなたを縛れないし、
あなたもまた
私を縛ることはできない。
こんなふうに
私の感情をあなたにぶつけてごめんね。
私、
正直いうとイライラしてた。
浮気した旦那にも
他の人と寝るあなたにも
こんなろくでもない女をデートに誘うJ さんにも。
自分の気持ちもよくわからなくて
なにもかも、なかったことにしたくなるの。
ちょっと不安定だよね。
八つ当たりしてごめん。


いや、俺は
八つ当たりだと捉えてないよ。
あなたはいつも
人が理解しやすいように話ができる。
俺は、そういうところが
気に入ってるんだよ。

俺がそう言うと、
Mは恥ずかしそうに少し笑った。

No.155 15/07/09 15:57
自由人 

俺は、
Mと一緒にいられる時間が大事だったし、
一緒にいることが、幸せだった。

もちろん、Mを失うことなど
考えたくもなかった。

Mが他のやつを好きになったとしても構わない。
俺との時間さえ作ってくれたらそれでいい。
会っているときは
間違いなくMは俺と居るのだから。

Mは俺をどうするつもりだろう。

俺はまるで
自分が迷い猫か、捨て猫のようにみえた。

誰に拾ってもらえるか
ブルブル震えながら待っている
みすぼらしい猫のよう。

同情でもいい。
Mに拾って抱いてほしかった。

だからといって
俺は自分を変えられない。








その日、別れてからは
Mからの連絡がパタリと来なくなった。

何度も俺からラインやメールを送ろうとしたし、
電話もしようとした。

だが、できなかった。

なぜか怖かった。
Mが俺を拒否したら…
否定したら…


俺はきっと消えてしまうだろう。

No.156 15/07/13 15:49
自由人 

仕事もそれなりに忙しかった。
だから少し気は紛れた。

J 先輩は
気のせいだろうか、
俺とは正反対で
今までよりイキイキと仕事をしている気がした。
もしかしたら、Mとうまくやっているのかもしれない。

だからといって、
Mに確かめたりするのは
相変わらず怖かった。

だが、Mのことを知ることができない状況も怖かった。

俺の心は
荒れていた。

他の女で満たそうとした。
誘ってくる女と
片っ端からセックスしてやった。
デートもした。

Mとした、キャッチボールまで
他の女としてみた。

そうするたび、
俺はますます荒れていった。

他の女といると
とてつもなく疲れてしまった。

ただ、セックスの最中だけは
俺は俺を取り戻した。

誰でもいい。
もっと顔をぐちゃぐちゃにして
俺を感じ、声をあげればいい。
セックスは
特別なものでも、愛の証なんかでもないんだよ。
ただの行為だ。
軽々しく淫らに求めあえる快楽の行為。



M…
俺は、あなたに会いたい。



No.157 15/07/21 13:03
自由人 

俺は
体調を崩して仕事を休むことになった。
熱が下がらぬまま3日間、
ろくに物も食べられずに寝込んでいた。

多分J 先輩からきいたのだろう。

Mから、ラインが入った。


お仕事休んでるんだって?
大丈夫?

久しぶりのMからの連絡に
俺はホッとしたし、嬉しくて
多分少しニヤけたのかもしれない。

Mの顔と声を一気に思い出し
会いたくてたまらなくなった。

俺は、熱にうなされていることをいいことに
素直なラインを返した。

だめ。
あなたにきてほしい。
看病して。


Mがそばにいてくれたら
俺はきっとそれだけで
ずいぶん長く生きられるだろうと思った。

No.158 15/07/24 12:03
自由人 

看病してくれそうな人、いないの?
あなたが呼び出せば
喜んで来てくれる女性はたくさんいると思うんだけど…。
こういうときは甘えてみたら?

Mからの返事だった。


来てくれそうな女性?
多分、いるだろう。
でもそれがなんだ?
セフレになにを求めるというのだ。
一緒の空間にいても
なんの安らぎにもならない女を
ここに呼んでも意味がない。

Mはわかってない。

No.159 15/07/31 07:19
自由人 

俺はあなたに甘えたい。
他のひとには何の期待もしない。


そう返信するだけで精一杯だった。


しばらくしてMからの連絡。

おうち、どこ?
何かほしいものは?


朦朧とする意識のなか、
俺はやっと救われる思いがした。



どのくらい時間がたっただろうか。
チャイムが鳴った。


Mだった。

久しぶりのMの姿、表情に
俺は自分が何者か忘れてしまった。

Mを部屋に引き寄せると強く抱きしめた。

大丈夫?
ほんとに熱い…

Mは俺を布団に寝かせた。

No.160 15/08/01 11:28
自由人 

気がつくと、後頭部のあたりが
ひんやりしていた。
部屋の中は
なにやらいいにおいがしている。

男のむさくるしい一人暮らしの部屋に
あたたかい空気が流れていて違和感がある。

いつのまにか眠ってしまったんだ。
Mが来てくれたところまでは覚えている。

そのあとは…?と考えていたところで
Mがベランダから入ってきた。

どうやら、俺の臭い下着まで洗濯してくれたらしい。

Mが

おはよ。
どう?調子は。
だいぶうなされてたけど。

と言ってクスッと笑った。

え、うなされてた?
何か言ってた?

俺がきくと

うん、
言ってたよー、
『M~…M~…』って
わたしの名前を何度も呼んでた!

そう言って、また
うふふと笑った。

俺が、
そうか、そんなこと言ってたのか…
と考えていると

Mは

うそうそ。
ジョウダンだよ。
静かによく眠ってた。

また笑った。

俺の額に手を当てると

あら。だいぶ下がったみたいだね!

と言った。

Mがそのまま立ち上がろうとするから、
俺はとっさにMの腕をつかんだ。
Mの身体が俺の上によろめいて覆い被さった。

ああ、やっと
近くにいられる…

俺はしばらくMを抱きしめていた。
Mは抵抗せずに
静かに俺の頭をなでてくれていた。

No.161 15/08/07 11:29
自由人 

Mといるときだけに感じられる安心感。
いや、安心感という言葉だけでは
おさまらない。

俺は
この気持ちが何者なのか、
知っているようで、知らない。
というより
知らないふりをしていたほうが
ちょうどいいように思えた。

愛してるなんて言葉は
安っぽすぎて
使いたくない。当てはまらない。

俺は、だから
愛を知らないのか。

俺の中にわく感情はただひとつ。

食べたい。

無性に、

Mを、

このまま食べたい。

最後まで生きていられるように
指の端から食べてやりたい。

俺は

Mが自分の中に入り、
自分と一体化するさまを
想像していた。

一生涯許されることのない
俺の欲望だ。

No.162 15/08/11 09:35
自由人 

ねえ、食べる?


Mが俺の耳元で言うから驚いた。



雑炊作ったんだけど、食べる?


訂正版(?)がきこえて
ああ…雑炊のことか…。
俺はホッとしたような。
期待はずれの正解に一瞬落ち込んだような。
部屋のいいにおいの正体がわかって
すっきりしたような。
いろんな気持ちで

うん、食べる。

と返事をした。


じゃ、用意するね。

Mは俺から離れようとするが
俺はまだMを離したくなかった。

うん、食べたい。

俺は相変わらず返事だけするが
腕はMを抱きしめたままだった。

じゃ、用意するね。

Mは笑いながら言った。
俺が離さないから、おかしいらしい。

うん。お願い。
食べたい。

俺も相変わらずMを抱きしめたまま答える。

んもう、どっちなの?

Mは俺の耳元で笑っている。

俺は思わず言ってしまった。


あなただよ。あなたを食べたいの。

No.163 15/08/13 10:17
自由人 

こんなおばさんを食べたいの?
もうヨボヨボシワシワの割には
へんな脂はついてるし…
きっと美味しくないよ?
もっと、若くてピチピチの女の子を選んだ方がいいと思うよ。

Mは少しも驚かない様子で
たのしそうに言った。

俺は、

あなたは、ヨボヨボでもシワシワでもないし
本当に魅力的だよ。
たとえ、あなたがもっと歳をとって
おばあちゃんになっても
きっと俺はあなたを食べたいんだと思う。
他の人の肉なんて食べたくないんだよ。
あなたを食べたいの。

本気で話した。

No.164 15/08/14 06:35
自由人 

Mは
今度という今度はしばらく黙りこんでしまったが
静かにこう言った。

うん。じゃあ、また考えておくね。
わたしもまだまだ
生きなきゃいけないから
今すぐ食べられてしまっては困るし。
とりあえず今日は
雑炊を食べておいてよ。


それは、俺が一番満足のいく答えだった。
俺はやっとMを優しく解放した。

Mは俺から離れる時に
俺の顔を優しく撫でて
今度は目をあわせてニコッと笑った。



ねえ、
J 先輩とはうまくいってるの?

俺は、台所に立った後ろ姿のMにたずねた。

Mはチラッと俺を振り返って
また少し笑った。

Jさんは本当にいい人だね。
わたしのこと、真剣に考えてくれてる。
一緒にいて楽しいし
お付き合いしてもいいかなぁと思ってる。
でも、まだ踏み込めていないの。

雑炊の準備をしながらそう言った。


俺は、まだ正式に付き合っていないことに驚いていた。


もう付き合っているのかと思った。

つい俺が言ってしまったら、

Mは

誰かと真剣に付き合っていたら
こんなふうにあなたのところには来ないよ?

ちょっと眉間にシワをよせて言った。



雑炊はうまかった。
久しぶりにまともなものを食べた。

風呂に入っていなかった自分の身体が
急にきもちわるくなり
俺はシャワーを浴びた。

No.165 15/08/15 07:31
自由人 

全身の汗を洗い流して戻ると、
Mは、雑炊やらの洗い物をすませ
帰り支度をはじめていた。

Mは俺に気づくと

そろそろ帰るね

と言って、またニコリとした。

俺は

もう少し居てよ

と頼んだが、Mは

これ以上一緒に居て、
食べられちゃったら困るからさぁ…
逃げるように帰るわけ。

そう言って笑い、立ち上がった。


俺は思わずMを抱きしめると言った。

今日は食べたりしないよ?
あなたの匂いをかいで、
あなたを舐めて
あなたの顔を見ていたいだけ。


そのあとは、
俺たちはもうどちらからともなく
キスをしていた。

Mの一番弱い耳から首筋にかけては
いつものMの匂いがしていた。
俺はたまらなくなって
それを全部嗅ぎとるように匂いをかぎ
全てを舐めた。
耳の中を舐めると
Mの力が抜けていくのがわかった。



すごくいいにおいだよ…

俺が思わずそう言うと

Mが首を振ってこたえた。

おばさん臭しか…しないはず…。




それをきいて俺は


そんなんじゃない…

と言ったが、
言うのが面倒くさいくらいだった。
そんなことよりも
Mの全てを舐めつくし
Mにおばさん臭などと言わせないようにしたほうが早いと思った。

Mの感じる顔も、声も、
反応も
久しぶりで懐かしく、
俺は
いつも以上に興奮していた。



Mが何度も絶頂をむかえ
何度も俺にしがみつき
その力も弱くなってきたころ
俺も果てた。
本当はもっともっと苛めたかった。

本当はこのまま
食べながら殺してしまいたかった。

俺は今回も
我慢した。

そのかわり
Mの生きている息づかいをきき
Mの肌のぬくもりを感じることの幸せをかみしめた。




No.166 15/09/17 00:21
自由人 

Mが帰ったあと
俺はMの匂いが残る部屋で、すっかりよくなった体調を不思議に思いながらくつろいでいた。

ふと、携帯が鳴る。

セフレからの連絡だ。
今度の相手は、現役短大生。
胸が大きいのが魅力だが、あとは何とも感じない。
顔は好みではない。
何かと俺を神のように敬い、俺が雑に扱えば扱うほど、まとわりついてくるような女だ。

あの…明日あいてますか?

短大生は甘ったるい声で聞いてきた。

会えるよ。何時にする?

俺は即答した。
久しぶりに、短大生の大きな胸を弄ぶことを考えていた。
俺を求めてくる女たちの多さ。
俺はそこに優越感さえ感じていた。

No.167 15/09/17 09:55
自由人 

待ち合わせ場所に車で迎えにいく。

短大生は、胸元の大きくあいたブラウスと
ヒラヒラのスカートという出で立ちで現れた。

いかにも、セックスしてください
と言っているような服装だ。

俺を見ると会釈をして
車に乗り込んできた。

いつもの場所でいい?

俺は短大生にきくと、返事など聞かないうちに
発車させた。
車の中はお互い無言で、短大生は緊張している様子だったから
俺にしては珍しく少し気を利かせて世間話をしてやった。
短大生は甘ったるい声で
うふふと笑っている。


ホテルについて部屋に入ると
久しぶりだからか、短大生は
何やらもじもじしている。
その初々しさに
俺も少し興奮してきた。

こっちにおいで

俺が誘うと、嬉しそうに俺に身体を預け、
短大生は甘ったるい声で言った。

あの…わたし
他の人ともしてみたんです…エッチなこと…。
でも、あんまり気持ちよくなくて…。
あなたとしてる時の感じが忘れられなくて、
それでまたつい、連絡しちゃいました。

そう。それでいいと思うよ。
君はまだ若いから、いろんな人としてごらん。
俺を思い出したら、連絡くれればいい。
俺がまた君に教えてあげるからね。

俺はそう言いながら
短大生の服を乱暴に脱がした。
そこからは、俺の気分でやり方をかえる。
優しく快感に浸らせてやることもできるが、
俺の本性は別のところにある。

こいつを泣かしてやろう

俺の粗悪な部分が顔をだし
初々しい女を痛めつける。

悲鳴に近い声をあげながらも
快感に酔いしれている短大生をみて、
こいつは、俺のすることに何でもついてくる女だなと思った。

あああ…!
壊れちゃう…!ダメ!痛いっ!きゃあぁ…!

短大生が顔を歪ませて
泣き出した。

俺はますます興奮した。
その顔を踏み潰してやりたかったが、
さすがにそれをしたら
次回に繋がらなくなると思い、やめた。

No.168 15/09/17 11:40
自由人 

こんな俺について来られない女は去っていく。
そうでない女はまた次も連絡してくる。

俺の、正体不明なところに
魅力を感じるという女もいる。

苛められるプレイにハマる女もいる。

もちろん本気で恋してくる女もいる。
ストーカーまがいのことをしてくる女もいる。

出会いは様々で
飲みにいった先でたまたまそうなることもあれば、
友人からセックスの相手を探していると紹介されることもある。

一人去っても、また一人、また一人と
セフレはわいてくる。

俺は自分の存在だけを確認できればいいのだから、
誰かに必要とされれば
それだけで意味があり、
それを断ることは、俺自身の存在を否定することになるのだからそれはしない。

求められたら求められたぶん応える。
だが、執着はしない。
思い出したりもしない。
自分から呼び出そうとも思わない。

そう。
M以外には。

今まで自由奔放に生きてきた俺の
最大の変化はそこだ。

なぜかMには執着し
Mを失うのは恐怖であり
Mには常に会いたいと思う。

そこが自分の感情ながら不思議なところなのだ。

これは、
多分誰にもわかってもらえないだろう…




俺は、

〈また必要とされるように〉
短大生のケアをし、
フォローをする。

それでも離れていくやつは仕方ない。


短大生はありがたいことに、

なんか、今日はすごく激しくて刺激的でした。
わたし、こういうのも好きです。
また連絡してもいいですか。

そう言っていた。

No.169 15/09/19 11:58
自由人 

短大生を送るために
ホテルを出て車に乗り込んだ。

プライベートなところまで詮索しない。
セフレの家がどこだろうが、
俺には関係のないことだ。
待ち合わせた場所まで送っていく。

別れ際、短大生は何を思ったか

あの…キスしてくれませんか

と俺に頼んできた。

俺はなんの躊躇もなく
女の首に手をまわしキスしてやった。
軽く済ませるつもりだったのに
女が俺の背中にしがみつくから、
自然に深いキスになってしまった。

長いキスが終わると
短大生は軽い挨拶をして降りていった。

さて、と。

俺は発車させようとして
ギクッとした。

Mが、いた。

もちろん車の外に。
道を挟んだ向こう側に。

こんな偶然あるものなのか。
なんのイタズラなのか。
俺の頭の中は少しパニックだった。

見られた…?


Mはこちらを見ていた。
俺と目が合うと
なんともいえない顔をして
歩いていってしまった。
車の進行方向とは逆のほうに。

No.170 15/09/21 11:25
自由人 

俺は真っ白になった頭の中を
どうすることもできずに
車を発進させていた。

Mを追うことなんてできなかった。

Mのことだ。
またきっと俺から離れていくに違いない。

俺はどうすればMを引きとめることができるか、
その言い訳ばかり考えていた。

どんな言葉を並べても
今回はきっと
Mは俺に失望したに違いなかった。

昨日の今日だしな…。

体調が悪くてMに見舞ってもらったくせに
今日の俺は他の女とイチャイチャ…
許せるはずがない。

他の誰に見られてもどうってことのない場面だったが、
やはりMだけには
見られたくなかった。

この、後ろめたく、取り返しのつかない感情は
やはり俺にとっては特殊なもので、
自分自身に興味がわくくらいだった。

…が…

そんなことをいっている場合ではないことは
何となくわかっていた。

だが、俺にはどうしようもなかった。

言い訳をするわけにもいかず、
開き直るわけにもいかず、
俺はただ
自分勝手であろう感情をMに知ってほしかった。

Mに離れてほしくない。

ただ、それだけの思いで過ごした。

No.171 15/10/14 15:25
自由人 

それから1週間。
俺は
何度も何度もMの顔を思い出しながら過ごした。

短大生とのキスを見られた…

その大失敗を悔やんだ。

Mは多分、もう、許してくれない気がした。
いや、
俺たちは付き合っていない。
だからどんな表現が適当なのかわからない。

俺は本当に、バカだ。
今までにないくらい落ち込んだ。


その落ち込みに、
追い討ちをかけるような知らせが届いた。


その日仕事に行くと、
J 先輩が朝からニヤニヤ話しかけてきた。

俺さ、ついにオッケーもらったよ!
Mさんと付き合えることになった!


ああ…
俺は、どんな顔になってるのだろうかと思ったが
隠すこともできず

おめでとうございます

と言うのが精一杯だった。

No.172 15/10/15 08:01
自由人 

その夜、俺は我慢できなくなり
Mに電話をした。

もしもし…

Mは出てくれた。


電話したくせに、
話したいことがまとまっていなかった。
何から話せばいいかわからなかった。


J さんから聞いたよ。
付き合ってるんだって?


そう言ってしまってから
ああ。これじゃない。言いたいことは。
と思ったが遅かった。



うん。
付き合うことになったよ。


Mからの短い返事は、どこか冷たかった。


Mは、無言でいる俺にイライラしたのか、
自分から話し始めた。


わたし、本当は、
あなたと居たかったよ。
だから、あなたのところにも行ったし…。
でも、
あなたは、やっぱり
わたしだけを必要としてくれない。
前からわかっていたけどね。
でも、実際見てしまうとなんだか…
一気に目がさめてしまったよ。
わたしにするように、
他の子ともキスしたりセックスしたり
デートしたり食事したりしてるんだよね。
なんだか、それが
とても哀しいというか。
わたしには、やっぱり無理なんだなと…


そこまで話して
Mは言葉を詰まらせた。

No.173 15/10/16 15:50
自由人 

俺は、いつだって
Mが特別だよ?
他の女には何も感じない。

そう俺は言ったが、Mは

でも、それが本当だという証明は誰もできない。
あなたの心の中は、あなたにしかわからない。
口では何とでも言えるかもしれない。
演技だってできるかもしれない。
わたしの旦那だって…
浮気しながらも、私を好きだの愛してるだの
言っていたんだよ?
私を抱いていたんだよ?
私はすっかり信じていたの。
でも、
真実は違ったんだもん。
あなたのことだって、
いったい何を信じればいいっていうの?
私じゃなくても、あなたは
やっていけるじゃないの。
本当はJ さんだって信じられないよ。
でも
もういいの。
私は誰も信じない。信じたふりをするだけ。
裏切られたときのショックを和らげるために。
それでもいいの。
J さんと付き合っていれば、
何かが見えてくるかもしれない。
あなたのこともきっと忘れられる。
誰とも付き合わないと言いながら
私を大切だと言い、
私に執着し、
それなのに、他のひとを平気で抱けるあなたのことなんか
早く早く忘れたい。
それだけよ。
あなたのこと、なんにもわからないわ。
なんにも理解できない。
いつまでたっても、この繰り返し。
私は、ずっと寂しいまま。
私だけを必要としてくれる人がいないんだから。
だからもう
あなたとは、おしまいよ。
連絡先も消してね。

声を震わせて一気に話した。

俺は、
ギュンとしめつけられる胸を
どうすることもできなかった。

No.174 15/10/19 08:05
自由人 

今までだって何回も
Mが俺から離れそうになったことはあった。

俺の性癖が理解されずに…。

だが、なんとか繋ぎ止めてきた。

Mの優しさに甘え、キャパに甘え。
俺は自分を押し通してきた。

それがずっと続けばいいと
自分勝手に思ってきた。
俺は、
Mのために
自分を変えようなんてしなかった。


でも、いま
まさに目の前でMが俺から去ろうとしている。
それが、キツかった。

今までにない後悔が
どっと俺の胸に押し寄せた。

俺はなぜ人を大切にできないのか。
せめて
失いたくない人くらい
大切にできたらよかったが。
いや、
俺のなかでは
今までになく、大切にしてきたつもりだった。
言葉にも出してきた。

だが、根本的なものを
変えられなかった。




無言の俺に、
Mは言った。


今まで、ありがとうね。
あなたの全てを受け入れられずにごめんね。
あなたと一緒に居られたことは
本当に楽しかったの。
不思議だった。
家族になりたかったな。
あなたには
やっぱり幸せになってほしいよ。
ちゃんと
人を好きになり、愛せたらいいね。
もし、
願いが叶うなら…

そこまで話して、しばらく無言のMだったが、
また
続けた。

もし、願いが叶うなら…
私がいつか、
おばあちゃんになって
いよいよ死んでしまうというときになったら……

あなた、
私を食べていいよ…

あ、ムシャムシャ食べちゃダメだよ。
みんなにバレちゃうから。
こっそり
目立たないところを選んで
一口だけね。
食べさせてあげる。

生きたまま、食べたいんだもんね。
私が死にそうになったら
願いを叶えにおいでね…
ほら、多分、 年齢的に
私のほうが先に逝くだろうしね。

そこまで話して
Mは急に明るくアハハと笑った。

こんなときまで
冗談半分なことを言う。
いや、
冗談ではないのか…?

人を生きたまま食べたいという
俺の願いを
叶えようとしてくれていたこと。

ありがたかった…
どこまでも温かいひとだ。

本当に離れてしまうなんて
信じられなかった。
どんな会話でもいい。
繋がっていたかった。

No.175 15/10/20 14:14
自由人 

俺、やっぱりどうしてもMと離れたくない。
どんな形でもいい。
繋がっていたい。

俺はMに伝えた。

Mは言った。

ううん。
それはダメだよ。
J さんと付き合う以上、
あなたとはもう終わりにしなくちゃならないの。
裏切られる辛さはよく知ってるつもり。
人にそんな思いさせたくないから。

あなたがもし、
私だけを愛してくれるなら…
私だけを…

そこまで言ってMはまた止まった。

ああ…無理だね。
無理だ。
ごめん。忘れて…。

私たち、もうおしまいだよ。

さよなら。



俺の言葉を待たずに
Mが電話を切った。


俺はしばらくそのまま動けなかった。
自分でもなにを考えているのか
わからなかった。


俺のなかに、
無表情の俺がいた。
いや、
俺は実際、無表情だったかもしれない。

No.176 15/10/20 16:30
自由人 

俺は、
俺自身が
薄くなっていくのがわかった。
存在が、
なくなっていく…。
俺の記憶が一気に戻ってくる。子どもの頃の記憶だ。
愛されない、相手にされない、空気のような自分。
俺は何のために生まれてきた?
俺は本当にここにいるのか?
いないのか?

消えてしまう…!

恐怖で眠れなかったあの頃の。
長い長い途方もなく長い時間。

引き戻される…!


肉体と精神がバラバラだ。



生きたい…
生きたい…
俺はここにいる。
消えたくない。



誰でもよかった。
誰でもいい。
どんなやつでもかわまわない。
俺の存在を証明できるのなら
誰でも。


手当たり次第に
あさった。
今すぐ会えるやつを。
さがしまくった。

No.177 15/10/21 19:10
自由人 

俺はその日から
いろんな女とセックスしまくった。
毎日毎日、欠かさずに。
1日に何人もとすることもあった。

どうでもいい女たちを
痛めつけ、
その歪んだ顔を見て
その時は気分が晴れた。

俺の存在を確認できるその行為で
俺はその瞬間を生きていた。

俺が居るから、
女が泣き叫ぶ。
これ以上の存在確認があるだろうか。

メールだのラインだの
そんな文字のやりとりが何になるのか。
あの嘘だらけの、ごっこ遊びが。

身体を重ね合わせてナンボだ。


ただ、 俺は
毎回、
最後までいかなかった。
イカない。
ということは、つまり、
出さないのだ。
イッた振りをして終わらせた。

俺にとって、
『出すこと』が目的ではないのだ。
自分の存在さえ確認できれば
どうでもよかった。

No.178 15/10/24 07:10
自由人 

自分の存在が確認できても
頭にあるモヤモヤは晴れなかった。
毎日、
常に、
Mを思い出していた。
思い出すという表現は当てはまらないかもしれない。

Mのことを考えていた。

俺から去ったMに対して
怒りのような感情もあった。

俺の前に現れ、
俺の感情を変えておいて、
いとも簡単に離れていった。

そんなことを考えながらも、
俺はなんて勝手な人間だろうと思う。

俺が変われなかったことを棚にあげて
Mを責めている。

Mは俺を否定したんだろうか。
いや、ちがう。
Mは、
いつも俺がしているように、
自分を守っただけだ。

Mは悪くない。

いや、
俺から離れたMはひどい。

こんなことを
繰り返し考えている。


俺をこんなにボロボロにしたM。

なんて存在の大きなことか。

No.179 15/10/25 15:32
自由人 

それでも
俺はMに連絡をとろうとは思わなかった。

こわかったからだ。
また拒否されて
自分をバラバラにするのは
いやだった。

Mからもまた
連絡はこなかった。

俺と離れたMは、
どんな感じなんだろうか。
仕事で見かけることはあっても
心の中までは覗けない。

Mは俺がいないほうが、
やはり、
幸せなんだろうか。

幸せなんだろうな。


俺の方は、
Mのかわりになるやつが現れることもなく、
相変わらず
何かに飢えたやつらが
ますます俺にまとわりついた。


ショップを経営する60近い女に
店でアルバイトしないか誘われた。
それだけじゃない。
金で俺を買いたいのだそうだ。

あなたの言い値で時給をはらうわ。
あなたの暇な時に来てくれればいい。
そうね、
私と泊まりの旅行にも行ってほしいの。
もちろんお金ははずむわよ。
飲み食い代もホテル代もタダ。
夜は相手になってよね。
それは別料金で払うわ。
あなたのサービス次第では
その場で金額をプラスさせるから。



バカな女だが、
悪い話ではない。
要するに、性欲を満たしてやれば
金は入ってくるわけだ。

俺はその女と
契約をした。

No.180 15/10/25 16:32
自由人 

その女は、
独身で、自分のためだけに金をつかってきた。
服のセンスもいいし、
スタイルもいい。
シワやシミはどう隠してるのか。
見た目は40代だろう。
とても60近くには見えない。

街の一等地に自宅兼店をかまえ、
悠々自適に暮らしている。

きれいな女だったから、
抱くことには抵抗はなかった。
女の要望どおりに抱いていれば
ボーナスもあった。

今日は、激しくして。
めちゃくちゃに。


というときもあれば、

今日は、優しくね。
私をとろけさせて。

とねだるときもある。


具体的に指示も出してくる。


舐めてちょうだい。
もっと…
もっとしてくれたら
プラス一万ね…


俺は、女と一緒にいるときは
時給をもらい、
その他特別なことをするときは
特別料金をもらい、
セックスはまた別料金。
セックスのサービスによっては
また別料金をもらっていた。

俺は、もともと
誰でもよかったのだから、
その女の身体を利用して、毎回
金をもらいながら、
俺自身の存在を確かめていた。

ただひとつ。

サディストの俺が
女の言いなりにセックスしなければならないことは、
不満ではあったが。

No.181 15/10/27 15:15
自由人 

はじめはよかった。
どこまでも落ちぶれてやろうと思った。

誰になんと思われようが
どうでもよかった。

俺はただ、その時を
生きていた。



だが、

他の女を知れば知るほど
他の女と関係を持てば持つほど

俺にはMの存在が深く体内に沈んできた。

Mだったらこう言うだろうか。
Mだったらこんなふうに笑うのに。
Mだったら…

Mに会いたい

俺はMに会いたかった。
Mに必要とされたかった。
Mと抱き合いたかった。
Mと一緒にいたかった。

あの安らぎの感覚は
Mとでなければ味わえないことが
俺にはわかる。
それがとても
重い。

くそったれだ。

No.182 15/10/27 15:21
自由人 

俺は、ばかだ。

人生の中で
そんな人に出会えるなどと
予想もしていなかった。

まさしく奇跡だったのに。

そう。俺にとって
Mといた時間は奇跡だった。


それなのに俺は…

ばかだ。

自分のことを、これほど嫌いになり
ばかだと思ったのは
初めてだった。


俺は、ばかだ。
大ばかものだ。

No.183 15/10/28 08:24
自由人 

人間とは不思議なものだ。

満たされた状態を知らないということは、
ある意味幸せなことかもしれないと思った。

俺は子どものころから、
満たされたことがなかった。
だいたい、
満たされる感覚がどんなものかも知らずに生きていた。だから、その時は
満たされていないことに気づかずに生きていたことになる。

そして、俺はついこの間まで、
その状態のまま生きてきたのだ。

だが、Mと出会って
心が満たされることがどんな感覚なのかを知った。

一度満たされた心は
またそれを求めてしまう。
俺にとっては
それは不幸なことなのだ。
下手に知ってしまった幸せを
求めれば求めるだけ
俺は手に入らないもどかしさを感じることになる。


なにをしても
誰といても満たされないことを
常に感じてしまう。

Mといる時以外は
俺は満たされていない。

その虚しさに、
どうしたら慣れることができる?

セックスしているのに
こんな抜け殻のようになった自分を
どうすることもできず
途方に暮れてしまう。

No.184 15/12/07 15:53
自由人 

そんな精神状態で生活していたせいか、
俺はついに、身体をこわした。

怠さがとまらない。
微熱もあった。

はじめは風邪かと思ったが
なんとなく違う気がしてきた。

俺はもともと医者は好きじゃない。
できれば自力で治したかった。

真っ先に、Mの顔が浮かんだ。
Mの顔を見ることができたら
俺の身体はよくなってしまうんだろうな。
そんなことを思っていた。

もう他の女を抱く気力もなくなっていた。
演技をするのも疲れた。
虚しいだけだった。

それにしても、身体がきつい…。



ついに俺は仕事場で倒れた。

No.185 15/12/08 11:05
自由人 

目を覚ましたのは
病院のベッドの上だった。

いや、本当は救急車の中で意識は戻った。
J先輩が俺を呼ぶ声をきいていた。
ただ、返事をする元気がなかった。
薄目を開けたら
先輩が安心したように俺の手を触った。

そこから俺はまた目をつむり
眠ってしまったようだ。

病院であることはよくわかっていた。
白い天井がいかにもだった。

まるでドラマみたいだなと
冷静に考えた。

近くにいた看護師が
俺に話しかけ、そのあと出ていった。
そして
J 先輩が入ってきた。

ここは、処置室みたいなところなんだな、
少しずつ周りがみえてきた。


おまえ、いつから体調悪かった?
ダメだろ無理したら。
しばらく休んでろ。
で、おまえ、検査するってよ。
いいか、ちゃんと調べてもらうんだぞ?

J先輩の言葉に

はい

としか言えなかった。
身体が重かった。力も入らない。

俺は病気なのかな…まさかな。
多分アレだ。
恋わずらい…?
心の中で笑った。

No.186 15/12/09 09:54
自由人 

俺はそのまま検査入院となった。

そんな大袈裟なもんじゃないんだがな…
調べてもらうほどのことじゃない。
俺はただ
寂しすぎておかしくなったんだろう。
Mのことが
こんなに俺の人生を左右させるなんて
思っていなかった。

一日中ベッドに寝ているというのも
退屈なものだが
やっと俺は俺の人生をゆっくり振り返れる気がしていた。

ここにMがいてくれたらな…

俺の頭からMがいなくなることがない。
なんという滑稽な現象なんだろうか。

No.187 15/12/12 07:27
自由人 

こんなふうに寝たきりの生活をしていると
つい、弱気なことを考えたりするものだ。

もし俺があと少ししか生きられないとしたら…

そんなことが頭によぎった。

もしそうだったら
俺はどうするのだろうか。

最後に何をしたいだろう。

この世にはいろんな死に方があるが、
病気で死ねるのは
ある意味幸せだと俺は思ってきた。

考える時間があるからだ。

例えば交通事故は無理だ。
唐突すぎて、覚悟もなにもない。

自殺は問題外だが。

さて、
やり残したことはなんだろうか。
だいたい
これで思い残すことなく死ねる…!
なんていうタイミングって、あるものなのだろうか?

暇なんだな。
こんなことを1日中考えているのだから。

俺は白い病室の中でため息をついた。

No.188 15/12/12 11:40
自由人 

検査入院ということだけあって、
毎日、なにかしらの検査を受けた。
いろいろ説明はしてくれるが
俺にはどうでもよくて
頭に入ってこない。

検査が必要ならやってくれ

そんな感じだ。

大部屋のベッドが空いてなくて
身分違いにも、個室にいる。
個室は高いんだよな…

そんなに長くいるわけではないし
一人の方が気楽か。

パジャマやらタオルやら
必要なものはレンタルできるんだな…
俺には身の回りの世話をしてくれるような人はいないから
このシステムは助かる。

こうなってみると改めて思う。
セックスする相手がどれだけいても
意味がないものだなぁと。

俺の入院を知らないセフレたちからは
相変わらず場違いな連絡が届く。

いちいち返すのも面倒くさく、
それに状況を話したところで
いろいろと心配されるのも疲れるから
全てスルーした。

相変わらず会いたいのは
Mだけで、
なのにその気持ちをどこにぶつけることもできず。ただ、虚しさを
静かに受けとめていた。

そんなある日、
J先輩が病室に顔を出した。

見舞ってくれる人がいるなんてことが
ありがたかった。

先輩は言った。

悪い。
今日、Mも一緒なんだけど
入っていいか?


え…!あ…っ…どう…ぞ…!

俺は明らかに取り乱していただろう。

No.189 15/12/19 11:29
自由人 

Mが入ってきた。

しつれいします…
すみません。突然私なんかが…。


Mは、精一杯
仕事上だけの付き合いのフリをしてくれた。

あ、お久しぶりです。
すみません、こんなところに来ていただいて…

俺は愛想笑いをし、Mを見た。

Mは俺だけにわかるように眉間にシワを寄せた。


そこからは、
俺はもっぱらJ 先輩と話し、
MはJ 先輩の斜め後ろに腰かけて
じっと話を聞いていた。



悪い。俺、トイレ行ってくるわ。

J 先輩がいうから

この部屋トイレ付いてますよ!
使ってください

と俺が言ったのに、

いくらなんでも使わねぇよ!と笑い
J 先輩はトイレを探しに廊下に出ていった。


あたりまえだが、
俺はMとふたりになった…。

No.190 16/01/07 07:55
自由人 

ごめん…

俺の口から出た言葉だった。


Mは、
なんで謝るのよ…?
と言った。

俺の頭のなかではいろんなことがグルグルしていた。
Mが大事なのに、
他の女と遊び、キスを見られたこと…。
何も言い訳などできるわけがなく
どうしようもない感情が渦巻いた。

俺はとっさに
Mに手を伸ばした。
すこし離れているから触れることができなかった。
Mは、しばらく俺を見ていたが
俺の手を握ってくれた。

たまらず引き寄せると
バランスを崩したMの髪が
俺の顔に触れた。

Mの香りを感じて
そのまま無意識に抱きしめてしまった。



ただ、ちゃんとわかっている。
J先輩が戻ってきてしまう。

早くMを離さなければ。

No.191 16/01/07 18:17
自由人 

もちろん、離した。



俺は、二人が帰ったあと
ぼんやりしていた。

Mの匂いと感触を忘れたくなかった。

Mはどう思っただろう。
ろくに目を合わせないまま帰ってしまった。


俺はまたひとりだ。
ひとりぼっちだ。
また幼い記憶がよみがえる。
自分が居るのか居ないのかわからない、あの感覚。
存在を確かめるためのセックスは
今はもうできない。
それくらい俺の身体は弱っていた。
というより、
病院にいるのだから、状況的に無理だ。
だから俺は、
この感覚から逃れることはできない。

誰も俺を救えない。


誰も…?

いや、Mは、Mだけは
俺を救えるかもしれなかった。

だが。
俺のどこからも、Mの匂いは探せなかった。

No.192 16/01/08 07:52
自由人 

その夜、
ふと目が覚めて携帯を確認すると
Mからラインが入っていた。

こんなふうに連絡をもらうのは
どのくらいぶりだろう。

俺は飛びつくように
ラインを確認した。


何か必要なものはある?


短い言葉だったが
Mらしい。

余計な言葉を使わないが
優しさがにじみ出ているような気がした。
俺は一気に
自分の体が安心感で満たされていくのがわかった。

地獄から天国にきた気分だった。

必要なもの…?
俺はすぐに思いついたものを伝えた。

どうしてもあなたが必要です。


と。

No.193 16/01/09 22:08
自由人 

夜中だったが、
Mからはすぐに返信がきた。

それ以外で!

と。

俺はまたすぐ打ち返す。

それ以外に必要なものはないです。

と。


ここまで、この俺が
素直に自分を表現できるなんて。
誰が想像できただろうか。

No.194 16/01/21 08:49
自由人 

Mは、次の日
病室に顔を出した。

どう?調子は。

そう言ってニコリと笑った。


俺は気がついたら立ち上がっていて、
Mを抱きしめていた。
自分でもびっくりしていた。
なんだか、格好悪い気もした。

だが、
自分の気持ちのままに行動できることが
心地よかった。

人が来ちゃうよ!

Mの言葉で、仕方なく
Mを離した。
けれど
また、たまらなくなって
抱きしめた。

Mの髪を撫でて
首筋に唇を当てた。

いいにおいがして
俺の身体はビクッと反応した。
同時にMの身体が反応するのもわかった。

俺とMの吐息が同時に漏れた。

ああ、このまま。
このままMの中に入りたい…。

ここが病室でなければ
俺は抑えられなかっただろう。

No.195 16/01/24 08:03
自由人 

ベッドに座り、Mと話をしていると
看護師が入ってきた。

検査の結果のことで、先生からお話があるんですが、
どなたか家族の方も一緒にお話を聞いていただけますかね?


そう聞かれて
俺は咄嗟に言ってしまった。

あ、俺には両親がいないし、
身内はみんな遠くに住んでいるので…
婚約者のこの人に一緒に聞いてもらいます。


Mが一瞬目を大きく開けて
俺を見たのを、
俺は横目で感じたが
そんなことはどうでもよかった。

看護師は、

では、また先生の時間と調整して
あらためてお知らせしますね。

そう言って
こちらの都合をメモして出ていった。




ちょっと!

Mは言ったが
俺はMが何か言い出す前に話した。

ごめん。
でも俺、身内なんていないようなものだから。
M…悪いけど
一緒に話をきいてよ。


Mは眉間にシワを寄せていたが
了承してくれた。

No.196 16/03/20 02:37
自由人 

俺の身体は、
自分が思っていたより
ずっと悪かった。

医者の話を一緒に聞いていたMが
静かに涙を拭いた。

俺は自分のことなのに
自分のことじゃないみたいに
心がどこかに浮遊していた。

返事はしていたが
上の空だった。


俺は
このまま死ぬのだろうか。
死ぬのだろうな。

そういうことを
言われているのだな。

そのくらいのことしかわからなかったし
覚えていない。

No.197 16/06/25 18:22
自由人 

病は気から…という言葉を思い出していた。

医者の話を聞かされてから、俺の身体は、
みるみるうちに悪くなっていった。
俺は小心者なんだろうか。
こんなことなら、病名など聞かなければよかった。

ちくしょう…


生きることに執着してきたのに。
自分の存在を確かめるために生きてきたのに。

俺はここで死ななければならないのか。

なんのために生きてきた?
なんのために?

思い出そうとしても思考力が追いつかなかった。
完全に、落ち込んでいる状態だ。

No.198 16/06/27 10:14
自由人 

生まれたら、いつか死ぬ。
そんなことはわかっていたことだ。
いつまでも生きているやつなど誰もいない。
誰がいつまで生きられるか、そんなことはだれにもわからない。
病気じゃなくても、交通事故で死んだり、災害に巻き込まれたり、通り魔に襲われたり…それこそいろんな理由で突然死ぬことだってある。
どっちがいいんだろうか。
病気で余命宣告を受けても、覚悟をもって死ねる方がいいのだろうか。
何も知らないまま、死の恐怖を感じる間がないまま、あっという間に去れる方がいいのだろうか。

No.199 16/06/27 11:58
自由人 

いずれにしても、だ。

この世に、この生に、
後悔を残さずに死ねることなど、まずないんじゃないかと俺は思っている。

誰だってひとつやふたつやり残したことがあるだろうし、
やり残したことがなかったにせよ
もうちょっとこうありたかった、みたいな思いがよぎったりするんじゃないだろうか。

残される方もまた同じだ。

毎日、子どもを愛し、抱っこもしてやり、
美味しいご飯も食べさせてやり、精一杯向き合っていても、
ある日突然その子がいなくなれば
他に何かができたかもしれない、もう少しこうしてあげればよかった、もっと抱っこしたかった、
そんなふうになるんじゃないだろうか。

人なんてもんは、どこにも完璧なんかなくて、
一時の満足ですら、すぎてしまえば
どこか足りない。
そういう生き物なんだろうな。

俺は今、死と隣り合わせだが、
ほんとは誰もが死と隣り合わせだ。
自分も他人も誰も彼もが平等に隣り合わせ。

そう思ったらなんだか、みんな同じすぎて
みんな哀しすぎて
どうしようもなく安心できた。

No.200 16/06/27 14:48
自由人 

治療をどうするか考えていた。

治らないのに、治療という言葉はおかしいのか…。

俺はどの道、もう長くない。
だからどうしたらいいかわからなかった。

たとえ1日や2日長く生きるとしても、元気で生きられるわけではなく、
苦しみながらやっと生き延びるのであれば
たとえ1日早くても、このままなにもせずにその時を迎えようか…。


ドアのノックで、目を開けた。

Mだった。

俺のなかのどこかがゆるむ気がした。

Mは少し笑って

調子はどう?と言った。

Mは続けた。

わたし、もうJ さんとは別れたからね。
だからなんの罪悪感もなく、あなたのところに来ることができるよ。

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