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Hard-Day

レス9 HIT数 1811 あ+ あ-

葉月( AmcTnb )
14/01/11 15:21(更新日時)

今夜も都会の片隅で、男たちの闘いが繰り広げられていく‥

No.2010842 13/10/08 18:02(スレ作成日時)

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No.1 13/10/08 18:15
葉月 ( AmcTnb )

ブロンディの「コール・ミー」が鳴り響いている。
ニコール・キッドマンのような女スナイパーが、ナタリー・ポートマン似の少女に向かって、小型銃の引きがねをひこうとしている。
黒いタートルネックを着ている少女は、銃口を向けられて、表情が険しくなる。
少女の足元はーースパッツをはかせたのだが、靴はどうしようーーブーツなのか、ヒールなのかーー
しばし悩んだ末、オレ、佐藤泰幸(35才)は、ちらりと、いつものメンバーを見渡し、ため息をついた。
ーーーこいつらに聞いてもムダだ。無難に、ブーツでいこう。

No.2 13/10/09 11:39
葉月 ( AmcTnb )

さっきから、部屋の中には、煙がたなびき出している。
最近、禁煙に取り組んでいるオレは、真剣に、ここを禁煙室にしてしまおうかと思案しているのだが、今までのこいつたちの多大な恩義を考えると、強く言えなくなってしまう。
デビッド・ボウイが、「レッツ・ダンス」を歌い出す。
「おい、トーンの51まわして」
「あみあみのやつ?」
「ちがう、水玉っぽいやつ」
「それだったらさ、62で間に合わせろよ。51最近使い過ぎだからさ、節約しろって」
オレを無視して、スクリーントーンが飛び交う。
さっきから、少女の髪型に集中しているオレは、黙って会話を聞いている。
細かいことは気にするまい。今は、そんなヒマはないんだ。

No.3 13/11/01 13:52
葉月 ( AmcTnb )

ーーしかし、この子の髪型、もう少し短めにして、幼くしたほうが、いい感じなんじゃないかな…
 そう考えたあと、はっとする。いかん、それじゃ、アキバ系だ。
 オレは、読者に媚びる作品を描くつもりはないんだ。やっぱりこの子は、ワイルドな感じにしよう。
 いつのまにか、スピーカーからは、ロッド・スチワートのかすれ声が響き出している。
「あと何枚?」
「6枚です」
「下絵は?」
「もうちょい」
「よし、じゃ、こっちのベタから先にやって。そのほうが効率いいから。おい、泰幸、ラスト考えてんのかよ」
「まだ」
「……ったく、今日までに考えとけってあれほど言ったろ? うまく来月につなげろよ。毎月、ラストが地味なんだよ」
「わかってるって」 

No.4 13/11/08 15:43
葉月 ( AmcTnb )

「でも… 先月、よかったですよ! 僕の友達も、面白かったって、言ってました。きっとまた、そのうち、巻頭カラー、狙えますよ!」
「いーからおまえは、しゃべってる間に手を動かせ。佐藤、ラスト1枚までの下絵は、このままいいんだろ?」
「うん」
「じゃ、佐藤はラスト1枚に集中しろよ。こっちはオレたちが仕上げるから」
 しばし、沈黙が続き、カリカリとペンが走る音、筆先が紙面をすべる音が、聞こえてくる。
「 …… おい! なんでもいいから、CDかけろ!!」
 仲間の一人が、声を張り上げる。
 ラストまでのカウントダウンがかかる、この時間ーー オレたちが「天城越え」と呼んでいる、俗にいう修羅場だ。
 ふと、仕上げの段階にある原稿に目をやると、少女が、長官から指令を受けている。そういえば、まだ、この子の名前もろくに決めてない。
 一応、アリスというコードネームはあるのだが、ほとんど使ってない。ペン入れ重視の、ネームにかける時間が少ないマンガなのだ。
 

No.5 13/11/12 14:28
葉月 ( AmcTnb )

 中森明菜ベストが始まった。
「デザイアー」が鳴り響く。

♪ まっさかさーまーに  おちてデザイアー

 野太い声で、誰かが歌い出す。

「おい! おちるって言葉を今使うなあっ!」
「っていうか、その原稿、早くこっちにまわせ」
「くっそー、終わったら、女の子たちとカラオケ行くぞおっ!」
「あの……  ホワイトどこですか?」
 そうこうしているうちに、マドンナが、「ラ・イスラ・ボニータ」を歌い出した。
 依然、オレのペンははかどらない。どうもスッキリせずに、何枚か描き直したのだ。
 

No.6 13/12/18 16:01
葉月 ( AmcTnb )

「あーっ、出ねえーっ」
そう言ってオレがペンを置き、気分転換にコーヒーでも入れようかと思ったとき、
一人が、席を立ち、CDをセットした。
 ジョン・レノンの「イマジン」が、流れ出す。
 立ち上がりかけていたオレは、ストンと、椅子に座り直し、再び構想を練る。

 ーーー やっぱり、この子は、いったん帰還させようーーー

 そして、オレは描き始めた。スイスイとペンが動いていく。

 ま、いいか、ちょっと地味なラストでも‥…




 やがて、無事、原稿は完成した。  

No.7 13/12/21 16:00
葉月 ( AmcTnb )

 一番若い村田くんが、いそいそと、うれしげに枚数をそろえ、茶封筒に入れている。
 ぐったりとソファーに崩れ落ちている者、携帯で合コンの日取りを決めている者、机の上を片付けている者‥…
 「あとは、自分でやれよ」
 「ああ」
 「来月は、もう少し早めにな」
 「うん」
 「おまえも飲みに行く?」
 「いや‥ 今度にする」
 「そっか。じゃ、村田くん、あとはよろしくねぇ」
 「はい! おつかれさまです!」
 「おつかれー」
 どやどやと、仲間たちが帰っていく。
 

No.8 13/12/25 15:51
葉月 ( AmcTnb )

 靴音が遠ざかっていき、しん、とした部屋の中で、村田くんが、僕に声をかける。
 「あの…  先生」
 「何」
 「今月も、すごく、いいですよ…  あの、メカの下絵なぞってるとき、僕、すごく緊張しました」
 「へぇ」
 オレは、ちょっと苦笑いする。
 「僕なんか、いつまでたっても絵が下手で‥
はやく、先生みたいな作品、書けるようになりたいんですけどね」
 そう言いながら、村田くんは、目を輝かせている。

No.9 14/01/11 15:21
葉月 ( AmcTnb )

 村田くんが帰る気配がないので、腹がへってるオレ、「なんだったら、ピザでも食ってく?」と、言う。
 「いえ、原稿もあるし、今日はこれから、彼女との約束もあるので‥… そろそろ失礼します」
 「うん。気をつけてね」
 ドアがバタンと閉まり、オレは、部屋の中に一人になる。
 街の排気音も、心なしか、やさしく聞こえてくる。

 いつかーーー

 椅子に腰をおろし、ふと、考える。
 スティビー・ワンダーが、「心の愛」を歌っている。

 ーーーいつか、会えるのかな、この安らぎを、分かちあえる人に。
 少しだけ開けた窓のすき間から、ゆるやかな風が、入りこんでくる。
 そして僕は、アリスという少女の本名を、ぼんやりと考え始める。



〈END〉

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