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気まぐれ短編集📚
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【マリコさんは天然でいらっしゃいますか】
僕の彼女は、マリコさんという。
「一歳年上の女房は、金の下駄を履いてでも捜せ」
――などと昔は言ったそうだが、僕はその一歳年上の彼女を、格安シューズショップで2足目1000円と歌われた黒革靴を履いて見つけた。
いや、見つけたというなら、その当時はナイキのスニーカーだったかもしれない。
というのも彼女は大学時代の先輩で、社会人三年目を迎える僕と彼女の関係は、かれこれ七年にもなる。
彼女が大学を卒業し、一年後に僕も卒業して、ナイキのスニーカーを革靴に履き替え、東京ライフをあらかた身に付けた二年目の夏に、マリコさんは晴れて僕の彼女になった。
ちなみに、僕が彼女をマリコ“さん”とお呼びするのは、彼女が僕をカズモリ“くん”と呼ぶからだ。
そして、彼女がなぜ僕をくん付けで呼ぶのかというと、「なんか、恥ずかしくって」とのことである。
もとより梅屋くん鍵谷さんと呼び合っていただけに、さんくん付けの呼び方はすんなりと身についた。
もっとも、僕は彼女より一層恥ずかしがり屋なので、マリコさんなどと呼んだのは付き合った2、3日程度のことで、以来「なあ」とか「おまえ」と、はぐらかして呼んでいる。
この話を弟にしたら、「兄さん。それは彼女に嫌われるから、もっと頑張ったほうがいいよ」と、モテ男らしい助言をくれた。
この弟、わが梅屋家の血の中に漂うほんのわずかな美男要素をすべて掻き集めて生まれてきたらしい、一族きってのイケメンである。
頭脳においては僕も負けてはいない――いや兄として負けるわけにはいかないが、容姿に恵まれているとはとても言いがたいありさま。
遺伝子の出し惜しみをしたな、と、思春期には無益に親を恨んでみたりしたものである。
とはいえさすがに今や社会人、男は顔ではない。
そして、女もまた顔ではないのだ。
たとえイケメン弟の彼女が、「こ、これお前の彼女!?」と思わず写メに食い入るほどの美少女であっても、である。
「そりゃもう、びっくりした」
僕が弟の彼女の話をマリコさんにすると、彼女は「へええ」と大きな目をきらきらさせた。
「やっぱり、イケメンは違うのねえ」
「あいつ、本当に梅屋の人間なのかねえ」
のほほんと言うマリコさんに、僕ものほほんと答えてコーヒーをすすった。
ちなみに、マリコさんが美人か否かと問われれば、僕は迷うことなく「まあ、普通」と答える。
いや、今にも殴りかからんと拳を握った女性諸君、落ち着いて欲しい。
だいたい、「自分の彼女を自慢する」という行為をサラリとこなせる技量が、僕にあろうわけがないではないか。
彼女曰く「カズモリくんとお付き合いしてから、4人ほど交際をお断りした」らしいので、それなりにモテているらしい……とだけ言っておく。
そしてもちろん、僕が告白をしたのだから、その容姿を僕が愛していないわけがない。
「一姫二太郎三なすび、って言うじゃない?」
いきなり、マリコさんが言った。
……うん?
ひとしきりどういう意味かを考えてから、僕は脳内でツッコミをスタンバイした。
「うちもね、姉と兄はそれなりに美男美女だと思うのよ、妹が言うのもなんだけど。でも私はなすびなのよねえ。残念」
「……なになすび?」
「一姫二太郎三なすび。言わない?」
「うん、言わないね!」
完全に、『一姫二太郎』と『一富士二鷹三なすび』がごちゃまぜになっていますよマリコさん。
そして『一姫二太郎』とは、生まれる子どもが最初女で次が男なら理想的だ、という話である。
僕が説明すると、え?あそう?と言って、彼女は自分が可笑しくて笑う。
「なんだ、三番目はなすびで残念!っていう意味かと思ってた」
「残念すぎるよねそれ」
人じゃない、っていうか生き物でもないのかい三番目は。
マリコさん、世界中の三番目に謝ってください。
ついでになすびにも謝ってください。
「まあ、美味しいからいいかって思ってたんだ。私なす好きだし」
そう言って心底ニコニコするもんだから、もしかして彼女は自分が三番目のなすびで喜んでいるのではないだろうか、とさえ思えた。
しかし、だ。
容姿に恵まれなかった者から言わせてもらえば、こんな話は嫌味でしかない。
もし僕が「一なすび」などと言われようものなら、何の罪も無い無数のなすびが酷い八つ当たりを受けたことだろう。
なすびで幸せそうにできるその余裕が妬ましい。
……と、思う人間もいるということを、僕は彼氏としてそろそろ彼女に教えてやるべきかと思っている。
「まあ、なすび美味しいけどさ」
この一瞬、残念代表のような扱いを受けたなすびのために僕がフォローを入れると、「よね!」と言って、マリコさんはとつとつとナスの美味しさについて幸せそうに語った。
聞いているうちに、マリコさんは相当なすびが好きであるらしいことが判明し、なるほどそれで嬉しそうにしていたのか、と考え直した。
たとえ残念なすびと言われても、ここまで愛してくれる人がいるのならそれも悪くないかもしれない。
ぼんやりと、そう思った。
恋愛という場面に限って言うが、僕は自分の欠点を知らない。
しかし、経験から察するに、どうやら女性方には大いに不評な、様々な欠点があるらしい。
「付き合う前と違う」
これは、これまで付き合った女性が、別れ際に必ず言った言葉である。
3人中3人に言われたともなると、ぐうの音も出ない。
そりゃあ僕だって、好きな女性のハートを射止めんがために血のにじむ努力をする。
しかし、だ。
そんな努力の末に手に入れた幸せの前でくらい、素の僕をさらしたっていいのではないか。
そうして無口な性格に戻った僕に、彼女たちは「最近無口だね」「私のこと好き?」攻撃を休むまもなく浴びせかけた。
「好き?」だなんて、付き合っている時点で明確なのに、何を答える必要があろうか。
と思っているうちに、「他に好きな人ができたから」という衝撃的な裏切りによって、僕はフラれるのである。
なぜだ!と言いたい僕は、当分その欠点を克服できそうにない。
だが、唯一そんな僕を許してくれたのが、マリコさんだった。
それは、付き合ったばかりのドライブデートのときである。
過去と同じ道を辿るわけにはいかない、なんとか話題を繋ぐのだと、僕は必死で彼女との会話にいそしんだ。
しかし、2時間が経つ頃にはネタも尽き、万事休す。
なぜハードルの高いドライブデートを選んだのだ、僕は!
焦れば焦るほど、沈黙は続く。
かといって話題を見誤ると、「この間、ドライブで彼氏につまらない話を延々聞かされてさー」と裏で言われること明白だ。
これだから女子は!
と、そのときだった。
「~♪」
彼女はカーステレオの音楽に合わせ、僕に聞こえるか聞こえないかくらいの、鼻歌を歌いだした。
まるで、「黙っててもいいよ、私は楽しいから」と言われているような気がして、僕の緊張はするりとほどけていった。
それだけではない。
ひとしきり歌ってから、不意に思い出したように彼女が言った。
「そういえば、玄関で男の人が死んでた話、したっけ?」
「!!!?」
マリコさんは、僕より話題が豊富だった。
『玄関で男の人が死んでた話』について、気になった人も多かろう。
ざっくり説明すると、マリコさんの実家に空き巣に入った男が心臓発作で倒れていた、という、およそサスペンス劇場にもならない、しかし小説よりも奇なる現実の話だ。
「その人、お父さんの財布を握ってたの。だから私、お父さんが倒れてると思って、救急車を呼んだんだけど、『ご臨終です』って言われてね。遺体にすがって泣いた泣いた。そしたらそこに、本物のお父さんが現れてね――」
むしろネタなのは、情けない死に様の空き巣犯というより、空き巣犯と父親を間違えたマリコさんの方だと思う。
そのような、聞き手を「ええっ!?」と言わしめる話を、彼女は沢山持っていた。
つわものである。
そしていつも、彼女は自分を笑うのだった。
今や、愉快なマリコさんとの交際生活は2年を迎えようとしている。
僕のこれまでの恋愛史上、最長記録更新である。
交際前の期間を入れれば、知り合って8年。
僕らはもはや熟練夫婦のように、どんなことでも話すことができた。
失敗も、弱音も、恥も、夢も、喜びも、不安も、そして下の話も。
過去の恋愛と失恋、好みのタイプに至るまで、僕はあらゆる思いを彼女に伝えた。
たった一つ、彼女への愛の言葉を除いて。
伝わっていると思っていた。
いや、確かに伝わっていたのだ。
伝わっていなかったのはむしろ――むしろ彼女の思いこそが、僕に伝わっていなかったのである。
「じゃあ、その子と付き合えばいいじゃない!今すぐフッてあげるわ!」
明日はいよいよ交際記念日――という、こんな日に、僕はマリコさんが怒鳴るのを初めて見た。
そんな大声が返ってくるとは思わず、僕はテレビの前に座ったまま、ただただ目を白黒させて彼女を見ていた。
「最近職場に来た派遣の子が、めちゃくちゃかわいいんだよ。顔とか声が武井咲みたいな感じでさ」
このセリフが、どうやら彼女の機嫌を損ねたらしい。
とはいえ、僕にとっては何の変哲も無い、いつもの会話のつもりだった。
誰がかわいいとか、カッコイイとか、そんな話は腐るほどしてきたじゃないか。
「いや、別に僕は、付き合いたいとか、そんな意味では……」
おろおろする僕の言い訳を聞いているのかいないのか、彼女は持ち前の行動力を、あろうことか荷物をまとめるのに発揮させている。
洗面所へ行って鏡の前に並んでいるコスメ類をかっさらい、かと思えばベッドに乗り上げて愛読書を掻き抱き、そして僕の前をさっさと横切ると、壁にかかった薄いカーディガンを素早く羽織った。
僕らは同棲しているわけではなく、いつでも泊まりに来れるようにと置いてあった彼女の最低限の荷物は、あっというまに鞄に納まってしまった。
彼女は普段から大きめの鞄を愛用しているのだが、まさかこの日のためにではあるまいか、と疑いたくなるほど、綺麗に、あっさりと。
重たく膨らんだ荷物を手に振り返るマリコさんは、取り残されようとしている僕を見て、ほんのりと目を赤くした。
そして、何か言おうともごもご迷ってから、最後の力を振り絞ったかのように、儚く笑った。
「幸せにおなり」
ガチャッと、ドアが閉まるまでの記憶はない。
気がつくと、僕は一人ぼっちだった。
なにが、あれほどまでに彼女を怒らせたのだろう。
数分前までは楽しく笑いあっていたはずなのに。
そう思っていたのは僕だけなのか?
過去の失恋が、僕を責めにやってきた。
ほら、またフられた。
恋をしていたのは、お前だけだ――。
彼女が出て行って1分と経っていない。
沈み行く陽も、まだそこにいる。
それなのに、丸一日そこに座り込んでいるような気がした。
虚脱感というのだろう。
テレビが笑っているが、何が面白いのかてんでわからない。
久々に味わった失恋だが、前のときもこんな味だったろうか。
ぼーっとそんなことを考えていたら、ふつふつと、抑えがたい衝動がこみ上げてきた。
――なぜだ!
その名の無い感情は、とりあえず“怒り”の表情を浮かべた。
2年も付き合ってきて、喧嘩という喧嘩もしたことがない。
なのに、武井咲似の派遣社員を褒めただけで一方的にフられるなんて、あまりにも理不尽である。
僕はマリコさんに負けない行動力で、携帯と財布と鍵をポケットに詰め込み、部屋を飛び出……
そうと思ったのだが、いやまて、と我に返った。
彼女が怒った原因は、他にあったのではないか。
それは溜まりに溜まった僕への不満の爆発――そう考えると、悲しいかな、ごくごく自然なのである。
「好きだ、愛してる」と言わないどころか、メールもマメに送らない、近距離恋愛なのにデートは月2回程度、おまけに誘いはいつも彼女からだ。
それが、彼女という立場の女性たちから不評なのは重々承知していたが、どうしようもなく、これが僕という人間だった。
マリコさんは、それすら受け入れてくれたのではなかったのか。
それとも僕が甘えていただけなのか。
あなたは……あんなに嬉しそうに笑いながら、本当は、僕と付き合うことが辛かったのですか?
名の無い感情は、怒りから悲しみへと表情を変えた。
ああ、僕には、恋愛をする資格がないようだ。
ひとしきり自分に失望すると、猛烈に死にたくなってきた。
なんでもいいから、死にたい気分だ。
そこで、いっそプライドも何もかも捨ててやろうと思い、イケメンの弟にメールを送った。
『フられたかもしれん』
いや、確実にフられたのだけれども。
この期に及んで強がろうとする僕は、どうやらまだ死にたくないらしい。
すぐさま、電話がかかってきた。
弟よ、お前はなんてマメで律儀なんだ……この兄とはまるで違うよな……だからお前はモテるのかい……。
そんなことをズルズルと思いながら電話に出ると、弟は事情を詳しく聞きたがった。
「兄さん、追いかけないと!まだ間に合うって!」
僕の話を聞くや否や、弟が怒鳴った。
「でも、たぶんもうバスに乗ったと思う」
「わからないだろ!早く行け!」
「早く行けとは、お前弟のくせに……」
「行けよ、バカ!」
バカとはなんだ!!
カッとなって、僕は電話を切った。
そして、部屋を飛び出した。
通りの向こうのバス亭は、無人である。
バスは、そこに並んでいた乗客とマリコさんを乗せて行ったのだ。
僕は走る。
バス停を越え、見えないバスを追いかけた。
町をここまで全力疾走する男など、サスペンスの帝王くらいのものだろう――というくらいに、なりふり構わず走る。
走りながら、なぜ走るのだろう、と僕は思った。
彼女に理不尽を訴えたいのか、謝って彼女を引き止めたいのか。
いや、そうではない。
彼女に、伝えていないことがあるのだ。
どうしても、伝えなければならないことがあるのだ。
陽はビル群の向こうに見えなくなったが、西の空はほんのりとピンク色である。
僕は息がすっかりあがってしまい、早歩きすら出来ないままに、のろのろとマリコさんの家までたどり着いた。
自分の家のように見慣れた、彼女の住むマンションを見上げる。
――けれども。
どうしても、セキュリティーゲートのインターホンにその部屋番号を入力することができない。
流れ出た汗は、火照った身体を冷やすと同時に、僕の頭もすっかり冷やしてしまったのだ。
「本当に……」
相手のいないインターホンに、ぽつりと言った。
「本当に、ありがとうございました」
僕という欠点だらけの男なのに、彼女の隣では、世界で一番愛されている男だと思うことができた。
「好きです」
たとえ彼女が戻らずとも、伝えるつもりだった。
「好き……でした」
だが、僕の未練を彼女に押し付けて、それで何になるというのだ。
今日の出来事が僕にとって唐突でも、彼女にとっては悩みぬいた末の決断だったにちがいない。
そうして彼女が出した答えを、僕が受け入れてやらなくてどうする。
ボタンに伸ばした指をぎゅっと握り締めて、僕はその場所を離れた。
愛した女を連れ戻すことはおろか、思いを伝えることも出来ずに、僕という男はなんと情けないことだろう。
けれども、わかって欲しい。
これが僕の、精一杯の愛であることを。
明るい星空を見上げながら、僕は彼女のマンションを離れ、近くの公園に入った。
夏の夜、蒸し暑い部屋を抜け出して夜風に当たりにきたのは、何年前のことだっただろう。
冬の朝、繋いだ手を僕のコートのポケットに入れて、公園の前を歩いたのは――。
今は春。
涼むには少し肌寒く、温めるべき柔らかなマリコさんの手も、もうここにはない。
じわりと、薄暗い景色が歪んだ。
今にもこぼれん涙をこらえて鼻をすすると、公園の隅のベンチに腰を下ろした。
メソメソ泣いてしまっては、それこそこの梅屋カズモリ、正真正銘のヘタレである。
僕はヘビースモーカーではないが、タバコとはこういうときに吸うべきなのではないだろうか。
そう思って、それとなく自販機を探して顔を巡らせた。
「!?」
はじかれたように立ち上がったのは、向こうも同じだった。
公園の対角にあるベンチに、誰かいる――そう思った瞬間に、それが誰だかわかったのだ。
恋愛ドラマで語られる運命的な出会いなんて、信じるような男ではない。
けれど、「まじか!」と思うような偶然が確かに存在することを、僕は認めざるを得ないのだった。
僕が歩み寄っても、マリコさんは逃げなかった。
大きな目は涙に濡れて赤く潤んでいたが、その表情はむしろ笑っていた。
「びっくりしたあ、気付かなかったよ」
いつもの調子で言うと、彼女は座って、となりを僕に勧めた。
沈黙が続く。
今度こそ、僕が埋めるべき沈黙だ。
幸せにおなり――今度は僕が言うべきなのだ。
未練はもう、伝えない。
「ごめんね」
しかし結局、先に口を開いたのはマリコさんだった。
「8年前、私はカズモリくんのことが好きだった」
大学に入ったばかりの頃?
僕は少し驚いて、乾き始めた目を瞬いた。
「でも、あなたには彼女ができた。私は勝手にフられた心地で……だけど、その瞬間から、あなたは私にとって、幸せになって欲しい人になった」
だから、恋愛相談にも乗ってきたんだよ。
そう言って、彼女は自分を笑った。
「自分と似ていると、思ったのかもしれない。なんだか家族みたいで、放っておけなかったの。それから私にも彼氏ができて、もちろん彼氏を愛してた。でも、家族への愛って、それとは別でしょ?」
在学中ずっと、マリコさんは僕の相談役で、僕もまた、マリコさんの相談に乗っているつもりだった。
僕がマリコさんに異性としての感情を抱いたのは、大学を卒業した後のこと。
彼女の思いに気付かないまま、5年も経って。
「カズモリくんに告白されたときはね、正直、付き合う気なんてまったくなかったんだ」
マリコさんはさらりと、思い切ったことを言う。
「散々、恋愛相談に乗ってきたんだもの。私には、自分があなたのタイプの女性でないことくらい、わかってた」
武井咲――!
このとき、僕はようやく理解した。
僕らが付き合うずっと前、ベタ惚れしていた元カノの容姿をマリコさんに尋ねられて、迷うことなく僕は答えたのだ、「武井咲に似てるかな」と。
「でも、私はあなたに幸せになって欲しかった。あなたが私を求めていて、それで幸せになるのなら、って、そう思った。もちろん、嫌々って意味じゃないよ?あなたの幸せを願ってたけど、私の手であなたを幸せに出来るんだったら、これ以上嬉しいことはないものね」
だから、付き合うからには絶対にカズモリくんを幸せにしようと、そう思った。
そう言うマリコさんは、僕よりよっぽど男前だ。
「だけど、その幸せには限界があった。私は、あなたのタイプの顔にはなれない」
マリコさんが僕を見たので、僕もマリコさんを見た。
大きな丸い瞳から、つるりと涙が零れ落ちる。
彼女の声が震え始めた。
「本当に好きな女性と両思いになることが、あなたにとって一番の幸せだと思った。だから、他に好きな女性が出来たなら、私はいつでも別れるつもりだった」
覚悟してた。
付き合った瞬間(とき)から、ずっと……。
「でも、でもねえ、」
いよいよしゃくりあげながら、マリコさんは何とか言葉を繋ぐ。
「いざ付き合ってしまったら、愛しくて、失いたくなくって。カズモリくんの気持ちが他の女の人のところに行ってしまうのが、辛くて仕方なかった。カズモリくんにフられるなんて、絶対に耐えられなかった。だから、だからね、」
くしゃっと彼女の表情がつぶれて、涙が滝のように溢れ出た。
「どうしても、私にフらせて欲しかった」
僕が彼女を抱き寄せると、胸に額を押し付けて、彼女は肩を震わせた。
「あなたの幸せを願って付き合ったのに、結局、私は――」
こういうときでも、どこか冷静に物事を考えてしまうのが、ラブロマンスのかけらも無い男という生き物である。
マリコさんの目には、僕が女性を顔で判断する男に映っていたのかい?
そう思うと、ちょっぴり心外である。
けれども、彼女の容姿を褒めることもなく、他の誰かをかわいいなどと無責任なことを言ったのは、他でもない僕なのだ。
愚か者は果たして、自らの生み出した不安に蝕まれたマリコさんなのか、はたまた自らの生み出している誤解に気付かなかった僕なのか。
そして、二人はとってもお似合いのカップルなんじゃないかと思ってしまう僕は、ついに頭がお花畑にでもなってしまったのだろうか。
ぎゅっと、マリコさんが僕の服を強く握り締めたので、僕も彼女を抱く腕に力を込めた。
そうしたら、彼女が僕の背中に腕をまわしたので、僕らはますますぎゅーっと、硬く抱き合った。
「ごめん、ごめんねぇ……」
そう言って、一層泣き出したマリコさんにつられるように、僕もとうとう顔を歪めた。
「ごめん。……好きだよ」
「……私も好き」
「……うん、知ってた」
「……うん。実は私も知ってたんだ」
僕は生まれて初めて、涙が出るほど人を愛した。
二人して顔をびしょびしょにしながら、何度も何度もキスをした。
――ウォーキングにいそしむ二人連れの奥様方が、そのムードをぶち壊しにするまで。
「最近の若い人は、所構わずイチャイチャするのねえ」
という嫌味を遠くに聞きながら、僕とマリコさんはそれぞれの涙をゴシゴシとぬぐい、いつものように笑いあった。
「帰ろうか」
「うん」
左手に彼女の重い荷物を持ち、右手で彼女の手を握って、僕は歩き出した。
「あーあ、泣いたらお腹減った」
「晩メシ、何か作る?」
「そうだね。スーパーに買い物行こう!」
「……その顔で?」
「!!」
パンダ目を指摘したら、マリコさんに腕を叩かれた。
そう、僕らは、これでいいのだ。
~エピローグ~
助手席に座るマリコさんは、髪の巻き具合に手をやったり、リップクリームを何度も塗りなおしたり、先ほどからそわそわ落ち着かない。
「緊張してる?」
と尋ねる僕に、「うん、ちょっとね」とはにかむマリコさんは、いつもよりきっちりとお洒落をしていて、そんな自分に戸惑ってさえいるようだった。
今日は、彼女を正式に僕の親に紹介する日である。
「大丈夫だって、僕の親なんだから」
「わかってるけど、やっぱり緊張するよ。余計なこと言わないようにしなくちゃ」
マリコさんはそう言って、汚れてもいない指先をこすり合わせた。
そしてふと、その手を止める。
彼女の視線の先にある左手の薬指には、シンプルな指輪が光っている。
「ねえね」
「うん?」
「どうして私が、あなたをカズモリ“くん”って呼ぶことにしたのか知ってる?」
突然マリコさんが言った。
「恥ずかしいからって言ってなかった?」
「うん。でもそれ、嘘でした」
歴代彼氏はみんな呼び捨てにしてたし、別に恥ずかしくはなかったんだ、というのである。
そして、彼女は大輪の笑顔を咲かせた。
「ご両親の前で、うっかり“カズモリ”って呼び捨てにしないために、“くん”を付けました。なんとなく、この人とは結婚するかもしれないって直感したから。すごくない?」
まあ、すごくなくもないかもしれないが。
僕は少し照れつつ、少し考えた。
「いつでも別れる覚悟をしてた、って、言われたような気がするけどなぁ」
「うん、言った。それは本当よ?でもね、」
こうなることも、わかってたんだ。
何の根拠もないくせに、マリコさんは得意げにそう言った。
「なんだよそれ」
意地悪く言えば言うほど、彼女は愉快そうである。
「カズモリくんも、今のうちに『マリコさん』って呼ぶ練習しないと、私の親の前で恥ずかしくって言えなくなるよ?」
「僕だってけじめくらいはつけられるよ」
「どうかな。むしろ私が聞き慣れなくて笑っちゃうかもしれない」
これは後日、現実となる。
マリコさんのご両親を前に、僕が決死の思いで「マリコさんと……」と口にした途端に笑い出だすものだから、結局けじめもくそもない有様。
しかし、そのおかげともいうべきか、僕とマリコさんの家族との食事会は、始終和やかなのであった。
【マリコさんは天然でいらっしゃいますか】 完
【ペットロス】
「あれ?」
後ろで訝るような声がしたが、それが私に宛てられたものではないこともわかっていたので、振り返りさえしなかった。
どうせマネージャーの日下部さんと他のアルバイトたちが、何か暇つぶしの種でも見つけたのだろう。
私には関係ない。
なにより、今はレジ周りの掃除で忙しいのだ。
私のことは放っておいてね、というオーラを全開にして、小さな汚れ相手に、布巾を小刻みに擦りつけた。
オリジナルの革製品を扱うこの店の名は、知る人ぞ知る隠れブランド『イースター』。
有名……であるらしい、一部のファンの間では。
本皮を使った鞄や小物なんかを扱っている店だ。
けれど、ファンにとっては妥当なその価格も、その価値を理解できない人(私を含む)にとってはゼロが一つ多いと感じることだろう。
よって常に人で賑わうような店ではなく、アイドルタイム(空き時間)をいかに埋めるか、というのが、私たちアルバイトの主な業務だった。
他の女の子たちのように、和やかにお話をするというのも決して悪くはないだろうし、それを怠慢だと言う気もない。
現に、マネージャーすらその輪に加わっているのだし、職場の雰囲気を保つのも大切だ。
けれど、私はどうしても、今日だけはその輪に加わりたくなかった。
どうしても仕事に没頭していたかったのだ。
「あれっ?」
しつこく、もう一度声がする。
なんだっていうの、なにか問題でもあったの?
そんなつもりで、ふいっと目をやったその先に、日下部さんの顔があるとは思わなかった。
ち、近っ……!!
私は佐倉、ただのアルバイト。
『イースター』を盲目的に買い漁るお得意様の気持ちを微塵も理解できない、およそこの店に不向きな、ただのアルバイトだ。
しかし、売れと言われれば売る。
その価値について目を輝かせて語ることも、満面の笑みを浮かべることも、理不尽なお叱りに「ごもっともです」と頭を下げることすらも、私には出来る。
出来るというより、そうしてしまうのだ。
よって、マネージャーがそこにいて、私に関わってきた以上、彼の期待にどうしようもなく答えようとする自分がいた。
「っ……びっくりしたー! っていうか近いですよ」
冗談を言うことすら出来るんだねえ私――こんなに辛いのに。
「ははは。いや、ちょっとね。でも気のせいかな」
日下部さんは意地の悪い口調で言って、私を見下ろしてニヤニヤしている。
「何がですか?」
「え?」
「え? だから、何が気のせい?」
「ん?」
「ん?」
もうっ、面倒くさいなあ!
こういう人のことを、俗に『かまってチャン』と言う。
イライラしていたり、そっとしておいて欲しいときに限って、横から突っつきに来るのだ。
そして私のデータによれば、怒ったような冗談を返すと喜ぶ。
笑いながら、その腕を軽く叩いた。
「もう意味わかんないですって。今忙しいんですからー」
すると、日下部さんは案の定「うわ怖い」と大袈裟に身を守って、嬉しそうに笑った。
「いやあ、なんか横顔暗いから、珍しく落ち込んでるのかなって思ってさあ」
……えっ?
笑顔の下の顔が、カチンとこわばる音さえも、聞こえたような気がした。
日下部さんの表情が優しくなったのを見て、私は、今自分がどんな顔をしているのかを知った。
「気のせい?」
と、輪をかけて尋ねてきた日下部さんに、私は「気のせいです」と、即答することが出来なかった。
そうするには辛すぎた。
けれど、すべてを打ち明けるのも辛くて、口ごもる。
失恋という事実を、受け入れるのが辛くて。
たかが、失恋である。
そんなことをくよくよと悩みたくもないし、仕事にまで持ち込む気もさらさらなかった。
しかし、されど失恋である、ということを、私は今思い知った。
まさか顔に出ていたとは!
私も大したことのない女だなあ、と、可愛くないことを思う。
「何か悩んでるんなら、聞くよ?」
日下部さんはいつもとは違う上司らしい態度で、レジカウンターを回り、私の前に立った。
「佐倉ちゃんは、いつもリーダーシップ取って頑張ってくれるからね。無理してることも多いんじゃないかな」
他のアルバイトたちはいない。
奥にある事務所でテーブル作業を頼んだというから、いったい何時から、彼は私の表情の憂いを読み取ったのだろう。
「いえ、あの、全然……」
全然悩んでない?
そんな嘘が通用するほど、この人の確信はあやふやではないだろう。
普段は『冗談好きで気さくなお兄さん』という認識の日下部さんだが、さすがはマネージャーだけあって、その洞察力は侮れない。
あるいは、私があからさまに暗い顔をしていたのか――そんなことはない、一生懸命笑ってたし、仕事も頑張ってたもの!
日下部さんは、私が何かを言うのをじっと待っている。
逃がしてはくれそうにないようだ。
ええい!
「実は、仕事とは全然関係ないんですけど、」
彼氏と別れたんです!!
言っちゃえ!!
「昨日、……れまして」
「えっ? 何て?」
そのとき、とっさに、私の中の安全装置が作動した。
すでに、涙が出そうになっている自分に、ギリギリで気付いたのだ。
大好きだった、彼氏。
大好きだったのに、彼氏にとって私は、大好きな存在ではなかった。
ただ、一緒にいて楽な存在。
好きな人が他にいて、その人との恋が叶わずに、仕方なく私の隣に落ち着いた、ただそれだけの存在だった。
別れようと言ったのは私。
けれど、フられたのも、私だった。
だめだ、きっと、泣いてしまう――!
「ペットとお別れしたんです!」
泣くまいと、喉にこみ上げた熱いものを堪えた結果、怒ったような声になってしまった。
おまけに、今私なんて言った!?
「ああ、そうだったのか……ごめん」
日下部さんが申し訳なさそうに表情を暗くするのを見て、私はむしろ謝りたい気持ちになった。
ところが、である。
さっきまで泣きそうだったはずの私は、今や可笑しくて可笑しくて、笑い出しそうな気分になっていた。
ペットて……。
彼氏にも申し訳ない気持ちである。
でも、ごめんね、どうして笑えるのかしら。
しかし今笑ったら、心配してくれている日下部さんに申し開きが出来ない。
そのとき、これとないタイミングで来客があった。
神様ですよね、知ってました。
私は堪えていた笑いを営業スマイルに昇華させて、日下部さんの脇を抜けて接客に向かった。
日下部さんが見ている気配がするけれど、私はお客様だけに集中した。
いつもより、よほど明るい接客ができたように思う。
あらゆる思いを隠すことができる、笑顔とは実に素晴らしいものだ。
「何飼ってたの?」
お客様が帰ってから、日下部さんがそっと尋ねてきた。
「はい?」
ひとしきりの接客で色々とスッキリした私は、その言葉の意味がわからずに首をかしげてしまってから、先ほどの話を思い出した。
あ、そうだった、私はペットロスなんだった。
この人はどうやら、相当心配してくれているらしい。
むしろそっとしておいて欲しいのだが、打ち明けさせた以上は話を聞いてやらねばと、そんな思いでいるのだろう。
そんな彼の優しい心根も理解していながら、私はといえば、自分がついた嘘に、さらに嘘を重ねようとしている。
さて、何を飼ってたことにしよう?
「えっとー」
ふと、彼氏の顔が浮かんだ。
どちらかといえば可愛らしい顔立ちで、身長も高くはない。
寂しがりやで、甘えん坊で、たとえて言うなら彼は――
「小さい犬……です」
笑えた。
いや、笑うところではないのだけど。
そうして笑いを堪えるから、ますます複雑な表情になってしまって、日下部さんの哀れみを誘ってしまったようだ。
「そうか。辛いよな」
犬種を聞かれなかったのは幸いである。
「……まあ、そうですね」
「俺も飼ってた猫が死んでしまったときは、本当に泣いたよ」
彼がぽろっとこぼした話の糸口に、私はチャンスとばかりにすがりついた。
もうこれ以上私の話はやめましょう。
「どんな猫ちゃんだったんですか?」
「うん? アメショだよ。こっちから触りに行くとすごくそっけなくて、でも放っておくとゴロゴロ寄ってくるんだ。そりゃもう可愛かった」
「へえ」
「腹が減ると俺の前にやってきて、腹を見せてひっくり返るんだ。俺が触りたがるのを知ってんだよな。ひとしきり撫でさせておいて、『じゃあご飯ちょうだいね』って、鳴くんだ。で、俺も甘やかしてエサをやるから、コロコロ太っちゃって」
「賢いんですね!」
ほんとにね、と日下部さんは言って、あいつら憎めないよな、と懐かしそうな顔をした。
私の頭に浮かんだのは、可愛い猫でも犬でもなかったけれど、賛同したいような気がした。
ほんと、憎めない。
「佐倉ちゃんのとこの犬はどんな子だったの」
おっと、油断をしていたらこっちにパスが回ってきた。
「そう、ですね……」
私はなんとか彼を犬になぞらえようとした。
「人懐っこくて、でも、大人しい犬でした。あと、賢かったです」
学歴で人を測るつもりはない。
しかし、高学歴の彼は確かに賢かった。
人を見下すこともなく、しかし、人に合わせて接することのできる人だ。
「そう、賢いんだ。お手とかお座りとかもするの?」
「え?」
笑えるから、やめてください、日下部さん。
「やる必要があると思えば、やるでしょうね」
「え、そこまで判断するんだ!? 賢い犬だね」
まったくです。
そうしてレジの傍らで話しながら、いつだったか、彼氏と二人で海へ行ったときのことを思い出していた。
私に「こら!」って言われたくて、わざと砂を掛ける彼。
浜に打ち上げられたクラゲを発見して、はしゃいでいた彼。
近くで見つけた定食屋は力士並にボリューム満タンで、でも残さずに全部食べた彼。
クラゲに生物学的豆知識を添えたり、野菜好きだったあたりを除けば、なんだか本当に犬みたいじゃない?
そして私は――私も、彼をペットのように可愛がっていたのかもしれない。
彼が何をしても、許せるような気がしていた。
庭を掘り返されても、家具を噛み散らかされても、靴を隠されても、それでも愛しい小さな犬を見るように、私は彼を愛した。
他に好きな人がいて、でもそちらは叶いそうにないんだと私に打ち明けた、彼のその弱ささえも、許そうとした。
仕方ないねと、一度は笑うことができたのだ。
なのに……。
「お疲れ様でした、お先に失礼します」
「ああ、お疲れさん」
日下部さんが何か言おうとして事務所から出てきたようだったが、私は自分の荷物を肩にしっかりと掛け、さらりと店を出た。
一刻も早く、一人になりたい気分だったのだ。
一時は日下部さんのおかげで気も楽になっていたのに、思い出は、容赦なく私に失恋の事実を突きつける。
お前はペットロスじゃないでしょうが、と。
颯爽というにはどこか自暴自棄な歩みで、私は夜道を大またに横切っていった。
「別れよう」
そう言ったのは、彼が本命の恋を諦めないように。
私なんかで甘んじていてはいけないよ、というつもりだった。
そのときの彼は打ちひしがれた顔をして、そのつぶらな瞳を伏せ、仕方ないよな、と言った。
「傷つけて、ごめんな」
フられた、と思った。
彼が、私を引き止めてはくれなかったから。
……引き止めて欲しかった?
そっか。
夜風に髪がなびき、顔にかかる。
それを払うように上を向き、私は鼻をすすった。
自分は愛した、だからあなたも愛してよ、と、そんな自分勝手な理由を隠し、全部彼のせいにして、私は彼に「別れよう」と言ったのだ。
彼のためなんかじゃなかった。
立ち仕事向きのローヒールが、心地よく硬い音を夜道に響かせている。
これでよかったのだろうか、それとも、まだ愛せたのだろうか。
街は明るくて、夜空は暗く、答えは今夜も出そうにない。
ふと、肩に掛かるバッグの持ち手が震えていることに気付いた。
電話?
ごちゃごちゃと荷物の詰め込まれたバッグから、携帯電話を引っ張り出す。
胸が高鳴った――やだな、私は何を期待したんだろう。
ディスプレイの表示は、日下部さんだった。
少しがっかりして、申し訳ございません。
「はい、もしもし?」
何か、忘れ物でもしただろうか。
「ああ、ごめんな急に」
「いえ。何かありましたか?」
「いや、今日は辛いのに話させてしまって……」
律儀だなあ。
上司がそんな風に気を遣ってたら、部下は恐縮してしまうのですよ、なんて思いながら、私はむしろ感謝を述べた。
「話したら、少し楽になりました。ありがとうございました」
「ああ、そう? ならよかったんだ」
こぼれたのは、笑顔だった。
また明日から、アルバイト頑張らなくては。
「ところでさあ」
「はい?」
「今日はもう帰るの?」
「え?」
「よかったら――」
少し二人で飲まない?
その誘いを、私は丁重に断った。
今は、日下部さんのその優しさに甘えてしまうだろうから。
自分の弱さにひとしきり泣いたら、人肌恋しい失恋女としてではなく、日下部さんの下で働く忠実なアルバイトとして、彼と飲みに行こう。
そして、仕事の話をしよう。
過去にどれだけ後悔しても、その先に未来はない。
未来があるのは、今の先。
私の描く未来へ連れて行きたくて、リードに繋いで引っ張り続けたあの小さな犬は、彼の思い描く未来へと走って行ってしまった。
そこには、いったいどんな景色が広がっているのだろう。
そして、私の未来は――
【ペットロス】完
R-15【ジレンマ】
不意に明かりを消され、夕闇の青い光の中、ベッドの上でたじろいだのは、残念ながらうら若き乙女ではなく、僕である。
うつぶせになって読んでいた本を置き、「いきなり消すなよ」と言って身体を起こすと、チサトの影が、彼女の匂いと共にふわりとやってきて、僕の上に覆いかぶさった。
猫のように四つんばいで、ちょうど僕の胸の上に、長い髪を垂らしている。
僕の顔を見つめているのであろうその表情は、暗くてよく見えなかった。
「ね、アレする?」
囁くように彼女が尋ねる。
そうやって決断は僕にゆだねるくせに、明かりまで消して僕を誘う。
君は悪魔なのかい。
「今日は、」
しません。
そう言おうとした僕の唇に、彼女の柔らかい唇がぎゅうっと押し当てられた。
僕が口を開けば、彼女も口を開き、そして、一緒に閉じる。
そうやって、僕は何度も「今日はしません」を言おうとするのに、結局、その唇を、目を閉じて貪っている。
だんだん口の開きが大きくなっていって、舌が触り、差し込まれたそれを吸えば、差し込んだそれを転がされ、僕は、ああ、またアレをしてしまうのだろう。
チサトは、はぁと甘い息をついてから、唇を頬から首筋へと移していく。
くらくらと、気が遠くなるような感覚――もっとも、アレをするときはいつだって、僕は正気ではいられない。
君を傷つけたくないから、いつも歯を食いしばって我慢をしてるというのに、そんな風にキスをする君が悪いんだ。
ペロッと、彼女の舌が僕の耳をくすぐる。
一瞬理性が吹き飛んで、彼女の髪に指を絡めるようにしてその頭をかき抱くと、細い顎骨の下の柔らかいところに鼻を押し当てた。
僕が深く息を吸い、はあと吐いただけで、彼女はにわかに呻いて震える。
そう、君が悪い、欲しがったのは君の方だ。
横様に押し倒すと、今度は窒息させるくらいの勢いで、彼女の口の中に舌をねじ込んだ。
そして、服の上から柔らかな肉体をなぞる。
そろそろ暑くなってきて、服の露出も増えてきた。
場所は、選ばなくてはならない。
足の付け根はどうだ?
太ももを抱えるようにして曲げさせると、スカートがずり上がる。
ちょっとお尻を撫でたのはおまけということで、僕は、アレをするための場所を指で探した。
「んん」
キスをしたまま彼女があえいで、僕の指は、その場所を見つけた。
まだ始めてもいないのに、熱くてとろける感覚が僕の身体を駆け巡る。
しかしそこで、あろうことか僕は息を飲み、動きを止めてしまった。
*****
はじまりは、付き合って2ヶ月の頃だったと思う。
手料理を振舞いたいというチサトの申し出を断る理由などなく、僕は彼女の部屋で、好物のハンバーグが出来るのをほくほくと待っていた。
ところが、「これでも結構自信あるんだよ」などと張り切っていたくせに、調理を始めて5分後に聞こえてきたのは、「あ、痛い」。
その情けない声に、どうした? と台所に来てみれば、ドラマなみのベターさで、彼女は指を切っていた。
探さないとわからないくらいの、小さな傷だったのに。
「あっ、ほらここ……」
そう言って、彼女が薬指の先を見せるから。
気がついたら、僕は彼女の手を掴んで、指を歯でくわえ、傷口をぺろぺろと舌で舐めていた。
ああ、今度こそ、大切にしようと思っていたのに――!
甘美な香り、濃厚な味。
僕はもう自分を止められなくなり、深くその指を口に含んだ。
彼女が戸惑ったとしたら、おそらく一瞬だけだろう。
言いえぬ快楽が指先から襲い掛かり、彼女の全身の力を奪うのに、三秒とかかりはしない。
吸血鬼に血を吸われたら、誰もそれに抗えはしないのだから。
崩れそうになるチサトの腰を抱きしめて、シンクに押さえつけ、僕は尚も、その指を吸い続けた。
小さな傷に牙を当て、傷つけるたびに血が溢れ、傷つけるたびに彼女はあえいだ。
そうして、存分に血を吸っておいて、僕は泣いた。
その場にへたり込んで、ごめん、ごめんと、情けなく泣いた。
それでも彼女は、荒くなった息をどうにか整えてから、僕の前に膝をつき、優しく抱きしめてくれた。
「いいの。大丈夫、大丈夫だよ」
以来、彼女は吸血の虜になった。
虜に、させてしまった。
今度こそ、大切にしようと思っていたのに。
*****
「どうしたの?」
気だるい囁き声に、僕は我に返った。
「あ……いや」
胸の高鳴りは、いまだ止まぬ。
喉が、血を求めてごくりと鳴る。
けれども僕の指先は、牙を立てる目星をつけた太ももの付け根に、すでにカサブタになった二つの傷跡を、確かに感じていた。
何夜(いつ)だ?
暗がりに慣れた僕の目は、おそらく普通の人間よりはよく利くのだろう。
乱れた髪の中にある、チサトの細い顎――その下にも、二つの、忌まわしい傷跡がある。
脇の下にも、肘の内側にも、乳房の下にも、ああそうだ、太ももの内側にも、くるぶしの上にも。
たとえ、僕が正気を失って忘れてしまっても、夢中で牙を立てた場所は、醜く彼女の身体に残っている。
僕は、また、一人の人間を壊そうとしているのだ。
そっと手を退け、スカートをちゃんと膝下に引っ張ってから、僕は彼女の上に体重を預けた。
薄いTシャツ越しに、彼女の体温と、鼓動と、熱い血の巡りを感じる。
決して大きくはない乳房の間に頬を埋めて、静かに、呼吸を整えた。
「大丈夫なのに」
少し拗ねたような声がする。
「私は私で楽しんでるんだから、そんなに気を遣わなくても……」
そう言いかけて、口を噤んだのは、僕が堪えきれずに鼻をすすったからだ。
全然、大丈夫じゃないんだよ。
ぎゅっと目を閉じると、涙がぽろぽろとこぼれて、彼女のTシャツに染みを作った。
トクンと胸が高鳴るのを聞いて、チサトが驚いたのがわかった。
それでも、黙って僕の頭を抱き、優しく撫でていてくれた。
「君のことが好きだよ。君が、私に優しくしてくれてるのも、ちゃんとわかってる。だから、怖くないんだよ」
チサトは、なだめるような声で言った。
でも、僕は顔を彼女の胸に押し当てたまま、首をゆっくりと振った。
――違う。
「私を気持ちよくさせてくれて、君の飢えを満たしてあげられるから、お互い様じゃないかなあ?」
――違う、違う!
怖くないのは、当たり前じゃないか。
傷口から君の身体に入り込んだ僕の唾液が、君を洗脳してしまうんだ。
これは、セックスじゃない。
チサトにとっては、「ちょっとイケナイことをしている」程度の認識でしかないのだろう。
しかし、今の僕らは捕食と被食の関係でしかないのだ。
吸血鬼は血を得るために、捕食対象を惑わせる。
それが本能。
君はもうすでに、壊れ始めている。
何も知らないまま、僕に身を捧げようとしている。
そして僕は、それを拒めない。
これも、本能。
*****
君が喜んでくれるなら――
かつて、そう思ったことがある。
僕は吸い、あの娘は感じ、そうしていつも幸せだった。
相互関係が成り立っているのではないかと、さっきチサトが言ったのと同じように、僕も考えたのだ。
だが、そうではなかった。
血を吸うことと、幸せを、直接イコールで結ぶのが怖くて、その間に彼女の快楽を挟んで誤魔化した。
そうすることで、己の醜い性を、どうにかこうにか受け入れようと。
そうすることでしか、僕は己の存在意義を見出せなかったのかもしれない。
そして、ある朝あの娘は去っていった。
僕のことを信じたまま、静かに冷たくなっていた。
あの娘は、僕が殺してしまったのだ。
ああ、今となってはもう、その名を呼ぶことはできないが――。
*****
突然、チサトが僕の肩を掴み、自分の身体から引き離した。
バシッ!!
……。
頬に感じる違和感はなんだ――痛み?
「い、痛っ!?」
遅ればせながら、自分がビンタを食らったという事実を把握した。
「チヨって誰なの!?」
そう叫んで、彼女はきょとんとする僕を押しのけ、ベッドの横に降りて仁王立ちになった。
「……えっ?」
自覚できるくらいに、僕は青ざめた。
なぜその名を――ずっとずっと、心に仕舞ってきた――忘れようと、なかったことにしようと、封をしてきたその名を、なぜ、今。
「今、泣きながら『チヨ』って言った!」
「は!?」
僕が!?
「いやいや、言ってな――」
「言った!!」
「……『チサト』じゃない?」
「絶対『チヨ』だった!!!」
その剣幕に気圧されて、僕はとりあえず、自分の口を疑った。
その名を呼ぶことはできない――と、思ったのは僕の心だけだったようで、口はしっかりと、その名を発音していたらしい。
「まじか」
無意識とは、実に恐ろしいものである。
そして、己が間抜けぶりに、呆れて笑える。
「誰なのよ!」
「えっと、そのー、」
昔付き合っていた娘で。
って、この状況で言えるかい。
昔死なせてしまった娘で。
……言えるのかい?
「バカっ! バカバカ浮気者!」
「いや、違――」
「泣き虫浮気変態吸血浮気野郎!」
「あ、浮気って2回言った」
「うるさい! 大事なことは2回言うの!」
「だから、浮気じゃないってば」
涙が吹き飛ぶ、とはまさにこのことである。
僕はベッドに座りなおすと、頭を掻きながら心を整理した。
何が起こったのか、正直よくわからない。
しかし、だ。
「この名前を僕に言わせたのは、君が初めてだよ」
それは、事実であった。
この人になら話してもいいかもしれないと、そう思ったのも、初めてだった。
ちなみにビンタを食らったのも初めてだ。
真っ暗なままの部屋の中、胡坐をかいた自分の膝に向かって、僕は話し始める。
「昔はね、」
ずいぶん、高慢だったんだよ、僕という男は。
*****
金魚のごとき浴衣の漂いて。
あの夏祭りの夜、僕とチヨは出会った。
恋――などではない。
僕は血を欲し、彼女は孤独を埋めたがっていた、その利害関係の一致である。
それまで、僕は決まった相手から何度も血を吸い続けたことはなかった。
ある夜は寝所へ忍び込み、ある夜は辻で袖を引き、ある夜は――そう、祭りの音を遠くに聞きながら、神社の敷地にある納屋の影で。
そうやって夜に彷徨う、はぐれコウモリだったのだ。
けれど、チヨは去ろうとする僕を引き止めた。
その瞳に浮かんだ寂しさは、あるいは、その瞳に映りこんだ僕の顔だったのかもしれない。
彼女なら、僕の醜い性を理解し、受け入れてくれるのではないかと思った。
事実、チヨは確かに、僕のことを受け入れてくれていたのだ。
しかし僕は、彼女に与えるものを間違えた。
それが偽りの快楽だと知りながら、彼女が欲しがるままに、それを与えたのだ。
そう、二世紀も三世紀も、昔の話。
*****
そうやって、ポツリポツリと話し終えた頃、大人しく聞いていたチサトが、おずおずと口を開いた。
ベッドの横にちょこんと座って、僕を見上げている。
「チヨさんは死んでしまったの?」
僕は、膝の間でしきりと爪をこすり合わせながら、うつろに彼女を見て、頷いた。
「衰弱死だった」
「それで、君はどうしたの?」
「どうしたって、もう元には戻せない」
その不甲斐ない答えに、チサトは口をつぐんだ。
僕がその場から逃げたのか、あるいは逮捕でもされたのか、などと考えているのだろう。
「3日間、彼女の遺体の側にいた。そしてその夜、」
彼女は、吸血鬼となって甦った。
だが、それはもうチヨではなかったのだ。
「チヨとの出会いが、僕の何かを変えてくれるんだと思っていた。けれど、結局は己の血に従って子孫を増やしただけに過ぎなかった。それが僕の性なんだろう」
チサトが唸って俯く。
おっとりとした普段の彼女に似合わぬ難しい顔をして、おそらく、覆せないことを覆す方法を考えているのだろう。
けれども、それは無理なのだ。
彼女はどうしようもなく人間で、人間にとって僕は、人殺しでしかない。
「さて」
と、僕は腰を上げた。
もう行かなくてはならない、もう彼女の隣にはいられない。
「どこいくの?」
不安そうに、チサトが言う。
「今日はもう解散しよう」
「泊まっていきなよ」
「そんな気分でもないだろ?」
チサトは、鞄を拾う僕に追いすがると、前に回りこんで腕を掴んだ。
「君は変わるよ、私が変える!」
暗がりの中で、彼女の目が光って見えた。
「もう一度繰り返そうとしてしまったのは、私との出会いで、何かが変わると思ったからじゃないの?」
その通りだった。
しかし――
「変わらなかったよ。何も」
「まだわからないじゃない。君は、ちゃんと気付いたんだもの。これから変わるかもしれないじゃない」
あああ。
僕は牙を噛み締めた。
そうだ、このまっすぐな瞳に、僕はまた救いを求めたのだ。
*****
牙がうずく。
青い夜の光の中でチヨの二の腕を掴み、強引に引き寄せた。
「――!」
彼女が何か言っているが、僕は聞いていなかった。
甘く香り立つ彼女の首筋に唇をあて、迷うことなく熱い血が流れるその場所へ、鋭い牙をあてがった。
柔らかい皮膚を捉え、その下の肉へ、ずぶりと一思いに食らいつく。
彼女が上げたのは、悲鳴だった。
すっかり痩せ細ってしまった身体を捩り、必死に抵抗して、僕の胸を押す。
それを抱きしめ、動きを封じようとして、身体がもつれ、彼女を押し倒す形になった。
暴れる彼女を床に押さえつけ、襟を掴んではだけさせる。
むき出しになった白い肩からうなじにかけて、ずるりと舌を滑らせてから、僕は血が溢れる二つの傷に、より深く牙をねじ込んだ。
「ああっ!」
僕への抵抗は、やがて快楽への抵抗に変わる。
首を仰け反らせ、身体を強張らせて足掻いても、この快楽からは絶対に逃れられはしない。
絶対にだ。
ズイ、と血を啜ると、彼女は一際大きく喘いで、ビクビクと身体を震わせた。
リズムを刻むように何度も、牙と舌と唇を使って血を啜る。
彼女は力なく僕の胸や首を引っ掻きながら、硬く目を閉じ、声を上げ続けた。
そこでようやく、ふと我に返る。
どうして、今日はそんな風に僕を拒むんだ?
さっき、彼女は何て言ったんだろう?
「お願い、もうやめて……!」
*****
そうだ、あの夜、チヨは「お別れよ」と言ったのだ。
「もう、終わりにしましょう」と。
なぜ?
彼女に出会うまで、何百年も一人きりで生きてこれたのに、その瞬間、僕は孤独を恐れた。
一緒にいてと言ったのは君なのに、どうして?
僕は、去ろうとする彼女を引き止めたかった。
それだけなのに、なぜ血を吸ってしまったんだろう?
この快楽をもってすれば、彼女を引き止められると思ったからだろうか。
それとも、やっぱり僕は、寂しいという理由をつけて、彼女の血を吸いたかっただけなんだろうか。
どうせ去っていくなら、最後に存分に吸ってやろうと、そんな投げやりな気持ちだったのだろうか。
誰かが何か叫んでいる。
……コウキ?
「コウキ!!」
チサトの鋭い声に、パンと叩かれたような気がした。
いや、もしかしたらまたビンタを食らったのかもしれないが、僕にはよくわからない。
吐き気がする、しかし、吐き出したいのは胃の中のものではなく、もっと胸の奥深いところにあるものだ。
それが叶わずに、僕ははあはあと酸素を伴わない呼吸をし、頭を掻きむしるように抱えたまま、その場にしゃがみこんだ。
コウキ?
ああそうか、それが今の僕の名前なのか。
息が苦しくて喘いでいたら、それがそのまま嗚咽に変わった。
君の前では、泣いてばっかりだ……。
僕らは身体を寄せ合ったまま、ベッドにいた。
アレをしないまま、ただ、猫のようにくっついていた。
「また、繰り返すんだろうな」
ぽつりと、僕は言った。
「そんなことは、今一生懸命考えたって、わからないよ」
彼女も、ぽつりと答える。
「怖いんだ」
「未来っていうのは、誰にとっても怖いもんだよ。だって、見えないんだもん」
でもね、と彼女が言う。
「何か一つ信じてみないことには、どこに向かえばいいのかわからなくなるじゃない」
――だから、とりあえずもう少し一緒にいようよ。
どうもそのお気楽な考え方に賛同しかねて、僕は目を開けて彼女の前髪を見つめた。
「命に関わるんだよ? 特に君は、もう少し自分を大切にしたほうがいいんじゃない?」
「そういう君もだよ」
そう答えると、彼女が目を開いて、前髪の下から僕を見上げた。
「私は、吸血鬼の殺し方を知ってるもの」
*****
チサトが「吸血鬼の殺し方を知っている」と言ったあの夜、「へえ、どんな殺し方?」と尋ねた僕に、彼女はただ、ふふっと笑った。
彼女は賢明だ。
今日、正しい吸血鬼の殺し方を知っている人間は少ない。
だが、僕は信じてみることにした。
チサトは正しい吸血鬼の殺し方を確かに知っている、と。
そして、きっといつか……いや、未来のことを考えるのはよそう。
――というより、今はそれどころではない。
「この浮気者っ!」
「だから、違うってば」
女子バレーボールの試合を見ながら、思わず「美味そうだな」などと呟いた僕が悪いのだが、例によってまた彼女は怒っている。
男子に性欲然り、吸血鬼に吸血欲然り。
こればっかりは、どうしようもない。
ぴちぴちの手足をむき出して美しい汗をかいている女性を見て、ドキッとしない吸血鬼はいないだろう。
「テレビで欲情するなんて変態っ!」
「違うって。レシーブ上手そうだな、って言ったんだよ」
「嘘つき!」
「ごめん嘘」
こうして、今日もまた彼女とのささいな喧嘩がはじまる。
これもまた、繰り返し。
でも、まったく同じ繰り返しってわけじゃない。
「浮気者!浮気変態エロ馬鹿浮気コウモリ!」
「大事なことだから浮気って2回言ったの?」
「うるさい!」
「いつか」というジレンマを抱えたまま、それでも今を楽しく生きようとすることは、それほど悪いことではないようだ。
そうやって、今を重ねたその先に、「いつか」という日が待っていたとしても、そのときの僕は、今の僕とは何かが違っているのだろう。
そこで、僕がどの道を辿るのか――それは、未来の僕にゆだねるしかない。
だから今は精一杯生きよう。
繰り返すのなら、愚かでも幸せな人生を。
【ジレンマ】完
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