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舞夢( 20代 ♀ NhTOnb )
12/05/11 22:08(更新日時)

1

辺りは静寂と霧に包まれていた。
夜明け前の暗い時間帯と、東西を分断する形で流れている川から発生した川霧の為だ。
コンクリートで舗装された歩道の街路樹からは、緑が芽吹き春の面影を感じさせてくれる。しかし、空気はまだ冷たく本格的な春はまだ遠い。
車道は四輪駆動がすれ違うのにぎりぎりの広さで、対岸と交互に一定の間隔で街灯が点いてはいたが、周辺を朧気に照らし出すだけであまり明るいとは言えなかった。
そんな薄暗い道をオレンジ色の小型のスクーターが北から南へと進んでいた。
運転手は十代の中頃で、丈の長いダウンコートにマフラーを鼻までぐるぐると巻き付けている。
頭はマフラーと同じ白のニット帽を被っていた。
「ねぇライラ。後どのくらいで着くの? もうちょっと?」
運転手の足元に置かれている布製の鞄から灰色の猫がひょっこっと顔を出し、幼い男の子の様な声で言った。
「もう暫く走ったら着くよ。後三十分ぐらいかな」
片手でマフラーを押し下げ、メゾソプラノの声でライラは答えた。
「これから住む街はどんなところなんだろうね。しかも住むアパートの名前が〈ローズ・ガーデン〉なんてとても素敵じゃない? チャコ」
「そうかなぁ。あんまり期待しない方がいいと思うよ」
「どうして?」
ライラは訊ねた。
「あの物件ちょっと安かったもん。裏路地にあるみたいだけど街のメインストリート沿いだし、もう少し値が張ると思うんだ。あれは何かあるよ」
「何かって?」
「幽霊とか」
「冗談はやめてよね。余計に寒くなったじゃない!」
ライラがぞくっと肩を震わせたのを見てくすっととチャコは笑った。
「ごめんごめん、冗談だよ。まぁ行けばわかるんじゃない?」
そうだねとライラは頷くとスクーターのスピードを上げた。
霧は晴れ始めていた。

No.1791183 12/05/11 13:23(スレ作成日時)

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No.1 12/05/11 22:08
舞夢 ( 20代 NhTOnb )

一週間前。
ライラの元に一通の手紙が届いた。それは一ヶ月前に受けた薬師(やくし)の採用試験の結果でずっと待ち望んでいたものだった。

ーー薬師。

薬師とは医師のことで本来ならば読み方は[くすし]だ。だが、この国ではあえてそう呼ばれている。
遥か遠い昔、流行り病に国一体が侵された。
今までにない災厄。
朽ち果てて逝く者。
屍の山、山、山。

人々は恐怖に戦き、誰もが絶望の淵に沈み生を諦めたその時、救いの手が差しのべられた。薬師如来が現れ病を消去ったのだ。
それから人々に色々な薬の煎じ方や、調合の仕方を説いたとされているーーー。



「ここ……だよね?」
「うん……。地図とも違わないからあってるよ。」
ライラとチャコは唖然と立ち尽くしていた。
「凄く荒れてるわね、チャコ。」
「うん。これは凄いね」

壁は剥がれて前の色が剥き出しになり、窓ガラスはあちこちひびが入っていてガテープで補修してある。
庭は手入れされていないのか枯れ木と雑草が伸びたい方へ生えていた。
「とりあえず中に入ろうよ。ずっとここにいるわけにもいかないし」
ライラは頷くとノッカーを鳴らした。
金属のぶつかる音が響きやがて静かになった。
「誰も居ないのかな」
「そんな。今日来るって知ってるはずよ。私、電話で伝えたもの」
もう一度鳴らしてみたものの誰も出てくる気配はなかった。
「引いてみたら? もしかして開くかも」
「誰も居ないのに開いてるわけないわよ」
試しにと軽い気持ちで引くと扉はすんなりと口を開いた。

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