いつか解き放たれる時まで…②
千鶴の人生を綴ります。
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お互いにありがとうと言って別れられた事。
晶仁は私の中で綺麗な思い出のままだ。
晶仁がいつも私に言ってくれたのは、
様々なしがらみは、千鶴の体を奪う事は出来ても、千鶴の心を奪う事は出来ないよ。千鶴の心は自由だよ。
心の中は誰にもわからない。
だから心は自由だよと。
私が東京に居たときに、晶仁が私にルームシューズをプレゼントしてくれた。
グレーのルームシューズでフサフサした可愛いものだった。
私はそれを大切にしまっていた。
二人のタバコの匂いが付いていた。
東京=晶仁と言ってもいいくらい、晶仁と濃い半年を過ごした。
でも私はそれを捨てた。
ずっと残しておいても意味がない。
晶仁と居る時に使ったものは、見ると思い出してしまうから。
ただでさえまだ癒えない傷。
でも本当に幸せな時間をくれた。
次晶仁と話せるなら真っ先にありがとうと言いたい。
「お母さん、お手紙。」
梨華がランドセルからプリントを出した。
『家庭訪問のお知らせ』
家庭訪問かぁ…。
母さん家に居たとしてもやっぱり担任の先生には会っておきたい。
梨華は水曜日の午後にあたっていた。
「わかった。仕事休めるように頼んでみるね。」
梨華の担任は男の先生らしい。
梨華の話だといわゆる『おじさん』のようだ。
いつもの時間に深雪ちゃんが来た。
深雪ちゃんは毎日のように習い事をやっているらしく、夜寝るのも遅いのか毎朝眠そうだった。
「行ってらっしゃい、車に気をつけてね。」
「千鶴、今日も4時までなの❓。」
「多分、4時で上がれると思うよ。」
「母さんさぁ、今朝血圧測ったら少し高いのよ…。ちょっと病院行ってこようかと思ってさ。」
「大丈夫❓。早く行った方がいいよ。なるべく早く帰って来るからさ。」
いつも何でもやってくれている母さんだけに心配だった。
今母さんに倒れられたら大変だ。
ちょっと甘え過ぎて何でもやらせてしまっていた事を反省した。
「おはよー💕。」
「あれ❓、拓海君今日から昼❓」
店に入ると拓海が居た。
「うん。昼入ったり夜入ったり色々だけどね💦。」
「そうなんだ、無理しないように…ね。」
「ありがと。ちぃちゃん💕。」
今日の昼は私と拓海と野崎君だ。
「梅木さん休みなんだね。」
「なんかさぁ隼人さんも最近休んでるんだよね。何かあったのかなぁちょっと迷惑ぅみたいな。」
「連絡つかないの❓。」
「はっきり聞いてないけど、ここ何日か連絡つかないみたい。」
梅木さんと隼人さん…。
もしかして一緒なのかな。
昼過ぎに店長が来た。
なんだか様子がおかしい。
気にはなったけど店が混んでたから、私は仕事に集中した。
「なんか店長元気ないよね💦。」
「俺も気になってた。」
拓海と隙を見て話した。
深い溜め息をついて店長は考え込んでいた。
「店長何かありましたか❓❓。」
少し客がひいて、私は思い切って話しかけた。
「店の金…、持ち逃げされたよ。」
「持ち逃げ⁉。持ち逃げって…、誰にですか⁉。」
「多分…。隼人。」
私と拓海と野崎君は呆気に取られてその場に立ち尽くした。
「隼人と連絡つかないんだよ。」
「えっ⁉、おばさんも一緒⁉。」
「おばさん❓。」
「いえ💦何でもないです。」
二人の事を知っているのは私と拓海だけだと思った…。
「参ったよ…。隼人疑いたくないけどさ、もし隼人だったらって思うとショックだよなー💦💦。」
隼人さん。
梅木さんと、お金持ち逃げして失踪したのかな…。
みんな動揺を隠せなかった…。
その日、夜は臨時休業になった。
「ちぃちゃん、なんか俺落ち着かないんだけどさぁ、これからうち来ない❓。」
「私も同じだよ。でも今日はごめんね、母親具合悪くて早く帰らなきゃないんだ。」
「わかった。ごめんねー。」
私は変な胸騒ぎを感じながらも、家に帰る事にした。
“夜ご飯今日大丈夫かな。何か買い物した方がいいかな。”
気になって家に電話をかけた。
「もしもし❓。」
「梨華❓、お母さんだよ。あのさぁばあちゃん大丈夫かな❓。」
「ばあちゃん今寝てるよ。薬飲んだけど少し休むっていってた。」
「そうなんだ💦、ご飯作らなきゃないでしょ❓、買い物とか大丈夫かな❓。」
「さっきじいちゃんが買い物して来てご飯作ってるよ💦。でも台所めちゃくちゃだよ💦。お母さん早く‼。」
「わかった、すぐ帰るからね。」
“父さん料理なんてほとんどしたことないよ💦。”
私は自転車をぶっ飛ばした。
「ただいまぁ💦。」
玄関を開けると不思議な匂いがした(笑)。
「父さん何作ってた❓。」
「あぁお帰り。いやいや参ったよ💦、どこに何があるのかさっぱりわからん。」
「いいよいいよ私やるから、父さん座ってて💦。」
変に台所でうろうろされても迷惑だ(笑)。
兄も遅番で居ない。
「梨華、お風呂洗える⁉。」
「梨華まだ宿題やってないよー‼。」
「まだ終わってないの⁉。じゃあ宿題してていいから💦。」
こうなったら全部一人でやるしかない。
父さんは何を作ろうとしたのか鍋にお湯が沸いている💦。
私はそのまま鍋に昆布を入れて湯豆腐にした。
「母さん具合どう❓。」
「千鶴お帰り…、ごめんね💦疲れてるのにやらせて…。」
「大丈夫。病院どうだった⁉。」
「やっぱり血圧高いんだって💦。薬もらってきたよ。」
「ご飯食べれたら食べて❓。」
「うん、ありがとう。」
パジャマを着た母さんが、なんか弱々しく見えた。
「更年期もあるのかな❓。」
母さんが言った。
「一概には言えないだろうけど、更年期の高血圧の薬は違うらしいからきちんとみてもらってね💦。」
「そうなんだぁ。なんか嫌だよ、体がおかしいよ💦。」
「母さん無理させちゃったね。梨華の事も任せちゃってたし。」
「千鶴、あなた彼と別れたの❓。」
「どうして⁉。」
「なんか無理してるからさ…。」
母親の勘は鋭い。
「東京に居たんでしょ、彼氏。」
「…う~ん、まぁね(笑)。」
「梨華の事があったから、帰って来たんでしょ。」
何も言い返せなかった。
「まず、その話はいいから、母さんご飯食べよ❓。」
「後悔しないように生きなさい。」
母さんが言った。
そんな生き方が出来たならいい。
自分の心に正直に生きられたらならどんなにいいか…。
でもそういう生き方をする事で、悲しむ人がいる。
人を傷つける事は出来るだけしたくない。
でも知らないうちに私は色んな人を傷つけて来たのかもしれない。
晶仁に会いたかった。
離婚して今は独り者の晶仁と、誰の目もきにせずに付き合いたかった。
でも、梨華をまた置いて晶仁の所へ行ったとしても、きっと晶仁は嬉しくないだろう。
晶仁は梨華を気にする。
そして置いてきた事を後々後悔する私を見たくないと思う人だ。
どれだけ私を愛してくれていたのか…。
別れたくなかった。
もう晶仁以上の人には巡り会えないだろう。
夕食が終わって、茶碗を洗った。
明日の朝の米を研いで、梨華の宿題の音読を聞いてサインをした。
今日まで音読のサインは母さんだった。
“母さんにこんな事までやらせてしまっていたんだ”
私は情けなくなった。
「梨華の先生って何歳くらいなの❓。」
「聞いた事ないからわかんないよ。」
「そうだよね(笑)。」
家庭訪問が楽しみだ(笑)。
「明日の梨華の迎えどうしようね💦。ばあちゃんまだ休ませたいし。」
「梨華大丈夫だよ。」
「でも、一人なんでしょ❓。」
「大丈夫だよ、今日も帰って来れたし。」
「お母さん明日頑張って早く帰してもらうね。何時頃下校❓。」
「明日委員会あるからちょっとわかんないけど、多分4時半くらいかな。」
「4時半ね、じゃあそのあたりに橋のとこで待ってるね。」
「うん。」
明日は何が何でも帰らなきゃ💦。
私は梨華と9時半に寝た(笑)。
最近はドラマを見る時間もない。
一体何がやっているのかさえわからない。
隼人さんと梅木さんは今どうしているかな。
二人一緒なのかな。
店のお金持ってどこに消えたんだろ。
後々出て来にくいやり方するなよ💦。
店のお金持ち出すなんてよっぽどお金に困っていたのかな。
でも梅木さんは主婦だし、ある程度お金はあるはず。
二人はどこに…❓。
店のお金は…❓。
いつの間にか私は眠っていた。
ふと目が覚めて時計を見ると、4時だった。
辺りはもう明るくなって来ていた。
朝ご飯の支度しなきゃ💦。
弁当も作らなきゃない。
梨華を6時過ぎに起こしてご飯を食べさせなきゃ💦。
脱衣所にはきのうの洗濯物があった。
朝からやることはたくさんある。
私は母さんに弁当も朝ご飯も作らせて、ただ仕事に行っていた。
もっと母さん助けてあげなきゃ駄目だったな…。
「あら❓、千鶴起きてるの❓。」
味噌汁を作っていると母さんが起きて来た。
「母さん寝てていいんだよ、私やるから。」
「そういう訳にもいかないって。寝てばかりいても疲れるのよ。」
「無理しちゃ駄目だよ。」
「ありがとね…。」
「今日梨華の下校に間に合うように帰って来るよ。」
「仕事早く上がれるの❓。」
「上がらせてもらうよ。ちょっとぐらい大丈夫だよ。」
梅木さんが何故ずっと休むのか、理由もわからないまま私と拓海と店長は今日もいつもの時間に店を開けた。
相変わらず隼人さんとは電話が繋がらないようだ。
店長はかなり隼人さんを頼りにしていたから、まさか隼人さんがこんな事をするとは思わなかったに違いない。
店の電話が鳴った。
「毎度ありがとうございます。〇〇〇です。」
電話を受けたのは私だった。
「あの…、すみません。いつもお世話になっています、梅木ですが…。」
電話は梅木さんの旦那さんだった。
旦那さんから直接の電話。
何か大変な事になりそうだ💦。
梅木さんは旦那さんに黙って出て行ったのか、ここ何日か家に帰って来ていないようだった。
旦那さんは店に何か手がかりを求めて電話をしてきたようだ。
「隼人居なくなったのに梅木さんまで居なくなるなんて何なんだよ一体…。」
店長は困惑していた。
「やっぱ一緒かな。」
「だろうね…。」
二人は今どこで何をしているのだろう。
周りの人を巻き込むのはやめてもらいたい。
昼になると、店は忙しくなった。
拓海は連日入っていたからかなりお疲れのようだ。
店長も体がきつそうだった。
こんな状態で早く上がらせてなんて言えない…。
でも今日は母さんにも梨華にも迎えに出るって言ったしなぁ…。
子供が居ると色々な事がある。
仕事に影響しない事なんてまずない。
でも子供優先という訳にはいかない。
困ったなぁ…。
隼人さんが普通に夜入って、梅木さんも普通に昼働いてくれてたら何も困らないのに…。
「店長、夜閉めた方が良くないですか❓。」
拓海が機嫌悪そうな顔をしていた。
「うん…、無理だよな…。俺も拓海も休まなきゃぶっ倒れるし、野崎だけじゃ厳しいしな。」
4時をまわって店は閉める事になった。
私は内心助かったと思っていた。
今からダッシュで帰ればなんとか間に合うかも。
「店長、明日のシフトはどうしましょうね。」
「後で連絡するよ、悪いね。」
また店長は隼人さんと梅木さんに何度も電話をかけた。
携帯は見てるはずなのに…。
隼人さんも梅木さんもいい加減にしてほしい。
だんだんムカついてきた。
「ちぃちゃんお疲れ。」
「お疲れ様、ゆっくり寝てね。」
拓海はあくびをしながら手を振って帰って行った。
急がなきゃ💦。
私は自転車をぶっ飛ばして学校に向かった。
途中途中で小学生を見かけた。
梨華とすれ違わないようにしなきゃ💦。
同じような格好や髪型をしている子がいて間違えそうになる💦。
学校の近くまで来ると、梨華が見えた。
「梨華~❗。」
今日は深雪ちゃんが一緒だった。
「お帰り~❗。」
「お母さん、迎えは橋のとこからでいいってば💦。」
梨華が恥ずかしがって少し迷惑そうに言った。
「間に合わないかと思って直接学校に着ちゃったんだ…💦、あれ、今日深雪ちゃん一緒に帰れるの❓。」
「はい…。」
「今日は習い事ないの❓。」
「はい…。」
「はい」しか言わない(笑)。
どんどん小学生が校門から出て来た…。
「梨華に怒られちゃったから橋のとこで待ってるね…。」
自転車を停めたら汗が急に出て来た。
またこぎ始めると風が当たって気持ちがいい…。
私は橋のところで梨華を待った…。
梨華を待つ間、私は梅木さんに電話をかけようか迷った…。
私の電話も取らないかな…。
恐る恐る梅木さんに電話をしてみる。
“プルルル…、プルルル…。”
「……。」
「もしもし❓。」
「……。」
「もしもし梅木さん⁉。」
「えぇ…、そうです。」
梅木さんが電話に出た‼。
「梅木さん⁉、今どこに居ますか⁉。」
「今…❓。」
「うん、大丈夫なの⁉。大変な事になってるよ💦どうかしたの⁉。」
「貞平さん今一人❓。」
「そうだけど。」
「なら良かった。」
「梅木さん、一つ聞いてもいい❓。」
「何❓。」
「一緒だよね…、隼人さん。」
しばらく沈黙があった…。
「うん。」
「どこに居るか聞いてもいい❓。」
「私ね、もう旦那とは無理なのよ…。」
「無理って何が❓。」
「隼人と生きて行きたいの。」
“隼人って呼んでるんだ”
「隼人さんは何て❓。」
「結婚しようって言ってる。」
「梅木さん、二人でいきなり居なくなるのは卑怯だよ❓。隼人さん、やっちゃいけない事やったし。」
「貞平さん、私達の事はもうほっといてほしいの。」
「一緒になりたいなら正々堂々と離婚してからにしなよ‼。黙って居なくなるなんて卑怯だよ‼。」
“プーッ、プーッ。”
梅木さんは電話を切った。
もう二人の世界に入ってしまっている…。
今は誰が何と言おうと無駄だろう…。
お金が底を尽きれば隼人さんは梅木さんの前から消えるだろう。
梅木さんはただ利用されて終わり。
そうなる前になんとかしてあげたい。
梅木さん、隼人さんに出会って「女」に戻ってしまったんだろう…。
わからなくもない。
でも逃げたりしてはダメだよ。
自分を見失ってはダメだよ。
私は晶仁しか見えなかった。
晶仁が全てだった。
でも苦しい恋だった。
梨華が歩いて来るのが見えた。
とりあえず隼人さんと一緒だということと、無事であることを確認出来て良かった。
梨華が私を見付けて走って来た。
「お帰り。」
梨華はニコニコしている。
私が待っててくれて嬉しいのだろうか。
「さぁ、帰ろうか。今日は何作ろうかな。」
「梨華ポテトサラダがいいな。」
「あっ、そうかぁ。ずっと作ってないね。」
「梨華手伝うよ❗。」
「うん、お願いしようかな。」
「ばあちゃん大丈夫かな。」
私と梨華は帰り道の小さなスーパーに寄った。
昔からある店で、私が小さい頃はおばあちゃんがやっていて、今は代々引き継がれ娘さんがやっていた。
すっかり娘さんも白髪が増えて、年をとった印象を受けた。
私と梨華を不思議そうな顔で見ていたけど、話しかけてくれた…。
「もしかして千鶴ちゃん⁉。」
「はい…、そうです。」
「あらぁ…、随分変わったわね…。お母さんに似てきたね(笑)。」
「そうですか💦。」
「娘さん⁉。」
「はい。」
「なんか結婚したって聞いたけど、もうこんなに大きい子がいるんだぁ💦いやぁびっくりしたわ。今は実家に帰って来てるの⁉。」
「はい。これからちょくちょく来ますので宜しくお願いします。」
私と梨華は胡瓜とマヨネーズ、コーンを買った。
梨華はグミが好きでいつの間にかグミをカゴに入れていた(笑)。
「お母さんエコバック持ってないの❓。」
「えっ⁉、持ってないよ。」
「みんな買い物する時は持って来るよ。」
「はいはい、わかりました💦。」
「宿題やっちゃいなよ。それから作るからね。」
「すぐ終わるよ💦。」
まだ4時過ぎは明るい。
家に着くと、洗濯物が庭に干してあった。
“母さん干したのかな”
「ただいまー。母さん帰ったよ‼。」
母さんは居間にいて休んでいた。
「お帰り。あれ~買い物してきたの⁉。」
「うん。梨華とポテトサラダ作るから。」
「早く上がれたの❓。」
「ちょっと色々あって早く帰れたんだ。今洗濯物入れるからね。」
「悪いね…、助かるよ。」
1日天気が良かったから洗濯物はすっかり乾いていた。
畳の部屋でみんなの洗濯物をひとつひとつたたんだ。
梨華は居間でグミを食べながら宿題をやっている。
梨華がまだ小さい頃、私はこうやって成田の家でいつも洗濯物を洗って干してたたんでいた事を思い出した。
梨華は私の側で絵を書いたり、おもちゃで遊んだりしていた。
同じ事の繰り返しの日々。
私は家政婦❓。
結婚したら幸せになれると思っていた。
でも現実は甘くなかった。
離婚に踏み切るまでに時間がかかったのは、姑に逆らえなかった事もあるけれど、自分に負けたくなかったという思いが強かった。
でもそれは間違いだった。
自分の事を褒めてあげられるのは自分しかいないのだ。
自分には甘くてもいい。
姑や旦那は厳しく辛くあたるのだから。
もうこれ以上我慢しなくていい…。
逃げたっていいんだ。
梅木さんは、
今きっとあの頃の私と同じ気持ちなのかも知れない…。
“ピンポーン”。
玄関を開けると深雪ちゃんがいた。
「梨華ちゃん居ますか❓。」
遊びに来たようだ。
なかなか深雪ちゃんと遊べない梨華は、宿題を途中にしたまま外に飛び出して行った。
梨華に後で怒られないように、ジャガイモを茹でて置いておいた。
梨華にはジャガイモを潰してもらおう。
私は胡瓜や玉ねぎを切ったりした。
“晶仁元気にしてるかな…。”
ふと考えるのは、いつも晶仁の事だった。
梨華は5時半を回っても帰って来なかった。
ちょっと気になって外に出てみた。
家の周りに居る様子はない。
ただ自転車がなかった。
恐らく二人で自転車で行ったのだろう。
私は深雪ちゃんの家の方まで探しに行くと、梨華の自転車は深雪ちゃんの家の前にあった。
“こんな時間までお邪魔して…💦”。
「こんにちは。」
玄関が開いていた。
「あっ、お母さんだ‼。」
梨華が出て来た。
「梨華、遅くまでお邪魔しちゃダメだよ‼。」
「こんにちは。」
深雪ちゃんのお母さんだ。
「遅くまですみません。」
「いいえ、ありがとうございました。」
私は梨華に少しきつく注意しながら家に帰った。
「宿題途中でしょ、ポテトサラダ間に合わないよ💦。」
梨華はふくれた。
「深雪ちゃんちで何して遊んだの❓。お母さんてっきり外で遊んでると思ってたよ…。」
「マンガ読んでた。」
深雪ちゃんとはなかなか遊べないから、今日は大目に見てあげようと思ってそれ以上怒るのはやめた。
梨華は頑張って急いで宿題を終わらせたのか、台所に来た。
もうだいたい料理は出来上がっていた。
少し残念そうだ…。
梨華には料理を覚えてもらいたい気持ちはあるけれど、なかなか一緒に支度をする時間が取れない。
休みも不定期だし、時間もまちまちだ。
「今度は一緒に作ろうね。」
「うん…。」
今夜は母さんと梨華と三人で食べた。
明日の仕事はどうなるんだろ…。
考えていると電話がなった。
電話は拓海だ。
「もしもし❓。」
「もしもしちぃちゃん、あのね、あの後店長具合悪くなって倒れたんだ。」
「店長倒れたの💦。」
「俺に電話来たんだけどなんか様子おかしくて心配だからまた店戻ったら店長倒れてて、救急車呼んだんだ。」
「そうだったんだ…。店長ご家族は居たっけ❓。」
「親父さん施設入ってるとかしか聞いてない。」
「大丈夫かな…💦、明日から店どうなるかな❓。」
「当分閉めるんじゃないかな…、人足りないしね。」
大変な事になった…。
あまり休みを取らずに働いていた店長は、心労も重なって疲れてしまったのかな…。
隼人さんと梅木さんの事が大きかったのだろう。
周りの人間を巻き込んでまでも二人の愛を貫き通そうとしている隼人さんと梅木さんを許せないと思った。
「拓海君❓、私達で店開けようよ。」
「えっ❓、マジで。きつくない❓。」
「きついけどさ、野崎君もいるし、時間短くしてもいいからやらない❓。」
「ちぃちゃん本気❓。」
「うん。」
夜も早く閉めればなんとかなるんじゃないかな…。
マネージャーにも相談してみよう。
「とりあえず明日店行ってマネージャーに電話しよう❓。」
「うん、わかった…。」
「野崎君にも言っといてくれる❓。」
緊急事態はいつ起こるかわからない。
周りの人間でカバーして行かなければならない時もあるだろう。
やってみてやっぱりダメならそれでもいい。
とりあえず行動に移してみよう。
拓海と私はちょくちょく店で会えたから、あえて二人で会う事もなかった。
私はいつも仕事があがるとまっすぐ帰って母さんの手伝いをした。
久しぶりに母さんの車を借りて運転をしてみたりもした。
“自分の車欲しいな…”
金銭的に余裕がない時ほど欲が出るものだ。
家の庭にある花に蝶が止まった。
何も考えずに、ぼーっと空を見た。
みんな元気にしてるかな。
亜子。
仲野さん。
伊藤さん。
奥さんに旦那さん。
みんな私の事忘れちゃったかな…。
昌仁は、ひとり暮らししてるのかな…。
思い出すと切なかった。
出来るならまた東京に戻りたい…。
梨華の家庭訪問が明日に迫り、なんとか午前中であがらせてもらうように拓海に相談する事にした。
人が足りない事はよくわかっている。
でも梨華の担任にもきちんと会っておきたい。
「拓海君、明日なんだけど午前中であがらせてもらえないかな。」
「マジ⁉、急用⁉。」
「明日なんだけど子供の家庭訪問あるんだよね。」
「ちぃちゃん子供いんだね…。」
拓海が不思議そうな目で見た。
「うん…。」
「なんとかなんじゃない。ヘルプも来てくれるらしいし。」
「ありがとう…、ごめんね。」
「お母さん、明日家庭訪問だよ❗。」
家に帰ると梨華が心配そうに言って来た。
「大丈夫だよ、午前中で帰って来るから。」
「良かった~。」
今の先生は家にあがるのかな…。
何かお茶菓子用意した方がいいかな…。
帰りに駅前で何か買ってこよう。
梨華も午前授業のようだ。
たまにはお弁当でも買って来て母さんと梨華と食べようかな。
母さんはだいぶ血圧も落ち着いて、畑仕事を時々やっていた。
今年もプランターには綺麗に花を植えていた。
私が育ったこの故郷を晶仁にも見せたかったな。
何故か日に日に晶仁への想いは強くなっていった。
今どうしているんだろう。
毎日電車で通勤してるかな。
一人でアパートに住んでいるのかな。
私は晶仁の番号を消さないままだった。
いつかまた逢えると信じていた。
晶仁もきっと私の事を想っていてくれている。
晶仁…。
何でこうなっちゃったんだろうね…。
ずっと近くに居たかったね。
水曜日。
マネージャーがヘルプの二人を連れて来た。
若い女の子と男の子だった。
昼夜問わずだいたい入れるらしい。
拓海と気が合うのかすぐに三人は打ち解けていた。
私は彼らの会話についていけず、地味に働いていた(笑)。
予定通り午前中で上がり私は駅前の弁当屋に寄った。
「いらっしゃいませ❗。」
「ハンバーグ弁当とのり弁当2つ下さい。」
たくさんあって迷った末にスタンダードな弁当にした。
弁当がぐらつかないように自転車の運転を少し慎重にした(笑)。
毎日こんなに早く帰れたらいいんだけどな…。
帰り道。
今日は午前授業だから小学生が下校している。
梨華より早く家に着けるかな…。
母さんと梨華と弁当を食べてから、お茶菓子を買うのをすっかり忘れていた事に気付いた。
「やばい‼。先生に出すお茶菓子買うの忘れたよ💦。」
「きのうの梨華のおやつのバームクーヘンは⁉。」
慌てて梨華が言った(笑)。
「先生にバームクーヘン⁉(笑)。もうちょっと洒落たお菓子がいいよね。」
「多分食べないと思うよ。そんなに気を遣わなくていいんじゃないの❓」 母さんが言った。
そんなもんかな…。
とりあえず台所をあさると、頂き物のわらび餅と冷たい緑茶を見つけた。
形だけでもあればいいかな…。
うちは割とわかりやすい場所にあったから、地図で書くのも簡単だ。
先生もきっと深雪ちゃんの家から迷う事なくうちに着けるだろう…。
梨華はなんだか落ち着かない様子で家の周りを自転車でグルグル走っている。
3時を少し過ぎると家の前の道路にスピードを落としながら車が停まった。
「先生だ‼。」
梨華が叫んだ。
居間から外を見ると、スーツを着た男の人が梨華に微笑みながら車から降りた…。
梨華の担任が来た。
玄関を開けて出迎えた。
「お忙しい所すみません。六年生の担任をしております、飯塚と言います。」
「いつもお世話になっております、どうぞ…。」
「玄関先で結構ですのでお構いなく…。」
先生は家には上がらないようだ。
梨華はどこかに隠れて盗み見をしているのか見当たらない。
先生と私は、玄関先で梨華の学校での様子や家での様子を話した。
先生からはどこか事務的な印象を受けた。
ただ淡々と話して終わり。
熱血タイプではないし、かといって適当なわけでもないようだが、あまり好感を持てなかった。
先生はほんの五分足らずで帰って行った。
まだ梨華の後に三人ぐらい家庭訪問があったようだ。
あの先生で大丈夫かな…。
「あれ❓、梨華の先生は❓。」
家の裏の畑から戻ってきた母さんが聞いてきた。
「もう帰ったよ。なんかがっかりしちゃったよ。」
「何か言われたの❓。」
「いや、何かあまり一生懸命な感じではないね。」
「今は色んな親が居るからね…、先生も大変なんじゃないの❓。」
確かにそれはあるかも…。
深雪ちゃんのお母さんはどんな印象を受けたかな…。
人によって感じ方は違うから、私の価値観で先生の事を悪く言うのはよそうと思った。
でも梨華ももう六年生だし、人を見る目は備わってきているはずだ。
梨華が何かあった時にじっくり話を聞いてくれる先生ではなさそうだ。
参観日や学校の行事にはなるべく参加しよう。
知っている人は深雪ちゃん親子だけだし寂しい気もする。
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この前洗濯機が壊れて、縦型の乾燥機付き洗濯機を買った。 旦那も納得して買ったのに、今日乾燥機回して…
15レス 309HIT 聞いてほしい!さん (30代 女性 ) -
食事の予定日になっても返信なし
気になる男性がいたのですが… 相手は30代バツイチ 彼からの誘いで一度食事に行きました。その…
10レス 237HIT 恋愛好きさん (30代 女性 ) - もっと見る