悲しい女
短編小説です…
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秋晴れの朝
台所で朝ごはんの支度をしながら、リビングの時計を見る
7時
涼子は、旦那の明彦を起こしに、寝室へ入った
「あなた 時間ですよ~」
明彦は目を開けて両手を広げた
涼子は笑顔で明彦の唇に軽くキスをして
その腕に抱かれた…
焼き魚にサラダ
湯気のたつ味噌汁
甘い卵焼き納豆
それを美味しそうに 明彦は食べ終えた
「ごちそうさま~おいしかった」
明彦は、美しい涼子を優しく見上げる
朝食をすませて珈琲を飲みながら
明彦は思い出したように言った
「あ~今夜青木夫婦が来るんだったよね~
涼子もタイヘンだろうけど精一杯もてなしてあげてね~」
「はい…」
涼子は微笑みながら素直に返事を返した
「俺は定時刻には帰るから…さ~てと…」
読みかけの朝刊をキッチリ畳むと
明彦は出勤準備にとりかかる
明彦…橋場明彦は35歳
日本でも代表的な某銀行のエリート社員
キリリとした顔立ちに細い黒縁の眼鏡をかけている、
長身で足が長い明彦には背広が完璧過ぎるほど似合っていた
玄関には、いつもピカピカに磨き上げた皮靴が揃えてある
涼子は手早く靴ベラを明彦に差し出す
靴をトントンと履き揃えると、ズボンの脇と裾をパンパン払い
壁の姿見で自分の顔、横、後ろ姿
全てチェックする
明彦のいつもの出勤前光景である
高級住宅が立ち並ぶ高台の途中に、涼子と明彦の住む家はあった
涼子は明彦の鞄を持ち、明彦のあとから玄関を出る
ガレージから明彦の乗る車が出てくると
「行ってらっしゃ~い」
涼子は明るく元気に手を振る
車が坂道を下り信号機の前で左折する
見えなくなるまで大きく手を降り続ける
「橋場さんの奥さ~ん おはようございま~す」
隣の気さくなKさんの奥さんが、涼子に挨拶をする
「あ~おはようございます」
涼子は軽く頭を下げる
「橋場さんの奥さんいつもキチンとしてらっしゃる、やだ私~恥ずかしいです~あはは」
…寝ぐせのついたパーマの頭を手で直しながらKさんは話しを続けた
「旦那さんが見えなくなるまで手を振ってるなんて ほんとに仲の良いご夫婦でらっしゃいますよね~」
話しの長い人だが、涼子はこの気軽さや 大らかさが羨ましかった
Kの旦那がゴミ袋を片手に持ち、重たいだの、カッコ悪いだのブツブツいいながら出勤して行くのを涼子は微笑ましく見送り
小走りに玄関に向かった
誰も居なくなった家に入ってドアに内鍵をかける
居間のカーテンを両手でさっと閉める
そして誰もいない部屋の中を
キョロキョロ見渡す
爪先立ちでシンク上の開き扉を開け茶筒を取り出す
蓋を開けると、お茶の入っているはずの茶筒の中から
何故か煙草が出てくる
換気扇のスイッチを押し
ライターに火をつけ
煙草を奥深く吸いこんだ
フ~💨
煙りは換気扇の中へフワフワ吸い込まれて行った
夕方5時
今夜のお客さんの為に 涼子は忙しく動き回っていた
テーブル中央に明彦の好きな赤い薔薇を10数本ほど、硝子の花瓶にさして形を整える
4人分の箸、ワイングラス、取り皿そして、作りたての料理が所狭しと並ぶ…
時計を見上げるともうすぐ6時
洗面所で鏡を見ながら 髪、化粧を整える
ピンポーン
「ただいま~準備はできてるかなぁ~」
明るい明彦の声
「おかえりなさ~い」
涼子は明彦の鞄を受けとる
「お~涼子の料理はおいしそうだね~ それにこの薔薇 美し過ぎるよ~ありがとう」
明彦ははしゃいでいた
まもなく青木夫婦がやってきた
青木圭介…
明彦とは職場の同期入社でライバルでもある…
青木は長いこと札幌支店へ転勤して先月明彦のいる本店へ帰ってきた
今夜はささやかなその歓迎会となった
「こんばんは~あっ涼子さんお久しぶりでした…
相変わらずキレイですね~」
青木は気さくな性格だが明彦ほど身長は高くはなく、
顔は釣りバカの浜ちゃんに少し似ていた
「なに言ってんだよ それよりお前の奥さん紹介してくれよ」
明彦が苦笑しながら言った
「あぁそうだったよな~ 妻の奈緒美です… 初対面だったかな?」
青木に紹介されてにっこり微笑むその人は、ぽっちゃり系でほっぺのエクボが愛らしかった
ワインで乾杯をして
「お口にあいますかどうか…さぁどうぞ召し上がって下さい…」
涼子は控えめに声をかけた
昔話しやお互い夫婦の馴れ初め
仕事の話しなど
一通りの話題が終わった所で青木が言った
「そういえば、橋場んとこ 結婚して何年だ?」
「5年になるかな?…お前俺達の結婚式に出てくれたじゃないか~その次の年に札幌へ行ったんだよ確か…それで、そっちで結婚して子供も作ったんだよな~こんな可愛い嫁さん貰ってさ~」
明彦は楽しそうに話した
すると酒も回った青木が…
「5年もたつのに子供はどうしたんだ?…子供はかわいいぞ~お前~やることちゃんとやってんだろな~ガハハハ」
みんなどっと笑った
涼子も下を向き少し笑った
デザートにラ・フランスをテーブルに出した所で、奈緒美が言った
「あなた そろそろ帰らないと、お義母さんやお義父さんに悪いわ~」
青木夫婦の子供は、青木の両親に今夜は預けてきたらしい
時計を見上げるともうすぐ10になろうとしていた
「そうだな~そろそろお開きにいたしゃしょうか~」
青木がよろけた足で立ち上がり奈緒美が支えて
やがて2人は帰って行った
さっきまでの賑やかさはなくなり
しんと静まり返った部屋で
涼子はテーブルの汚れた食器を片付けはじめた
明彦はまだ テーブルの椅子に座ったままだったが…
いきなり立ち上がり
バッシーン💦
涼子を平手打ちにした
その勢いで涼子は床へ倒れ
薔薇もフローリングへ落下した
硝子の花瓶は粉々に散乱した
涼子は一瞬痛みで意識は遠のいたが
…また始まった…なんで?…なにが悪かったの…あんなに誉めてくれたじゃない…
肩で息をつき興奮した明彦は鬼の形相で
怒鳴り始めた
「なんなんだよ!お前は!
子供ができないのは俺のせいなのか!?💦
答えろ!答えろ!」
「…いえ…あなたのせいじゃ…ありません…私のせいです…」
涼子は殴られた左頬が燃えるように熱かったが、
腕をふんばり起き上がり乱れた髪の毛もそのままで…
正座して答えた
「おまえ、あの時笑ってたじゃないか!…俺を完全に馬鹿にしやがって!!」
明彦は涼子の背中を蹴った 倒れても
腰、股を
この野郎💢この野郎💢
そう叫びながら蹴った…
そしてドタバタ、ドタバタ
足音を残して外へ出て行った…
どのくらい時間がたったのか
明彦が出て行ってわずかの安堵感が流れた
痛みで起き上がれない…
水びたしになった床の上 飛び散った硝子 折れ曲がった薔薇…全てが涙で見えなくなった…
もう何年もこんな事が続く
明彦の怒りのスイッチが分からない…
ヨロヨロ立ち上がると涼子は片付け出した
体の痛みと心の痛みで
涙が後から後から床へポタポタ落ちた…
全て片付けて布団に入って枕元の時計を見ると
午前一時 明彦はまだ帰って来ない
涼子はそのまま眠りについた
朝になった
6時の目覚ましが
ピッピッとなる
こんな時でも平気で眠れる
もう慣れた
悲しい習慣である
リビングは昨日の惨劇はなかったかのように 整然としている…
いつものように朝食の支度を始めた…
今日は土曜日で明彦の仕事は休み
でも土曜日は夫婦で出かける日と決めていた…
世間には良き夫、涼子は美しく料理が上手で品のいい妻…
明彦は外では優しかったし、同僚やお得意先には評判がすこぶる良かった
そして涼子には、料理教室とエステに通わせた…
夫はこうあるべき妻はこうあるべき
明彦のマニアルだった…
外見だけの
朝食はできたが明彦はいない…
時計は11時を少し過ぎていた
突然💦
玄関のドアが開いた
「ただいまぁ~ただいま帰りましたぁ~」
明彦はピンクのリボンのついた一目でプレゼントと分かる紙袋を抱えてニコニコしてリビングへ入ってきた
有頂天な明彦の声とは裏腹に
涼子は一気に体が凍りついたが 普通を装った
「…おかえり~」
「涼子さぁこの間欲しがってたハイヒールー買ってきてあげたよ~
ほら袋開けて💦」
涼子は静かに紙袋を開けた
中から真っ赤なハイヒールが出てきた…
「…あっ…ありがとうほしかったの…とっても」
顔は引きつっていたが…無理に精一杯明彦には笑顔を振りまく…
前に
殴られた後…ワンピースを買って貰ったが…
素直によろこべない涼子は素っ気ない態度をとった
それがまた明彦の勘に触って更に酷い暴力をうけてしまった事があった…
妻は夫のプレゼントには、最高の表情で感謝をあらわさなければならない…
そう明彦マニアルには書いてあるらしい
「ね~履いてみたい?…俺が履かせてあげるから~」
明彦が子供みたいに甘えてハイヒールを涼子にはかせた
「ほらね~やっぱりぴったりだろ~」
どんなに優しくされようが、明彦の眼鏡の奥の瞳はいつも冷たく光っている…
明彦は涼子を人形のように抱き上げると
ベッドへ連れて行って寝かせる
ハイヒールを履いた涼子の形のいい足を抱き寄せ…
ストッキングを脱がせ太ももに顔をうずめた…
人をズタズタにしておいて…その後必ずセックスをする…
異常だ…まるで人の形をした野獣だ…
涼子は歯を食いしばり目を閉じた…
月曜日、また虚しい朝がきた
いつも通りに食事の支度をして
明彦を起こし、キスをして、抱きしめられる…
左頬の、あざを隠すため、涼子は化粧を濃いめにした
明彦は気付いただろうか?
見送りに玄関へ行く
「涼子…今日の予定は?」
「はい…午後から料理教室へ…その帰りに、買い物をして、4時には戻ります…」
「分かった…今夜も美味しいご飯が楽しみだよ~」
冷たい瞳の明彦は笑いながら涼子の反応を見ている
「お任せ下さい…」
涼子は明彦に見られている時だけは笑顔を装う
明彦は涼子のその日の行動を 把握する…
妻は…必要意外は家にいるべきだから携帯は必要ない
…今時涼子は携帯も持たせてもらえない…
車も電車があるから必要ない
友達との外出も、それは不倫の始まりだと言って…許してはくれなかった
携帯 車 友達
それは明彦の自己マニアルの中には影も形もないのである
涼子は全ての自由を奪われていた…
明彦を送り出すと
換気扇の下でタバコを吸った
ふぅ~💨
今はそれだけが、せめてもの楽しみになっていた…
そんなある週末
明彦が
「涼子さ~明日里田へ行こうよ…今頃 紅葉真っ盛りじゃないかな~涼子はどう思う?」
涼子はどう思う?って涼子には、
はい…
分かりました…
ありがとう…
嬉しい…
それだけの返事の権利しかない
でも…
いえ…
いや…
違います…
そんな返事をしようものなら
涼子は、ウサギが熊の餌食のごとく散々な目に会うだろう
すかさず涼子は応える
「いいですね~嬉しいなぁ~」
里田とは、涼子の実家である
涼子は生まれて間もなく両親が交通事故で亡くなり、母方の祖母、里田はるに育てられたのだった
今はるも年をとりひっそりと一人暮らしをしている
明彦は涼子と結婚する時からずっと、はるに月々の金銭的援助をしていた…
はるにとって明彦は素晴らしい孫の婿であり
涼子は幸せ者だと近所に自慢していた
秋空が澄み切った朝だった
里田へは、いつものように一泊の予定
涼子は荷造りをしていた
明彦は車にワックスをかけながら…
隣のKさんの奥さんと話しているのか賑やかな声が響いていた
はるに会えるのは嬉しいが、いつも明彦が一緒だった
結婚して三年たったあたりに、明彦の暴力に耐えかねた涼子は、
着の身着のまま里田に向かった、
逃げ出したい一心だった
親兄弟のない涼子にははるだけが、自分を受け入れてくれるただ一人の身内だった…
だが、里田へたどり着いたとき、明彦が先回りしていた…
あの時は、家につくなり、殴られ…
「いいかおまえのあのクソババァはだれのおかげで飯が食えるんだ?!
今度逃げて、俺の顔に泥をぬったら、殺してやる!!」
そう怒鳴られた
その時の涼子は顔も手足もあざがついて
3ヶ月も外に出られなかった…
あれ以来逃げる気力もなくなった
明彦の涼子への躾
それは体で覚えさせられたものだった…
…お~い準備できたか~
外で明彦がさけんでる
ピカピカに磨かれた車は
心が氷ついた涼子を乗せて動き出した
はるの住む所は、
ひなびた温泉の山あいの小さい村にあった
涼子の家からさほど距離はないが、山のまわりを行く道は険しく車で一時間 ほどはかかる
「よく来たね~」
はるが家の前で車から降りる明彦と涼子を出迎える
白くなった頭を整えながら 明彦に何度も頭をさげる
夜は三人で食卓を囲む
明彦がはるを覗き込むように話し出す
「ばぁちゃんは、まだ一人で暮らせるんですか?…寂しくなったり辛くなったら、いつでもうちらと一緒に暮らしましょう…遠慮しなくていいのですよ…なぁ涼子…」
「はい…」
はるは箸を置いて
「ありがとう、気持ちだけでも嬉しくて…涼子はほんとに優しくていい旦那さんと一緒になった…ありがたい…」
…はるは何も知らずに泣いている
なんて外面のいい男なんだろう
心にもない言葉…
明彦は満足げに、ビールを飲み干した
朝 年老いたはるを後に二人は帰って行った
「やっぱり紅葉がきれいだよ~涼子どうだ~俺の言った通りだろ~」
運転する明彦はなごやかでイキイキしていたが
涼子は助手席の窓から景色だけ眺めていた
道が下り坂にさしかかると左下に渓谷が見え 色鮮やかな紅葉がどこまでもつづいている
緩やかな下り坂は車のスピードを段々早めていった
「俺はいつもこの下り坂が恐いんだよな~でも今日は雪の季節じゃなくて良かったよ~
ほらそれに、この急カーブ 先が見えないし、対向車が真ん中走ってきたら、ハンドル左にきっちゃうだろ~
谷底に真っ逆さまに落ちちゃうよ~お陀仏だぜ~」
涼子は一人で喋り続ける明彦の話しなど聞いてはいなかったが、
急カーブ…
真っ逆さま…
その言葉に ハッとした…
涼子は 今まで思っていても はっきり出てこなかった…明彦への殺意が
その時くっきり浮かび上がったのだ
そして 時は流れ
いつしか11月になっていた
はるの家に行って
帰って来てからの涼子の心の中には
明彦への殺意が棲み着いてしまった…
あれからの生活は
神経をすり減らしながら明彦の機嫌をとる
そんな相変わらずの毎日だった
時間は淡々と流れて行った
ふと、部屋の中を見渡す
そこは、涼子が五年間、耐えに耐え 忍んできた
血と汗が染み付いた 冷たく絶望的な空間だった
部屋に少しでもホコリがたまれば
…おまえ!昼間なにやってるんだ💢
と怒鳴られ
またある朝には 明彦の靴がみがかれていないと
「…俺に恥をかかすつもりかおまえは💢」
と言って朝からぶたれて口から血を流した事もあった
そして、朝は化粧し身支度整えてから明彦を起こしキスをする
愛してもいない人とキスをする
笑ってしまう
暴力で全て支配しようとする明彦に
改めて憎しみが込み上げてくる
涼子は、こんな傷ついた自分が悲しくて
声をあげて泣いた…
明彦を殺してやりたい…
この世から消し去ってしまいたい
明彦への愛情はすでにない…
でも…どうやって…
もし捕まったら?
あんな男のために一生刑務所で暮らしたくはない
しかし、この先の明彦との生活だって刑務所となんら変わりはないではないか…
「…刑務所?…そうだ、私は今刑務所にいるんだ…あっ…ハッハッハハハハハハハハハハハハ」
涼子は大きな声で笑い出してしまった
あの男が生きている限り、私に自由などないのだ…
涼子の頭の中で
悪魔が囁く…
殺せ…
完璧に…
それから2ヶ月たったある日
夜、涼子は一人で家にいた…
電話のベルがなった…
「もしもし…橋場でございます…」
「橋場さんですか…こちらは〇〇警察所です…橋場明彦さんのお宅ですよね…大変お気の毒ですが…ご主人は交通事故に合われて…先ほどお亡くなりになりました…」
「え!?…」
「大変申し訳ありませんが…ご遺体の確認に…」
涼子はタクシーを飛ばした
遺体安置所には、全身白い布で覆われた明彦がいた…
顔を確認して、
「あなた…あなた~な…なんでこんな事に…うッうッ…」
泣き崩れる涼子…
涼子を支える警察官
明彦は、死んだ
通夜 告別式は、明彦の世間的人柄の良さに…
沢山の弔問客が訪れた
そして初七日の夜の事だった
ピンポーン
刑事が二人、涼子の家を訪ねてきた
明彦の仏壇に手を合わせて
テーブルに二人の刑事が座った
「奥さん…我々が調べた事で、2・3質問があるのですが……」
涼子は、明彦が亡くなって以来、無表情で生気がなくなっていた…
「はい…」
「あの日、旦那さんは、どうしてあの場所を車で通ったのですか?」
涼子はゆっくり目線を落としたまま答える
「…私の祖母に、届け物があったんです…」
「届け物ですか?」
「はい…祖母は最近階段で転倒して…いえ…歩けるようにはなったんですが、主人が杖を買って届けたいって言うものですから…」
「お一人で?奥さんはどうして一緒に行かなかったのですか?…」
「私はあの日風邪をひいていましたので…主人が寝ているように言いましたもので…」
「そうですか…我々の調べでは、ご主人は…里田はるさんにはとても優しくしていましたね…里田さんが、とても悲しんでいましたよ…そしてあなたにもいい旦那さんだったのですね…近所でもお二人はとても仲がいいと、隣のkさんが言ってました……」
「…」
涼子は目頭を押さえる…
「今回は事故と言う事で…あの坂道は本当に危ないですね~私も先日現場検証に行きましたが…対向車がセンターオーバーして来たらしいですわ~なんとも痛ましい…その対向車の行方も調べているんですが…なかなか分からなくて…それじゃ…奥さんお力落としなく…では我々はこれで…」
二人の警察官は出したお茶に手をつけず、玄関へ向かった…
涼子は靴ベラを手早く差し出す…
「どうもお邪魔しました…」
二人は帰って行った…
内鍵をかける
涼子はリビングに戻った…
涼子は キッチンの茶筒を取り出す
蓋を開ける
タバコと…携帯電話を取り出す
電話をかける
「もしもし…和夫?私…今ね~刑事が来てぇ~もうびっくりだよ~…ん?大丈夫、もう帰っちゃったから……対向車の事はわからないみたいだって〰」
和夫「そうか…俺のことはばれてないのか?…良かった」
涼子「すべてうまくいったわ💦
和夫「完全犯罪か?」
涼子「そうよ…やったわ~
でもさぁ~明彦もバカよね~里田のばぁちゃんが亡くなったから、私一足先に里田に来ています!あなたの礼服は持ってきたけど…荷物一つ忘れてきたから持ってきてくださらないかしら~あなた💦私ショックでどうしたらいいのか…あなた早く来てちょうだい
なんて、泣き真似したら…車ですっとんで~笑える」
和夫「それほど涼子を愛してたって事だろ」
涼子「冗談じゃないわよ…あんな暴力男、いつも私と和夫の事疑って、嫉妬して…自由もなんにもないし…でもさぁ聞いてよ…あいつ子種がないのよ…」
和夫「まじ?」
涼子「そうよ…私ほら、子供ができないから産婦人科へ通ってたじゃない~…そしたらお医者さん、原因は奥さんじゃなくて旦那様にあるね~なんて言ってたもの…まぁ今となったら子供いなくて良かったけどね~あははは」
和夫「涼子これからどうすんの?」
涼子「そうね~明彦の生命保険と…それに…ここの家、明彦が死んでローンがなくなったの…売ったらいくらになるかな~それで…しばらく里田に帰るつもり」
和夫「そうか…でもたまに逢おうぜ」
涼子「もちろんよ~その前に、パーッと沖縄あたりに旅行に行こうよ~え?…奥さん?…出張とかっていっとけばいいじゃない?早く和夫に会いたいよ~」
和夫「そうだな~やっと涼子と会える…」
…完…
夕方4時
秋はあっという間に日が暮れる…
美穂は小学校へ向かって、猛スピードで自転車をこいで行く
学校へ着くと、黄色い帽子にランドセルの、大貴が待っていた…
「お母さ~ん」
「たいき~」
大貴は 美穂に飛びついてくる
「大貴~待ったか~~?」
「 ううん…お母さん早かったね…」
「 お母さんは、自転車に乗ったら早いんだぞ~~」
大貴のアゴをくすぐる…
「ぎゃははは~」
大貴の笑顔を見ると美穂は 仕事の疲れも飛ぶ…
1日で一番この瞬間が好きだ…
夕暮れの街を、美穂は自転車を押し、大貴と並んで帰って行く
「 ねぇ~お母さん…車、買ったら?」
「なんで~?自転車があるでしょ…」
「だって、ゆう君ちも、しょうちゃんちも…車あるんだよ…車って、たかいの?」
「たかいよ…それに…保険とか税金とか、車検…とか色々かかるからさぁ~お母さんのパートだけじゃお金足りないよ…」
「ふ~ん…。」
「大貴…早く大きくなって、お母さんに車買ってちょうだ~い…」
「 うん!わかった!」
美穂は32歳
女に狂った 亭主と別れて、もう三年になろうとしていた
それ以来、美穂と大貴は肩を寄せあって必死で生きてきた…
大貴と一緒なら、なんにもいらない、そう思っていたけれど
お金があったらもっと幸せなんだろうなぁ…
私って負け組かっ?…
そう思うと、なんだか…気持ちがシュンとなった…
朝…学校へ行く大貴の後ろ姿を見送って、家事をすませると、美穂はパート先へ向かった…
そこは、電子部品工場
ここで知り合った仲間が二人いた
夏子と京子だった
夏子は30歳独身…
京子は35歳…結婚している…
単純 流れ作業の仕事だけど、仲間がいてくれるから、楽しく働けた…
昼になった
いつものように三人で弁当を食べる
工場の 裏庭の芝生で、三人が、それぞれ自分の手作り弁当を広げた…
「まるで お花見みたいだね~♪」
一番若い夏子が言う
夏子は、彼の事…
美穂は、息子の事…
話しはつきない…
そんな二人に対して、京子はどちらかといえば、いつも聞き役…
だが今日はいつもと違っていた…
京子が、二人に顔近づけ、小声で、こう言った
「実は…ちょっと悩みがあって…」
京子は穏やかで、痩せ方の美人だった…
京子 「実は…旦那が、不倫してるみたいなの…いや…まだはっきりとは…」
夏子 「…」
美穂 「…」
夏子も美穂もびっくりして言葉に詰まっているが…
京子は続ける
「旦那、最近さぁ~帰りは遅いし…おかしいなぁと思ってたのよ、お酒飲めない人なのにやたら、接待、接待って…
そしたら…旦那のズボンのポケットから、ホテルの領収書が出てきたの…」
京子は、財布からクシャクシャを伸ばしてたたんだ、領収書を出した
「フジミホテル?…」
領収書を見て、夏子が言った
美穂 「夏子…知ってんのそのホテル…」
夏子 「知ってるよ隣町だよ…私も彼と何回か行った事あるよ…だってこの近辺じゃ…な~んか恥ずかしいし……」
言ってしまってから夏子が照れくさそうな顔をする
美穂 「でもまだそうと決まった訳じゃないんでしょう?…」
美穂は言葉をえらびながら聞いた
京子 「だったらいいんだけど…今日…金曜日でしょ?…また接待なんだって…」
夏子と美穂は顔を見合わせた
夏子 「京子さ~旦那に、はっきり聞いたら?」
夏子が身を乗り出す
京子 「…なんて聞けばいい?…それに、ホントの事なんか言うわけないよ……隠したいわけでしょ…それに…もしホントに…本当に不倫だったら…悲しいよ…。」
京子の目にから涙がこぼれそう…
美穂 「じゃ少し黙って様子みたら?…」
京子「…。」
夏子 「じゃ…私と美穂とで確かめてあげるよ!あのホテルで…今夜!」
美穂 「え?…わ…私もかい?」
夏子 「美穂…今夜行ってみよう…そのフジミホテルへ…」
夜7時
夏子が車で美穂を迎えに来た…
夏子 「あれ?大貴は?」
美穂 「オバアの家にお泊まり…よろこんで行ったよ~」
夏子 「そうだよね…小学一年生はラブホは、まだ早いよね~あははは」
美穂 「笑い事じゃないでしょ…とにかく行ってみるか…」
夏子 「へい…」
美穂 「どうでもいいけど夏子さぁ~その帽子とサングラス…帽子はともかくサングラスいらなくね?」
夏子 「え?一応張り込み…てか、尾行だから、目立っちゃいけないし~い」
美穂 「てか余計目立つし…」
車はホテルへ着いた…
賑やかな大通りから少し路地に入った所にホテルはあったが…かなり静かな所だ
ホテル入り口が見える空き地に車を止め、エンジンを切ると あたりは、人通りもまばらでホテルのネオン以外に光はなく暗闇だ…
二人はソファーを倒して体制を低くした
夏子 「まじ張り込みだな~」
たまにカップルが腕を組んで入って行くが、京子の旦那らしき人はいない
夏子 「ねぇ…京子の旦那もう入っちゃったかな?」
美穂「まだ来てないかもね~まだ8時だしね…」
夏子が自販機で缶コーヒーを買ってきて飲んだ…
夏子 「もう10時だよ…」
美穂 「眠くなってきたよ…」
夏子「 あっ…あれ!」
ホテルを見ると、男女の人影が出て来る…
夏子 「ちがうか~京子の旦那じゃないな…」
男はヤクザ風の黒っぽい背広、女は痩せ形のロン毛、どう見ても水商売風…
女が不釣り合いな大きめのバックを抱えて、大通りとは反対側へ走る
それをヤクザが追う…
美穂 「なにやってんのあの二人…」
夏子「シー…こっちに来る…」
夏子は美穂の頭を押さえて、二人は頭を引っ込めた…
夏子の車には人の気配がないと思ったのか、女は夏子の車のすぐ近くまで来て、追いかけて来た男に手首を捕まれた…
男 「話しが違うだろ…そのバックこっちへよこせ!」
バックを必死でかばい、嫌がる女ともめ始めた…
やがて、どこから出したのか、女はいきなり男の腹に…キラッと光るモノ、ナイフを刺した!!
それを見ておどろいた夏子は
「ギ〰〰ん💦」
美穂は叫ぼうとする夏子の口を押さえた…
ここに目撃者がいたらまずい!
二人は震えながらまた窓の外を見た!
すると腹を刺された男は、なんと 自分の腹からナイフを抜き取り、女の腹を刺した!
女は…腹を押さえ、膝を付き前かがみに倒れた…
男も2・3歩フラフラよろめいたが、横に崩れ倒れた
二人はそのまま動かない…
…
また静寂が戻った
なにもなかったかのように、ホテルのネオンが煌めいている
美穂と夏子は恐怖で 抱き合ったまま ガタガタと震えていた…
いままでテレビや映画でしか見た事のない映像が…目の前で起きたのだ…
特にいい事もなかった人生だけど、こんな惨状にもあった事はない…
はっと我にかえった美穂が…
美穂「ねぇ…あの二人まだ生きてるかも知れない…救急車とか…ほら警察とか…」
夏子「死んだかな…?」
美穂 「分かんないよ…」
夏子「かかわりたくないよ…ほっとこ…逃げよう!…」
夏子はエンジンをかけ、ライトをつけた…
車のライトで闇はあたり一面明るくなった
倒れた二人の横を車で進みかけた時
二人が取り合っていた黒いずっしりとした大きめのバッグが無造作に落ちていた…
すると、開きかけたファスナーの中から札束がはみ出ていた…
夏子 「なにあれ?!」
夏子は急に車を止まると 外に飛び出した
その間わずか10秒…
夏子 「ほら!」
助手席の美穂に札束を放り投げると…
車を急発進させた
美穂 「なんで?なにこれ?!」
夏子「…。」
戸惑う美穂の言葉を振り切るように
車は大通へ出た
美穂 「夏子ダメだよ!こんなこと!人のもんだよ!
夏子!夏子!」
まっすぐ前を向きハンドルを握る夏子は、無言だった
美穂は 膝の上の見たこともない、札束をジャンバーの左右の裾で隠しながら…
美穂 「ね~置いて来ようよ、まだ間に合うから…」
夏子が口を開いた
夏子 「アイツらきっとヤクザがらみだよ…ろくなお金じゃないよ…たいした額じゃないし…黙ってれば分からないよ…」
美穂 「どんなお金だって、人のもんでしょう?」
夏子 「美穂はいつだってそうだよねっ!…きれいごとばっかし言って!」
美穂 「きれいごと?……。」
夏子 「美穂は、お金欲しくないの?」
美穂 「……。」
夜の賑やかな道を夏子の車はただ黙々と走り続けた
キーッ…
車は夏子のアパートの前で止まった
二人は階段を一挙に駆け上がった
ドアのカギを開ける夏子の手は震えている
中からカギをかけ、窓のカーテンを勢いよく閉める…
美穂はジャンバーでくるんでいた物をテーブルの上に開けた…
バサバサ…札束が現れた
夏子 「いくらあるかな?…」
美穂 「これひとつ百万?…」
夏子 「1つ2つ………10…12…」
二人は同時に
「1200万円~!」
大きい声でそう言い、はッとして口を押さえた
夏子「ひとり600万…」
夏子はそう言うと、束を6つづつ重ねて二列に並べ、片方を美穂の前に差し出した
夏子 「美穂…もう後戻りできないよ…大丈夫だから!ね!ね!」
夏子は正座したままの美穂の肩を両手でつかんで揺り動かしながら言った
美穂 「…。」
少し沈黙が流れた
夏子 「コーヒーでも飲んで空気変えようか?
」
夏子は立ち上がり台所へ振り返った時…
美穂が話し始めた
美穂 「お金見たらもうダメだよ…私…やっぱり…欲しくなっちゃった…」
そして両手で顔を覆って泣きだした
夏子もべったり座って
「やってしまったね…」
と…ボロボロ泣き出した…
夏子 「私の彼氏、会社の金に手をつけたの…。」
美穂は涙だらけの目を夏子に向けた
美穂 「いくら?…」
夏子「400万ぐらい…かな…わからない…」
美穂 「夏子、結婚するんでしょ?」
夏子 「彼の友達が居酒屋やるから…連帯保証人になったの親友だったし…応援してたのに…うまくいかなかった…
結局夜逃げして…
彼も一生懸命返済してたんだけど…ちょっと借りるつもりが、どんどん……
年末までに会社に返さなきゃどうなるか…結婚どころじゃないよ…」
美穂 「…」
夏子 「私さぁ最近、毎日、毎日、お金のことばっかり考えててねぇ…」
美穂は夏子の肩を撫でながら、相槌をうち黙って聞いている…
夏子 「やっと大好きな人と結婚して、これから幸せになるはずだったのに……
目の前にあんな大金あるんだもん…気が付いたら…あんな事しちゃってた…ごめんね…美穂…
返してくる?…返してもいいよ…やっぱりこんなの間違ってるよね…」
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