恋愛不適齢期
「俺、浮気しちゃった🎵」
その言葉に耳を疑った。
まるでイタズラした子供みたいに明るく話す夫。
あまりのくったくのなさに
その話が真実だとは思えなかった。
ただその一言が今後の人生をガラリと一変させることになるとは、その時誰にも予想ができなかっただろう。
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私、亜紀はどこにでもいる平凡な主婦。
下の子が春から小学校へ入学が決まり、これでやっと子育ても一段落。
最近は夫の実家の仕事を手伝いながらも趣味の時間、ママ友とのランチにプチ幸せを感じている極々普通の主婦だった…
夫婦生活もいたって普通。
多少の愚痴はあってもそんなのどこの家庭にもあるもの。
人当たりがよく優しい子煩悩な夫。
「いい旦那さんだよね」
と友人や周りの人に言われ続け
はや11年。
むしろ私のほうがぐうたら主婦でごめんなさいね…と
夫に言いたくなるぐらいだったので
夫に疑いを抱くことなど今の今まで1度もなかった。
夫は私の過去に不満をもっていたのは結婚するときからわかっていた。
…というのも結婚前にした私の浮気が原因。
夫は母の連れ子で
1才のときから再婚相手を実の父として育てられてきた。
そのせいなのか母の息子(夫)を守りたい気持ちは大人になってからも並み以上のものだった。
つきあって間もなくに夫の生い立ちを聞かされ
「息子をどうか傷つけないでくれ」と夫のいない所で日々念を押され続けてた。
それがどんどんエスカレートしていき
母は私達が出かける場所、私の友人関係にも口を出してきた。
それを容認する夫にも嫌気がさし私は次第に別の人に惹かれていった。
別れ話をもちだしたとき
「別れたくない」とパニックに陥った夫になかば強引にレイプされ、私は妊娠。
私は好きな人を諦め、夫と結婚した。
夫はそのとき私が別の人に惹かれたことをずっと気にしていたのは知っている。
ただ結婚を決めたときに
互いに過去を断ち切って1からやり直そう、生涯を遂げようと固く決心した私達に
私の独身時代の浮気が結婚11年目にしてそこまで弊害になるものだとは 考えもしなかった。
「暴露話をしよう」
と持ちかけてきた夫の目的はすぐにわかった。
きっと独身時代の浮気の話を
聞きたいのだろうと。
当時夫はなにひとつ私を責めることなく受け入れたので
そのことを聞きたがっていたのだ。
私はもう11年もたっていたし
「じゃ互いに恨みごとはなしね」
と昔のことを話始めた。
母に私達のつき合いに執拗に口出しされていたこと、それが原因で他の人に惹かれたこと…
夫は初めて聞く事実に驚きつつも深く納得していたようだった。
全て話終えると夫はスッキリしていたようだった。
むしろそんな母の自宅近くに家を建てたことに感謝すらしていた。
過去のこととはいえ夫を傷つけた事実に私はあらためて謝罪し、夫ももう過去のこと…と笑っていた。
「じゃ、あなたの番ね」
私はこのあと聞かされる真実などまったく予想もせず
一体何が暴露されるのかとワクワクしていた。
夫は少しの沈黙のあと
私の顔色を見ながらこう言った。
「俺、浮気しちゃった🎵」
あまりのあっけらかんとした言い方だったので一瞬耳を疑ったが、我に返り私はこう言った。
「私も他に好きな人いたしね。あの時はきっとあなたも辛かっただろうから…仕方ないよ」と。
そう、あまりに普通に話す夫を見て、私はてっきり独身時代の話だとばかり思っていた。
すると夫の口から出た言葉は
違っていた。
「いや…2年前なんだよね(失笑)」
なんだか話がよくわからなかった。
えっと…いつあなたにそんな時間が?
たまに飲みに出かけることはあっても、仕事で休みもままならない、たまの休日も家にいてゴロゴロしてたじゃない…
え?そんな時間ある?
📱はその辺に置きっぱなしだし…
私は不思議でたまらなかった…
不思議に思う私に夫は語り始めた。
「3年前に俺、同窓会の幹事やっただろ?相手はあのときの幹事メンバーだったんだよね(笑)」
確かに同窓会の幹事で一生懸命みんなに連絡とったり、同窓会を盛り上げる企画を立ててたな…
そういえばその頃はよく企画会議してくるわ~と出かけていたっけ…
と思い出した途端、夫の話が
嘘ではなく事実であるということを思い知らされた。
夫の話によれば
相手は独身のキャリアウーマン。
たまに友人との飲み会で同じ席に居合わせたことはあるけど
今まであまり話はしたことがなかった。
昔は同じクラスだったから友達だったけどね。
同窓会の幹事メンバーに彼女もいたことからまた親しくなって…なんとなくずるずると…ね…
そう話す夫の顔はまだ笑顔だった。
「ふうん…」
まだ半信半疑だったけど
すでに明け方近くまわっていたため寝ることにした。
「ごめんね、おやすみ」
そういう夫はまだ笑顔だった。
でも雰囲気を悪くしたくなくて
「あなたもすみにおけないね」
と余裕ぶって床についた。
とは言ったものの眠れない。
だから当時の記憶をたどってみることにした。
同窓会の会場を頭をしぼって
考える夫。
一番お世話になった先生と連絡が取れないと残念がる夫。
ちょっとどうしたらいいかわからんから相談してくるわ~と笑って出ていく夫。
頑張っていい同窓会にしてねと励まし、出かける夫を笑顔で見送っていた自分まで思い出されて急に胸が苦しくなった。
朝から予定があった私は
結局一睡もできずに家を出たのだった。
ママ友に相談しても
「あの旦那さんにそんなことあるわけないじゃない」
と信じてももらえない。
なんだかモヤモヤした日々が続いていたが
私は夫を責めはせずとりあえず日々淡々と過ごしていた。
そんな中久々に高校時代の友人から電話があった。
そういや出産祝いを贈ったんだっけ。お礼の電話かな?
その時はそう思っていた。
「久しぶり~」
懐かしい友人の声に心が踊った。1年前旦那さんの転勤で市内を離れた彼女とはお別れすらもメールでしか言えず、直接話すのなんて何年ぶりだろう。
出産祝いのお礼や近場にいる友人の近況報告、思い出話に花が咲き、楽しく談笑していた。
そんな中彼女に
「最近夫婦仲はどう?」と聞かれ
言葉につまった。
そこで最近の出来事を話すと
彼女は大きくため息をつきこう言った。
「実はね…」
友人から聞いた話はこうだった。
2~3年前に私達夫婦をよく知る別の友人が、夫と見知らぬ女性がホテルから出る姿を何度か見かけたらしいと。
人気のない外れたホテルは確かに別の友人宅からそう離れていなかったため、嘘でないことは明らかだった。
そのあと友人と何を話していたのかは覚えていない。
電話を切る直前彼女に大丈夫?と声をかけられた気はするが
一体何と答えたのかすら
記憶にない。
ただ私は次の日から探偵になった。
夫の彼女は美穂。
美穂は明るく朗らかで誰からも好かれる性格。
見た目も綺麗な人らしい。
夫とはもう2年以上で同級生の中では公認の仲だったらしい。
なんせ私には男がいて家庭を顧みない妻としてそこに存在していたから。
調べてくれた友人はもちろん同窓会には出席したけど、夫は幹事メンバーと仲良く飲んでいたし、昔から自分は同級生と絡むほうではないので
そんなことになっていたとは知りもしなかったと言っていた。
その夜、私と夫は初めて口論することになったのは言うまでもない。
何調べあげてるんだ💢
今は別れたんだからいいだろう💢
俺に浮気されて辛いのか?💢
その辛さは俺が独身時代にお前から受けた辛さだ!
思い知ったか💢
1度は彼女と一緒になりたいとも思ったが、子供とお前のために別れてやったんだ💢
今俺にここにいてもらえることに感謝しろ💢
グタグタ言うな💢💢💢
その言葉にさすがの私もブチ切れした。
私が浮気して男がいたのは独身時代。
結婚するときに過去を断ち切って1からやり直そうって決めたじゃない💢
それを今現在浮気してるみたいにみんなに言って💢
私はあなたと結婚してから子育てと姑の世話焼きで浮気する暇もその気もなかったわよ💢
女がいたことは百歩譲って許すけど、私を侮辱したことは許せない!!!
この浮気の件で私は初めて大泣きした。
夫が部屋から去ってからも悔しくて涙が止まらなかった。
その日以来夫とは罵り合いの
日々だった。
夫は毎日私に見下した物言いをし彼女であった美穂と私を比べてきた。
ミニスカート姿がそそられたな…
お前ときたら出産後はジーンズしか履かないじゃないか
色気がないっつうか…
女終わってるよな(笑)
気の強い私はもちろん負けじと言い返したが
比べられるたびに私は女としての自信も失っていった。
1人出産するごとに母としての自信は増していったのにな。
皮肉なもんで…。
罵り合いの日々が5ヵ月続き
私は精神的につかれてきた。
もう2人で話しても無駄だと思い姑にSOSを出してみることにした。
結婚11年もたつと姑のあしらいはうまくなるもので
姑とは不満はあるもののまぁまぁうまくやっていたのだった。
私はすがる思いで姑に全てを話すことにした。
しかし姑の反応は違っていた。
まるで信じられずな状態で
むしろ私はそんな育てかたしてないわよ💢
と逆に怒られてしまった。
血は水より濃いとはこのことか。きっと息子がかわいいんだろうな。
もう姑にこの話をするのはやめよう。
そう決意したことなど露しらず
姑はその日から毎日我が家へ
通いつめ
息子は浮気などしない
私の子育ては間違ってない
亜紀さん病んでるんじゃない?
この3点セットを1ヵ月私に営業し続けた。
私は限界だった――――
こんなに歪み合いして暮らすぐらいなら離婚しよう。
ただ子供達はどうする?
この家でこの土地で生まれ育ち友達も増え幸せに暮らしている。夜中に両親が罵りあってるとも知らずに。
洗濯物をたたみながらそんなことを考えていたら
ポロリと涙がこぼれた。
それを見ていた娘がすかさず
「お母さん大丈夫?どこか痛いの?麻奈がついてるよ。頑張って!」
ジンときた。
私はもう少し離婚を延ばすことにした。
2年後…
月日がたつごとに夫との罵り合いは次第に数が減っていった。
夫はそれを許されたと勘違いしたようだが、私は子供のために熟年離婚という形でけじめをつける決心をしたのだ。
夫に数々罵られ、愛情はすでになくなっていたが、この先10年は子供のために生きようと思った。
毎日同じことの繰り返し。
家事して、実家の仕事を手伝って、合間に時間を見つけては趣味の時間を持ったり、友人とランチしたり。
でも以前のように何をしても楽しめなくなっていた。
まるで心が枯れてしまったかのように…
そんな中一番仲のいいママ友から最近携帯ゲームにはまっているという話を聞いた。
「おもしろいんだって~!やってみてよ~!!」
どうやらママ友はコミュニティサイト系のゲームにはまっているらしかった。
「基本1人でやるゲームだけど仲間に助けてもらえるんだよ~!助けてもらえるとすごく嬉しくってね…」
延々とゲームの楽しさを教えられたが、私は聞き流していた。ゲームなんかする気分にもなれないし。
「まっ、時間できたらね」
適当にママ友をあしらってその話を聞き流した。
2ヵ月後…
その夜私は暇をもて余していた。
夫も子供達もはやくに就寝。
レンタルした映画も昨日観ちゃったし、撮りためていたドラマも全て観終えた。
読む本も雑誌もないし何もすることがない。
この頃の私は家族が寝静まった後1人でのんびり過ごす時間…
ただそれだけが楽しみで生きていた。
そういえばママ友が携帯ゲームの話してたな。
暇だし覗いてみるか。
そう思って何気にサイトを開いてみた。
なんかよくわかんないな…
これのどこが楽しいんだろう。
最初はその程度だった。
まさかそこに出逢いがあるとも気づかずに…。
なんとなく携帯ゲームを始めたもののおもしろさがまったくわからない。
気が向いたときにポチポチと押す程度でいつの間にか自分にも仲間らしき人ができたがなんだかよくわからなかった。
なぜならゲーム自体はポチポチ押してればクリアしてしまう単純なものだから。
もうやめようかな。
あまりの単純さに飽きがきていたところだった。
「おはようございます。昨日は暑かったですね。今日も1日頑張りましょう!!」
携帯ゲームの自分のページに
初めて仲間らしき人からコメントがきていた。
なんだかわけがわからず
ママ友に「これ、何?」と聞きに行くと私がゲームを始めたことに喜んでいたようだった。
ママ友はコメントの返し方やゲームの遊び方を詳しく教えてくれた。案外私が思っていたより奥が深いゲームだったことに驚きを隠せなかった。
「絶対はまるから(笑)」
それ以降私はその言葉どおりママ友同様、携帯ゲームにどっぷりはまっていったのだった。
「今日は地元のお祭り。楽しんでくるね」
「おすすめの映画はなに~?」
私はゲーム内で仲間とコメントをし合うことが楽しくてしかたがなくなっていた。
顔も知らない全国に散らばる人達。
旅行に行かずともその土地の名物や隠れた観光地を教えてもらえたりする。
世間話や前日の番組の話、たわいもない文字だけの日常会話が私を非現実の世界へ引き込んでくれるのだ。
現実生活に楽しみを見いだせなくなった今、私はネットの世界で現実逃避することに楽しみを見いだしていた。
そんな中いつもの通りゲーム上の自分のページを開くと
見知らぬ相手から
「仲間になってもらえませんか?弱い僕を助けてください(笑)」
とコメントがきていた。
この頃にはすでにゲーム内で私はベテランの域。
最近はよくこの手のコメントをよく見かけるようになった。
まっいっか。
「よろしくね」
とコメントをつけ加え
私はタカというハンドルネームを名乗るその子を何気なく自分の仲間にした。
いつもの通り、いつもの手順。
別になんてこともないただのサイト内の出来事にしか過ぎなかった。
このタカという子、毎日必ずコメントを書いてくる。
ネットゲームなんて所詮は遊び。実際は仕事やデート、家事や育児で忙しくしているんだから
コメントなんて毎日は書かない。
なのにこのタカは毎日かかさず書いてきた。
だから私も毎日コメントを返す。
そんなことを繰り返すうちに
タカとはゲーム内で一番仲の良い仲間になっていた。
そんなやり取りをしてる中
ある時タカからミニメールがきたのだった。
サイト内のミニメール…
アドレスなどなくてもサイトを通じて実際のメール同様に交流ができる。
タカからきた初めてのミニメールにはこう書かれていた。
「実はステージクリアできないんだよ。今夜時間があったら助けてくれないかな?」
私はおかしくて笑ってしまった。
弱い僕を助けてくださいって言ってなかったっけ?
そういうゲームなんだから遠慮なんかしなくてもいいのに…
私はタカに
「いいよ。時間教えてくれたらスタンばってあげるから(笑)」
と返事を送るとまた申し訳なさそうなメールが返ってきた。
「11時ぐらいになっちゃうけど遅い時間かなぁ?」
私は
「11時ね。OKよ。」
と再び返信すると夜が来るのが待ち遠しくなった。
その夜時間どおりにタカはサイトにやってきた。
ゲームの進行を手伝うと
「やっとクリアできたよ、ありがとう」
とお礼のミニメールが送られてきたのだった。
私はどういたしましてということと、昼間遠慮がちに頼んできたことがおもしろかったと返信すると
タカから
「だって助けてって言いにくくってさ~」と
照れた様子のメールが再び送られてきたのだった。
それを機にサイト内を通じてタカとは毎日ミニメールをするようになった。
タカは都内に住む独身のサラリーマン。27歳。
私より10も歳下だった。
私は恥ずかしくて実年齢を言うことができず、30は軽く越えてますとしか言えなかった。
結婚してるのか聞かれたけど
どうせサイト内だけの付き合いだし…と思って彼氏がいると嘘をついた。
タカはそれを聞くと
「残念!!彼氏持ちかぁ」と言っていた。
冗談だとはわかってはいたが
久々にくすぐったい気持ちになった。
タカは相変わらずマメな人だった。
仕事を終え食事やお風呂を済ませると
「タカ参上ッ!!!」
と毎晩10時頃ミニメールがくる。そこから寝るまでが私とタカのメールタイム。
いつの間にか私はその時間を目安に動くようになっていた。
はやく洗い物しなきゃ。
お風呂すませなきゃ。
たわいもないタカとの世間話メールが楽しくてしかたがなかった。
1ヵ月もタカとそんなやりとりが続くと
「姉さん今日の下着は何色ですか?ちなみに好きな体位は?」
「あのさ~おばチャンにそんなこと聞いてどうするの?ちなみに下着は黒で好きな体位は…って何いわせるか~!!」
なんて冗談話まで話せるほどの仲良しになっていた。
でもその日のタカのミニメールはいつもと違う。
何だろう?どういう意味?
突然なんだけど俺の好きな
ブランドベスト3教えま~す!!
①abcd
②efghi
③1234
でした~!!失礼しました(笑)
…………。
なんだコレ?こんなブランド聞いたこともない。
だから何なんだろ?
何だか意味がわからず返信も出せずにいると
2時間後再びタカからミニメールがやってきた。
びっくりしたよね?
①②③つなげてあとに黒点つけてみて。
会社はやわらかい銀行。
この意味わかるといいけど~
あの…嫌なら無理しなくていいからね!!
①②③をつなげて黒点?
黒点?…ドット?
やわらかい銀行?…ソフトバ…
あー☆★
タカのアドレスだ。
サイト内ミニメールでの
アドレス交換は禁止事項。
強制退会になるんだっけ。
タカ…
私に自分のアドレス教えたくて
こんなヘンテコな文章のメール
送ってきたんだ!
どうしよう…
私は返信に困っていた。
いろいろ考えた結果
たかがメルアド。
私の位置がわかるわけでもないし何かで揉めたりしたらアド変すればいい。
番号きかれたらそれはダメって言おう。
意を決して私はサイトを通さずタカにメールを送ってみることにした。
えっと…届いたかな?
あゆです。(あゆとは私のハンドルネーム)
とタカにメールをしてみると…
わ!!まじで!!
直で送ってくれたんだ。
ありがとう。うれしいよ!!
今夜は眠れないな(笑)
あ…イタズラとかしないから安心して。
ただ仲良くなったから俺がアドレス教えたくなっただけだから。
と返信がきた。
その後何通かやり取りはしたが
タカがあまりに喜ぶので私までつられて嬉しくなった。
何だろう?このドキドキ感…
それ以降私とタカのやり取りは
直メールになった。
サイトを飛び出したことで一気に近くになった気がする。
いやいやいや…
たかがメールじゃないの。
30後半、夫子供がいる女が何うかれてんの。
私は時折浮かれぎみになる自分にムチを入れていた。
私にとってタカとのメールは
楽しみから癒しになっていた。
夫との罵り合いで傷ついた
気持ちがいつの間にか消えていたからだ。
毎日タカとのメールだけが
唯一の楽しみ。
会社の飲み会だから今夜は遅くなるよ
休日は友達と出かけるからメールできなくなるよ
自分の予定など一切連絡してこない毎日顔を合わせる夫より
会ったことも顔すらも知らない
タカのほうが私の旦那様のような気がしていた。
どうやら私はタカに恋したらしい。
ねぇ…本当はいくつなの?
タカからそんなメールがきた。
私は怖かった。
実はタカより10歳年上…と
簡単には言えないからだ。
おばさんだと思われたらどうしよう。
嫌われたらどうしよう。
不安でたまらなかった。
でもタカに嘘はつきたくない。
私はダメもとで正直に
話してみることにした。
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