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レス158 HIT数 67149 あ+ あ-

花音( 0DD7nb )
11/07/27 00:04(更新日時)



「ちゃんとしたら お前を迎えにいく」


私が 最も 愛した男。

私が 最も 憎んだ男。


二人の女の心を 引き裂いた男。


あなたの声が 今も 耳に残っている…。

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No.1608967 11/06/07 18:45(スレ作成日時)

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No.1 11/06/07 19:31
花音 ( 0DD7nb )

世の中は たくさんの情念に満ちている。

人の心に巣くう闇は 巨大な勢力を持って 支配し続けていく。


彼は 私たちを 道連れに 闇の奥へ沈んだ。


必死で もがいた私たちに 救いの手は 差し出されなかった。


私 花音 30才。

奥さん 詩織 43才。

彼 瑛太 43才。

No.2 11/06/07 19:42
花音 ( 0DD7nb )

男と女が 出会って恋に落ちた。


男は女を愛し 女は男を愛した。


やがて 結婚の約束をする。


男は言う。

「子供達が学校を卒業するまでは 待ってくれ」


女は微笑む。


「もちろん。子供達の気持ちを置き去りにしたりしない」

No.3 11/06/07 19:53
花音 ( 0DD7nb )

花音は幸福を噛み締めていた。


瑛太は 誠実で子供を愛する良き父親。


瑛太への愛情は 信頼と尊敬で 形作られていた。


もう一つの 別の顔 別の暮らしに 気付いた時にはすでに2年の月日がたっていた。

No.4 11/06/07 20:10
花音 ( 0DD7nb )

その女性が 花音の前に表れたのは 横なぐりの雨の晩だった。


傘も持たず 震えながら 怯えてる風であり、しかし、花音の目を真っ直ぐに見据えた。


「あなたが 花音さんですね。私が 誰であるか あなたは知っているはずです」


たちまち 鳥肌がたった。

花音は 押し黙った。


そんなはずはない…。


そんなはずが あるわけはない。


だって 彼女は 死んだのだから。

No.5 11/06/07 21:10
花音 ( 0DD7nb )

花音は 女の鋭い視線を、絶望的な気持ちで見返した。


喉に渇きを覚える。


何か言わなければという焦りが 花音から余計に言葉を奪う。


「私は、もうだいぶ前から知っていました。いつか飽きるだろうと思っていたのに、やめる気はないようね。図々しくて、呆れ返るわ。あなたに子供ができる前に やめさせなくてはと ここまで来ました」

口を開いたのは 女の方だった。

No.6 11/06/07 21:32
花音 ( 0DD7nb )

土砂降りの雨のなか、詩織は 一軒の家の前に 佇んでいた。


やっと 突き止めた。


私を ここまで追い詰めたこの女を 絶対に許さない。


浮気は 何も今に始まったことじゃない。

どれだけの辛苦を舐めてきたことか。


騒ぎ立てるのは 得策ではないと 砂を噛む思いで 堪えてきた。


いつも 戻ってくるのだから。


必ず 妻の元へと。

No.7 11/06/07 21:41
花音 ( 0DD7nb )

携帯で この女の存在を確認したのは 一ヶ月前。


ずっと おかしいと思い続けてきた。


もうだいぶ前から、仕事を理由に ほとんど帰って来なかった。


また 始まったかと シッポを掴もうと 瑛太の携帯チェックをしてきた。


怪しいものを 見つけることは できなかった。


証拠は瑛太の車の中から 出てきた。


この女専用の携帯電話。

No.8 11/06/07 21:52
花音 ( 0DD7nb )

携帯を開くと、この女の待受が目に飛び込んできた。


瑛太のジャケットを、羽織って、満面の笑みを称えている。


幸福そうに、詩織に視線を向けている。


目眩を覚え、震える指でメールの送信欄を開く。


「花音 愛してるよ」

「花音 今すぐ会いたい」

「昨日の 花音は いっぱいイッたね」


花音 花音 花音 花音 花音 花音…。

No.9 11/06/07 22:07
花音 ( 0DD7nb )

何故…。


人を殺しては いけないのだろう。


私の心は たった今 こいつらに殺されたのに。


女の番号を 自分の携帯に転送する。


部屋に戻ると 夫婦のダブルベットで 瑛太が寝息をたてていた。


詩織に 触れようとしない夫。


他の女を抱いた身体を 夫婦の布団に 埋めている。

知りたかったはずなのに…。


願いは 叶ったのに。


体がばらばらに 砕ける気がした。

No.10 11/06/08 07:59
花音 ( 0DD7nb )

瑛太の心は 今は あの女の元にある。


相変わらず 家に帰ってこない。


いつまで 待てばいいのか。


待っていれば、本当に戻ってくるのか。


女は どんな気持ちで 不倫を楽しんでいるのだろう。


妻は 私なのだと 詩織は唇を噛んだ。


夫にも 女にも 制裁を加えなければならない。


それは、当然の権利であるはずだ。

No.11 11/06/08 08:15
花音 ( 0DD7nb )

何事もなかった顔をして 瑛太が帰宅してきた。


優しい父親ずらして 下の子を風呂に誘っている。


私の子に触るなと 吐き気がした。


汚い手で 子供を汚すなと 叫びたかった。


でも まだダメだ。


それは、今ではない。


夕食を終えると さっさと寝室に引き上げる夫を横目で見ながら、詩織は手を握りしめる。


そうしていられるのも 今のうちだ。


見ていろ。


胸の中で 毒ついた。

No.12 11/06/08 08:30
花音 ( 0DD7nb )

寝た頃を見計らい 瑛太の車のダッシュボックスを開けた。


今日は 女のメールを じっくりと見る。


瑛太の 馬鹿丸出しのメールに どんな返事を返しているのか。


何故か ワクワクした。


「お疲れ様。私も会いたいよ。ずいぶん忙しそうだから 無理しないでね」

日付は 昨日だ。


てっきり 女の家に行っているものだと思っていた。


遡って見て行く。


「ごめんね。今日は 私の方が 忙しい。別の日にしてくれると ありがたいです」


「ありがとう。私も愛してます」


思ったより 普通のメールだった。



それにしても 計算すると 週に2、3日の割引で 訪れているようだ。


毎日ではなかったことが 意外だった。


では 空白の日は どこにいるのだろう。

No.13 11/06/08 10:45
花音 ( 0DD7nb )

前レスの誤字の訂正です。

割引→割合です。


これからも 誤字があると思いますが もう訂正しません。


読んで下さる方の解読の力が必要です(笑)


頑張って書くので 頑張って読んで下さい。(笑)


この後も よろしくお願い致します。

No.14 11/06/08 11:05
花音 ( 0DD7nb )

何か 釈然としない小さなしこりがあった。


が、とにかく この女をなんとかしなければ、家庭は破壊する。


「送ってくれるの? ありがとう」
と書いた文章に 彼女の住所が書かれていた。


意味はよく分からないが
なんて 不用意な女なんだろう。


女房が携帯を見ることは 考えていなかったのか。


証拠になりそうなメールを 自分の物へと転送する。


瑛太のメールも もう一度開き 転送の作業に入ったが こちらは ほとんどが 証拠物件のラブメールで うんざりして 途中でやめた。

No.15 11/06/08 11:20
花音 ( 0DD7nb )

そして、詩織は とうとう ここにやってきた。

ひょっとして 瑛太がいるのではないかと 怖じけついた。


しかし、自分を奮い立たせる。


悪いのは、こちらではない。


修羅場だって 構わない。

今 闘わずして いつ闘うのだ。


今日だけは 美しくなりたいと願った。


この一ヶ月間で ガタガタに痩せた。


眉間にシワをたずさえ 目許には隈ができてしまった。


でも 今日だけは 綺麗になりたい。


詩織は強く願った。

No.16 11/06/08 13:01
花音 ( 0DD7nb )

念入りに 化粧をした。


なんだか ひどく久しぶりの気がした。


でも やはり メイクは 詩織を美しくした。


意を決して 車のドアを開けた途端に 嵐のような雨風に 傘の骨が3本折れ あっという間にずぶ濡れになる。


詩織は泣きたくなった。


今後の展開を 暗示された気分になる。


それでも、ミジメったらしく 折れた傘をさして行く位なら 濡れて行こうと背筋を伸ばす。


チャイムを鳴らす指が ブルブルと震えた。

No.17 11/06/08 13:42
花音 ( 0DD7nb )

詩織は 大きく目をみはる花音を 冷たい気持ちで眺めた。


何か言ったらどうだと 苛立ってくる。


気付いたら、考えるより先に口が動いた。


『子供ができる前に…』


そうだ 何がなんでも そんなことは させられない。


「髪を拭きましょう」


女が初めて 口を開いた。


甘い声だった。

No.18 11/06/10 09:32
花音 ( 0DD7nb )

花音は 全身から血がぬけていくような感覚を覚えた。


何がなんだか 分からない。


ただ 理解したことは1つ……。


奥さんは 生きていた…。



瑛太の笑顔が脳裏に浮かぶ。


愛してるよ。愛してるよ。愛してるよ。

壊れたレコードのように 繰り返し 繰り返し 声が流れる。


自分が立っていられるのが 嘘のようだった。

No.19 11/06/10 11:17
花音 ( 0DD7nb )

小柄な体にショートカットがよく似合っている。


瑛太の声が蘇る。


「花音は髪 切らないの?俺 短い髪って、けっこう好きなんだ」


好きなのは 短い髪をした奥さんだったのか…。


この場では なんの意味も持たない どうでもいいようなことが 何故 頭に浮かぶのだろう。


瑛太の好きな髪が濡れている。
そう思った時に ひどく不自然な言葉が飛び出した。


髪を拭かなくちゃ。

それしか 浮かんでこなかった。

No.20 11/06/10 11:29
花音 ( 0DD7nb )

パタパタとスリッパの音をたて バスタオルを手に花音が戻ってきた。


差し出されたそれは、新品のものだった。


「新しいものは 拭き取りが悪いでしょうけど…。
あがって下さい。ここは冷えます」


そう言われて 詩織は初めて気付いた。


からだは すっかり冷たくなっていた。

No.21 11/06/10 20:14
花音 ( 0DD7nb )

余り多くを知りすぎるのは 良いことではないと認識しながら 瑛太のもう1つの家に興味があった。

知りたくない恐怖と 知りたい好奇心。


好奇心が勝った。


差し出されたバスタオルが 真新しいものだったことも 気持ちを軽くした。

瑛太が使ったであろうタオルなら こうはいかなかったかもしれない。


促す花音の後ろに 黙って従った。


花音という女が、どういう素性の女であるか まったく知らなかった。


メールのやり取りからは それらしき事情が読み取れなかったのだ。


興信所を使う手も考えてみたが、住所を知った時点で そんな必要はないと判断した。

No.22 11/06/10 20:38
花音 ( 0DD7nb )

わからない分だけ 想像が膨らんでいた。


瑛太は 派手な美人タイプを好んだ。


必然的に飲み屋の女性との関係が多かった。


今度もそうに違いないと思っていた。

いや、そうであって欲しかった。


花音の ざっくりと結い上げた髪の後れ毛がうなじにかかり、妙な牝の色香を漂わせていた。


だか、四十路という自分の年齢を 差し引いたとしても 容姿の上で負けているとは 思えなかった。

No.23 11/06/11 16:31
花音 ( 0DD7nb )

通されたリビングは 白と黒を基調に統一されていた。

レリーフと曲線で描かれた絵画がひどく印象的だった。


まるでモデルルームのようだと 詩織は思った。


子供がいない家とは こんなにも 無機質なのだろうか。


美しいだけで 生活感が感じられない。


瑛太はここで どんな顔をして 寛ぐのだろう。


すすめられた皮張りのソファーに 腰を降ろすことをためらい 突っ立ていると 花音がコーヒーを持ってきた。

No.24 11/06/11 16:48
花音 ( 0DD7nb )

「どうぞ」と卓上にコーヒーを置き 花音は真っ黒なソファーの前の 真っ白なラグに座った。


そして、ゆっくりと詩織を見つめた。


無性に腹が立ち 花音の目の前に乱暴に座りコーヒーを啜る。


気持ちとは裏腹に 温かいそれは、冷えたからだに 染み渡った。


「あなたいったい お幾つなの?」


詩織はぞんざいに質問した。

No.25 11/06/11 16:56
花音 ( 0DD7nb )

「30になりました」


「あら、私はてっきり20代かと思ったわ。ずいぶん若く見えるのね。苦労を知らないんでしょ」

もちろん 思いっきり悪意を込めての言葉だ。


なんだか この女は おかしい。


20だろうが、30だろうが、女一人の生活にしては、贅沢すぎるだろう。


とにかく 話を片付けようと

「で? あなた どうする気でいるの?」
と 更に続けた。

No.26 11/06/13 11:28
花音 ( 0DD7nb )

どうするかと問われても 花音には 答えようがなかった。

たった今 降って湧いた状況を、理解することすら困難なのに 答えなど どこにあるのだろう。

怒りも悲しみも湧いてこない。

あるのは 困惑 それだけだった。


詩織を見つめる。


この人を 自分はよく知っている。


瑛太の愛した人。


誰よりも 大事な人だったと瑛太は言った。


でも もう この世にはいない人。


なのに、今、目前で燃えるような瞳を 花音に向けている。


瑛太…。


あなたは いったい なにをしてきたの?

No.27 11/06/13 11:42
花音 ( 0DD7nb )

「大腸に癌が見つかって わずか三ヶ月で 他界したと聞いていました」

抑揚のない声が 花音の口から洩れた。


これが 相手にどんなダメージを与えるか 分かっていた。


それでも 言葉は それしかなかった。


詩織の表情が 変わるのが はっきりと見えた。


何故か 花音がくちびるを噛んだ。


「なに? それ なんのこと?」


「私は 死んでいたの?」


詩織の声は 低かった。

No.28 11/06/13 12:03
花音 ( 0DD7nb )

女房が死んだ時 幸せだったと言ってくれたんだよ。

自分の他に 好きな女ができても 子供たちを育て上げるまでは 責任を持ってくれと頼まれた。


瑛太の声が 次々に蘇る。

花音は 自分の家から 瑛太が自宅へと帰る時には 季節の花を渡してきた。


花音のできる唯一の 供養のつもりで。


こんな気持ちを どう詩織に伝えるというのか。


思わず胸を押さえる。


心が 飛び出してしまいそうだった。

No.29 11/06/13 12:22
花音 ( 0DD7nb )

詩織はフラフラと立ち上がる。


「私 別れないわよ。あの男が どんな奴でも 私は離婚なんかしない」


念仏を唱えるような平坦な口調で 詩織は言った。

「どんな人か あなたも分かったでしょ。嘘しか言わないの。昔からずっと。そんな人なのよ。だけど それでも子供たちの父親なのよ」


振り返りもせず 詩織は出て行った。


花音は 動くことすらできなかった。


詩織の座った場所が 湿って繊維が倒れていた。


まるで亡霊が まだそこにいるかのように。


花音は 黙って いつまでも眺めていた。

No.30 11/06/13 12:38
花音 ( 0DD7nb )

どうやって運転したきたのかさえも分からずに いつの間にか 家の前に詩織はいた。


瑛太の車が停まっている。


合鍵を差し込み ボックスを開け 携帯を取り出した。


そのまま 真っ二つに へし折った。


浮気の証拠を確認するために 黙って泳がせてやっていた。


女を騙くらかして 証拠も へったくれもない。


写真もビリビリに引き裂き 車内にバラ撒いた。


折れた携帯を手にリビングのドアを開け ソファーで呑気にテレビを見ている瑛太に投げつけた。

No.31 11/06/13 14:51
花音 ( 0DD7nb )

一瞬怯えた表情を浮かべた瑛太に 詩織は叫んだ。

「私を殺してまで他の女と よろしくやりたいの?
いい加減にうんざりだわ。
出て行きゃあいいわよ。
そのかわり 離婚はしない。
家も給料も 私と子供のものよ。
あんたに 文句なんて 言える資格は どこにもないからね。」


一気に言った。


この男は 絶対に許さない。

No.32 11/06/13 15:04
花音 ( 0DD7nb )

「馬鹿みてぇに 大声張り上げてんじゃねーよ。子供に聞こえんだろ」


瑛太の一言に 詩織は余計逆上する。


「子供に聞こえてまずいことを やってんのは テメーだろ」


テメーなんて言葉を 使ったことがない。

でも それは自然に口をついて出てきた。


「うるせーっつってんだよ!俺が何したんだよ! お前らに 迷惑かけたかよ!」


開き直った。
こいつは いつもそうだ。

「あんた 自分が何してんのか 分かんないの? 馬鹿はそっちだろ。分かんないなら 脳の病気なんじゃないの? 精神科行ってこいよ!」


違う! こんな話をしたいんじゃない!


論点が ズレていく…。

No.33 11/06/13 21:13
花音 ( 0DD7nb )

「精神科?おめーが行ってこいよ。人の車ん中まで漁って 勝手に携帯見やがって それでも 自分が正しい。いつでも自分が正しい。いつも、いつも昔のこと引っ張り出して、人を犯罪者扱いしやがって。口を開けば金 金。 金なら 十分すぎるほど くれてやってんだろ。文句あるなら、おめーが出ていけ」


瑛太は 何を言っているのだろう。

自分は始めから こんな風だった訳ではない。


お前が こうしてきたのだろう。


浮気ばかり 繰り返してきた。


手を出した女が やくざ絡みの相手だったことすらある。


ビビって 泣きついてきた瑛太を からだを張って守ってきたのは 他の誰でもない。

詩織だった。


どんな時も 家族を守ってきた。


堪え難い屈辱に 堪えてきたのは 瑛太を愛していたからだ。

No.34 11/06/13 21:27
花音 ( 0DD7nb )

「自分がしたことを 棚にあげて 私にすべて責任転化するつもり? 私たちを追い出して あの女と一緒になるつもり? そんなことさせない。離婚なんてしない。あんたを一生苦しめてやる」


瑛太が拳を振り上げた。


詩織は 怯まなかった。


瑛太をそのまま 睨み続けた。


自分の行動に 一瞬怯んだのは 瑛太の方だったが 所在を失った 彼の拳は 結局詩織の顔面に振り下ろされた。

No.35 11/06/13 21:37
花音 ( 0DD7nb )

殴られた顔面よりも 心が痛んだ。


そのまま 瑛太は家を出て行った。


こうなることを 避けるために 花音のところへ足を運んだのだ。


結局 余計に苦しむ徒労と終わった。


私がなにをしたのだろう。


詩織は立ち上がって 電話を手に取った。


ひどく冷めた頭で 警察にダイヤルを回した。


「主人がDVです。助けて下さい」

No.36 11/06/14 06:35
花音 ( 0DD7nb )

詩織はソファーに なだれ込むように からだを預ける。

絨毯の上に 瑛太の携帯が青く点滅していた。


命の携帯を忘れて出て行ったかと拾い上げる。


着信は花音だろうか。


この携帯の番号も 知っているのだろうか。


無造作に開けると メールがきていた。


「了解よー 明日 待ってるわ。楽しみだよん」
ハートマークの 絵文字が並んでいた。


履歴は男性の名前だが アドレスには aikoと記されていた。

No.37 11/06/14 06:41
花音 ( 0DD7nb )

あはは。あはははは。

詩織の渇いた笑いがリビングに広がった。


aiko

あの女だ。

まだ キレてなかったのか。


確か3発 ひっぱたいてやった。


1発目は 自分の分。


後の2発は 子供たちの分。


尻尾を巻いて逃げたはずなのに まだ 繋がっていたのか。

No.38 11/06/14 06:48
花音 ( 0DD7nb )

何度も 携帯を確認してきたのに 気付かなかった。

そのたびに 消去してきたのだろう。


消去…?


詩織はハッとして もう一度携帯を確認する。


自分の名前がなかった。


昔は 詩織と登録していた自分の名前がない。


自分の番号を 一件づつ確認していく。


あった…。


まさこばーさん。


誰だよ。


詩織は 狂ったように 笑い続けた。

No.39 11/06/15 00:54
花音 ( 0DD7nb )

頭に血がのぼって カッとして飛び出したはいいが、さすがに殴ったのはマズかったと 瑛太はタバコをふかしながら考えていた。


花音を騙したことを知っていると言うことは、直接コンタクトを取ったということだ。


マズい。マズすぎだ。


このまま 花音のところへ行こうと思ったが 携帯を忘れてきてしまった。


仕事にも必要なのに おいて行くわけにもいかない。

戻るか…。


今頃 詩織はあっちの携帯も 覗いたただろうと考えると ひどく億劫だった。

No.40 11/06/15 01:05
花音 ( 0DD7nb )

仕方なく 車を家に戻す。

パトカーが停まっているのを見て 瑛太は舌打ちをした。


詩織はいつもこうだ。


必要以上にことを 大きくする。


イライラしながら 家に入ると 玄関先で お巡り二人と詩織が話していた。


詩織は憎々しい顔で 瑛太を睨みつけている。


瑛太はうんざりした。

No.41 11/06/15 01:14
花音 ( 0DD7nb )

めいいっぱいの営業スマイルで 警察に謝罪した。

痴話喧嘩で騒ぎ立てして申し訳ないと 精一杯謝り、説教をくらい 詩織が 喚いていた。


花音はどうしているかと 別のことを考え なんとかやり過ごした。


警察が引き取ったあとは、詩織のヒストリーが始まった。


めんどくさい。


愛子のことを グダグダ言い出したが そんなもの暇つぶしの遊びに決まってんだろと怒鳴りつけたいのを 堪えて もう会わないと答えた。


「花音さんは?」


そう聞かれて 瑛太は返答に窮した。

No.42 11/06/15 01:26
花音 ( 0DD7nb )

なにがなんでもごまかさなくてはいけない。


ほとんどがバレている以上、からだだけの付き合いで、詩織が考えるような 深い相手ではないと思わせるしか手がないように思えた。


そして 二度とバレなきゃ問題ない。


そう思った途端に 口が滑らかに動いた。


「あいつはな、金を持ってんだよ」

No.43 11/06/15 01:53
花音 ( 0DD7nb )

「金?」
詩織が 訝し気に 顔をしかめる。


くいついたと 瑛太は確信した。


「小遣いが足りなくてバイトだよ。メール1通 3000円で買ってもらえる。世の中には お前が知らないようなことをする女がいるんだよ。もう やんねーよ」


まことしやかに口が動く。

この場さえおさまれば 後はなんとかなる。


何かを考え込む詩織を残し 瑛太は2階へと上がった。

No.44 11/06/15 02:16
花音 ( 0DD7nb )

花音に出会ったのは 3年前。

会社の上司に 開店したばかりのクラブへと連れていかれた。


クラブのママというものは 武勇伝にこと欠かない美しいが毒のある中年女だとイメージがあった。


ママと呼ばれた女を 一目見て 意外性に言葉を失った。


白いシフォンのドレスに髪を結い上げた女の姿は ひどく華奢で、はかなく見えた。

No.45 11/06/15 02:44
花音 ( 0DD7nb )

「若いだろう。これで なかなかだよ。ね、ママ」


デレデレとする上司の声を遠くで聞きながら 瑛太は女を見ていた。


「佐久間さまのようなお客様のおかげで なんとかオープンできました。本当にありがとうございます」


柔らかく甘い声が不自然に聞こえなかった。


ふと 視線を向けられて 瑛太は慌てた。

「あっ あの 開店おめでとうございます」

女は 和紙に筆字で書いた名刺を 瑛太に差し出した。


『club 愛染 花音』


「どうぞ ご贔屓に」


花音の顔を正視できずに 瑛太は笑いながら 上司に目を向けた。

No.46 11/06/15 12:15
花音 ( 0DD7nb )

それから 瑛太は何度も愛染に通った。


だが 目があえば ゆっくりと頭を下げる程度で テーブルについてもらうことなどなかった。

そして、店に不在の時も 多かった。


すっかり顔なじみとなった 百合子に 「この店のママは いない時が 多いね」と 聞いてみた。


「あら? 瑛太さんは ママ狙いだったの?」


「いや、そうではないけど ちょっと…」


「あ~ 残念ねぇ。ママは新規のお客様には つかないのよ」


「どうして?」


「この店を開く時に ホントは人前には出ずに オーナーに徹するつもりだったらしいの。
ほら、あそこに さくらさんがいるでしょ。
彼女にママをやって欲しかったんだけど さくらさんは そこまでは荷が重いって 断ったんですって。
だから 時々来るけど 毎日じゃないの。
私たちは さくらさんの指示に従うようになってるのよ」

No.47 11/06/15 12:29
花音 ( 0DD7nb )

なんだそうなのかと 瑛太は落胆した。


「でもねぇ ママと話したいなら 方法はあるのよ」

百合子は 上目遣いに瑛太を見る。


「どうやって?」


「フルーツ頼んでいい?」


さすがに 抜け目はなかった。


よく熟れたメロンをつまみながら 百合子は話す。

「ママね、お花は受け取るのよ。毎週金曜日だけは 必ず来るわ」


「それで?」


「それだけよ」


たったそれだけの情報に フルーツは高すぎだ。

No.48 11/06/15 16:42
花音 ( 0DD7nb )

瑛太は 疑問に思っていたことを 思い切って百合子に尋ねた。


「ママには パトロンがいるの?」


「さあ 噂はいろいろあるけど どうかしら? 見たことがある人は とりあえずいないみたいね。
でも いるんじゃない?
だって ママの年知ってる? 27なのよ。
こんな店を 一人で立ち上げるなんて とても思えない」


そこなのだ。


景気の停滞と 飲酒運転が厳しくなった今 この業界は 相当厳しいはずだ。


「でも ミステリアスなのがいいんじゃないの?
ママは… そりゃ綺麗は綺麗だけど 特別 すごい美人じゃないじゃない。
雰囲気と声よね。
さくらさんの方が よっぽど美人だもの」


百合子は オレンジを口にほうり込んだ。

No.49 11/06/15 16:52
花音 ( 0DD7nb )

ヤバいかな…


過去に痛い目にあったことがある。


一抹の不安はあったものの 瑛太は どうしても 花音に近づきたかった。


翌週の金曜日 小さな花束を手に愛染へ向かった。


豪華なものにするか悩んだが、財布事情が勝った。

それに、こちらの方が花音のイメージにもあっているような気がした。


花を手に歩くのが こんなに恥ずかしいものだとは思わなかった。

No.50 11/06/17 14:32
花音 ( 0DD7nb )

愛染の扉を開ける。

「いらっしゃいませ」の言葉と同時に 百合子がやってきた。


花束に目を落しながら 「うまくいったら 何かいただかなくちゃね」と小さく笑った。


「ママ すみません。お客様がママに…」


他の席についていたママのそばに膝をつけ 百合子が耳打ちしている。


花音が振り返る。


トクンと心臓が鳴った。

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