―桃色―
世の中の男性が、全て同じだとは思って無い。
「私の付き合う人達」が特別だって、分かってる。
でも…
昔からことごとく浮気されて、今の彼に限って私は4番目の女…
そりゃ、男を信じられなくなるでしょ。
ただ、甘い恋がしたいだけなのに…
「おめでとう」の言葉も、プレゼントも無いまま、彼の腕の中で30歳の誕生日を迎えた―
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ハァ~…
朝から溜め息だらけで、パソコンに向かう。
昨日誕生日で、更に失恋で傷心していても、いつもと変わらず朝は来る。そして、容赦なく仕事を渡される。
ハァ~…
バシッ!!
「いったぁ~ぃ…」
本日30回目の溜め息をついた時、後ろから平手を喰らった。
「ちょっとぉ、その溜め息止めてくれない?こっちまでテンション下がるわっ」
「ご、ごめん…」
強い口調で一喝したのは、私の同期の田中里沙。中途採用で一緒に入社してきた。歳は私の2つ下。
年下だけど、しっかり者で頼れる私のお姉さん的存在。
「どうしたの?昨日はトモヤさんと会ったんでしょ?なのに、朝から30回も溜め息ついて…」
「ちょっ、数えてたの!?」
「だって、リコって顔に出るから分かりやすいんだもん。だから気になって見てたら、溜め息カウントしちゃってたわ、私っ」
心配しながらも、意地悪っぽく話す里沙に優しさを感じる。
"神谷律子(かみや りつこ)"
私の名前。全国の律子さんには申し訳ないけど、律子って名前は、昭和っぽくて古風なイメージがあって少し嫌だった…
そんな小さな事を気にする私を里沙は、"リコ"って呼んでくれる。すごく嬉しかった。
「それで?昨日何かあったのっ?」
興味津々に、里沙が詰め寄った。
「いやぁ~…ちょっと…ねぇ…」
ハァ~…
31回目の溜め息が出た。
―昨日の夜
仕事を定時に終えた私は、真っ先に携帯を見た。
(新着メール一件)
高ぶる気持ちを落ち着かせながら、メールを開いた。
―from トモヤ
19時に、いつもの 店で待ってる。―
今居る場所がオフィスだということも忘れて、最高のニヤけ顔でロッカールームへ走った。
今日の為に買った、ちょっとセクシーなワンピース。そして、苦手なヒールの高いミュール。キラキラ光るグロスを唇にたっぷり塗って…
準備完了!!
ヒールに苦戦しながら、カクカクとふらつきながら待ち合わせ場所まで急いだ。
お店の入り口の前で、乱れた呼吸を整えて扉を開けた。
見渡すと、金曜日の夜なだけあって、カップルが席を埋める。
いつも座る席に迷わず向かう。
―居たっ!
佐橋友也。同じ会社の営業部で、彼もまた同期。歳は同じだけど、精神年齢は私よりずっと上。新入社員歓迎会の時、トモヤから話しかけてきて、ちょっとオレ様で強引な所に惹かれて付き合い始めた。
ただ…私はトモヤの一番ではないんだ。
トモヤには他に3人の彼女がいる。
その事を知った時には、トモヤにどっぷりハマってた。
当時23歳だった私は、まだ結婚とか考えてなくて、ただトモヤと付き合えるなら、4番目の女でもいいと思ってた。
女にだらし無いけど、誕生日とか、記念日はちゃんと一緒に居てくれてたから。4番目でも、大事にされてる自信があったから。
でも、私ももぅ30歳…ダラダラと7年も付き合い続けちゃったよ…私以外の彼女は、何度かメンバーチェンジがあったみたいだけど。だからこそ、ここまで続いた私にはどこか自信があった。いつかきっと、私だけを見てくれる…
「リツコっ!おせーぞっ!」
トモヤ君が怒り口調で私を呼ぶ。
ちょっと、トモヤ君…まだ待ち合わせの30分前よ?とは言えないけど…
いつもこんな感じ。トモヤ君は待ち合わせ時間より、めちゃくちゃ早く来る。そして怒る…だから、いつも私は待ち合わせ時間より40分前には着くように向かう。
「ごめんね、走って来たんだけど慣れないヒールでさ…」
「なら、スニーカーで来いよ」
トモヤ君は吸ってたタバコを灰皿に押し付けながら言い放った。
「ごめんなさい…」
なんだか、重苦しい雰囲気のまま注文をした。
いつもと変わらないメニューを口に運ぶ。誕生日なのに、特別なメニューではない。
でも、これが普通。毎年、私の誕生日はこんな感じだけど、トモヤ君は食後にケーキを用意してくれている。
なのに、今年は無かった…
「うち来るだろ?」
トモヤ君が、タバコに火をつけながら、席を立つ。
「あ、うん」
私は、まだ少し残っているハンバーグを慌てて口に押し込んで席を立った。
自分の分の食事代をこっそりトモヤ君に渡して、店の外に出る。
食事はいつも割り勘。だけど、「女から金を受け取る姿はみっともない」と言うトモヤ君。だから、毎回こっそりお金を手渡して私は店の外に出る。そして会計を済ませるトモヤ君。周りから見れば、"彼女に食事を奢るイイ彼氏"の出来上がり。
「今日もごちそうさま」
会計を済ませてお店の外に出て来たトモヤ君にニッコリお礼を言う。
「おう」
さっきまでの険悪ムードも無くなり、イイ彼氏を周りに見せ付けたトモヤ君が、私の手を取り歩き出す。
私、病気かも…
―作者より―
まだ、書き始めたばかりですが、読んで下さっている方ありがとうございます🙇
全くのド素人で世間知らずの為、構成などがまとまらず、この先がちょっと不安ですが…
もし、気付いた事等ありましたら、ぜひご指摘ください💦
読みにくい物語かもしれませんが、ゆっくり更新していきたいので、宜しくお願いします🙇
*さくらんぼ*
トモヤ君の家に向かう途中、毎年用意されてたケーキが無い事が気になっていたけど、
(きっと買ってあって部屋で食べるんだ)
なんて期待を寄せてた私は、本当におめでたい…
家に着くと、トモヤ君は何も言わずにシャワーを浴びに行った。
そのあと、私がシャワーを浴びに行く。いつものパターン。
バスタオルだけを身に纏った私を後ろから抱きしめる。
「リツコ…」
いつもなら、この状況の中、耳元で名前を呼ばれるだけで、幸せに包まれた。
でも…
今日は違う。
トモヤ君。私、今日誕生日だよ…?毎年用意してくれてるケーキは?毎年安物だけどなって、手渡してくれるプレゼントは?
それよりも…
「オメデトウ」も言ってくれないの…?
訳の分からない不安で涙が出る。
いや…もしかしたらこの先に怒る悲劇を予想していたのかもしれない…
無言でただ涙を流し続ける私を気にするそぶりも無いまま、トモヤ君は私を抱いた…
ベッドの上で、トモヤ君がタバコに火を着ける。
「ね…トモヤ…?」
「あ?呼び捨てにすんじゃねーよ」
「ごめん…トモヤ…君…?」
「なに?」
「今日、私の誕生日…」
トモヤ君はフゥーっと煙を吐き出してから、
「知ってる、でも…」
「でも…?」
「なんも用意してねーよ。めでたくもないだろ?30にもなって」
「―え?」
確かに、30歳って女性にとっては、気になる年齢。だけど誕生日って、この世に産まれてきた喜びと、私を産んでくれた母に感謝する日…だから、私は年齢は関係なく誕生日はおめでたい日だって思ってた。
思いも寄らない言葉を浴びせられて唖然とする私に、トモヤ君は更に追い討ちをかけた。
「リツコ、別れよう」
予想もしてない言葉に驚いた私は、ベッドから飛び起きた。
「な…んで?」
「だってよぉ…」
タバコの火を消しながらトモヤ君は続けた。
「30歳の女が体だけの関係って有り得なくねぇ?お前もそろそろ結婚でもしたら?」
「っ!?」
今、なんて言った…?体だけ…?私、彼女じゃなかったの?4番目の彼女じゃなくて、4番目の都合のいい女…
聞きたい事がたくさんあるのに、言葉にならない。ただ、涙がとめどなく溢れる。涙が出過ぎて、右目のコンタクトが落ちた…
「は?何泣いてんの?もしかして彼女だと思ってた?まさかね~。俺、一度でもお前に好きだって言った事ねーしな~」
トモヤ君…いや、トモヤは笑いながら話し続ける。
「じゃあ、今までのプレゼントとか…ケーキとか…」
やっと言葉が出た。
「あ~、別に意味はねーよ。まぁ、俺って記念日とかはマメなんだよね。でも、お前に特別な気持ちは無いけどな」
「なら、なんで7年も…?」
「相性がよかったから?ハハッ、長かったなぁ~」
早く、ここから立ち去りたい…
私は無言でバスタオルを身に纏い、洗面所へ向かった。
今日の為に買ったワンピース…悔しいけど、これ着て帰らなきゃいけない…
服だけ着て、メイクもせず、髪の毛もボサボサのまま玄関に向かった。
「リツコ?帰るの?」
悪びれた様子もなく、トモヤは玄関まで顔を出した。
「トモヤ…」
「あ?だから呼び捨てに…」
バチーンッ!!
人生で初めて、男性を全力でビンタした。
「いってぇー…」
「トモヤ…」
「あっ!?」
「さよなら…」
苦手なヒールの高いミュールを握りしめて、私は裸足のまま玄関を飛び出した。
―30歳の誕生日。
私は涙が枯れるまで泣き続けた…
明日は、一日何もしたくない…
なんで、こんな時に限って土曜日出勤なの…
とことんツイてないや。
とにかく眠ろう―
眠らなきゃ―
6月4日、30歳の私の誕生日。
人生で初めて…
自分が産まれてきた日を喜べなかった…
ハァ~…
本日32回目の溜め息をついた時、里沙は私を抱きしめていた。
肩が震えてる…?
「ちょっと、なんで里沙が泣くの!?ここ、会社だよ!?」
「リコ…リコぉ~…」
里沙は、ただただ私の名前を呼んでいる。ヤバい。枯れたはずの涙が溢れてきそう…
もう限界って所で、私達の今の雰囲気を一転させる声が聞こえてきた。
「リツコさぁ~ん。僕の胸に飛び込んできていいっすよぉ~」
顔を上げると、満面の笑みで両手を広げている男の子が一人。
木村祐輔、25歳。新卒で入社して、今年で二年目。人懐っこい性格で、ちょっと頼りない感じが女子社員の母性本能をくすぐる。
当然モテる。
いつまでも目を輝かせて両手を広げている木村君に、里沙が真っ先にツッコミを入れた。
「ちょっと、アンタねぇ…空気読みなさいよ…てか、なんで人の話を盗み聞きしてんの!」
「盗み聞きなんて人聞き悪いな~。ちゃんと、座って横で聞いてましたよぉ?」
木村君は、頬っぺたをプクっと膨らませていた。
あ~、なんか木村君がモテるのが分かる気がするなぁ。男の子を可愛いって思った事無いけど、木村君みたいなタイプの子を可愛いって言うのかなぁ―
泣くのも忘れて、ボーっと余計な事を考えていた私に、木村君が椅子ごと近寄って来た。
「リツコさん、今日の分の代休は、いつにしました?」
ここの会社は、土曜日出勤の分の代休を翌週の好きな日に取る事ができる。
「え…?月曜日にしたけど…」
「あ、僕も!よしっ、月曜日はデートしましょ~。はい、決定~!」
「は!?え、ちょっ、デートっ!?」
"デート"と言う言葉に困惑する私に、里沙がフォローに入る。
「あのね、木村君?ちゃんと話聞いてた?リコは大失恋してんだよ。そんな傷心のリコを更に傷つけようっての?」
「傷つけるって、どーゆー意味っすか!?僕はただ、リツコさんを元気づけようと…」
「女垂らしのアンタに、リコを元気づける資格なし!」
「なんで僕が女垂らしなんですか!僕、彼女居ないっすよ!」
「どの口が言うかぁ~っ!この口か!」
里沙は木村君の口元を思い切りつねった。
「いひゃい、いひゃい!!」
木村君が声にならない声を出した瞬間…
バンバンッ
と、遠くから机を叩く音がオフィス中に響いた。
「そこの3人組~、仲良しなのは分かったから、そのチームワークを仕事にぶつけてくれ~」
里田部長が叫んでいた。
里田慎也、35歳。私達の居る開発部の部長。社員一人、一人を大切にしてくれて、皆が信頼を寄せる人。部長にしては若いけど、そもそも、うちの会社は全体的に社員が若い。50歳以上は居ないと言う噂…
里田部長は、実は里沙の彼氏。
って、言っても社内公認なんだけど。
うちの会社は社内恋愛は全然問題にならない。仕事さえしてくれればOKって感じらしい…
「神谷、田中、木村!お前ら3人、サボッた午前中の分残業なっ!!」
「え゛え゛ーっ」
3人声が揃った。
「慎ちゃ~ん、そしたら今晩のデートどうなるのぉ~」
「ちょっ、里沙っ、会社でそう呼ぶなって言ってんだろっ」
動揺する部長の元へクネクネと里沙が走って行く…
見てるだけで和むわ~…
部長と里沙のやり取りを見て癒されてると、ふいに耳元に木村君の息がかかる。
「リツコさん。月曜日の11時、『orange』で待ってます。昼飯奢りますから。」
「ま、まだ私行くとは…」
私の返事も最後まで聞かずに、木村君は仕事に戻った。
昨日、大失恋したばかりなのに…何ドキドキしてんの、私…
迷う事は無い。これ以上傷を増やすぐらいなら、行かない方がいいんだ。
そう自分に言い聞かせて、私もパソコンに向かった。
―日曜日―
昨日、里沙と会う約束をした。傷心の私に、ランチをご馳走してくれるみたい。
私は約束の40分前に、いつも里沙とランチをする『flower』に着いた。
カフェオレを頼み、来る途中に買った雑誌を鞄から取り出すと、里沙が目の前で息を切らせて立っていた。
「やっぱり…リコって、いつも約束の時間より早く来てたけど、昨日の話聞いたら納得したわ」
肩で息をしながら里沙が眉間にシワを寄せて話す。
「毎回10分前に着いたって言ってたけど、本当は嘘なんでしょ?」
里沙の問い掛けに、思わず俯いてしまった。トモヤと待ち合わせる時の癖がついてて、私は里沙と会う時にまで40分前行動をしていた。
何も答える事の出来ない私を見て、里沙は悟ってくれた。
「さ、お姉様?お好きな物を注文してくださいな!」
おどけながら、メニューを差し出す里沙。
里沙、あなたが居てくれるだけで幸せだよ…誰よりも私を理解してくれる。
いつも、身体の芯から癒してくれる。
ずっと、友達で居てね。
注文した料理が運ばれてきた。
『flower』特製のきのこパスタ。
お皿に顔を近付けると、醤油バターのいい香り。
「いっただっきま~す」
パスタを一口、口に入れた所で、里沙が真っ直ぐな目で私を見て話し始める。
「んで、明日は木村君とデートするの?」
「う、う~ん…行かない…よ…?」
曖昧な返事をする私に、里沙は続ける。
「木村君の事、分かってるでしょ?関わらない方がいいって!また、同じ事を繰り返すつもり!?」
「分かってるよ…大丈夫、行かないって…あ、パスタ冷めちゃうよ!」
必死で説得している里沙を落ち着かせようと、私はパスタをすすめる事しかできなかった。
木村君の事 ―
そう、今の私は一番木村君に関わっちゃいけない人間なんだ…
会社で女子社員達が、木村君の事を顔がカッコイイとか、性格が可愛いとか色々噂をしている。
でも、逆に悪い噂も聞く。
―木村君を街で見かけると、いつも違う女の人と腕を組んで歩いてる。―
私は、この噂に確信がある。
2回街で木村君を見かけた時、女の人と腕組んで歩いていた。1回目見た時と、2回目見た時は、違う女の人だった…。
私は、そんな木村君の『彼女達』の一人にはなりたくない。
もう、これ以上傷つきたくない。
でも…
昨日の木村君が笑顔で両手を広げている姿を見て、ちょっと飛び込みたかった…
彼氏と別れたばかりで、不謹慎なのは分かってる。
でも…
誰かに支えて欲しいと思った。その場の木村君の優しさに、甘えたいと思った…
パスタを食べ終わり、食後のコーヒーが運ばれてきた。
コーヒーに砂糖とミルクを入れて、静かに掻き混ぜながら、里沙が静かに話し始めた。
「リコってさ、なんか精神年齢が歳相応じゃないよね。悪い意味じゃないけど、ちょっと幼い感じ?」
「え?そうかなぁ?」
多分、私の精神年齢は、トモヤと付き合い始めた時から止まってる。
トモヤは、私を甘えさせてくれなかった。泣き言も、不満も言わせてもらえなかった。そして、いつも見下されてるような扱いだった。
(女が泣くとか、面倒臭い。リツコは、俺の前でただ笑ってればいいんだ。)
って、トモヤと初めて一緒に朝を迎えた時に言われた。
普通なら、そこで強く生きようと思うのかもしれない。
でも、私は違った。
トモヤの前では、強くいようと気をつけていたけど、本当の私は、すごく甘えん坊。弱くて、誰かに支えてもらわなきゃ一人で立っていられない。
だから、トモヤに甘えられない分、里沙とか会社の同僚には、目一杯甘えていた。
そのためか、周りは私を子供扱いする時がある。
私には、それが心地よかった。
「明日、木村君に会ってみようかな…ただ、私を元気づけようとしてくれてるだけみたいだし…さ」
「そうやって、割り切って木村君に会えるなら、い~んじゃない?」
ずっと反対されると思っていたから、思いがけないリコの答えに私は目を丸くした。
「よく考えれば、木村君も下心で誘った訳じゃなさそうだしさ。女垂らしなりに、木村君の優しさ見せてくれるんじゃな~い?」
里沙はケラケラと笑いながら、メニューを広げてデザートを選び出した。
木村君の[デート]って言葉に過剰に反応して、変に意識していた自分がちょっと恥ずかしい…
あんなに心配してくれた里沙も、きっと同じだったんだよね。
お互いに、心配するほどの事じゃないんだよねって、言い聞かせてたみたい。
その後は、たわいもない話で盛り上がって、結局18時まで[flower]に居た。
最後に、
「木村君に、惚れんなよっ」
って、意地悪な笑顔で里沙に釘を刺されて別れた。
―月曜日の朝
ザァァーッ
ものすごい雨の音で目が覚めた。
「うわぁ、土砂降りだぁ。駅までタクシーかな」
私は免許は持ってるけど、車が無い。土地柄、電車の方が便利だから。
多少、足元が雨に濡れても気にならないようにスカートを穿いた。靴は動きやすいように、裸足でぺったんこのミュールを履く。
手配しておいたタクシーへ乗り込み、近くの駅まで向かう。
待ち合わせ場所まで、電車で5駅。月曜日のこの時間は、目的地まで座れる程空いていた。
相変わらずな私は、10時15分に到着。
「雑誌でも買って行こうかな」
駅の近くにあるコンビニに向かおうと思った時…
「リツコさぁ~ん!」
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
道路の端に、ちょっと車高を低くした黒色の軽自動車が停まっていた。
その車の窓から、木村君が手を振っている。
普通に驚いた。
返事も出来ずにボーッと立ち尽くす私に、木村君は傘も差さずに駆け寄って来た。
「リツコさん、おはようございます!驚きました?」
木村君は少し照れ臭そうに、笑ってる。
「な…んで、こんな早くにいるの?」
「土曜日にリツコさんの話しを聞いてて、もしかしたら40分前には来ちゃうんじゃないかな~って思って。50分前から張り込んでました。そしたら、見事にビンゴ!!」
得意げに話す木村君の言葉が、私の心を熱くした。
「ごめんね、待たせちゃったね…」
「まぁ、でもリツコさんが5分早く駅に着いてくれたから、実際5分しか待ってないんですけどね~」
木村君は、待たされた事を責めなかった。
男の人の、こんな優しさに触れたのは、何年振りだろう…
ダメダメ、期待なんかしちゃ。今日は、ただの友達として会ってるんだから。
「う~ん、早くに会えたのは良いけど…昼飯の時間には早過ぎますねっ。お腹が空くまで、ちょっとお茶でもしましょーか」
そう言って木村君は、また傘が無いまま走って行って、車に乗り込んだ。
私もその後を追いかけた。
「はい、どーぞっ」
木村君が中から助手席のドアを開けてくれて、私を手招きしている。
「失礼しまーす」
「汚いですけど、気にしないで下さいね」
「ははっ、本当に汚いや」
私はクスクスと笑いながら、雨に濡れた足元をタオルで拭いた。
「…なんか、女の子っすね。ちょっとドキドキしちゃうじゃないですかっ」
木村君がニヤけながら私を茶化している。
『女の子…』
木村君より5歳も上で、しかも30歳になった私の事を女の子って…
私は急に恥ずかしくなって、俯いた。
そんな事は気にもせず、
「ではっ!しゅっぱ~つ、しんこ~う!」
はしゃぎながら、木村君は車を走らせた。
雨の日の駅前の交差点は、タクシーや送迎の車ですごく混む。
「やっぱ、混むなぁ。すぐそこに『orange』見えてんのに~」
木村君はハンドルを指でトントン叩きながら、落ち着かないでいる。
私は渋滞なんか全く気にもとめずに、俯いたままの顔を上げられずにいた。
「リツコさん?体調悪いんですか?」
「あ、ううん…」
「??」
木村君は顔を傾げて、私の顔を覗き込んでいる。
だけど、私は自分の足元の一点から、目が離せないでいた。
口紅 ――?
さっき、車を発進させた時に転がってきた。
あまりにも一点を見つめているのが気になったのか、木村君が私の足元に視線を落とした。
「あ、昨日アイツ…」
口紅に気付いた木村君が、明らかに動揺している。
昨日 ―?
アイツ ―?
あぁ、昨日は他の女の子がこの助手席に座ってたんだ。
分かっていた事。
そもそも、私は木村君の彼女でもなんでもない。
会社では、先輩と後輩で、今はただの友達。
口紅なんかを私が気にする必要はないんだ。
「これ、ここに入れておくね」
「あ、ども…」
口紅を助手席の前の小物入れに入れようとすると、
「それ、気にしないで下さい」
木村君がポツリとつぶやく。
私なんかにフォローする必要なんかないのに…
「な~にを気にする必要があるのよぉ~」
私は精一杯おどけて口紅を小物入れに放り込んだ。
まるで、自分に言い聞かせるように…
結局、渋滞のせいで歩けば5分で着く『orange』に、車で10分かかって着いた。
「歩いて来た方が早かったっすね~」
「びしょ濡れになるより、マシだよ。ありがとうね」
私の傘に二人で入って、駐車場から店の入口まで歩いた。
席に案内されて、木村君がメニューを差し出した。
「お腹空くまで、飲み物だけでいいですよね。リツコさん、何飲みます?」
「じゃあ、カフェオレ」
「温かいのでいいです?」
「うん」
「了解!すんませーんっ!」
木村君は、恥ずかしいぐらいの大声で店員さんを呼んだ。
「えっと、ホットのカフェオレと、クリームソーダ!」
「クリームソーダ!?」
満面の笑みで注文する木村君に、思わずツッコミを入れてしまった。
25歳の男の子が、お茶しましょ~って言って、ためらいもなくクリームソーダって…
必死で笑いをこらえていたけど、もうダメ。
口元が緩みだした。
「あ、リツコさん知らないんですか?ここのクリームソーダの美味しさを!」
「クリームソーダに違いなんかあるの?」
「わかってないなぁ~。ここのアイスは絶品なんですよ!それがメロンソーダと混ざり合った時のハーモニーが…」
ダメだ、もう限界。
「プッ…、あははははははっ」
店内だという事も忘れて、私はお腹を抱えて笑った。
クリームソーダを真顔で熱く語る木村君…可愛いなぁ。
「そんなに笑う事ないじゃないですかぁ。リツコさんも、ここのクリームソーダを一度飲めば、虜になりますよ?」
笑いの止まらない私を見て、ちょっと怒りながらも、木村君から笑みがこぼれた。
「よかった!」
「何が?はぁ~、お腹痛い。ちょっと涙出ちゃったじゃん」
「リツコさんが笑った!やっぱり、笑顔のリツコさんが一番!」
そういえば、腹の底から大笑いしたのは久しぶり。なんだか体が軽い。
「ありがとう、木村君」
「へ?」
「元気出たよ」
「まだまだ、ここのクリームソーダを飲めば、もっと元気になりますよ!」
まだクリームソーダを引っ張ってる…
でも、木村君との会話のテンポが私には心地よかった。
顔を見合わせて笑い合う私達の前に、カフェオレとクリームソーダが置かれた。
「う~ん、美味い!」
上に乗っているアイスを一口食べて、木村君はニコニコしていた。
そんな木村君の幸せそうな顔を見て、クスクスと笑いながらカフェオレに砂糖を入れた。
熱いカップを両手で支えてカフェオレを一口飲むと、
「はい、リツコさん」
一口分のアイスが乗ったスプーンを差し出された。
これ、木村君が使ってたスプーン…
変に意識して、食べるのを躊躇している私を木村君が急かす。
「早くっ、アイスが溶けちゃうっ」
私は、とっさに身を乗り出してアイスを口にした。
「あ、美味しい!」
「でしょ、でしょ!でも、メロンソーダと混ざり合ったトコは、またひと味違うんですよ!はいっ」
木村君は飲んでいたクリームソーダを私に渡した。
緊張しながらも、ストローに口を付けた。
「私、メロンソーダなんて初めて飲んだ」
「そうなの!?」
大袈裟なぐらい驚いた木村君は、思わずタメ口になっていた。
「あ、ごめんなさい。つい…」
「いいよ、会社じゃないし。普通に話して?」
「本当に?ハァァァ~、なんか一気に疲れた…敬語って疲れるわ~」
木村君は、体を大の字にしてソファーに寄り掛かった。
「じゃあさ、俺も里沙さんみたいに『リコ』って呼んでいい?」
「その方が嬉しいかも…」
「リコさん、名前の事気にしてたもんね。リツコでも、全然おかしくないのに~。まぁ、誰でも人には一つぐらいコンプレックスあるからね」
「木村君のコンプレックスは?」
「背が低い!!」
堂々と言い切った木村君に思わず吹いた。
「あと、『木村君』なんて止めてよ。外では、もうちょっと親しみ込めた呼び名がいいなぁ」
「なら、祐輔…君?」
「ん~、ギリギリ採用!」
「なに、そのギリギリって」
また二人で笑い合った。
本当に木村君…じゃないや、祐輔君と話してると楽しい。
「俺、アイスで体冷えてきちゃった。リコさんのカフェオレちょっとちょうだい?」
「え、あ、うん」
少しためらったけど、祐輔君に少し冷めたカフェオレを渡した。
それをためらいも無く飲む祐輔君。
女の子慣れしてんだな…
また少し俯いていると祐輔君が、んぐっと咳込んだ。
「なにこれ、甘っ!!リコさん、砂糖入れすぎ。体に悪いよ?」
「そう?でも、緑色の液体飲んでる祐輔君に、そんな事言われたくない!」
「緑色の液体って…リコさん面白い事言うね」
クックックッとテーブルに肘をついて、拳を口に当てて、下を向いて笑っている祐輔君の姿が…なんか…好き。
祐輔君の一つ一つの仕草が、私をドキッとさせる。
「なんか腹減った~。飯、注文しよっか」
ちょうど私もお腹が空いたタイミングで、祐輔君がメニューを開く。
ちょっと、タイミングが合っただけなのに…
なんで心拍数上がってきてんの、私っ!
それから、私達はランチを食べながら、昨日見たテレビの事や、会社の人達の話題で盛り上がった。
さすが祐輔君。男の子なんだなぁ。私のお皿にはまだ半分もハンバーグが残ってるのに、祐輔君は大盛りで注文したパスタセットをペロリと平らげた。
「ごちそうさまでしたー。はぁ、食った、食ったぁ」
そう言って、祐輔君は席を立った。
私は慌てて残りのハンバーグにかじりついた。
「あ、ゆっくり食べてて?俺、ちょっとトイレ~」
……。
フォークに突き刺さった、一口では食べられない大きさのハンバーグをお皿に戻した。
(ゆっくり、食べてて)
祐輔君の言葉が頭の中をグルグル駆け巡る。
トモヤと違う…
トモヤは自分が食べ終わると、さっさと帰ろうとしてた。私のペースなんか、おかまいなしに。
祐輔君のちょっとした気遣いと優しさが、私の心を支配し始めた。
トイレから戻って来た祐輔君の右手に、タバコが握られてた。
「俺、ちょっと外で吸ってくるね」
「あ、いいよココで吸って?私気にしないから」
「ほんと?なら遠慮なく」
祐輔君は、私に煙がかからないように横を向いて吸い始めた。
私は残りのハンバーグを小さく切り分けて、一つずつ口に運んだ。
先に食べ終わった祐輔君のお皿を店員さんが下げに来た。
「食後のお飲みもの、先にお持ちしましょうか?」
「いや、まだいいです。この人のと一緒にもらいますから」
かしこまりましたと、一礼して店員さんはお皿を片付けた。
「ごめんね、食べるの遅くて…祐輔君、先に持って来てもらっていいのに」
「いいの、いいの。リコさん、さっきから気にし過ぎ!」
祐輔君は、フフッと笑って、またタバコを吸った。
なんなの、なんなの!私の心拍数急上昇中!なに、ときめいてんだろ、私…
ダメダメダメ!
この人に惚れては、ダメなんだから…
やっと私も食べ終わり、二人で食後のカフェオレを飲み始めた時には、14時を回っていた。
「楽しいときって、時間が経つの早いっすねぇ~」
祐輔君も私と過ごした時間を楽しいと思ってくれたんだ。
「リコさん、そろそろ出よっか?」
「ごめん、私、お手洗い…」
「どーぞ、どーぞ」
私は急いでトイレに駆け込み、鏡の前でイーッと歯のチェック。よかった、何も着いてない。
また急いで席に戻ると、祐輔君の姿が無い。キョロキョロと周りを見渡すと、会計を済ませた祐輔君が、出口で手招きしてた。
「ごめんねっ、ご馳走様!!」
私はご馳走してくれた事に、素直にお礼を言った。
「いえ、いえ。さて、どこ行きたい?」
「へっ?」
「へっ?じゃなくて。今日はデートしましょって言ったでしょ?まだ飯食っただけじゃ~ん」
「えっ、いや、私、その…」
「もしかして、リコさん、この後用事ある?」
祐輔君の問い掛けに、私はブンブンッと首を横に振った。
もう少し…もう少しだけ…
祐輔君の優しさに触れていたい…
すると次の瞬間、私の右手に温もりを感じた。
祐輔君が私の手を握ってる。
血圧上がるんじゃないかってぐらい、心臓の動きが早くなってる。
「リコさん、車まで走るよ!」
小雨の中、祐輔君は私の手を引いて走った。
ただでさえドキドキし過ぎてるのに、更に走ったもんだから、助手席に座り込んだ時にはゼーゼー言ってた。
「リコさん大丈夫?息、切れすぎじゃない?」
プッと笑う祐輔君に、
「と、歳のせいよっ」
としか言えなかった。
「違うよ、歳は関係ないよ。リコさんが運動不足なだけ」
祐輔君は、意地悪な顔をしながら、車を走らせた。
そういえば祐輔君って、私の歳に触れてこない。
おばちゃん扱いもしない。
一人の女の子として、接してくれてる…
ふと、里沙の言葉が頭をよぎる。
(木村君に、惚れんなよっ)
里沙、大丈夫。
私、惚れないよ。
惚れちゃいけない人なんだよね…
「祐輔君、どこ行くの?」
「ん~、ボウリングとかもいいかなぁって思ったんだけど」
「いいね、ボウリング。私久しぶり!」
「ん~、でもやめたっ」
「え?」
「リコさんともっと話したいから、静かなトコ行く」
「…!」
素直に嬉しかった。私も、もっと祐輔君と話したい。もう少しだけ、祐輔君と心地いい時間を過ごしたい…今日だけだから…
一時間ぐらい走ったのかな。海が見えてきた。
海が見える駐車場に車を停めると、祐輔君が、んーっと伸びをした。
「お疲れ様」
「リコさんも疲れたでしょ?
晴れてると、すごく景色いいんだ、ココ。曇ってるから、ちょっとムードないけどね」
祐輔君は、ちょっと残念そうに、窓から空を見上げた。
「雨は上がってるし、外の空気吸おう」
二人で車の前に立って、海を眺めた。
今朝からの雨で、海は大荒れ。危ないから、海岸までは下りなかった。
「大迫力の波だね。見てるだけでも、ちょっと怖いね」
「だ~いじょうぶ。俺がついてるから」
「え~、頼りなーい」
「えぇ~?」
ささいな会話でも、自然と笑い声が起きる。
気が合うって、こうゆう事なんだろうな。祐輔君がモテるのも、なんだか変に納得した。
私は荒れる海を見つめながら、頭の中を冷静に整理していた。
「リコさんって、今彼氏いないからフリーなんだよね?」
「へ?」
祐輔君の顔を見上げた。でも、祐輔君は真っ直ぐ海を見ていた。
「そうだね。ハハッ、この歳でフリーになっちゃったぁ~」
ハァ~…
自分で言って、落ち込んでしまった。私はその場に座り込んだ。
「それなら…さ。俺、リコさんの彼氏に立候補していい?」
「…え?」
お互い見つめ合いながら、しばらく沈黙が続いた。
「ちょ、ヤダ。からかわないでよぉ。私、祐輔君より5歳も年上なんだよ?」
私はテンパって、あたふたとしていた。
「俺は本気だよ?歳なんか関係ない」
また、二人の間に沈黙が流れる。
祐輔君は、私から目線をそらさない。
さっきまでの可愛い表情とは違う、男の人の顔付き。
真っ直ぐな瞳に吸い込まれそう。
―ダメッ!
私の中で、もう一人の私が叫んだ。
「祐輔君が、立候補する資格なしっ!」
どうしたらいいか分からなくなって、とりあえず里沙の真似をしてみた。
「ずっと気になってたんだけどさ、里沙さんも言ってた俺に資格が無いってどうゆう事?女垂らしとかまで言われるし…俺、彼女居ないよ?」
「またまたぁ。祐輔君はモテモテじゃない」
「俺、女にはモテないんだよなぁ」
何、この子!自分がモテてる自覚無いの?
会社であんなに騒がれてるのに…
彼女が居ない?
それじゃあ、みんなが見た祐輔君と一緒に居た女の人達はなんなの?
言いたい事や聞きたい事があり過ぎて、ワケが分からなくなった。
それよりも、とぼけ続ける祐輔君に、少し苛立ち始めた。
「リコさん?」
「…」
私は眉間にシワを寄せたまま黙り込んでいた。
「リコさん?すごい顔してるけど…俺、なんか悪い事言った?」
祐輔君は、俯く私の顔を覗き込んだ。
「きょうだい…」
「え?」
「祐輔君…兄弟に女の子いる?」
「俺?二つ上の兄貴が一人…って、なんで?」
期待通りの答えは返ってこなかった。
その瞬間、私の中でスイッチが入った。
「なら、口紅…」
「口紅?」
「車にあった口紅は誰の?昨日アイツって、お姉さんとかが居ないなら誰なの?昨日、他の女の人に会ってたって事だよね!」
溜め込んでいた気持ちが一気に爆発した私は、強い口調で祐輔君に迫った。
「いや、だから…あれは気にしなくていいって…」
「気にしなくていい相手なら、教えてくれてもいいじゃない!この期に及んで、お母さんのとか言わないでよ!」
「母さんのでは無いけど…いや、本当に気にしないで」
「な…んで、なんで答えられないの!?」
曖昧な祐輔君の返事に苛立ってたのと、こんなに問い詰めてどうしたいのか分からず、涙が溢れだす…ハンカチで目を覆っても、拭いきれない。
「リコ…さん」
泣いている私を見て、祐輔君が困ってる。
どうせ祐輔君も同じ事言うんでしょ。
女が泣くとか面倒臭いって…
「リコさん…ごめん!」
そう言った瞬間、祐輔君は私の腕を掴んで思い切り引っ張った。
「痛ッ…」
気付くと、祐輔君にきつく抱きしめられていた。
「やだ!離して!」
「離さないっ!ごめん、泣かせてごめん!俺、最低だ!」
祐輔君は泣きそうな声で謝り続けてる。
私はもぅ、涙を止める事が出来ない。
それでも渾身の力を振り絞って、祐輔君を突き飛ばした。
「私見たんだから!祐輔君が、女の人と腕組んで歩いてるとこ!会社のみんなも見たって言ってる。いつも違う女の人だって!」
ここまできたら、黙っていられない。どうなってもいい。聞けずにいた事を全てぶちまけた。
怒鳴り続けた私は、息が上がっていた。
祐輔君は…
ただ、放心していた。
「リコさん、見たの…?会社の人達も…?」
あからさまに動揺している祐輔君は、拳をギュッと握って俯いた。
なんで何も言ってくれないの?言い訳ぐらいしてくれてもいいのに…
「俺っ、リコさんが1番好きだよ」
1番…?
なにそれ…
1番とか、2番とか、もうヤダ…
「帰りたい…」
大声を出し過ぎて疲れ切った私は、もうこれ以上祐輔君を問いただすだけの気力は無かった。
「リコさん、俺…。本当なんだ、リコさんが1番好きなんだ。信じて…?」
「帰る…」
ここには、駅も何も無くて、祐輔君に送ってもらうしかない。
私は黙って後部座席のドアの前に立った。
祐輔君も、下を向きながら車のカギを開けた。
「家まで送るよ」
「いい。『orange』の近くでいい」
終始無言のまま、車で走り続けた。
雨が止んでいたせいか、駅前の交差点は朝程混んでなかった。
祐輔君は道路の端に車を停めて、ルームミラー越しに私を見ている。
「木村君、今日はありがとう。ご馳走様」
『木村君』って言い換える事が、私にとって精一杯のイヤミだった。
木村君の顔も見ずに車を降りると、木村君も車から降りてきた。
「また明日、会社で」
後ろから木村君の視線を感じながら、返事もせずにホームへと走った。
元気づけてくれるはずじゃなかったの?―
どうして、こんなに傷付いてんの?―
帰宅ラッシュの電車に揺られながら、窓の外をボーッと眺めていた。
ずっと、木村君のクリームソーダを飲んでいる時の笑顔が、頭から離れない…
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