生きる意味
今から二十数年前…
あたしの人生は始まった。
とても長い、出口の見えない辛い人生の始まりだった。
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あたしは出産予定日の3ヶ月も前に生まれた。
『1430g』
それがあたしの出生時の体重。
今は医学の進歩から1000gあったら助かると言われているけど、当時はまだそこまで進んでいない為、母は医者に『3日が山です。覚悟だけはしといて下さい。』
そう告げられたと言う。
それでもあたしは生命力があったのだろう…
医者も頑張ってくれたのだろう…
山は通りこし、危険な状態は無事に乗り越えお腹に居れなかった3ヶ月を保育器で過ごしすくすく成長していった。
その話しを大きくなって聞いた時、心の中で
『その時に死んでいれば良かったかも。』
そう思っていた。
ううん、あたしだけじゃない
ねぇ…
お母さんもそう思ってたでしょ?
そんな気持ちばかり膨らんでいた。
きっと母はお腹の中にあたしが居た時から邪魔だ…いらない…って思ってたはず。
だってね。
なんであたしが3ヶ月も早く産まれたのか母に聞いた時そう思ったよ。
水商売で働いていた母は
『あんたがお腹に居る時も店には内緒で働いてたからね。お酒も飲んで、煙草も吸って、朝まで仕事してキツかったからやと思うわ』
だってさ。
仕事続けたいなら子供なんか作るなよ!
子供心に思ったね。
産まれる前から前途多難だったんだね。
あたし。
記憶に残る父は凄く優しかった。
でも本当にうっすらとしかあたしの頭の中には残っていない。
自分が凄く小さい時にしか居なかったし、毎日家に居た記憶もない。
たまに来て凄く優しく遊んでくれるおじさんぐらいにしか思っていなかったかも知れない。
その理由も後で分かった事。
あたしは母が不倫して出来た子だから。
小さい頃の思い出…
寂しかったなぁ。
怖かったなぁ。
そんな感じ。
相変わらず水商売で働いて居た母は夕方出掛けて朝方まで帰る事は無かった。
それはあたしが記憶に残る3、4歳くらいから。
二つ違いの弟と2人っきりで過ごす夜はとても長く、怖いものだった。
自分の恐怖心を押し殺し、泣き叫ぶ弟をなだめ夜を過ごした。
昼間は寝ている母を起こさぬように弟とアパートの駐車場で遊ぶ毎日だった。
そんな生活が続きあたしが5歳の頃に母は結婚した。
相手はあたしの父親ではない人だった。
それまで住んでたアパートを出で母が結婚した相手の家に行った。
義父には高校生と中学生の娘が居てお姉ちゃんが出来た。
アパートとは比べられないくらい大きな一軒家。
広い庭。
血統書付きの可愛い室内犬。
今までとは360度違う生活環境。
そして何より今まで夜居なかった母が水商売を辞めて家に居る事、すべて幼いあたしは嬉しかった事をハッキリ覚えてる。
それからしばらくはとても幸せだった。
あたしと弟は幼稚園に通わしてもらった。
今までずっと弟と二人っきりで遊んでいたので戸惑いもあったが、すぐに友達もでき幼稚園が楽しくて嬉しくて仕方がなかった。
でも、一番嬉しかったのは母が自転車で迎えに来てくれる事だった。
今まで、あたしの中での母は寝ているか夕方仕事に出掛け居ないかのどちらかだった。
こんな風に自転車で迎えに来てくれ色んな話をしたり、笑ったり…
それが一番嬉しかった。
新しく出来た義姉はとても優しかった。
長女の里子お姉ちゃんは頭もよく、とても面倒見がよかった。あたしや弟におやつを作ってくれたり、ひらがなを教えてくれたり優しい義姉だった。
次女の知美お姉ちゃんは活発で明るく、公園で一緒に遊んだり、犬の散歩に行ったりいっぱい遊んでくれる優しい義姉だった。
義姉達は母にもとても慕い、里子お姉ちゃんは<お母様>
知美お姉ちゃんは<お母ちゃん>
見事に真逆の呼び方で母の事呼んでいた。
今思えば、思春期で敏感な年頃の義姉達がよくあたし達を受け入れてくれたと思う。
意地悪されたり打ち解けられなかったりしてもおかしくないのに本当の家族のように仲良くなっていった。
あたしが小学校に入学した頃に母は仕事を始めた。
また水商売…
今度は自分で店をもち女の子をおいて始めた。
景気の良かった時代。
店は忙しいくらいに繁盛していた。
それと同時に母が家に居る時間が少なくなっていった。
昼から美容院にセットに行ったり、店で身につける装飾品を買いに行ったり店の事が中心の生活になっていた。
『またか…』
幼心にそう思った。
そして同時に不安に思った。
また寂しい夜が来るのだろうか…?
夜という暗闇の恐怖に耐えなければならないのだろうか…?
でも昔とは違った。
母は居なくても義姉がいつも側にいてくれた。
お風呂に入れてくれたり、ご飯を食べさしてくれたり…
寂しい時は寝る時も義姉の部屋に行き一緒に寝てもらったりもした。
『お母さん仕事に行ってもお姉ちゃん居るから大丈夫』
幼いあたしはすごくホッとしたのを覚えてる。
でも別れは突然やってきた。
あたしが小学二年生の時だった…
どうしても習いたいと義父にお願いして小学生になってから通ってたピアノ教室から帰ってきたあたしに母は言った。
『今から出掛けるから支度しなさい。』
『どこ行くの?』
あたしが聞いても母は何も言わなかった。
先に帰っていた弟はリュックサックにオモチャなどをニコニコしながら入れていた。
『ねぇ、どこ行くの?』
弟は
『分かんない。でもいい所って言ってたよ🎵楽しみだね🎵』
凄く嬉しそうに話す弟とは違いあたしは何故か凄く不安だった。
どこに行くかも分からない…何を持って行けばいいのかも分からずウロウロしているあたしに母は少し苛立ったように
『早くしなさい!自分のいるものだけリュックに入れておきなさい!』
と言った。
怖かったあたしは大事にしていたヌイグルミと義姉から貰ったお気に入りのハンカチと集めていた消しゴムをリュックに入れた。
リュックに入れてる時、里子お姉ちゃんが部屋にきた。
『優、このゴム可愛いでしょ?髪の毛くくってあげるね』
そう言ってイチゴのついた可愛いゴムで髪の毛をくくってくれた。
『お姉ちゃんも一緒お出掛けするの?』
『お姉ちゃんは行かないよ。お母様と優と修だけだよ…』
義姉の目には涙が浮かんでいた…
義姉に髪の毛を可愛くしてもらいリュックを背負い母の居るリビングまで行った。
すでに弟はリビングで母の横に座っていた。
『優も支度出来たのね。じゃあ行くよ。』
『ねぇ、お母さんどこに行くの?もうすぐご飯の時間だよ?買い物?早く帰ってくる?優まだ宿題してないよ。』
嫌な予感がしたあたしは母にたくさん話しかけた。
『お姉ちゃんも一緒に行ったらダメ?なんか優ちょっと頭痛くなってきたなぁ。あっ、ルル(犬)に餌あげなきゃね!』
あたしは必死だった。
今出でいけばこのままここには戻ってこれない気がした。
『優!ちょっと静かにしなさい!』
母に叱られあたしは黙ってうつむいた。
義父はムスッとした表情でソファーに座っていた。
義姉2人も来てソファーに座った。
あたしは何故か里子お姉ちゃんの膝の上に座りに行った。
『今までありがとうございます。お世話になりました。』
母は義父にそう言って頭を下げた。
義父は何も言わなかった。
変わりに里子お姉ちゃんが口を開いた。
『お母様!本当に行っちゃうの?どうして…』
あたしの頬に里子お姉ちゃんの涙が落ちた。
『お姉ちゃん…』
あたしもたまらず泣いてしまった。
『里子…知美…ごめんね。今までありがとうね。』
そう言い立ち上がった。
『優、修、行くよ。』
お姉ちゃんの手を握りながら玄関まで行きあたしは泣きながら靴を履いた。
お姉ちゃんの手を離せなかった。
あたしはうつむきお姉ちゃんの手を握りしめていた。
『優!早くしなさいね。』
母にそう言われても動けなかった。動きたくなかった…
『優!』
『はぁ…い…』
返事をするのが精一杯だった。そんなあたしを見て…手を繋いでいた里子お姉ちゃんがあたしの手をギュッと握りしめた。
『優ちゃん。大丈夫…大丈夫よ。優がどこに行っても…お姉ちゃんは…お姉ちゃんだからね。会いに行くから…ね…。』
最後の方は言葉になって無かったお姉ちゃん…
知美お姉ちゃんもあたしに近寄り手を握りしめて
『あたしもそうだよ。ずっと優のお姉ちゃんだから…』
その時の二人のお姉ちゃんの顔をあたしは忘れられない…
親の離婚なんて正直どうでも良かった。
義父との別れもさほど辛くはなかった。
ただあたしは…
あたしは義姉との別れが死ぬほど嫌だった。
今まで弟と二人きりの怖い夜を過ごしてきたあたし。
母の顔色を伺い気を使いながら生活していたあたし。
甘えたり、泣いたりなんて出来ずつねに我慢してきたあたし。
それが母が再婚する5歳までのあたし。
そんなあたしに優しくしてくれ、いつも側にいてくれた義姉。
義姉に甘え、守ってくれる人ができ泣き虫になり、あたしは普通の5歳児になれた。
なのに…
この家を出でいく。
幼心に思った。
また…あの生活に戻るんだ…
『里子お姉ちゃん…知美お姉ちゃん…絶対会いにきてね。優も来るから…お手紙も書くね…ルルにも会いに来るからね。』
そう言いあたしは義姉達の手を離した…
母は
『里子、知美ありがとうね。元気でいてね。』
『うん…』
『お姉ちゃん…バイバイ…』
あたし達は家をでた。
近くの大通りでタクシーを広いあたし達は乗った。
『お母さんどこ行くの?』
弟が母に話しかけた。
『駅まで行って電車に乗るよ。修、電車好きだよね~』
『うん!!電車好き!嬉しい🎵』
母は何事も無かったかのように笑い、弟も無邪気に笑った…
あたしだけ…
義姉から引き離された辛さと…
これから待ち受ける辛い現実を知っていたかのように笑う事は出来なかった。
電車を乗り継ぎ、あたし達は小さな平屋の家に着いた。
『今日からここが家だからねっ!』
中に入ると必要最低限の家財道具とダンボール数箱が置かれていた。
でもあたしも弟も持ってきた物と言えばオモチャやヌイグルミなどの自分の遊び道具…
着替え、ランドセルや教科書などの必要な物は持って来ていなかった。
『お母さん…ランドセル持ってくるの忘れた。それに電車いっぱい乗ったから優、学校まで遠くて一人で行けないよ…』
泣きそうなあたしに母は驚く事を言った。
『学校しばらく行けないからランドセルは今すぐ要らないから大丈夫。』
行けない…?
遠いから?
ランドセルがないから?
行けない理由を自分なりに考えたあたしは、近くの学校に行くのに色々用意しなくちゃいけないからだと思い、ダンボールを開け片付けしている母に話しかけた。
『分かった!近くの学校に行くんでしょ?いつから行けるの?それまでにランドセル里子お姉ちゃんに持って来てもらって!』
母はうるさそうに言った。
『近くの学校にも行かないよ!しばらくは学校行けないから!そんな事ばかり言ってないで早く片付けるの手伝いなさい!』
何言ってんの?
意味が分かんない。
突然の引っ越し。
何も知らず数時間前まではいつも通りに学校から友達と帰ってきたあたし。
いつも通りにピアノ教室に行き…
いつも通りに帰ってきて…
いつも通りの夜が来ると思っていたあたし…
これからどうなるんだろう…
何もかも幼いあたしにはすぐに理解出来ない事ばかりだった。
ダンボールを開けるとあたしの服が入っていた。
いつの間にお母さんあたしの服しまったんだろう…
いつからここに来ること決めてたんだろう…
そう考えると急に凄く悲しくなり、涙をこらえるのに必死だった…
荷物は少ないので片付けは思ったより早く終わった。
カップラーメンの夕食を3人で食べすばらくすると母は出掛ける用意をしだした。
『じゃあ、お母さん仕事行ってくるからちゃんと留守番しといてね。』
やっぱりね…
『お母さんのお店ここから遠いのに行くの?』
あたしが言うと母は
『あそこは辞めたよ。ここの近くでお母さんまたお店するからちゃんと留守番しててね。』
そう笑っていた。
弟は嫌がり激しく泣いた。
『お母さん行ったらイヤ!修くんも行く!』
泣きわめく修を見ながら母は
『優!お姉ちゃんでしょ!修が泣いてるんだからちゃんと面倒みなさい!』
何故かあたしが怒られた。
『はい…。修くん、お姉ちゃんと遊ぼう。お母さんすぐ帰ってくるからね。』
母はそのまま出で行った。
母が居なくなり余計に泣きわめく弟をなだめる為に必死に絵本を読んだり、ヌイグルミで遊んだり、自分も泣きそうになりながら弟の相手をしていた。
泣き疲れて眠たそうにしている弟の為に布団を敷き、パジャマに着替えさせ一緒に布団に入った。
外からの風で平屋の木造の家は不気味な音をたてていた。
窓ガラスはガタガタ揺れていた。
あたしは怖くなり布団をかぶり弟にしがみついて目をつぶった。
お姉ちゃん…
会いたいな…
朝になり目が覚めたが母は居なかった。
昨日買っていた菓子パンを弟と食べ、二人でお絵かきをして遊んだ。
お母さん遅いなぁ…
今頃、みんな授業中だなぁ…なんの授業かなぁ…
お姉ちゃん何してるだろう…
そんな事ばかり考えていた。
『ただいま~。』
母が帰ってきた。
『おかえりぃ!お母さん🎵』
弟は嬉しそうに飛び付いた。
母はたくさんのパンやカップラーメン、お菓子が入った買い物袋を持っていた。
『お昼食べな。』
またカップラーメンを食べた。
『お母さん、明日もしかしたら帰ってこれないかも知れないから優ちゃんと修の面倒見ててね!ラーメンとかパン置いとくから。』
ラーメンを食べながら母はあたしに言った。
『え?お母さん帰ってこないの?嫌だな…』
『何言ってんの!もしかしてって言ってるでしょ~』
そう笑っていたが次の日やっぱり母は帰って来なかった。
申し訳ないけどなんなの、この母親ってすごい思っちゃいました💧私も二児の母です。絶対にこんな無責任な事は普通出来ないよ。あなた、辛い思いされましたね。これから、どうなるか、ドキドキハラハラしながら見て行かせていただきますね。でも、これからの人生に忍耐と言う宝物を母親から頂いたと思って頑張ってくださいね。
『お母さん今日は遅いねぇ~』
弟が半泣きであたしに聞いてきた。
『本当だね…修くんお昼ご飯食べよ😃お姉ちゃんラーメン作るね😃』
母が帰ってこない不安を弟に悟られないようにあたしはいつも以上に明るく振る舞っていた。
『修くんもうラーメンイヤやな…里ちゃんのハンバーグ食べたい…』
あたしも里子お姉ちゃんのハンバーグ食べたいよ…
会いたいよ…
その気持ちを押し殺し
『修くん今日は我慢してラーメン食べよ。お母さん帰ってきたらハンバーグ作ってもらおうね~お姉ちゃん頼んであげるから!』
そう言うとお腹がすいてる弟は『うん…』とうなずいた。
カップラーメンにお湯を入れて火傷しないように弟に食べさせた。
お母さん何時に帰ってくるんだろう…
今日帰ってきてくれるかな…
不安でカップラーメンが喉を通らなかった。
その夜…
母は帰ってこなかった。
『お姉ちゃん、お母さんどこぉ?』
と泣きわめく弟…。
『もうすぐ帰ってくるからっ、お姉ちゃん一緒にいるから大丈夫やろっ?』
泣き止まそうと焦るあたし…
歌を歌ったり、テレビを見たりとにかく弟の機嫌を直すのに必死だった。
『お姉ちゃん眠い…』
布団を敷きパジャマに着替えまた一緒に布団に入った。
そう言えばここに来てからまだお風呂入ってないなぁ…
明日お母さん帰って来たらお風呂に入ろう。
ハンバーグも作ってもらおう。
あれもしてもらおう。これもしてもらおう。
そんな事ばかり考えて眠りについた。
『ただいま~』
ようやく昼過ぎに母が帰ってきた。
『お母さん!修くんちゃんとお留守番してたよ!』
母に飛び付く修…あたしも本当は甘えたい。留守番イヤって泣きたい!でも出来ない…
『お母さんお風呂に入りたい。それと修がハンバーグ食べたいって。』
そう言うと母は
『お風呂忘れてたよ!今沸かすから入りな。ハンバーグは今日は無理よ。またお母さんすぐ仕事だから。』
そう言いお風呂を沸かしに行った。
『修…今日ハンバーグ駄目みたい。ごめん。』
『お母さんに作ってもらうって言ったのになんで!!』
また泣く弟…
『うるさいな!お母さんがダメって言ったんだから知らないよ!』
あたしは外に飛び出し近くにあった小さい公園のブランコに座った。
弟に八つ当たりしてしまった。
お姉ちゃんに会えない辛さ、寂しさ。
お母さんがいつ居なくなるか分からない恐怖。
弟を守らなきゃいけない責任感のプレッシャー。
幸せだった生活が急展開してしまった状況についていけない自分への苛立ち。
今思えば当時まだ8歳のあたしはよく頑張ったと思う。
でも当時のあたしは常にあたしが頑張らなきゃと必死だった。
探しに来てくれる訳もなくあたしはしばらくして家に帰った。
もしかしてお母さんに怒られるかも…
心配してくれてるかも…
修に謝らなきゃ…
色々な思いを抱えながら家に着いた。
そぉっと玄関を開けると修の泣き声が聞こえてきた。
まだあたしのせいで泣いてると思い
『修…さっきごめんね。』
謝りにながら部屋に入ると涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔の修が飛び付いてきた。
『えっ!何、どうしたん?』
『お…お母さん…おっ…お仕事行っちゃった。お…お姉ちゃんも…い…いなくて…ウッ…修…くん…ヒッ…一人になっちゃったの…』
泣きすぎて聞き取りにくい修の声。
甘えん坊で泣き虫でわがままな修。
そんな修を置いて仕事に行った母…
あたしは修の顔を拭きごめんねと謝り修とお風呂に入った。
あたしが居る事で修は泣き止み、機嫌も直った。
修の頭を洗いながらあたしは思った。
こんな幼いあたしを頼りにしている小さな弟を守らなきゃいけない。
そう誓った夜だった。
その日を境にあたしは今までよりも強くなった気がした。
子供らしくない子供…今思えばそんな子供だった。
母は一日置きくらいに帰ってくる生活になった。
あたしはそれを受け入れ自分で出来る事は全てやるようにした。
弟の世話はもちろん。掃除や洗濯もした。
当時の洗濯機は二層式で今みたいにボタン一つで洗濯から脱水までしてくれなかった。
何回も間違え、失敗しながらも母が帰ってきた時に聞きながら洗濯も出来るようになった。
母をあてにするのは止めよう。
期待するのも止めよう。
弟もあまり母を追わなくなった。
母が帰って来ても飛び付く事は無くなった。
そんか弟を見ててあたしは胸が痛かった…
あんなに母にベッタリで甘えん坊な修が母の事を言わなくなった。
そんな修の為にもあたしは頑張った。
でも、どんなに頑張っても出来ない事もたくさんあった。
修の好きなハンバーグ、あたしは作れなかった。
母に火だけは使ってはダメと厳しく言われていたから料理なんかは出来なかった。
幸い、母は帰って来た時カップラーメンやお菓子などの食料やお金を置いていってくれた。
そのお金を持ち歩いて10分のスーパーまで修と手を繋ぎ買い物に行った。
それが唯一あたしと修の楽しみだった。
『お姉ちゃんアイス買っていい?』
『いいよ😃』
『やっぱチョコレートにしようかな…』
そんな話をしながらあたし達はスーパーまで歩いて行った。
買い物から帰ると家の前に誰かが居た。
ドンドンドン!!
玄関を激しく叩く音。
『おいっ!いるんだろっ!開けろよ!』
男の人の怒鳴り声。
『お姉ちゃん…』
『シッ…』
あたしは修の手を握り近くの公園に行った。
『お姉ちゃん怖いよ…』
『大丈夫!しばらくここにいたらあの人帰るよ。大丈夫…大丈夫…』
自分にも言い聞かせるように修に言った。
少し公園で遊んでから家に帰る事にした。
怖かったので修の手をギュッと握りしめながら…
家の前には誰も居なかった。あたしも修も安心した。
二人でお風呂に入り母が帰ってくるのをいつものように待っていたら怒鳴り声が聞こえてきた。
『おいっ!開けろ!』
ドンドンドン!
玄関の戸が壊れるんじゃないかと思うくらいのけたたましい音。
『お姉ちゃん…』
『修、大丈夫!お姉ちゃん居るやろ。ちょっとだけ我慢してここに隠れてて!』
ギュッとしがみつく修をあたしは押し入れにいれた。
心配そうに修は見ていた。
『はい…。』
玄関を開けると昼に家の前に居た男だった。
『京子!京子!』
男は母の名前を呼び家に押し入ってきた。
『おっ…お母さんは居ません。』
家を見て母が居ないのを確認した男は
『お母さん?京子の娘か。』
『うん。お母さんは居ません。帰って下さい。』
『お母さん帰ったら関口が来たって言っといて。』
ようやく帰ってくれた。
急に怖さが込み上げてきて身体も震えしばらく呆然としていた。
『あっ!』
修の事を思い出し押し入れを開けると涙まみれの修が飛び出してきた。
『よく我慢したね😃修くん偉いわぁ⤴』
思いっきり誉めてあげると満足そうな修。
『お姉ちゃんも偉かったね✨修くん怖かったよ。』
修に誉めらてあたしも嬉しかった。
次の日帰ってきた母に昨日の事を伝えた。
母にこれからは誰が来ても戸を開けてはいけないと言われた。
怖かったので
『お母さん夜は修と二人だけだったら怖いよ…。』
そう話したけど母は笑いながら
『大丈夫よ。優はお姉ちゃんでしょ!』
ただそれだけ…
本当に突き放された気分だった。
それからしばらくしたある日。
事件が起こった。
いつも通り、修と二人でお昼のパンを食べていた時の事。
大きな声が聞こえてきた。
『京子!居るんだろ!開けろよ!』
また来た…
でも母に言われていたのであたしは無視して食べていた。
『お姉ちゃん…』
『大丈夫、大丈夫。すぐ帰るよ。』
不安そうな修。
あたしも怖かった。
声は段々大きくなり、玄関を叩く音も段々強くなっていった。
『京子!ふざけんなよ!開けろよ!』
ドンドンドン!
バキッ!
男は玄関の戸をこじ開け土足のまま家の中に入ってきた。
『うわっ!』
あたしは修を連れて部屋の一番奥まで走った。
6畳と4畳半の2間続きの狭い家。
一目で母が居ないと分かった男は何を思ったか暴れだした。
『バカにしやがって!ふざけんなよ!』
そんな事を言っていた気がする。
あたし達が食べていたパンを踏み潰し、ジュースを入れてたコップを投げつけた。
窓ガラスを割り、襖を蹴り倒し、あたし達のオモチャを投げつけた。
あたしは修を後ろに隠すように部屋の隅でうずくまっていた。
怖いよ…
お母さん…
怖いよ…
誰か助けて…
ひたすらそう祈り続けた。
家の中がめちゃくちゃになるまで暴れ出ていったがあたし達に手を出す事は無かった。
家の中は手がつけれないほどめちゃくちゃになっていた。
『修…大丈夫?』
『お姉ちゃん!』
しがみつき急に泣き出した修…
きっと怖すぎて声を出す事も泣く事も出来なかったんだろう…。
どうしてあたし達はこんな生活しなきゃならないの…
贅沢なんて言わない。欲しい物なんてない。貧乏でもいい。
狭い家でもいい。
ただ…
お父さんが居て…
お母さんが居て…
学校に行って…
友達と遊んで…
温かいご飯食べて…
ふかふかのお布団に家族で一緒に寝る。
あたしのこの望みは贅沢なんだろうか…
手のつけよう無いの部屋の片隅に座って母の帰りを待っていたがいつまで待っても帰っては来なかった。
お腹もすいたけどポットも壊されてしまい、買い置きのパンも潰されてしまった。
とりあえず修にだけでも何か食べさそうと割れているガラスや食器類を避けながら台所まで行き探した。
ポテトチップスとオレンジジュース。
これしか無かったが修は喜んで食べてくれた。よほどお腹がすいていたのだろう…ポテトチップスをがむしゃらに食べていた。
『修くんごめんね。今日これしかないから我慢してくれる?』
『うん。修くん我慢出来るよ😃』
『………。』
きっと前の修なら泣きわめいていて、ワガママ言っていってあたしを困らしていたのに…
その日は二人で押し入れに入って寝る事にした。
窓ガラスも割れているので風も吹き込んでくるし、玄関も壊れている…
また男が来るかもしれない…
そんな中で寝る恐怖になかなか寝付けなかった。
そんな時、あたしは無意識に幸せな事や楽しい事を思い出すようになっていた。
里子お姉ちゃんや知美お姉ちゃんと過ごした日々。
楽しかった学校生活や友達。
頑張って練習したピアノ教室。
少し前まで当たり前のように過ごした生活…
今のあたしにはそれすら夢だったように思える。
『キャーッ!何なの!これは…』
母の声で目が覚めた。
やっと帰ってきた…
そう思いながら押し入れを開け母に声をかけた。
『前に来た関口って人が…パン食べてたら来て…お母さん人来ても出たらダメって言ってたから…無視してたら…玄関壊して…入ってきた…』
我慢出来ずに泣いてしまった。
『修は!?』
『修くん押し入れで寝てる…よ。』
『あんた達…怪我は?』
『だい…じょおぶ…』
母の顔を見てホッとしたあたし。
こんな人でもやっぱりあたし達にとっては母親なんだ…そう思えた。
とりあえず近くのファミレスにご飯を食べに行く事にした。
久しぶりに家族で食べる温かいご飯。
『お姉ちゃん、ハンバーグ美味しいね❤』
修は本当に嬉しそうな顔で美味しそうに食べていた。
あたしは昨日の恐怖がまだ収まらずあまり食欲が無かった。
『お母さん…お家どうするの…?』
『帰ったら片付けないとね。優も手伝いなよ。』
でも窓ガラスも無いし…
玄関も壊れてる…
色々な物も壊されてるのに…
あたしはあの家に戻るのが不安になっていた。
また来ないだろうか…
お母さん仕事に行ったら怖いな…
もうあの家で修と二人きりの留守番する勇気が無かった…
それくらい自分の頭の中に昨日の恐怖が残っていた。
家に戻り母と家を片付けた。
割れた窓ガラスには応急処置でダンボールを張った。
壊れた玄関は素人にはどうする事も出来ないので、とりあえず形だけはめる事にした。
壊れたオモチャを片付け、掃除機をかけて何とか片付けが終わった。
と、同時に昨日の声。
『京子!京子!居るんだろ!』
大きな声…
あたしと修はその声に凍りついた。
『お母さん…!』
母は玄関まで行き負けじと威勢のいい声で
『あんた家を壊すきか!?何で何回も家に来るんよ!!この玄関や窓ガラス直しなさいよ!』
『お前が俺から逃げるからだろ!!』
母と男の怒鳴り声。
あたしは修を連れて部屋の奥の片隅まで逃げた。
泣きそうな修に『今日はお母さん居るから大丈夫だね。』
と、安心させた。
しばらく言い合いは続いていた。
バキッ!
『キャー!止めて!』
突然の母の叫び声におもわず近寄った
。男は母に殴りかかっていた。
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男性 社会人 年収 550 年齢33 身長176 体重67 彼女いたことない 病気等はな…
37レス 1293HIT おしゃべり好きさん (30代 男性 ) -
インターネットがない昭和時代の会社員はどう働いたの?
令和時代の現在のところでは、パソコン・スマホを使ってスムーズに働けるけど、インターネットのない昭和時…
36レス 1218HIT 知りたがりさん -
男性心理と女性心理
マッチングアプリで出会った男性と4回目のデートに行ってきました。 告白や進展はなく男性は奥手なのか…
12レス 387HIT 恋愛好きさん (30代 女性 ) -
旦那がいちいち人のやることにけちつけてくる。
この前洗濯機が壊れて、縦型の乾燥機付き洗濯機を買った。 旦那も納得して買ったのに、今日乾燥機回して…
18レス 419HIT 聞いてほしい!さん (30代 女性 ) -
食事の予定日になっても返信なし
気になる男性がいたのですが… 相手は30代バツイチ 彼からの誘いで一度食事に行きました。その…
11レス 285HIT 恋愛好きさん (30代 女性 ) -
付き合い始めると余裕がなくなる。
付き合うと不安になります。最近彼氏ができました。元彼と別れてから自分磨きをして、恋愛において、自信と…
7レス 213HIT 恋愛好きさん (20代 女性 ) - もっと見る