いのちのうた
26年前の春に私は産まれた
3人目にして待望の女の子。
父は安月給。以前に事業失敗し借金があり…常にギリギリの生活…
母は私がお腹にいるとわかった時「産むか産まないか」を真剣に考えたそう…
結局
「今は苦しくても、私がもっと働けば何とかできる…。」と思い直し、母は、妊娠と同時に給料の安いパン屋のパートを辞め、給料は良いが、ハードで辛いミシンの訪問販売の仕事を始めた。
新しいレスの受付は終了しました
母は自分が働いて得たお金をほとんど借金返済に回し、兄2人を必死で育て…
妊婦なのに寝る時間もなかったそう。
妊婦検診に行ける余裕はなく、出産までに病院に行った回数はわずか3回…
「3人目やから余裕やってん!」と母は今は言っているが…(笑)
だから産んで初めて女の子とわかり、女の子が欲しかった母と父は狂喜乱舞し、あちこちに電話をかけまくったらしい…
そのおかげで見舞い客が来るわ来るわ…
終いには看護婦さんに注意されたらしい。
母方のおばあちゃん&おじいちゃんにしたら6人目の孫にして初めての女の子。
母は産後に里帰りをする気はさらさら無かったが、父の勧めもあり、隣県の実家に1ヶ月里帰りする事にしたらしい。
母に当時の事を聞くと
「大変やったわ!近所の人らも入れ替わり立ち替わり優芽を見にくるから、お乳あげるにも、うちの娘どこ行った⁉って探さなアカンねんから…」と言うくらい、あちこちから私はモテモテだったらしい(笑)
みんなから大事にされ、すっかりワガママに育った私。
1番上の兄(瞬)とは6歳離れているので、小さい頃から喧嘩とかはしなかったし、兄はシスコンで近所では有名なくらい私を可愛がっていた。
2番目の兄(港)とは3歳差なので、ケンカはしょっちゅう。
今でも覚えているが、誕生日に買ってもらったリカちゃん人形をバラバラにされ、腹が立った私は、港を階段から蹴り落とした💧
港の前歯が一本折れちゃって、父と母にはカナリ怒られたけど、瞬にぃちゃんはバカうけして笑ってた😂
そんな野生児並み?の私もやがて中学生になり、一目惚れにして初恋を経験した
相手は同学年で同じ部活だった涼一。
涼一はカナリ美形だった
話してみると、面白いし、気も合った。
ある日、部活中に涼一がコンタクトを落としたらしく、グラウンドを喰い入る目で探していた。
これはチャンス‼と思い探すのを手伝った
すると…急に大雨…
「もうええわ~。優芽有り難うな~!てかお前、傘持ってんの?持ってへんのやったら俺と一緒に帰ろや~」と涼一。
まずは家で…
港の「おまえ、今日男と一緒に帰ってきたやろ‼」から始まった…
父の顔を見ると…明らか不機嫌😨
瞬にぃも母も話題を逸らそうと必死…
だが空気の読めない次男坊、港は止まらなかった…💧
港が「まぁさー、何でもええけど、あの感じやと付き合い始めたばっかりか?キスはしたんか?」と言った瞬間…
父がキレた😨
父はキレると誰も止められない。
父はテーブルをバンバン叩き「うちの可愛い1人娘と付き合うのになんの許しも得に来んとはその男は何者や~💢連れてこい‼目の前でブッ殺したる~💢」と叫びだした
もう手に負えない。おまえがかたづけろ。
無言の母と兄達からの合図…
私は何も悪くないが、「傘持ってへんかったから入れて貰っただけやし。優芽はお父さんが一番やから安心してよ…」と言い父を落ち着かせた。
父はすっかり機嫌が治り
「まぁ~優芽も年頃やしのう~。男の1人や2人転がしても当たり前か~」と…
その男の1人や2人で、キレたのは誰だよ💧
めんどくさい親だ…
父が上機嫌で食事を終え2階に上がって行くと
母が「お父さんには見つからないようにしなさいよ」
瞬にぃが「相手の男…見つかったらオヤジにやられんぞ」
と口々に言ってきた。
やられるも何も片思いなんですが…
その後、私は父の部屋に来るよう父に言われ、お説教。
何言ってるんだか良くわからんが
まとめると「おまえは女の子だからガードが弱いと困る」「おまえの彼氏は父さんが見て決める」との事。
どこまで娘を溺愛すれば気が済むのか…
次の日も雨…
朝から父は機嫌が良かった
娘が濡れては困るから車で学校まで送る!と言い出した。
あぁ…断りたい…
当時の父は、頭はパンチパーマ、外出時は常にグラサン。服はセンス悪くチンピラシャツ。借金返済もとうに終わり、新しい事業で成功した父の愛車はフルスモークベンツ。
どう見たってヤバい人
そんなヤバい人が職員室に入り「娘がお世話になってます⤴これ良かったら皆さんでどうぞ⤴」と茶菓子を配るのだから奇妙な画😭
その状況だけは避けたいが…
母に助けを求めたが母は朝食の支度で忙しいらしく何やらバタバタしている…
瞬にぃが呆れ果てて
「オヤジ、いつまでも中学生の娘にベタベタしとったら嫌われんぞ」と言ってくれた
オヤジもその一言で「そうか…」と言いコーヒーを飲みだした
助かったぁ!と心の中でガッツポーズをしていると、やっぱり空気の読めない次男坊港が
「昨日の相合い傘ダーリンに、オヤジ見せたら何の進展もないもんな!」
…
父に送って行かれる事が決定した…(泣)
食事を終え父の車に乗り込むと、明らか機嫌が悪い
車で7分くらいの距離だか会話はナシ。
正門の前に車を止められ、降りると運悪く涼一が私の方に駆け寄ってきて『優芽、おはよう!昨日は有り難うな!教室まで一緒に行こや』と言ってきた。
とっさに顔色が変わる父。
この状況はカナリまずい…
が、父はそのまま職員室に挨拶に行くと言い行ってしまった
ふぅ…助かった…
一年生の教室がある階まで涼一と一緒にいくことにした
涼一と並んで歩いてると、昨日一緒に帰った時のように心臓がドキドキした
おかげで何を話して、1年生の教室がある4階までたどり着いたか覚えていない。
私は1年1組で教室は左、涼一は7組で教室が右だった為、4階の階段踊場で別れた
教室につくと、幼なじみの加奈子が「優芽~昨日、永井くん(涼一)と帰って無かった?進展あったの~?」とワクワクした顔で聞いてきた
「何もないよ…」と私が答えようとした時、3年生の先輩が教室にきて
「香川優芽ってこのクラスにいる?」と大声で言い出した…
教室は一気にシーンと静まり返った
先輩は教壇を蹴りとばし
「香川優芽おるんやろ⁉」と叫んだ
叫んでいる先輩は学校一番の不良。警察沙汰は当たり前で…とか聞いた事がある
加奈子が私の腕を掴み「優芽ヤバいよ…」と震えながら言う。
でも行かなければ逃げた事になる
私の中では逃げるという選択は無かった。
「大丈夫だから」と加奈子に言い捕まれている腕を離してもらい、先輩のところに行った
先輩は凄い形相で私を睨みつけ
「昼休みに体育倉庫の裏にこい」と言った。
呼び出される理由がわからないので「わかりました」とだけ言うと、先輩は去っていった
加奈子が慌てて駆け寄ってきた
「ヤバいよ‼先生に言うべきだよ‼絶対行っちゃダメだよ‼」自分が言われた訳じゃないのに、加奈子は震えていた
私はというと、元々深く考えないし危機感が薄いお気楽な性格だったので、『体育倉庫の裏って…お決まりの学園ドラマみたいだな…』なんて思ってた
しばらくすると担任の浦島先生が教室に入って来て朝礼を始めた。朝礼中に先生と目が合うと、露骨に思いっきり逸らされた。
だから先生に相談はしなかった
加奈子にも、一部始終を見ていたクラスの子たちにも、先生に言わないように口止めをした。
お昼休み、私は言われた通りに体育倉庫の裏に行った。
加奈子やクラスの子達数人が「何かあった時、大変だから」と近くで待機してくれた
しばらくすると先輩は現れた
「おまえ、昨日永井くんと帰ったろう」と言ってきた。
もっと違う事でシメられるのかと思っていたのに、そんな事で?と思うとなんか笑けてきた私は、つい口が滑り「帰りましたけど、それが何か⁉」と言ってしまい、生意気だと先輩数人に腕と足を捕まれ、殴られた。
近くで待機していた加奈子やみんなが慌ててこっちに来てくれたが、私は「大丈夫だからみんな下がってて‼」と叫んだ
殴られ、蹴られ、私の口元から大量の血が流れた。
自分の血を見ると私の怒りが爆発した
私は覚えていないが、後からクラスの子に聞いた話しでは
「親にだって殴られた事はないのに、なんでテメェらに殴られないといけね~んだよ💢」「集団でやるしかできね~のかよ💢この低脳が‼」
と凄い剣幕で先輩に殴りかかって行ってたらしい。
私は先輩達に押さえつけられ、何度も壁に頭を打ちつけられたので頭からも大出血。
先輩も私に殴られ何人かは血を流していた。
加奈子とクラスの子の何人かが先生を呼びに行ったらしく
「お前ら何してる⁉」と言う先生の一言で先輩達は私を離し、その場を去って行った
私はというと、先生が止めに来たのを見ると意識を失った
父の「娘に何かあったら、お前らどうする気でおんねん💢」と言うドスの効いた声で私は目覚めた。
頭がガンガンして痛いのに父の声は頭に響く。私はボソッと
「お父さん静かにしてよね」と言った
母は目覚めた私に気づき、
「優芽!心配したんだからぁ~」と泣きながら抱きついてきた。
母に抱きつかれながらあたりをみまわすと父はもちろん、兄弟、田舎のおじいちゃん・おばあちゃんまでもがいた
みんなお葬式に来てるかのように泣きはらし目が腫れていた
私はあの日から丸3日意識がなかったと母からきいてビックリした。
おばあちゃんは「優芽ちゃん~。良かった~。おばあ心配したんよ…仏さんに何回祈った事か…」と床にへたり込んだ
間違いなくみんなに心配かけた私は座りながら頭を下げ「心配かけてごめんなさい‼」と謝った
すると港が
「ホンマ心配かけ過ぎや‼オヤジもオカンもみんな寝れてないねんからな💢」と頭をはたいた
それは見事に頭の傷にヒットした
私が「イタ~ッ~‼」
と叫ぶと、 すかさず瞬にぃが港の頭にゲンコツを入れた
「イタッ‼兄貴、手加減しろよっ‼」
と港は半泣き。半泣きの港を見て私は笑いが止まらない…
すると笑ってる私を見て港が爆笑しながら
「おまえ…(笑)前歯ないよ…(笑)鏡見てみ(笑)」と鏡を私に差し出してきた
鏡をみると本当に歯がない‼
前歯のない自分を見てショックをうけてると、おじいちゃんが必死な顔で
「優芽ちゃんの新しい前歯くらいじぃちゃんがなんぼでも買ったる!」と言った
これには父以外、みんな爆笑
父はずーっと窓の方を見つめ泣いてるようだった
その後、先生が診察に来て痛いとこがないかをきいてきた。
痛いとこだらけだか、先輩を挑発してしまった自分が悪いので
「痛くないです」 とだけ答えた
診察が終わると、母が病室に入ってきて
「優芽、おじいちゃん達を家に送ってくけど何か欲しいものない?」と聞いてきた
「う~ん。何もない」と答えると
母は「お父さん、帰らないって言うからおいてくけど、ちゃんと謝りなさいよ。お父さんずっと泣いてたんだから。ねっ?」と言い病室から出て行った。
あのお父さんが泣いてたんだ…
物凄い罪悪感に陥った…
父が病室に入ってくるのを待ったが、なかなか入ってこない。
いつの間にか
私は眠ってしまった
次に目がさめると父が私の手を握りしめ
「良かった…良かった…」と涙を流し泣いていた…
私が父に「お父さん、心配かけてごめんね…」と謝ると、父はビックリしたようで慌てて手を離し「心配するのは親の役目やけど…今回の事は本当にビックリした…」とここに私が運ばれる一部始終を話しだした
まず学校から家に
「娘さんが上級生と喧嘩して、今救急車を呼んでるんですが、呼びかけても反応がなくて…」と電話がいき
母はビックリし父の会社に慌てて電話をかけ
「香川ですが…娘が…死んじゃう‼主人に代わって下さい‼」と言い
母のあまりの焦りように会社の人も慌てて父に
「社長‼大変です‼娘さんが死んでしまった‼と奥さんから電話きてます‼」と言ったそう…
伝え間違いなのは母に代わりすぐわかったけどショックで父は呆然とししばらく動けなかったらしい。
救急車が来て、先生数人が一緒に乗り込み病院に搬送され、家に「○○総合病院にきてください」と電話があったらしい。
それで通常ならば父の会社から車で1時間、母は自転車で家から20分の距離を、
父は40分、母に至っては半分の10分で駆けつけてきてくれたらしい。
母が着くと病院の先生が「レントゲンやMRIで今の所、異常は無いが、おでこと瞼の横がパックリ切れてて傷が深いんで縫わせて頂いていいですか?」と言ってきたらしく、
顔に傷なんて‼と母は思ったが、傷が深いのなら仕方ないのでお願いします…と言ったらしい。
脳震盪を起こしてる状態なのですぐに目覚めると思いますよと言われていたのに、一向に起きない娘…
校長、教頭、担任、教育委員会の人がその日の晩から3日間毎日、花や菓子折りを持ち病室に謝りにきたが、父は怒り爆発だったので追い返したとのこと
父がそこまで話すと母が病室に戻ってきた。
「優芽、家に帰ったら男の子が家の前に座っててね~、優芽ちゃんに渡して下さいって言うから預かってきたよ」と母は包みを私に渡してきた。
受け取り包みをあけると、中には手紙と可愛いピンク色のクマの縫いぐるみが入っていた。
手紙を読むと涼一からだった
思わずニヤけながら手紙を読んだ。
“あの救急車、まさか優芽やと思わへんかった。後で1組の奴らに聞いてビックリしたよ。怪我大丈夫か?なんか本当にごめんな”
それだけだったけど凄い嬉しかった
読み終え、ぬいぐるみをベッド脇においた
そういえば…今何時だろう?と思い、病室の時計をみると夜中の2時前だった。
「お母さん家に帰ったのって何時だっけ?」と聞くと 「家についたら22時ちょうどだったけど」と母が答えた
ということは涼一は夜22時に家の前に座って 待ってたって事?
あのコンタクトを探した日、私は涼一に家の近くまで傘にいれてもらったけれど、家は教えていない。
ということは加奈子が教えたのかな…?とピンときた。
もう時間も遅いので、母だけ病室に泊まり父は家に帰ることになった。
母がこれ食べれたら食べなさいと、小さく握ったおにぎりと、これまた小さく作った卵焼き、唐揚げを入れたお弁当を私に差し出し
3日間ほとんど寝てなかったので、簡易ベッドを組み立てるとすぐに眠ってしまった
母が寝た後、私は恐る恐る鏡を改めて見た
右目は腫れ上がり、左目は瞼の上にガーゼ。口も歯が折れたせいなのか上唇が腫れて、頭は包帯ぐるぐる巻きになっていた…
思わず自分の姿の変わりように泣いてしまった…
母が隣で寝ているので布団に潜り込んで、声を殺して泣いた
散々泣いた後時計を見たら朝の6時になっていた
お弁当食べなきゃお母さん心配するよね…そう思い、お弁当箱の蓋を開け唐揚げをつまんだ。
…美味しい
お弁当を食べ終わった後、寝転んで病室の天井を見ながら考え事をしていたらまたいつの間にか眠ってしまった
「優芽、先生来てるから起きて!」と母に揺すられ目を開けると、担任の浦島先生がニコニコ笑いベッドの横に立っていた
母はお茶が出せないのも先生に悪いと思ったのか鞄からお財布を取ると、飲み物を買うため病室を出て行ってしまった。
先生が「何度も来たんやけど、お父様に追い返されてしまって… 目がさめたと聞いてホッとしたよ」とニコニコ笑いながら話しかけてきた
私は「先生が悪い訳じゃないのに…ごめんなさい」と先生に頭を下げた
すると先生は信じられない事を言い出した
先生は意地悪そうに笑い
「上級生にケンカうるなんて有り得ない。親が親なら子も子って本当ね。父親がヤクザだからって調子のられるとこっちは迷惑なのよ」
と言った。
私はケンカをうった覚えはない。
無論、親の事を悪く言われる筋合いはないし、お父さんは見た目は確かに悪いかも知れないがヤクザではないし私にとっては大事な家族…
一気に頭に血が昇るのがわかった
先生を睨みつけると、近くにあった時計を投げつけ、私は「帰れ‼」と叫んだ
しばらく、病室には重苦しい空気が流れ沈黙が続いた。
先生は苛立った顔をして私を睨みつけ何か言いたそうだったが、コンコンと病室のドアを叩く音がすると慌てて座り込み、床に散らばった時計の残骸を拾い始めた
「先生、コーヒーにします?お茶にします?」何も知らない母がいつもの調子でニコニコしながら入ってきた。
座り込み時計の残骸を拾う先生。
なぜか泣いてる娘。
母は「どうかしました…?」と先生の肩をトントンと叩いた。
先生は「いえ…大丈夫…です…」と震えた声を出しその場に泣き崩れた
母は慌てて、先生の肩を抱きながら「ちょっと!優芽何があったの⁉説明してちょうだい!」と聞いてきた
今あった事全て話そうとしたが、私も大泣きの状態だったので言葉に詰まりなかなか言い出せない。
すると先生が「私が心配し過ぎたのが優芽さんには迷惑みたいで…大事な教え子を守ってやれなかった私が悪いんです…」と泣きながら母に訴えた…
母はその一言で、私が先生に時計を投げつけたとわかったようで「先生に謝りなさい‼」と私に詰め寄ってきた
私は頑として謝らない。と言うか謝るのは先生の方だ…。何でこんな奴の肩を母がもつのか…苛立って仕方なかった
だんまりを決めこんでいると、母が「優芽!謝りなさい!」と私の頬を平手打ちした
母に叩かれたのはこれが初めてだった
先生が「お母様、私は大丈夫ですから…」と言うが、母は止まらない。
「優芽?いい加減にしなさい!」
と私の頬を何度も平手打ちしてきた。
それでも私は謝らない。
母は諦めたのか先生に深々とお辞儀しながら「すみません…躾がなってないもので…」と必死に頭を下げた。
先生は「いえ…。そんな事ないです!優芽さんは良いお嬢さんですよ…。私これから授業がありますので、学校に戻りますね…」と母に頭を下げ病室を出て行った。
「お母さん下まで先生送ってくるから。優芽、頭冷やしときなさい!」そう言って母も病室から出て行った
母が出て行った後、私は母に叩かれたショックと先生に対する怒りで、大声で泣きながら近くにある物を手に取り、次々と壁に投げつけた
鏡、コップが次々と音を立てて割れた
それでもちっとも心は晴れなかった
むしろ虚しいだけだった…
「香川さん?どうかしましたか!?」看護婦さんが慌てて病室に入ってきた
物が散乱しまくった部屋を見て、ただ事ではないと思ったのか私の枕元にあったナースコールを押し「711に至急きて下さい」 と言った後、泣き続けてる私の背中をさすり始めた。
次々と看護婦さんが部屋に集まりだした。
1人の看護婦さんが「鏡…割れちゃったね…」と言いながら拾い始めた
そこに母が慌てたように走ってきた。
部屋を散らかしまくり、看護婦さんにまで迷惑をかける娘を見て「あなたの考えてる事、お母さんはもうわからない…」 と泣き出した。
しばらくすると主治医の先生が来て看護婦さんに何やら指示をしていた。
その後、注射されたからきっとパニックを起こしたと思われたんだと思う…
その後昼食が運ばれてきたが食べる気なんてしない。
母と喋ることもなく、私はずっと窓越しに空を眺めていた
母も話しにくいのか何も言わず、ずっとテレビを見ていた
そんな沈黙状態の中に仕事を終えた父がやってきた。
お父さんならわかってくれる!と思い、顔を上げたが、先に母が「お父さん。ちょっとこっち来て」と父の手を引っ張り病室を出て行ってしまった
2人はなかなか入ってこない。
病室の外で何を話しているのか気になり、私はベッドから降りるとドアの近くに行きドアに耳を当てて会話を盗み聞きした
何を話していたかはわからなかったけれど父は母に対し怒っているようで、「おまえはもう帰れ」とだけ聞き取れた
慌ててベッドに戻ると、母が戸を開けて入ってきた。
「お母さん今日はもう帰るから!」と言うとすぐに鞄を取って出て行き、それと同時に父が入ってきた
父は「何があったかわからへんけど、お父さんは優芽の味方やから。なっ?」と笑いながら頬を撫でてきた。
いつもなら父には悪いが「キモッ!」と思うのに、凄く嬉しかった。
その後父は運ばれてきた夕食を食べさせてくれたり、私が小さい頃の話をしてくれた。
あっと言う間に消灯の時間がきた。
父は少し言いにくそうに「お父さん、今日ここで寝ていいかな…?」と聞いてきた。
私が「もちろん」と言うと嬉しそうに簡易ベッドを組み立て始めた
今日は何だか色々あったなぁ…疲れていたのかすぐに眠りについた
次の日も、その次の日も、またその次の日も…結局4日間母は病室にこなかった。
父は、仕事が終わるとすぐに病院に来て朝病院から会社に向かい…の生活を繰り返していた
土曜日になり港が彼女の愛ちゃんを連れてお見舞いに来てくれた
話題は港のバイト先(回転寿司屋)の話ばっかり。
もうすぐ一学期の期末試験なのにシフトがどうの、客がどうの…、鮪がどうの…
私にとっては、どうでもいい話。
「ふ~ん」「そうなんや」この2つのセリフのみで何とか2時間乗り切った
最後に「オカンと何があったか知らんけど早く仲直りせぇよ。うちの親は言うてわからんような親じゃないんやし」と港なりに私を励まして?帰って行った
港と入れ替わりに看護婦さんが部屋にきた
「処置室行こうか~。縫ったとこの糸切るからね。頭の包帯も取れるよ❤」と看護婦さんはニコニコしながら話しかけてきた。
その時は「包帯取れるのラッキー♪」くらいにしか思ってなかったが、麻酔なしの抜糸は超痛く、看護婦さん3人に体を押さえつけられ泣きわめき叫んだ
おかげで病室に戻ってくる時にはクタクタになってた
糸を抜いた所がジンジンして、カサブタは痒いし…
溜め息しか出なかった
その日の夕方、母は何事も無かったかのように加奈子を連れて病室に来た。
久しぶりの再会
加奈子は「優芽~良かった!心配したんだよぅぅ~」と目をウルウルさせて勢いよく抱きついてきた
「心配かけてごめんね」と謝ると、抱きつくのを止め急に真顔に戻り何やら言いにくそうにモジモジし始めた。
母はそれを察知したのか、静かに部屋から出て行った
加奈子が「浦島先生から、この前朝礼で優芽は情緒不安定で少し危ないから今は行かない方が良いって言われてさ…でも元気そうで安心したよ~」と話始めた。
情緒不安定??イラっとした。
私の顔色が変わったのがわかったのか、「何かあった?私には隠し事しないよね…?」と寂しそうに聞いてきた。
私は先生との事を全て加奈子に話そうと少しずつ話し始めた
加奈子は最初ビックリしたようだったが
私が話すにつれ目にいっぱい涙を浮かべ、「あいつ…許さない…」と泣き出した。
私も一緒に泣きそうになったけど、我慢した。
せっかく加奈子が来てくれたのに気まずい感じになってしまったので私は話題を変えようと必死になった。
加奈子に言うこと…
あ!そうだ!
私はピンクのクマを抱っこして加奈子に「これ、涼一から貰ったの!夜遅くに家の前で待っててくれたらしくて!お母さんがもってきてくれた♪」と少々オーバーリアクションの身振り手振りで説明し、ニコニコ笑った
私のおかしなノリに、加奈子はきょとんとしていたが、「良かったねぇ~❤」とノッてきてくれた。
「加奈子が涼一にうちの家教えてくれたんでしょ?」と私が聞くと
「えっ?私?教えてないよ?」とサラリと言われてしまった。
加奈子と色々考えたが誰が教えたのか検討つかなかった。
私の家は、私が中学生になったと同時に同じ学区内だがマンションから一軒家に引っ越ししたし、新しい家を知ってる友達は加奈子しかいない。
結局その日は謎になったまま、加奈子は塾があるからと帰っていった
加奈子だと思ったのに違うんだ…
これ本当に涼一からなのかな?
手紙を見つめながら思った。
涼一とは小学校が違うし、部活も陸上なので、涼一がどんな字を書くのかさえも知らなかった。
でも手紙にも涼一ってちゃんと名前書いてるし…?
考えれば考えるほど、幸せのピンクのくまちゃんが一瞬にして疑惑のピンクのくまちゃんに。
考えてもキリがないし、受け取ったのはお母さんだからお母さんに聞けばいいか~
とベッド脇にくまちゃんを置いた。
新しいレスの受付は終了しました
小説・エッセイ掲示板のスレ一覧
ウェブ小説家デビューをしてみませんか? 私小説やエッセイから、本格派の小説など、自分の作品をミクルで公開してみよう。※時に未完で終わってしまうことはありますが、読者のためにも、できる限り完結させるようにしましょう。
- レス新
- 人気
- スレ新
- レス少
- 閲覧専用のスレを見る
-
-
✴️子供革命記!✴️13レス 82HIT 読者さん
-
猫さんタヌキさんさくら祭り0レス 44HIT なかお (60代 ♂)
-
少女漫画あるあるの小説www0レス 67HIT 読者さん
-
北進12レス 251HIT 作家志望さん
-
こんなんやで🍀182レス 1636HIT 自由なパンダさん
-
わたしとアノコ
えすぱあー、、、 私はね、好きな人と両思いで腐れ縁(?)なのです…(小説好きさん0)
167レス 1779HIT 小説好きさん (10代 ♀) -
北進
この恥知らずには意味も解らないんだろう憐れな(作家志望さん0)
12レス 251HIT 作家志望さん -
西内威張ってセクハラ 北進
あーつくづくまともな会社っていいなぁ(自由なパンダさん1)
79レス 2714HIT 小説好きさん -
神社仏閣珍道中・改
…などと、夢を語っておりましたら、フォローさせていただいているブログの…(旅人さん0)
218レス 7348HIT 旅人さん -
✴️子供革命記!✴️
「儚辺浜森林公園(はかべはましんりんこうえん)にしよーよ」 と凌が云…(読者さん0)
13レス 82HIT 読者さん
-
-
-
閲覧専用
🌊鯨の唄🌊②4レス 105HIT 小説好きさん
-
閲覧専用
人間合格👤🙆,,,?11レス 120HIT 永遠の3歳
-
閲覧専用
酉肉威張ってマスク禁止令1レス 125HIT 小説家さん
-
閲覧専用
今を生きる意味78レス 509HIT 旅人さん
-
閲覧専用
黄金勇者ゴルドラン外伝 永遠に冒険を求めて25レス 946HIT 匿名さん
-
閲覧専用
🌊鯨の唄🌊②
母鯨とともに… 北から南に旅をつづけながら… …(小説好きさん0)
4レス 105HIT 小説好きさん -
閲覧専用
人間合格👤🙆,,,?
皆キョトンとしていたが、自我を取り戻すと、わあっと歓声が上がった。 …(永遠の3歳)
11レス 120HIT 永遠の3歳 -
閲覧専用
酉肉威張ってマスク禁止令
了解致しました!(小説好きさん1)
1レス 125HIT 小説家さん -
閲覧専用
おっさんエッセイ劇場です✨🙋🎶❤。
ロシア敗戦濃厚劇場です✨🙋。 ロシアは軍服、防弾チョッキは支給す…(檄❗王道劇場です)
57レス 1390HIT 檄❗王道劇場です -
閲覧専用
今を生きる意味
迫田さんと中村さんは川中運送へ向かった。 野原祐也に会うことができた…(旅人さん0)
78レス 509HIT 旅人さん
-
閲覧専用
サブ掲示板
注目の話題
-
☆ダブル不倫15☆
スレがいっぱいになったので新しいスレを作ったよ☆ 大切な仲間の皆んな、これからもよろしくね♡ …
425レス 23981HIT りあ (40代 女性 ) -
妻の過去について
私と妻は現在50代。妻は私より4歳年下です。私と付き合う前に付き合っていた彼との関係について知りたく…
7レス 342HIT 匿名さん (50代 男性 ) -
ディズニーの写真見せたら
この前女友達とディズニーに行って来ました。 気になる男友達にこんなLINEをしました。ランドで撮っ…
18レス 278HIT 片思い中さん (30代 女性 ) -
皆さんは精神科受診についてどう思いますか?
精神科に受診すること、通院することについて 皆さんはどう思いますか?
36レス 572HIT 知りたがりさん (30代 女性 ) -
おばさんイジリされる職場
私は40代の女性会社員です。 会社は男性が多く昭和な社風です。 一応、私は役職もついていますが下…
32レス 1022HIT 社会人さん -
彼氏にカマかけたらクロ 別れるべきか
こんな時間ですが、緊急で悩んでいます 彼氏と別れるべきか真剣に悩んでいます 私は成人済み…
9レス 210HIT 一途な恋心さん (10代 女性 ) - もっと見る