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ママがいなくなってから

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叶絵( ♀ UpIAh )
11/07/04 11:21(更新日時)

ママ。知っていますか?
ママがいなくなってからの私やパパやお兄ちゃん、弟のこと。
もちろん知らないよね。
知りたくないですか?
私達がどれだけママの帰りを待ち焦がれたか。私がどれだけ母親に守られたかったか。

ママがいなくなってから、私達の運命も変わりました。

なぜ私達を手放せたの?


そんな思いを綴ります。

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No.1159256 09/02/21 18:25(スレ作成日時)

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No.1 09/02/21 20:16
叶絵 ( ♀ UpIAh )

『ごめんね、ごめんね…ママ…本当に…本当は……
ごめんね、拓、紗知、陸』

ママがパパと何時間も話し合っている間、ただならぬ空気を子どもながらに感じ、私達は遊んでいるフリをしていた。

しばらくの後ママが玄関で私達の名を呼ぶので、やっと重苦しい空気が終わると思い、安堵の喜びでママに抱き付くと、ママは泣きながら私達を代わる代わる抱き締め、『ごめんね』を連呼した。

あの時の『本当に…本当は…』って言うママの言葉の意味がわからなかったよ。
本当に本当はママはどうしたかったの?

一人ずつ抱き締められ、最後は三人同時に抱き締めたあと、ママはもう振り返らずに玄関のドアを閉めた。

足早に去って行く足音に、いたたまれない寂しさが募り、夢中でドアを開けようとしたら、
『やめなさい』
静かにパパが言った。
振り返ると、パパは涙を浮かべていて…
パパの涙を見たことがなかったから、何故かはわからないけど、今日はママが帰らないのだと思い、私達はパパにしがみついて泣いた。

No.2 09/02/21 20:36
叶絵 ( ♀ UpIAh )

ママは当時看護師をしていたから、夜勤で家にいないことが何度もあった。

『お兄ちゃん、ママ夜勤?』
布団の中で兄に声を掛けた。
兄は頭からすっぽり布団をかぶり、弟は泣き疲れて眠っている。
『…そうだよ』
兄はしばらく間を置いて、自分にも言い聞かせるように答えた。

居間の電気が寝室に差し込む。パパはずっと起きている。
ママが去った後、『いいから今日は寝なさい。パパがいるから、大丈夫だから』と三人を力強く抱き締めた。痛いほどの力で。

寝室に行き、いつものように子守歌を歌うママがいないかわりに、パパが『拓、紗知、陸』と何度も名前を呼びながら、頭を撫でてくれた。

だから余計眠れなかった。

ママ、いつもの夜勤だよね?明日にはまた会えるよね?

ママ…ママ…

明日はゆりかごの唄、歌ってね…

No.3 09/02/21 21:39
叶絵 ( ♀ UpIAh )

『おはよう』

パパの声。

朝だ!もうすぐママが帰ってくる!
今日保育園に行ったら、ママが迎えに来る!
『パパ、ママ帰って来る?』兄も私もパパに飛び付いて聞いた。
『いいから、用意するよ』
パパはあからさまに機嫌が悪い。こんな時はわがままを言わない方がいい、と兄も私もわかっていた。
パパは感情的に手をあげる人ではなかったが、躾の面ではかなり厳しく、私達には恐ろしさまであった。

そんなパパにママのことはこれ以上聞けなかった。

ママは今日迎えに来てくれるのか?そんな不安を3歳ながら抱えていた。

早くママに会いたいな~
そればかり思っていた。

ママ。こんな気持ちでいたことを、少しは考えてくれましたか?
私はたかがまだ3歳でしたよ。

No.4 09/02/22 09:02
叶絵 ( ♀ UpIAh )

私達はいつものように保育園に行き、ママの帰りをひたすら待った。
陸のグズりが酷くて、泣き声が一日中園内に響いていた。

夕方、迎えに来たのは父方のおばあちゃんだった。
なぜ…ママじゃないんだろう?

「おばあちゃん!」
三人で飛び付いた。
「おばあちゃんと帰ろうね」
「ママは?」
「…今日はおばあちゃんとなの。もう少ししたらパパも来るから支度しよう」

身仕度をしていると、パパが来た。でもすぐに園長先生に会いに行き、しばらく戻らなかった。

「今まで色々とありがとうございました」
パパが園長先生に深々と一礼し、
「さあ、帰ろう」
と促した。
おばあちゃんの手にはいつもの登園バッグの他に、引き出しにあった着替えも袋に入れて持っていた。

私達は急遽、退園することになったのだ。この保育園はママの勤め先の付属だから…

ママ、保育園のお友達にバイバイする時間もなかったよ。

「拓くん、紗知ちゃん、陸くん、元気でね。強くね!」
園長先生と担任の先生が涙しながら見送ってくれたのが余計に寂しく、お腹の底が吸い取られる気持ちになった。

ママがいなくなったことすら受け入れていないのに、何がなんだかわからない。

No.5 09/02/22 10:30
叶絵 ( ♀ UpIAh )

帰りの車の中はみんな無言だった。唯一、陸だけは「ママ…ママ…」と泣きじゃくり、家に着く頃には泣き疲れて眠ってしまった。車から降りると、近所のおばちゃんが
「あら~保育園から帰ったの?今日はお母さんはお仕事かい?」
と近寄ってきた。ママが看護師で夜勤が度々あることを知っている。
「ええ…まぁ…ほら、行くぞ」
パパは気まずい対応をしている。うちは高台にある市営団地に住んでいる。新築された団地でパパとママが結婚した時に抽選で当たり、ママはとても喜んだそうだ。
「あら、そう」
おばちゃんは不思議な顔をして私達を見送った。家の中にはママの姿はなかった。それまで黙っていたお兄ちゃんが
「ママーッ!ママーッ!」
と叫びながら家中探し始めた。私もそれまで我慢していた気持ちが弾けて、泣きじゃくりながらお兄ちゃんの後をついて回った。
「ママーッ!」
「拓!紗知!」
パパに背中から抱き押さえられ、私達はワンワン泣いた。おばあちゃんは陸に顔を埋め声を殺して泣いている。
「ママは?ママは?」
お兄ちゃんが赤ちゃんのように泣いている。
ママ、お兄ちゃんがこんなに泣いたのは、後にも先にもこの時だけだよ。

No.6 09/02/22 19:40
叶絵 ( ♀ UpIAh )

当時、兄の拓は5歳、私は3歳、弟の陸は1歳だった。
パパは28歳、ママは26歳だった。

二人は高校生から付き合いはじめ、大恋愛で結婚したそうだ。
そんな二人の温かい愛情の中で育ち、毎日楽しかった記憶がある。
楽しかった、という思いしか今は残っていない。

パパは強くお兄ちゃんと私を抱き締め、そして静かに言った。
「今日からママはいないんだ。一緒にいられなくなった。すごく寂しいけれど、パパも寂しいけど、パパとママでそう決めたんだ。お前達もすごく寂しいだろうね?わかるよ。パパが全力でお前達を守っていくから…パパがいる」
そう言った。

ママがどうしていなくなったかなんて理由は理解できないし、今いないのが現実で…それがすごく不安で寂しくて、ただそれだけだった。今ママに会いたい…それだけ。

パパが人間的に大きい人だったのが、私達の救いだった。

No.7 09/02/22 20:48
匿名 ( 20代 ♀ XuIDh )

続きが気になります😃
お時間ある時、更新してください😉
待ってます✨

No.8 09/02/22 20:54
叶絵 ( ♀ UpIAh )

>> 7 🌼ありがとうございます。
読んで下さる方がいらしたんですね😃とても嬉しいです🙇

なかなか執筆に時間がかかるかもしれませんが、よろしくお願いします🙇

No.9 09/02/22 21:50
叶絵 ( ♀ UpIAh )

とにかくママはいなくなった。
その日の晩ご飯はおばあちゃんが作ってくれた。いつもの台所に立つママの残像とおばあちゃんの姿がだぶる。でも明らかに違う。ママはご飯を作りながらも
「今日保育園で何した?誰と仲良しだった?」
と話しかけてくれた。おばあちゃんは黙々と作っている。
兄と私は遊ぶ気力もなくテレビを見ていた。パパは寝室でどこかに電話している。
「いや…真知子が…そうでは…すいません…」

「ご飯できたよ」
ママがいない食卓をママ抜きで囲む。夜勤の時は慣れっこだったけど、それはママが作っていったご飯があったから。
おばあちゃんのご飯はおいしいけど、どうしても箸が進まない。
「無理しなくていいんだよ。食べれるだけでね」
おばあちゃんは優しく言うが、食卓に出された物は残してはいけないルールがパパから常々言われているから、兄も私も寡黙に食べた。陸はやっと起き出しママの抱っこを求めて泣き出した。
「ママは?ママは?ウギャーッ」
パパが必死で抱き締め、繰り返し「陸は良い子だ。強い子だ」となだめている。
陸はママが夜勤でいない日にはこんな泣き方をしない。陸にだってママがいない異常がわかるのだ。

No.10 09/02/23 05:25
モモンガ ( PZ9M )

はじめましてこんばんわ🙇こちらで小説をかかせて頂いているももんがと言います🌱実は私にも当時のあなたと同じように六歳の長男四歳三歳の姉妹がおりお母様と同じように夜勤の仕事をしております。なので自分の子供達の事のように感じてしまい涙が出てしまいました…😿この4月から長男は小学校へ姉妹は保育園に入ることが決まり私が昼間の仕事を増やすのでまた少し寂しい思いをさせるかもしれません…『お母さん今日はお仕事…?』と出勤する直前まで布団で寄り添っていても三歳の娘だけはなかなか寝付きません😿一番気が強く一番甘えん坊で…この子を残して家を出るなんて…どんな理由があるかは存じませんがどんなにか辛くて身を切り裂かれるような最後だったか… 私だったら耐えられるかと考えてしまいました…😿一番可愛くてしょうがない盛りのお子さんに決別しなければならない選択をされたお母様に何があったのか…また良かったら拝見させてください🙇寒い日が続きますがお体に気をつけてお過ごしくださいね🌱ももんがより

No.11 09/02/23 10:29
チョコランチ ( 13vRh )

続き楽しみにしています✨✨✨頑張って無理なく更新して下さい😄

No.12 09/02/23 16:01
叶絵 ( ♀ UpIAh )

晩ご飯をやっと食べ終えると、玄関のチャイムが鳴った。
「ママ?」
胸が高鳴る。ママが帰ってきたんだ!きっとそうだ!
お兄ちゃんと駆け足で玄関へ急ぐ。

立っていたのは…母方のじいちゃんとばあちゃんだった。兄も私も泣き崩れた。もうどうにもならない落胆だった。
「拓、紗知、ごめんね」
二人ともかなり憔悴しきっている。
「わざわざすいません」
パパが出迎えると、
「智哉君…すまない。本当に申し訳ない」
と、じいちゃんは土下座をした。ばあちゃんも床に這いつくばり、
「すみません…すみません…」
と何度も頭を下げている。
「お義父さん、お義母さん、やめて下さい。お二人のせいではないんですから。さあ、どうぞ上がって下さい」
パパが促しても、じいちゃん達は立てないほど深く傷付いているようだ。

ママ、こんな切なく悲しい思いを家族みんなにさせてまで、それでもママが選んだ道は正しかったと思っていますか?

兄も私も泣き続けるしかなかった。何度も胸の中で(ママ…)と叫ぶ。会いたいとか帰ってきてとか、そんな付属な言葉はいらない。
ただ、(ママ…)と焦がれた。

No.13 09/02/23 16:30
叶絵 ( ♀ UpIAh )

私達は、ママが夜勤でパパの帰りが遅い日には、決まってじいちゃん達の家に泊まっていた。
だから私達は二人が大好きだったし、いつも可愛がってもらっていた。
そんな二人が目を腫らして泣いている。
「じいちゃん…ばあちゃん…」
兄と私は床に平伏している二人にしがみついた。
「拓…紗知…」
二人は強く私達を抱き締め、みんなでワンワン泣いた。パパも膝を折り、おばあちゃんは陸を抱っこして、とにかくみんなで泣いた。

だからママが帰って来ないのは決定的になったのだ。その現実が余計に辛かった。

幼い兄弟がこんなに酷で辛い現実にさらされた光景を、ママは想像したことがありますか?

あの日、おそらく一生分の涙が流れた。みんな。

No.14 09/02/23 16:50
叶絵 ( ♀ UpIAh )

🌼皆様一括ですみません🙇
読んで下さる方がいらして光栄です。
『お兄ちゃん』が途中から『兄』に変わるなど、読みづらい点もあり申し訳ありません💦
少しずつですが、確かに書いていきますので、よろしくお願いします☺

No.15 09/02/23 20:43
ナナ ( pIaQh )

はじめまして✨
最初から 拝見していて…
息子を連れて離婚した時 息子が 父親恋しさに 涙枯れる程泣いていた事を 思い出し…
当時の息子の気持ちを思うと 😢😢

更新 ノンビリ待ってますから✨
無理せず 執筆して下さいね💕

No.16 09/02/23 20:59
叶絵 ( ♀ UpIAh )

あの日から、ママがいなくなったあの日から、私達はママのいない日常を送らねばならなかった。これまでの日常を取り戻すことは二度とできない。

散々泣いた次の日から、おばあちゃんが泊まりに来てくれていたが、一緒に住むことは今後もなかった。
後から聞いた話だが、パパはママがいつ帰ってきても良いように、例え母でも、自分が築いた家族以外が自分達の家にいては帰りずらいと考えていたそうだ。
パパは深くママを愛していた。

保育園に行かなくなった私達は、家での遊びにすぐ飽きた。わずか3歳。ママがいなくてショックでも遊べるようになっていた。
兄は元々一人遊びが得意だったが、
「紗知、カルタしよ」と一緒に遊びたがり、私も兄が遊んでくれることが嬉しくて、二人でとにかく一緒に遊んだ。
陸は「ママ」と言うことはたくさんあったが、おばあちゃんがとにかく抱っこして付きっきりであやしているせいか、泣き叫ぶ頻度が少なくなった。

でも…

「ママ」と口に出した途端に、気持ちの真ん中に穴があいて何か得体のしれない悲しみが押し寄せそうで…
陸が「ママーッ」と泣くたびドキッとしたり、反面「ママ」と口にできる陸が羨ましかったり憎かったりした。

No.17 09/02/23 21:13
叶絵 ( ♀ UpIAh )

家に一日中いると、
「ジュース飲みたいよ~マ…」
と無意識に台所に向かって、いないママに話しかけることが兄にも私にも何度もある。
そして、その度ガッカリする…その繰り返し。
ガッカリしたくないのに、ママを求めてしまう。当たり前だ…わすが5歳と3歳だ。母の愛が必然的な時期だ。「ママ」と言いかけてやめる様を見ていたおばあちゃんも辛かったろう。

日常とは恐ろしい。
ママがいないことに慣れはしないが、ママがいないことに我慢ができていく。
いつしか(また帰ってくる)と勝手に暗示をかけて、自分を安心させる術も身につけていく。
だから泣かなくなった。

だが、陸の夜泣きは毎日繰り返され、おばあちゃんは心労が重なっていたようだ。
そして、兄にはチック症状とどもりが見られるようになった。

ママ、みんなおかしくなってます。みんな心を病んでます。
こんな私達を想像してみて下さい。

No.18 09/02/24 00:10
M54-2.2㍑ ( 30代 ♂ rf2Eh )

遅くにすみません。

凄く胸が締め付けられる様な思いで読ませて頂きました。
もう20年以上前に私の母も私と妹2人を置いて家を出ました。

とっくの昔に忘れてたつもりでしたがいろんな思い出が後から後から頭に浮かんできてお恥ずかしい話しですが涙が止まらないです。

No.19 09/02/24 00:18
NANA ( 20代 ♀ 4FzM )

私も二人の子がいる身です たまたま 見つけて読んでました
すごく泣いています😠

こんな思いをしている子が世界に沢山いるかと思うと 世は残酷な気がします
母は絶対的な存在ですよね
でも そういう子達は みんな すごく強くなるのかな
もしくは弱いけど 強く見えるのか
子を悲しませる親は駄目ですね

離婚はいけないと つくづく思いました😠

No.20 09/02/24 05:47
叶絵 ( ♀ UpIAh )

私達の住む団地は、ワンフロアに4邸の3階建てで、コの字型に3棟建っている。中心に団地用の小さな公園があり、塀の向こうに駐車場があるから、おおよそロの字になり外部から敷地内に侵入できない安全な作りに一応なっていた。

子どもは外遊びが大好きだ。パパは兄の異変にすぐさま気付き、兄にはそのことに触れずに接していたと思う。
だから休みの日は公園でたくさん遊んでくれた。私達は外遊びの時だけ何もかもから解放されて、心の底から笑い転げることができた。家にいると、どうしてもママを探してしまうから。

近所からの好奇な目にさらされることもなかったのは、パパのおかげ。
パパはあの家族中で泣いた次の日、
「夕べは騒がしくてすみませんでした。家内が訳あって家を出たもので…そのことで子ども達も迷惑かける事があるかもしれませんが、今後ともお願いします」
と一軒一軒回ったそうだ。その行動は突飛で奇抜ではあったが、潔い父親の態度が好感を呼んだらしい。
私達の基盤となる小さな地域を、パパは安全基地にしてくれた。

No.21 09/02/24 16:32
叶絵 ( ♀ UpIAh )

ママがいない日が何日か過ぎても、寂しさは増すばかりだった。
兄も私も天気が良ければ、団地の公園で朝から晩まで過ごした。
同じ年頃の子どもが多い団地だったが、私達は日中保育園で過ごしていたため、結局は知らない子ばかり。そして大抵母親が公園に付き添っているから、
「お母さーん」
と声を掛ければ、
「何?どしたの?ここにいるよー」
というやり取りがあちこちで聞こえる。
…いたたまれなかった。
だから兄と私は、公園のメイン遊具ではほとんど遊ばず、端っこの木陰で石ころを積んだり、葉っぱを集めたりして、親子のやり取りが耳になるべく入らないようにするしかなかった。
ママ、こんな防衛策をしてまで外にいたのは…ママの残像からの逃避でしたよ。

兄のチック症状は益々酷くなり、陸の夜泣きでおばあちゃんも体調を崩していった。
無理もない。おばあちゃんは虚弱体質で60代半ばだったのだ。パパが残業だと、朝から晩まで、まして夜中まで子守となり、今考えると本当に気の毒だ。

No.22 09/02/24 17:14
叶絵 ( ♀ UpIAh )

夜泣きは陸だけではない。
布団に入ると、涙が次から次へと沸いてくる。(ママ…ママ…)口にはもう出せない『ママ』という言葉が、ぐるぐる頭を回る。
兄は頭まですっぽり布団をかぶって寝ている。
寂しい。寂しい。
「お兄ちゃん?」
いつの間にか、兄が手を繋いでくれていた。何も言わないけど…兄も泣いているようだ。「ヒック、ヒック」
堪え切れない泣き声を出すと、
「な、な、泣かないの。お、お兄ちゃん、い、いる」
どもりつつもしっかり手を握ってくれる。

どんなに心強かったか。
兄は格別ママっ子で、私はパパっ子だったから、恐らく兄の方が母親を失ったショックが大きかっただろう。何より私達よりママと過ごした時間が長いのだから。その兄が一生懸命なだめてくれたのだ。自分も寂しいのに…
ママ、こんな時あなたはどこで何をしていましたか?

No.23 09/02/24 17:33
007 ( ♀ i9mai )

涙が溢れて止まりません。

No.24 09/02/24 20:25
叶絵 ( ♀ UpIAh )

数日後パパが言った。
「おばあちゃんを少し休ませてあげよう。その間、じいちゃん達のお世話になろうと思うんだ。そして新しい保育園に行こう。パパ一生懸命探すからさ。…どうだい?」
思ってもみない提案だった。
「行く!!じいちゃんの家に行きたい!!」
兄も私も即答だった。じいちゃんの家は、ママがいなくて当たり前の環境だったし、ママを探さなくても安心できる場所だったからだ。
「…そうか。そうだな…そうしよう」

あの日、きっとパパはじいちゃん達にも頼る時が来ると話したんだろう。
パパは、本当にパパは、いつだって私達の事だけ考えてくれている。
そんなに自分を犠牲にしてまでパパは守ってくれたね。…ママはどうですか?

じいちゃんの家はうちから車で30分の距離にあった。

「おかえり」
ばあちゃんがあったかく出迎えてくれた。ママが夜勤の日も必ず『おかえり』だった。ばあちゃんはここもあなた達の居場所だよ、といつも言っているようだった。
「ただいまーっ」
だから私達も『ただいま』。
『お邪魔します』じゃなく、安心して『ただいま』。

No.25 09/02/24 20:45
叶絵 ( ♀ UpIAh )

「すいません、本当に甘えてしまって」
パパが一礼する。
「智哉君よしてくれ。こちらこそ、私達をじいちゃんばあちゃんでいさせてくれて…本当にありがとう。君には…真知子がもったいない」
「お父さん!子どもの前よ!」

そんなやりとりだったと思う。とにかく私達は第2の安全基地に来たのだ。一番の安全基地が崩壊したのだから、ここに来ればそれだけで良かった。

その日はパパと兄と私、パパの腕には陸がいて、川の字になって、久々にみんなで笑いながら寝つくことができた。陸も泣かない。兄も笑っている。私も何故か寂しくない。

ママがいた家から、ママがいなくなった光景を突き付けられる毎日より、ずっとずっと安らげた。

ママがいない家は、私達の家ではない気がしたから。

それほど、ママの存在は絶対で当たり前だったよ。

…絶対なんかこの世にないのに…

No.26 09/02/24 23:14
チョコ ( 30代 ♀ MqvCh )

>> 25 すいません。もう涙が止まりません。
父親の愛と母親の愛は違います。
母親の愛ほど大事なものはありません。
主さん、よく頑張りましたね。
思い出す度に辛いと思いますが頑張って下さい。今、どこかで愛を欲している方々に勇気をあげていると思います。

No.27 09/02/25 09:51
匿名 ( ♀ fS6Ah )

すみません。質問です。最初にお手伝いにきていたおばあちゃんは、父方のおばあちゃんですか?そしておじいちゃんちにいこうといってるのは、おばあちゃんの旦那さんのおじいちゃんではないのですか?
すみません。読解力がなくて😫

これは、主さんの実話なんですか?

失礼なことを聞いてすみません😫

No.28 09/02/25 20:01
叶絵 ( ♀ UpIAh )

◆another 真知子

私がまさか子どもを手離す日が来るなんて、手離すことができるなんて、考えたこともないし、想像したこともない。

だが、私は今、孤独にアパートにいる。

家族の笑い声も聞こえない。怒鳴り声も泣き声も、ない。電気がついていても…真っ暗だ。

あんなに幸せな毎日を置き去りにした自分が、許せなかったり仕方ないと開き直ったり、どうしようもない虚脱感と逃避と自問自答。

拓、紗知、陸……

ママがママでいられなくなって、本当にごめんなさい。
ママは…本当は…本当に…

あなた達とずっと一緒にいたかった。

No.29 09/02/25 21:06
叶絵 ( ♀ UpIAh )

◆私が智哉と知り合ったのは、看護学校時代。友人が飲み会の席に呼んだことがきっかけだった。
それまで付き合った経験などなかったし、男子と話す機会がない女子高出だから、智哉の気さくな態度にドキドキした。
そして私達は恋に落ちた。一生の恋、運命の恋…そのはずだった。
私の卒業と同時に結婚した。
そして妊娠。
至福の時とはまさにこの時だったと思う。

「男の子かな~女の子かな~」
いつも智哉は言っていた。そして仕事から帰ると真っ先に私のお腹に、
「ただいま~パパだよ~」とデレデレに言うのだ。
彼は子煩悩になるに違いない。彼の子どもを授かり産むことができる喜びは何にも代えがたい喜びだった。

そして長男『拓』が生まれた。

拓は私達の愛の結晶。拓はパパ似で、笑うと左頬にえくぼができたね。
そのえくぼを、拓が成長するごとに「えくぼちゃん」と指差し、たくさん写真を撮った。
あの写真達は捨てられてしまったろうか…

No.30 09/02/26 22:03
叶絵 ( ♀ UpIAh )

拓が生まれ紗知と陸が生まれ、育児に追われながらも毎日が幸せだった。
可愛い子ども達と頼り甲斐のある夫。
そしてやり甲斐のある仕事。
家事と育児の両立は本当にキツいが、仕事では、智哉の妻でも子ども達のママでもない『石田真知子』つまり自分自身でいられるので、家庭とのon・offができ私に仕事は必要だった。

それなのに…私は…

あの幸せな毎日を自分で崩壊させたのだ。私が智哉も子ども達も、悲しみのどん底へ突き落としてしまった。

拓はママっ子だけど兄としての意地があるから、泣きたいのを必死に堪えているのだろうか。紗知は物心ついたばかりで、ママがいなくなったことが理解できず戸惑っているのだろうか。陸はまだ添い乳で寝付いていたから、夜泣きしているのだろうか。

あの子達は、毎日泣いているだろう…
ごめんね…ごめんね…
懺悔しても取り返しがつかない思いを、大事な子ども達にさせてしまった私の罪は重い。

No.31 09/02/26 22:06
叶絵 ( ♀ UpIAh )

🌼すみません、No30に真知子の◆をつけるのを忘れました💦

No.32 09/02/26 22:15
ゆたママ ( 20代 ♀ PD8Ih )

主さん頑張って下さい😊
楽しみに更新まってます⤴

No.33 09/02/26 22:24
叶絵 ( ♀ UpIAh )

◆私は24時間託児所付きの中規模の病院に勤めていた。智哉が残業で私が夜勤の時には保育園に預けるためだ。幸い両親が近くに住んでいたため、滅多に夜預けることはなかったが。

そして、私は出会ってしまった。

その病院は中規模ながら○○会という系列病院があり、ごくたまに転勤がある。

如月さんは病棟専属薬剤師で、春から私のいる病棟に配属された。
忙しくワゴンを押して注射に回っている中で、呼び止められた。
「すいません、師長さんはどちらにいらっしゃいますか?」
「えっ!?看護室にいませんか?」
「あ…忙しいんですね…すいません、自分でさがします」
彼は深々と頭を下げキョロキョロしながら見当外れに歩いて行く。
(もぉ、この忙しい時に!)
そう思いつつもほっとけない衝動にかられる…如月さんはそんな人だ。
「そっちじゃないんですよね。一緒に行きますよ」
「親切な方ですね。ありがとうございます」
これが私と如月さんとの出会い。子ども達を手離してまで一緒にいたいと思った人との出会い。

この時はまだ思いもしなかったけど…

No.34 09/02/26 22:39
叶絵 ( ♀ UpIAh )

◆如月さんは病棟専属とはいえ、びっちり病棟にいるわけではない。だから私も『新しい薬剤師さんが来たのね』ぐらいの印象だった。

「ただいまーッ」
「遅いよぉ、ママー」
まずは真っ先に甘えん坊なくせに兄の威厳を保ちたい拓のクラスに迎えに行く。
「ごめんね~今日忙しくてさ~」
「いつもでしょ~紗知のクラスに迎えに行くよ」
拓はしっかり者だ。
「ママ~」
紗知が駆け寄る。
「あのね、今日ね、リズムで遊んだ!でね、んとね…」
紗知は益々おしゃべりが盛んになった。
「うん、うん、あとでまたゆっくり聞くからね」
「エ~ンッ」
陸は私の顔を見るといつも安心して泣いて飛び付いてくる。

(私って愛されてるな~)
迎えに行くといつも思った。私が仕事をしているから寂しい思いをさせていると、預ける度後ろ髪を引かれつつも、それでもこの子達なりにママが仕事している意味をわかってくれていたと思う。子ども達は家庭の立派な協力者だった。だから頑張れた。

あんなに保育園で頑張ったり、夜いなくて寂しい思いをさせたのに、最も哀しむ思いを与えた…最低な母親だ。

No.35 09/02/26 22:57
叶絵 ( ♀ UpIAh )

◆ある日、病棟薬剤師交替の歓迎会があった。私は子どもがいるから欠席したかったが、歓迎会や送別会の欠席は許されない昔からの『しきたり』があった。
「仕方ないだろ?歓迎する気持ちは出席しないと表せないんだからさ」
智哉は簡単に許してくれた。
この日は智哉は残業だし、運悪く両親も法事で不在。歓迎会が終わるまで保育園に預けることにした。

居酒屋だというのに歓迎会の席次が決まっていて、何故か私が如月さんの隣りだった。しかも周りの席は病棟医長や師長クラスで居心地が悪い。
話し相手は如月さんしかいなかった。
「初日助かりました」
「いえ…私ったら優しい返答してなかったですよね」
「いや…看護室に連れて行ってくれたので、救世主に見えました」
そしてにこやかに微笑む。こんなに穏やかな男性には会ったことがない。智哉ももちろん優しいが、やはり男らしさというか逞しい感じだ。如月さんは華奢ではないが、どこか母性本能をくすぐる感じで、不思議な人だった。

ほどなくして歓迎会が終わり、
「二次会どうしますぅ?」
という声が飛び交う中、コソッとその場を抜け出した。

No.36 09/02/26 23:21
叶絵 ( ♀ UpIAh )

◆「フゥ~」
一息つくと、
「石田さん」
と呼ばれ、振り向くと如月さんが立っている。
「どうしたんですか?」
「いや…僕、ああいう会が苦手で…石田さんが何気に去って行くのが見えたから」
「如月さんの歓迎会だから、主役がいないと盛り上がらないんじゃない!?」
「僕がいる方が皆さんテンション下がりますよ」
本気でそう思っているらしい。不思議な人だ。
「もう一杯どうですか?」
子ども達が待ってる、とどうして断らなかったのか…今でも自分に悔やむ。夫や子どもがいるのに浮気や不倫する人の気持ちがわからなかった私だ。なのに…あと少し彼といたいと思った。この人をもう少し知りたい、と。私達はコンビニで缶ビールとつまみを買い、公園で飲むことにした。ちょっとだけが、気付くと2時間過ぎていた。
「もう11時か…」
私が時計を見ると、
「あっ!すいません、お子さん保育園にいるんでしたね。すっかり忘れてました。あー、僕はダメだ、すいません」
「違うの、如月さんは悪くないよ。私が悪いの、ごめんなさい」
あまりに遅くなり、保育園に迎えに行くのは明朝にした。

No.37 09/02/27 15:24
翔 ( kqyUh )

がんばって

No.38 09/02/27 16:57
叶絵 ( ♀ UpIAh )

◆智哉の残業は大抵1時を回る。子ども達を迎えに行かなかったこと、なんて説明しよう…
「ただいま。まだ起きてたの?」
「あ…お帰りなさい。実は二次会どうしても断れなくて…もう保育園で寝てるだろうから迎えに行けなくて…ごめんなさい」
「何やってんだよ。ったく…仕方ないだろ?寝た子を起こす方が可哀相だし。朝早く迎えに行くぞ」

幸い二人共今日は休みだ。智哉と子ども達に罪悪感が宿る。

「久しぶりに二人っきりだな」
子どもが生まれてから二人っきりなど確かになったことがない。
そのまま久々に体を重ねた。いつもなら抱かれると甘ったるいくらい幸せを感じるはずが、今日はなぜか感じない。
(なぜだろう…)
「真知子?」
感じてないのを悟らせないように、感じるフリをしたのは、智哉と付き合ってから初めてのことだった。

No.39 09/03/02 17:56
みかん ( 20代 ♀ yRcIh )

>> 38 忙しいかもしれませんが更新楽しみにしています😔💦
お願いします😃💦

No.40 09/03/02 20:37
叶絵 ( ♀ UpIAh )

🌼更新を待って下さる方々、子ども達の描写に涙して下さる方々、本当にありがとうございます🙇

フィクションかノンフィクションかはご想像にお任せしますね😥

応援に感謝して

続けます。

No.41 09/03/03 00:44
年子ママ ( Oatfi )

続き楽しみにしています兊

No.42 09/03/03 06:07
叶絵 ( ♀ UpIAh )

◆それから数日はいつもの慌ただしい毎日を過ごしていた。

「拓!早く服着なさい!」
「紗知!ご飯の途中で立たないよ!」
「陸、抱っこはちょっと待って!」

三人いると出勤前は怒鳴りっぱなしだ。息つく暇もない。
保育園に送るとホッとする。一日の仕事の前半が終わった気分だ。
智哉はよく協力してくれたが、子ども達はママの一番になりたくて争奪戦。ママじゃなきゃダメなことばかりだ。

如月さんとはその後挨拶は交わすものの、担当部屋の患者に用がないかぎり話す機会はない。
目で追う日々が過ぎた。

毎日の喧騒の中で、如月さんと会話できる日が唯一安らぎだった。
ある夜勤帰り、駐車場に向かう私の少し前を如月さんが歩いていた。胸が高鳴った。
「如月さん」
駆け寄った私に
「石田さん。夜勤明けですか?」
にこやかに微笑み返された。
「僕も当直明けなんですよ」
「そうなんだ…お互いお疲れ様だね」

疲れも眠気も、晩ご飯の献立も吹っ飛んだ。

No.43 09/03/03 06:24
みかん ( yRcIh )

>> 42 続きお願いします😃

No.44 09/03/03 14:44
叶絵 ( ♀ UpIAh )

◆「少しお茶でもどうですか?」
思いがけない如月さんからの誘いに思わず、
「えっ!?」
「あ…いや、すみません。眠いしお子さんもいるし、大変ですよね」
「いえ、そうじゃなくて、ビックリして…お茶したいです」
舞い上がる気持ちを悟られないように答えた。
いつからこんなに如月さんを意識しているんだ、と自分でもわからなかった。
まさか…恋!?私が!?
夫も子どももいるのに、まさかでしょ!?

如月さんに出会ってから生まれた感情に気付かないフリをして、必死に胸の奥に追いやっていた気持ち。認識したら暴走しそうだったから、向き合わないでいたのに…

まさに、恋だったのだ。自分で自分が信じられない。

智哉のことはもちろん愛している。でもどこか違うのだ。今は如月さんをもっと知りたい。密かに想うだけなら許される気がした。

病院の近くでお茶をするのは噂のタネになるので、お互いに車に乗り別ルートで埠頭にある観光客目当ての喫茶店で待ち合わせた。地元の人ならまず行かないから。

No.45 09/03/03 15:02
叶絵 ( ♀ UpIAh )

◆どうして私を誘ったんだろう?子持ちで家庭のある私を…
聞きたいが聞けない。
それを聞く必要もないほど如月さんとの会話は安らぎ、穏やかに時間が過ぎた。一方的に力強く喋る智哉と、無口だが聞き上手でゆっくり話す如月さんをどうしても比べてしまう。如月さんは智哉と同い年だったから尚更だった。

「石田さんと話すと楽しいですね。ご主人が羨ましい」
会話の中に時々でる何気ない台詞に、勝手にドキッとしたり期待したり…
期待って何!?と自分に突っ込みを入れたり、完全に自分を見失っていた。

「如月さん。メルアド聞いても良いですか?」
別れ間際に言うと、少し驚いた表情で
「…いいですよ」
と如月さんは微笑んだ。

私は智哉の妻で、三人の子ども達の母親という名称がどこにいてもついて回り、その役割も十分わかっている。でも如月さんの前では、真知子という形容詞のないただの女になっていたのだ。

密かな恋心くらい、妻だって母親だってしても…これ以上を求めているわけではないのだから。そう自分に言い聞かせた。

No.46 09/03/03 15:22
叶絵 ( ♀ UpIAh )

◆だが私はどんどん如月さんにのめり込んでいった。妄想で擬似恋愛をする危ない女だ。
「ママ?ねぇ絵本読んで~」
子どもの声で現実に戻される。
「紗知は折り紙したい~」
子どもの遊び相手は大変だ。普段保育園に行って淋しい思いを我慢しているせいか、それぞれが甘えっ子でママを独占したい。
「ご飯くらいゆっくり作らせてよ~」

仕事と家庭の両立は本当にキツい。命に携わる仕事ゆえに気は抜けないし、家庭に帰れば家事と子どもの相手で息つく暇もない。一人の時間は夜勤明けで保育園に迎えに行くまでの数時間。それさえも仮眠と家事、買い物で終わってしまう。

少しだけでいいから、一人でのんびりしたい…と毎日思っていた。
そんな私の気持ちに『隙』ができたのだろうか。その『隙』に恋心がすっぽりハマってしまったのか…

なんにせよ、私のくすんだ気持ちは満たされた。家族以外の誰かを想う気持ちができて、余計に仕事にも家事にも子ども達にも頑張れた。

想うだけで良かったのに…人間は欲張りになる。満足のハードルが高くなる。

だから本当に大切な者を失ったのだ。

No.47 09/03/03 15:37
叶絵 ( ♀ UpIAh )

◆メールを待つ日が続く。如月さんはすぐにメールを返す人ではない。
それでも私の夜勤と彼の当直が重なると、またあの喫茶店で密会した。

仮眠をとらない翌日は体がしんどいが、気持ちは晴れ晴れしていて、アンバランスな心身だった。

何回目かの密会のある日、
「石田さんは…僕の事をどう想っていますか?」
耳を疑った。
「どういう意味?」
「僕は…石田さんが好きです。家庭のある人にこんな思いをぶつけてはいけないと…わかっています。でもどうにも止められない」

そんな…天にも昇る気持ちなのは私だ。如月さんが私を…好き!?こんな私を!?
「嘘でしょ!?まさか…」
「そう思いますよね。僕も嘘だと思いたい」
いつの間にか私の目から涙が溢れた。
「私も、如月さんが好きです。ごめんなさい」
ただ嬉しい。

そして私達は、
一線を超えてしまった。
智哉と契を交わし、妻として人として、してはならない行為。
だが、今は何も考えられない。ただ如月さんに抱かれているのが嬉しくて…幸せだった。
裏切りは、必ず報いとなることも気付かずに。

No.48 09/03/03 20:26
叶絵 ( ♀ UpIAh )

◆如月さんと共に過ごせる日は月に3回ほどしかない。それでも気持ちは満ち足りていた。彼は決して私を家族から引き離そうとはしなかった。
「石田さんは一番に家族を大切にして欲しい。子どもに母親は必要だから」
別れ際にはいつも言われた。
もちろん私も家庭を壊す気など更々なかった。ある意味割り切れた関係だったのか…

それは居心地が良い反面、虚しさを伴う。そこまで本気で好きではないってこと?
答えは出さない方がいい…私にも、彼にも…
メールは智哉が不在の時に頻繁にやり取りした。子どもが寝静まってから。
愛の言葉の応酬に浸って、至福な時だ。
智哉は人の携帯は絶対見るような卑劣な人間ではなかったが、明らかに自分に懺悔の念があるので、如月さんからのメールは読んですぐ消去する。
卑怯な人間は私だ。

報いは必ず訪れる。前振りもなしに、その日が来た。

家庭崩壊の日…

今日は智哉が飲み会で、午前様になるのはいつもの事。ゆっくりメールしよう…

何度か目のメール最中に、
ガチャッと居間の扉が開いた。
慌てて携帯を閉じ、マナーモードにした。
いつもならサイエンスなのに…

No.49 09/03/03 22:45
叶絵 ( ♀ UpIAh )

🌼すみません…
サイエンスではなく、サイレントでした💦

恥かしい🙈

No.50 09/03/03 23:01
叶絵 ( ♀ UpIAh )

じいちゃんの家の布団の中で、夜中にパパとママが言い争いをしていたのを不意に思い出した。
すごく怖かった…

パパの怒鳴り声と、ママの泣き声…
聞いたこともない二人の声…

あまりに怖くて、鬼が来たと思った。
丁度少し前に節分があり、保育園にも鬼が来たからだ。

(紗知は悪いことしてないよ、早く帰って下さい)
布団の中でブルブル震えて、物音が消えるのを待った。きっとパパとママが鬼と闘ってくれているんだ。
怖いなぁ、早くママが布団に戻ってこないかなぁ、そればかり考えて耳をふさいだ。

パパもママも鬼になんか負けませんように…

そればかり祈ったあの日。

どれくらい続いたかわからない。いつの間にか寝てしまった。

目覚めるとママが隣りにいたから、(やっつけたんだ!)と無償に安心したのを覚えている。

でもママ…本当は負けてたんだね。ママの中に棲んだ鬼には勝てなかった…そうでしょ?

だからママはいなくなったんだ。

だから、私達はママと会えなくなったんだ。

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